日本企業が抱えるIT人材不足の課題と解決策について、3回にわたり考える。第1回目の前回は、日本で起きている人材不足の実態を取り上げた。今回と次回は、いかにIT人材不足を解消していくかを考える。キャリア採用や海外人材の活用、IT企業の買収など、IT人材の採用競争は激化している。

第1回の記事でも指摘したように、日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進まない大きな原因に、デジタル人材、さらにはIT人材の不足がある。2019年に出した試算では、2030年には最大79万人のIT人材が不足するという経済産業省の試算、情報処理推進機構(IPA)の「DX白書2021」による今の日本のIT人材は135万人という数字も前回書いた通りだ。

時期の異なる調査だが、多少乱暴に試算すると最悪の場合、約10年後には日本では必要な人材の4割近くが不足することになる。

DXでシステム内製化重視へ

日本のIT人材について、DX白書2021のデータに沿って、見ていく。約135万人のうち、「提供側」つまりITベンダーにいる人材が約100万9000人。これに対して事業会社、すなわち「ユーザー側」にいる人材は約34万1000人で全体の3割以下だ。米国などではIT人材の7割がユーザー側で働いていると言われる。

いいか悪いかは別としてこれが日本のスタイルだった。だがDXが重要な経営課題となる中で、ユーザー企業がデジタル人材、IT人材に求めるものが変化し始めている。

DXは企業のビジネスや業務フローを一変させる。ITに強いだけでなく、自社のビジネスを理解している人材の方が、DXの方向性や活用すべきテクノロジーを判断しやすい。開発の迅速さもこれまで以上に重要になる。こういった問題を解決する手段として、開発内製化の動きが強まっている。

例外はあるかもしれないが、企業の業務はベンダーよりも社員が詳しい。何がどうなっているからどう変えるべきなのかは社員の方がよく知っている。ITベンダーは開発のプロだが、プロに開発を発注する際には、何をどう開発するのか契約に沿った形で行う必要がある。どうしても時間がかかる。開発のプロが社内にいればこの問題を避けることができる。

難易度増す新卒採用

多くの日本企業は新卒採用が人材確保の基本だ。IT人材内製化もできるなら新卒採用でまかないたいところだが簡単ではない。

学生人気の高い一部の大手企業は別だが、日本でIT系学部を卒業する学生は、IT企業への就職を目指す傾向が強い。ユーザー企業のシステムを実質的に開発しているのは提供側のIT企業であり、ユーザー側の企業に入っても自分の能力を生かせないとの認識があるからだ。

近年は学生の就職希望先にも変化が見られる。昔はIT業界規模であれば、既存の大手を第1志望としただろう。近年は「スタートアップ」と呼ばれるベンチャー企業への人気が高まっている。特に自分に自信を持つ優秀な学生で傾向が強いという。

具体的にはこんな企業だ。創業から数年でスマートフォンのアプリしか作っていない。社長も社員もほぼ全員が20~30歳代。オープンなオフィスでワイワイやりながら、大学のサークルのような雰囲気。楽しさもありながら、昼夜を問わないハードワークで新たなサービスを矢継ぎ早に出していく。

スタートアップがすべて成功するわけではないが、若ければ失敗も経験として次につながる。学生が惹かれる理由も分かるのではないだろうか。

学生からの人気が高いスタートアップ企業でも、簡単に人材を獲得できているわけではない。工夫している。一つはインターンの活用だ。AI(人工知能)やIoT(インターネット・オブ・シングス)といった最先端のテクノロジーを専攻するような学生を募る。高額の報酬を用意し、単なる業務体験ではなく、実際の開発に深く関わる業務を任せることもあるという。人脈を作り、能力を評価した上で、気に入ってもらって即戦力として採用する。

忘れてならないのは海外人材だ。活用できれば人材不足の解消に必ず役立つ。国籍ではなく能力を重視して人を選ぶ。テレワークの進展で、働く場所はもちろん、採用も以前より簡単になっている。

こうした取り組みを参考にしながら、実効性のある施策を講じていく必要がある。

キャリア採用が勝負、海外人材の獲得や企業買収も

 

