日本のITが抱える人材不足の課題とその解決策を、3回にわたり考えてきた。過去2回で、日本のIT人材不足の実態を俯瞰し、新規採用による解決策を検討した。今回は社内の人材を再教育し、デジタル人材に変える「リスキリング」について考える。ビジネスパーソンとして活躍できる期間が長くなるにつれ、学び直しによる新たなスキルの獲得に前向きな人が増えている。ここに投資することで、人材不足の解消につなげる。

前回までの内容を簡単に振り返る。

デジタルトランスフォーメーション(DX)はITに詳しいだけでなく、自社の企業文化と業務内容を理解しているチームが取り組むことで成功の確率が高まる。長く続けてきたシステム開発の外注を少しずつ見直し、内製化を志向する企業が増えつつある。

その一方で、日本はIT人材の不足に苦しんでいる。2019年の経済産業省の試算によれば、2030年には最大79万人のIT人材が不足する。海外人材の採用、技術力のある企業を人材ごと買収したりする戦略などを指摘した。こうした施策を取ったからといて、必ず十分なデジタル人材、IT人材を獲得できるわけではない。

ではどうすればよいのか。1つの方策として、内部に目を向け、働いている従業員をデジタル人材に変えていく方法がある。

そこで注目が集まるのが、新たなスキルを再教育によって獲得する「リスキリング」だ。人材活用の新たな潮流として注目を集めている。

スキル転換を望む人は意外に多い

2021年10月に情報処理推進機構(IPA)が発表した「DX白書2021」に興味深い調査結果がある。国内のIT人材がスキルをどのように転換しているかを調べたものだ。日本のIT人材を5つの分類で調査した。

第1の分類は「自発転換」、すなわち自身のスキルを自発的な動機から転換した人たちだ。第2は「受動転換」。業務上の指示や組織の都合によってスキルの転換を求められた人たちだ。第3は、最初からAI(人工知能)やIoT(インターネット・オブ・シングス)など、DXで重要とされる技術に強く、変換の必要がなかった人たち。第4は、変わりたいと思っているがまだ変われていない人たち。第5は変わりたくない、変化を望まない固定的な観念を持つ人たちだ。

IPAの調査によれば、第1の自発転換はIT人材全体の2.7%、第2の受動転換が17.5%だった。第3は27%強、第4は21%強、第5の「変化を望まない人」は30%弱という結果になった。

ここから分かるのは、動機はどうであれ、すでにITスキルを転換している人や、転換を望んでいる人は意外に多いという事実だ。こうした潜在的なニーズに応えてスキルを学び直す機会を提供していけば、確実に不足しているデジタル人材、IT人材を補強できる。

リスキリングを進める際に重要なのは、どのような人材をどう変えていけば価値が高まるかを的確に判断すること。比較的早くDXの中核的な人材になれる人と、ある程度の時間をかけてDXを学ばなければならない人がいる。これまでITに興味はなかったが、別の分野では専門家として通用している人や、ビジネスアイデアに長けているような人は、ITのスキルを学ぶことで高い戦力に生まれ変わる可能性がある。

第1回で述べた「2025年の崖」や「2007年問題」を考えても、企業の人材活用には転換が求められているのは間違いない。リスキリングは重要な施策であると認識すべきだ。

リスキリングを阻む要因は解決できる

DX白書2021では、自発的に自分のスキルを転換し、人材として生まれ変わることの難しさについてさらに深く検討している。それによれば、「新たなスキルを身につける自信がない」、「スキルを変更することでパフォーマンスが下がり、評価されなくなるのではないか」といった不安がリスキリングの阻害要因になっている。

最も多かった回答はお金でも評価でもなく、「学び直しの時間を作れない」というものだった。学び直しに要求される労力や時間的な負担は大きい。その結果、ワークライフバランスの悪化に懸念を持つ人もいる。

逆に考えれば、こうした懸念や心配を企業が解消できれば、リスキリングは思った以上の早さで進む可能性がある。時間がないなら与えればよい。リスキリングに挑戦する従業員には、給与の見直しや業務インセンティブを与えるなど、報酬面のメリットを提供することも可能だろう。ワークライフバランスが悪化しないように勤務時間や場所を考慮し、柔軟な勤務体系を提供する。本連載の2回目でも言及したが、こうした施策はIT人材の採用でも有効だ。

人材のリスキリングには、時間とコストがかかるが、DXの成功に直結する投資でもある。採用の難易度が増す中で、リスキリングの重要性は高まる。

3回にわたり、IT人材を取り巻く問題について考えてきた。課題は山ほどある。実現が難しい解決策もあるだろう。しかし、DXが競争力の源泉となる中で、手をこまぬいているだけではジリ貧だ。可能なところから着手し、将来への布石を打っていくしかない。

いかがだっただろうか。議論の場としてSNSを使われる場合には、#jyosyslabo を使っていただければ幸いである。本記事に関するご意見がある場合も同様だ。

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