NE先端テクノロジーフォーラム次世代パワー半導体のインパクト〜技術から標準化、応用、市場まで「SiCのいま」〜 レビュー

インフィニオンが考えるSiC MOSFETの信頼性SiCデバイスの大量消費時代が目前に、
着実に準備を進めるインフィニオン

いよいよ電気自動車(EV)など電動車でのSiCデバイスの本格的採用が始まる。SiCの採用によって、インバーターの劇的な小型化や高効率化が期待される。ただし、自動車での採用拡大は、SiCデバイスの低コスト化、安定した量産体制の確立、そして何より信頼性の向上が必要条件となる。本格的なSiCデバイス市場の成長と応用拡大を前に、この分野をリードするインフィニオン テクノロジーズは、どのようなことに取り組んでいるのか。Infineon Technologies AG Senior DirectorのPeter Friedrichs氏が解説した。

現在、インフィニオンは、同社が圧倒的なシェアを誇るパワーデバイスの領域で、4つの課題に取り組んでいる。1番目は300mmのSiウエハーでのパワー半導体の量産、2番目はパワー制御のデジタル化、3番目はIGBTへの機能集積、そして4番目がワイド・バンド・ギャップ(WBG)材料であるSiCとGaNを使ったデバイスの開発・量産である。これらは、個別の取り組みではない。それぞれの間で複合的なシナジー効果を生み出しながら、競争力を高めていく戦略である。特に、市場の成長と応用の拡大が顕著なSiCデバイス事業で、競合他社を突き放すインパクトのある効果が生まれそうだ。

SiCの大量安定生産の準備着々

Peter Friedrichs氏
Peter Friedrichs

たとえば、同社は、2018年5月に、オーストリアのフィラッハの300mmのSiウエハー対応のパワーデバイス生産ラインに投資し、IGBTとMOSFETの生産能力を引き上げる発表をした(図1)。この投資自体はSiデバイスの生産能力増強に向けたものだ。しかし、これはWBGデバイスの生産能力増強にもつながるようだ。Friedrichs氏は、「Siデバイスを生産してきた150mm対応ラインをSiCデバイスの生産に、150mmと200mmのラインをGaNデバイスの生産に振り向けます。これによって、WBGデバイスの生産能力は劇的に高まり、市場の成長による需要増に応えます」とした。

SiCデバイスの量産、低コスト化への布石を打つインフィニオン
図1 SiCデバイスの量産、低コスト化への布石を打つインフィニオン
(左)300mmラインへの投資を決めたオーストリア フィラッハの工場、(右)SiCウエハーを有効利用する技術、「Cold Split」

また、2018年11月には、極めてユニークなSiCウエハーの低コスト化技術「Cold Split」を持つベンチャー企業、独シルテクトラを買収し、製造コストの削減に向けて布石を打った。Cold Splitとは、以下のような技術である。SiCウエハー上にデバイスを形成した後、厚さ350μmの1枚のウエハーを水平方向に2枚に分割。デバイスを形成していない方のウエハーにもデバイスを形成して、2枚分のデバイスを作成する技術である。レーザー光の照射によって、ウエハーの内層にダメージ層を形成することによって、1枚のウエハーを2枚に分割できるようになる。現在、SiCデバイスの普及の足かせになっているのはデバイスコストの高さであり、それはSiCウエハーが高価なことに原因がある。インフィニオンは、償却済み生産ラインの転用による増産体制とウエハーの有効利用という2つの策で、低コスト化の筋道を明確にしたことになる。

20年間、信頼性にこだわり続けた実績

元々、物性がSiよりも優れるSiCは、その高性能について疑いを持つユーザーは少ない。応用を考えるユーザーに、その利用を躊躇させる要因があるとすれば、先に挙げたコストと信頼性だ。インフィニオンは、SiCデバイスのサプライヤーの中では、特に信頼性を重視しているメーカーである。デバイス構造を設計する際には、信頼性を最優先に考えた構造を採用している。