DXを成功させるにはさまざまな人材が必要だという点についても前回触れた。CIO(最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)、CDXO(最高DX責任者)といった責任者はもちろん、どのクラスの人材も採用できるのがキャリア採用だ。

将来性が不透明な新卒と異なり、経験者は実力が分かる。優秀な人材が引く手あまたなのは新卒以上だ。

いかにキャリア採用を成功させるか。新卒採用でも述べたが、キャリア採用でも同じように海外人材の活用は重要だ。

もう1つは買収。技術力の高い企業や面白いサービスを展開している企業を、人材を確保する目的で丸ごと買収する。「アクハイヤー」とも呼ばれ、海外ではごく当たり前の戦略だ。日本でも実例が出始めている。

キャリア採用を増やしたり、海外の人材を採用したりする際には、従来の雇用形態を見直す必要があるのを忘れてはならない。フルタイムで出社を前提とする雇用スタイルは、採用での人気を考えるとマイナスに働く部分がある。勤務形態はもちろん、副業の許可、1人ひとり条件の違う契約社員のような雇用形態が有効な場合もあるだろう。

特に、最近のITエンジニアの間ではリモートワークの有無が企業の選ぶ基準に加わりつつある。リモートワークを前提としながら成果の上がる勤務制度を考えたい。

優秀な人材からの注目を集めるため、自社のDXチームを変革のリーダーとうたい、「当社に来れば面白い仕事ができる」とアピールする企業も増えている。そうした取り組みも、人材不足を解消するための有効な手立てとなるだろう。

報酬やインセンティブを魅力的にすることで、求職者のモチベーションを高めようとする企業もある。効果はあるが、求める人材によってはGAFAのようなグローバル企業との奪い合いになる可能性がある。金額では勝てない。その企業でしか得られない価値が何なのか、やりがいが何なのかを示すことも重要だ。

今回は、IT人材不足の中でDXを担う人材を外部からどう集めるか、新卒採用とキャリア採用を中心に考えた。次回は、内部人材の活用を考える。

いかがだっただろうか。議論の場としてSNSを使われる場合には、#jyosyslabo を使っていただければ幸いである。本記事に関するご意見がある場合も同様だ。

新着記事

社内のDX(Digital Transformation)を推進したい

Vol:08

1時間で作ったシステムで
570時間の工数削減
中小企業のDXは低コストかつ短期間で

中小企業では、限られた人員と予算の中でデジタルトランスフォーメーション(DX)を考える必要がある。ITの導入が遅れ、未だに電卓や電話、ごく簡単な管理システムで業務を進めている企業も少なくない。そうした中小企業が低コストかつ短期間でDXを成功させた好例として、...

More View

コラム:第8回

再教育で人材を生み出す
「リスキリング」に活路

コラム:第7回

激化する採用競争、インターン、
海外、買収などの新施策も

コラム:第6回

IT人材不足がDXを阻む

テレワークの課題を解消したい

Vol:02

コールセンターのテレワーク改革
在宅勤務率驚異の95%を実現!

チューリッヒ保険会社は全国が極度の緊張状態にあった1度目の緊急事態宣言の中、コールセンターのオペレーターを含む社員95%の在宅勤務移行を成功させた。スムーズな移行の秘訣となったのは、IT機器などを導入したハード面と、充実した研修などを実施したソフト面の両立にある。この移行プロジェクトを進めた情報システム担当者に、成功までの経緯や裏側を聞いた。・・・

More View

Vol:01

コロナ禍を変革の好機と捉え、
競争力を高めるために
日本企業が行うべき次の一手とは?

Coming soon

Coming soon

セキュリティに関する知識を身につけたい

コラム:第3回

あふれる「セキュア」に
惑わされてはならない

情報漏えい事件の報道やセキュリティの重要性を訴求する記事等々――、情報セキュリティに関する情報を耳にしない日はない。だからといって、過剰な恐怖心を抱いたまま対策を・・・

More View

Coming soon

Coming soon

Coming soon

お問い合わせ

東京都千代田区丸の内3-1-1 国際ビル5階

https://www.intel.co.jp/