今もアナログな体質が残る建設業界において、仕事の進め方を抜本的に見直し、早くからワークスタイル変革に取り組んできた大阪の八尾トーヨー住器。中古住宅をリフォームしたサテライトオフィス設置など、柔軟な働き方をサポートする取り組みを行なってきた同社は残業時間を63%削減し、ライフイベントによる離職ゼロも達成した。IT活用により働き方改革推進を指揮した代表が成功の秘訣を語る。

モバイルPCで場所にとらわれない働き方を実現

八尾トーヨー住器
代表取締役
金子 真也 氏

大阪市の東南部に隣接する八尾市。この地に本社を構える八尾トーヨー住器は、アルミサッシをはじめとする住宅用建材や住宅設備機器など、建築資材の販売を主軸とする。従業員140人ほどだが、同様の業態では西日本で最大規模を誇る。

2020年10月、同社は総務省による「テレワーク先駆者百選 総務大臣賞」に選出された。選ばれた5社のうち、残り4社が富士通、江崎グリコ、チューリッヒ保険、キャスター(全社がテレワーク前提の人材派遣ベンチャー)であることを考えると、中小規模の同社の存在は際立つ。アナログの習慣が残る建築業界だけになおさらインパクトは大きい。

IT化を牽引してきたのは、同社代表の金子真也氏だ。自社のPC活用を通じてITの力を実感したことが原点だという。2012年から営業系社員にタブレット端末を配布し、2016年にはLTE搭載の最新モバイルPCに変更。場所を問わないワークスタイルを実践している。

この動きに伴い、2015年からは拠点統廃合を併せ、本社を含む近畿一円の事業所をフリーアドレス化。固定デスクを排除して社員が外出先から最も近い事業所で作業できるようにし、事務処理のためだけに自分の所属するオフィスに戻る手間をなくした。自動車での営業が大半で、住宅の建築現場に出向くことも多いため、あえて都心から離れた場所にフリーアドレスの拠点を置くといった方針を採る。

2016年には受注書を電子化し、営業がスキマ時間に伝票を処理すれば直帰も可能となり、2017年度と2019年度との比較では残業時間が63.3%減少したという。トップダウンで指揮した金子氏は、IT化を推進した経緯を次のように語る。

「建築業界はアナログな部分が多く、伝票処理なども紙ベースが当たり前でした。そのため、オフィスに戻ってからの労働時間が取引の拡大に比例して増えていき、社員の疲弊が目立ってきました。結果的に離職率が高くなり、採用もままならないなど事業継続の危機を感じたことがIT化に取り組んだ最大の動機です」(金子氏)

コロナ禍でもスムーズに在宅勤務へ移行

2017年に完成した大阪府泉大津市のサテライトオフィスも象徴的なトピックの1つだ。中古住宅をフルリフォームし、ゼロエネルギー住宅に転換。見学用のオープンハウスとして活用しながら、作業スペースや会議室利用を設けて社員の自由な働き方を促進している。

フリーアドレスの拠点で勤務する様子

今後に向けては、奈良県斑鳩(いかるが)町の事業所を、同町内の築158年の古民家へ移転する計画も進む。サテライトオフィスと並行して地域住民向けのフリースペースも用意するなど、地域交流拠点としての利用を見込む。

「5つのオフィスはすべてオンライン会議で即座にコミュニケーションが取れるようにし、社内SNSでのグループ間のやり取りも活発です。ITをフル活用して、人のつながりを感じられるようにしています。離れているから不便と感じたことはありません」(金子氏)

2019年4月からは育休明けの女性社員が、同社初の事例としてフルタイムの在宅勤務を開始した。オフィスの統廃合により復帰後の通勤が困難になったためだが、この事例がコロナ禍におけるテレワーク移行への布石となった。

「この経験があったため、2020年4月からの1回目の緊急事態宣言下で営業系、事務系の社員をすぐに在宅勤務に切り替えることができました。もともとコロナ前から、出産や育児、介護などのライフイベントで課題を抱えた社員がより長く働けるために、在宅勤務の整備は必要だと考えていましたから。中小企業にとって人材の定着は死活問題。テレワークは、我々が生き残るための手段でもあるのです」(金子氏)

社員の満足度も年々向上し、同社の働き方に魅力を感じて入社する人も出てきたという。テレワーク導入後はライフイベントによる離職がゼロになり、新卒採用者は2019年に1名、2020年に4名、2021年に8名と右肩上がりに増えている。金子氏は「長時間労働が当たり前だった10年前からは想像できない」と振り返る。

テレワークでわかった未来のオフィスのあり方

そのほかITツールではRPA(Robotic Process Automation)による、ルーティンワークの自動化にも着手した。将来的には発注先であるメーカーのシステムと自社の受注システムをRPAによって連携し、煩雑な作業を簡略化することを視野に入れている。さらに社員が分散したことでSFA(営業支援)ツールを積極活用。手書きの日報をデジタル化し、担当者の負担を大幅に減らしたという。

「便利なツールを使いこなすのも、最終的には“人”が働きやすいかです。テレワークによって通常作業は在宅でできることがわかりましたが、画面越しではリアルのコミュニケーションにかないません。もしかすると、今後リアルのオフィスは雑談をしながらアイデアを出し合う場に変わってくるのかもしれません」(金子氏)

実はIT化が進んだ背景にも人の存在がある。ワークワイフバランスのことを考え、同社に中途入社した社員の1人が情報システム部門の経験者で、ベンダーマネジメントを含め力を発揮してくれたという。セキュリティーやクラウド化の検討も進める。

DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれ、最先端のテクノロジーが次々と現れる昨今だが、八尾トーヨー住器のIT化は実にシンプルな内容だ。業務効率を落とさないモバイルPCと安定した通信環境、そして頻繁なコミュニケーションを習慣づければ、本質的なワークスタイル変革が十分可能という成功事例でもある。

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