たとえば、SiCベースのショットキー・バリア・ダイオード(SBD)では、「約20年前に世界に先駆けて製品化して以来、サージ電流への耐性を高めることによる高信頼性の実現にこだわり続けています」(Friedrichs氏)という。SBDでは、デバイス断面の上から下へと電流が流れる。通常のIV特性には、温度が高くなると電気抵抗が正の数の係数分だけ変化する正温度係数(Positive Temperature Coefficient:PTC)と呼ばれる特性がある。そして、大電流が流れる際には、熱暴走が起きる可能性がある。インフィニオンでは、温度依存性のない特性を持つpn接合のダイオードをSBDに組み合わせた構造を採用している。これによって、大電流が流れた際にも、温度依存性のない、十分なサージ電流の耐量を持つダイオードとなる。

インフィニオンのSiC SBD「CoolSiC」には、極めて多様な仕様が揃っている。第5世代品と第6世代品の両方があり、耐圧は650V耐圧と1200V耐圧の製品を用意している。定格電流は2A〜40Aまで細かく用意し、さらに利用環境などに応じて使い分ける多様なパッケージの製品がある。これによって、いかなる応用でも最適なデバイスを選択することができる。同社は、2017年に第6世代のダイオードを投入した。これまで高かった順方向電圧を低減した製品である。その効果は大きく、力率改善回路に応用した場合、前世代品に比べて、負荷状況や温度の変化による導電損失を22〜38%削減可能である。

信頼性と量産性を重視したMOSFET

MOSFETにおいても、インフィニオンは、コストと信頼性での優位性を強く意識したデバイス開発を行っている。同社は、SiC MOSFETを設計するに当たって、高性能化を追求するだけではなく、信頼性の向上、安定した量産の実現、さらにはシステムの互換性などを複眼的に検討して構造や仕様を決定している。

たとえば、SiC MOSFETの信頼性は、ゲート酸化膜の安定性の影響を色濃く受ける。ところが、一般的なMOSFETの構造であるプレーナー型の場合には、ゲート酸化膜下のチャネル領域に欠陥密度が高い領域ができてしまい、チャネル抵抗が高くなる。そのまま対策を施さないまま使ったのでは、高性能なSiCの魅力が削がれてしまう。ただし、ゲート酸化膜に掛かる電界を高めれば、性能低下を避けることができる。しかし、その代償として、ゲート酸化膜全体にストレスが生じ、信頼性を落としてしまう。つまり、プレーナー型のMOSFETには、性能と信頼性にはトレードオフの関係があるのだ。

インフィニオンは、プレーナー型では、SiCの高性能と求める信頼性の両立ができないと判断し、トレンチ型MOSFETを当初から採用している。トレンチ型ならば、欠陥密度を少なくして、チャネル抵抗を低減できる。トレンチ型MOSFETにも、性能と信頼性の間にトレードオフの関係が存在するが、プレーナー型に比べれば両者が均衡するレベルが格段に高い(図2)。さらにインフィニオンでは、「信頼性向上を優先した設計条件を取り、Si IGBTと同等の信頼性を実現しています」(Friedrichs氏)という。

図2 SiC MOSFETにはトレンチ型構造を採用して、高性能と高信頼性を両立
図2 SiC MOSFETにはトレンチ型構造を採用して、高性能と高信頼性を両立
(左)トレンチ型SiC MOSFETの断面構造、(右)プレーナー型(DMOS)とトレンチ型の性能と信頼性のトレードオフ

また、来るべきSiCデバイスの大量消費時代の到来を見据えて、安定供給できる量産体制を整えるために有利な、デバイス自体を作り易い構造を採用している。インフィニオンのトレンチ型MOSFETでは、自己整合プロセスによって、高性能が得られる結晶面にチャネル領域を形成している。これによって、均質で、しきい値のバラ付きの少ないMOSFETを形成できるようになった。

