チューリッヒ保険会社は全国が極度の緊張状態にあった1度目の緊急事態宣言の中、コールセンターのオペレーターを含む社員95%の在宅勤務移行を成功させた。スムーズな移行の秘訣となったのは、IT機器などを導入したハード面と、充実した研修などを実施したソフト面の両立にある。この移行プロジェクトを進めた情報システム担当者に、成功までの経緯や裏側を聞いた。

2019年にはすでに在宅勤務のベースを整えていた

2020年4月7日に発令された最初の緊急事態宣言を受け、チューリッヒ保険会社は翌日の4月8日から速やかに全部門の業務を在宅勤務へと移行した。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大が危惧され始めた2020年初頭から、新しいシステムの構築や対策を始めたわけではない。10年近い事業継続計画(BCP)への取り組みが、その実現の大きな礎となっている。

在宅勤務移行前のオフィスの様子

チューリッヒ保険会社 ITサービス本部長 CIOの木場武政氏によれば、チューリッヒ保険会社が本格的なBCPに着手したのは東日本大震災が起きた2011年から。災害時には損保の対応業務は増える。中東地域を中心にMERS(中東呼吸器症候群)が感染拡大した2013年には、新たな感染症や自然災害などによる出社困難なケースを想定して「コールセンターの在宅化を本格的に模索し始めました」(木場氏)と振り返る。

チューリッヒ保険会社
ITサービス本部長 CIO
木場 武政 氏

さらに2019年には、千葉県や湾岸エリアに大きな打撃を与えた台風19号への対策として東京オフィスにおいてコールセンターも含めた在宅勤務を初めて試みた。「この時点で在宅勤務への切り替えを可能にする機能や仕組みのベースは整っていたと言えるでしょう」と木場氏。

そして2020年にはコロナ禍を受け、早い段階から在宅勤務への移行を想定し、2月にはコールセンターのスタッフに対する在宅勤務用のトレーニングをスタート。こうした体制づくりと準備を整えていたからこそ、緊急事態宣言の翌日から95%という高い在宅勤務率を実現できた。

「現在は95%よりは在宅率は下げていますが、保険会社、特に当社のような電話やWebを使ったダイレクト保険が主力の企業にとって、コールセンターやWebでの問い合わせはお客さまとの最重重要のタッチポイントであり、ライフラインでもあります。これらが機能不全に陥ってはビジネスが立ち行きません。だからこそ、ここだけは確実に守れるような施策を、前々から検討してきました」(木場氏)

在宅勤務移行後のオフィスの様子

求められるのはより一層の「セキュリティアウェアネス」

チューリッヒ保険会社
ITオペレーション本部
ネットワーク&ボイス マネージャー
鳥居 謙介 氏

チューリッヒ保険会社 ITオペレーション本部 ネットワーク&ボイス マネージャーの鳥居謙介氏は、最も苦労した点としてオフィス環境とそん色ない品質を兼ね備えた「電話基盤システム」の整備を挙げた。鳥居氏は2019年の台風19号以降、在宅でもコールセンターの業務を安定的に行えるような仕組みを試行錯誤してきたが、パイロット版を運用するなかで音声品質などのさまざまな課題が見えてきたと話す。

「現在の環境では『ソフトフォン』を利用し、かかってきた電話をスマートフォンに転送するような方式で運用しています。ただし、ソフトフォンは利用するハードウェアのスペックなどがボトルネックとなって音声品質が悪くなることもあります。そのため、弊社の場合は電話基盤システムから直接スマートフォンに転送するやり方で、音声品質を担保しました」(鳥居氏)

一方で、電話転送の採用によって新たに課題となったのが「転送コスト」。実際に運用していくなかで転送コストが大きな負担となり、現在は新たな転送方式に変更。毎月の転送コストを極力抑えた形でサービスを提供するなど、現在の仕組みを構築するまでにも「それなりの紆余曲折がありました」(鳥居氏)とする。

これらに加え、より一層の対策を求められたのが「セキュリティ」である。なかでも、木場氏がより重要と考えるのは、利用する社員の人的対策、つまり「セキュリティアウェアネス」だ。例えば、チューリッヒ保険会社では社員に対して毎年オンライン研修を実施しているほか、社内イントラへの情報掲載や社内SNSでの注意勧告なども実施。セキュリティの意識を高めるような啓蒙活動やトレーニングは「引き続き強化していかなければならない」と木場氏は力説する。

感謝や満足の声に、仕事の喜びややりがいを改めて実感

ビジネスを展開する上で重要な「お客さま満足度」は、在宅コールセンターへの移行後も高い評価を得ている。チューリッヒ保険会社では、NPS(Net Promoter Score)をお客さま満足度の指標としているが、移行前と後のスコアを比較しても、ほぼ同レベルの高い評価を維持。木場氏も「IT担当として達成感がありました」と手応えを見せる。

さらに、在宅勤務に対する社員の満足度も高い。定期的なアンケートでは毎回高いレベルを維持しており、在宅勤務を含めたフレキシブルな働き方の継続を望む声は多いという。

「この仕事を20年以上続けていますが、今回の取り組みほど注目されたのは初めてでした。企業にとっての電話やネットワークといった基盤システムは、日常生活でたとえるなら電気やガス、水道のような存在。使えることが当たり前で、使えなければ怒られるようなものですから、今回のように感謝や満足の声が届くと、改めて仕事に対する喜びややりがいを実感します」(鳥居氏)

チューリッヒ保険会社における今回の取り組みは、効果的にDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現させた事例といえる。しかし、木場氏は「ITの導入は重要ですが、業務のプロセスまで変革しなければDXとは言えません」と警鐘を鳴らす。さらに、ITの導入にあたっては目的を明確にすることが重要だと指摘。企業のITエンジニアに向けて「業績が伸びる、あるいはコストを減らせるなど、ビジネス貢献まで考えてこそITのプロフェッショナル」(木場氏)とメッセージを贈った。

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