インフィニオンのSiC MOSFETである「CoolSiC MOSFET」は、電気自動車のバッテリーチャージャーのような比較的低電力に対応する製品から、鉄道や風力発電など大容量に対応する製品まで幅広い仕様の製品を用意している。また、「Easy」というモジュール製品も提供している。ハーフブリッジや太陽光発電用の昇圧回路、モーター駆動用のシックスパック、さらには無停電電源(UPS)向け3レベル回路などを1パッケージ化しており、応用機器の小型化や信頼性向上に貢献できる製品だ。また、同社は、多様な電源回路の構成に対応するためのディスクリート・デバイスの提供にも注力している。1200V耐圧品では30~350mΩ、650V耐圧品では6〜107mΩと幅広くカバーしている。

車載向けの信頼性、AEC-Q101では不足

SiCデバイスの低コスト化と信頼性の向上が進むことで、SiCの応用分野が急激に拡大している。その導入効果も極めて高い。

太陽光発電の分野では、SiCデバイスを活用することでパワーコンディショナーを小型化し、同時に50kWだった出力を125kW出力へと電力密度を2.5倍に高めることができた例が出てきている。また、停止が許されないデータセンターなどで利用される無停電電源(UPS)では、SiCデバイスの採用で、1MWのUPSの運転コストを5年間で500万円節約するようになった。また、鉄道用の補助電源では、SiCデバイスの採用で動作周波数を高め、回路中のインダクターを小型軽量化し、車両重量の軽減に貢献している。効率の向上幅は2%にすぎないが、軽量化による加速性能の向上も相まって1年当たりの省エネルギー効果は10〜12TWhと高く、CO₂の排出量も1000万~1200万t削減した。

そして、いよいよ電気自動車(EV)への応用が本格的に始まる。EVにはさまざまなパワーデバイスが搭載され、SiCデバイスの活用による効果が大きな部分がメイン・インバーターをはじめとして数多くある。「2020年以降、出力が大きなモーターを搭載する高級車から採用されるでしょう。そして、2024年頃にはミッドレンジ、2030年以降には小型車でも採用が始まるとみています」(Friedrichs氏)という。

ただし、自動車でSiCデバイスを採用する際には、注意すべき点がありそうだ。信頼性の基準がSiデバイスとは異なり、自動車業界では、通常の半導体よりも高い信頼性や品質を求める規格を定めている。

トランジスターなど個別半導体では「AEC-Q101」と呼ぶ規格がある。EVで採用するデバイスを選択する際には、AEC-Q101に準拠した製品を選びたくなるところだが、それでは充分な信頼性を確保できないようだ。これは、AEC-Q101では、実際のEVの走行中や充電中の回路の動作状態を想定していないからだ(図3)。特に、SiCデバイスのような信頼性の評価基準がキッチリと定まっていないデバイスでは、「より厳しい条件で高温逆バイアス試験(HTRB)を実施し、評価する必要があります」とFriedrichs氏はいう。仕様書に最大接合温度200℃と記載されていても、これは80Vで試験した結果であり、高電圧を印加して使うと55℃~150℃を1000回繰り返しただけで接合が外れてしまう場合があるとする。そして、インフィニオンでは通常の試験条件だけではなく、「1200Vといった高電圧での試験にも合格する製品を作っています」(Friedrichs氏)。

SiCデバイスの量産、低コスト化への布石を打つインフィニオン
図3 AEC-Q101対応だけでは、EVの走行時や充電時の状況に合った信頼性を確保できない
(左)走行時の典型的な電圧変動とAEC-Q101の基準の関係、(右)充電時の典型的な電圧変動とAEC-Q101の基準の関係

また、ゲート酸化膜の信頼性は、Siデバイスでは宇宙線に対する耐性だけを考えればよかった。しかし、SiCデバイスのFITレートは、ゲート酸化膜の安定性も合わせて調べる必要があるのだという。インフィニオンでは、個々の応用に応じた劣化モデルを作り、劣化の状況を理解して、技術的な対応策を立てている。仮に、通常の製品で応用での要求を満たすことができなければ、個別にチューニングするか、新しい機能を加えることで要求を満たす。SiCデバイスを選択する際には、サプライヤーの信頼性に対する考え方をキッチリとチェックした方がよさそうだ。

お問い合わせ

インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社
URL: https://www.infineon.com/jp