化粧品と健康食品・サプリメントを軸に、国内外で事業を展開するファンケル。同社では2014年から老朽化した基幹システムの再構築に着手し、フルスクラッチによる次世代システム「FITプロジェクト」を軌道に乗せた。完成に至るまでの苦難の道のりと、デジタル化によってファンケルが目指す未来のビジョンを、IT部門の当事者が語る2回連載の今回は1回目となる。

創業者が放った「やめてしまえ」という言葉の真意

1980年4月に創業したファンケルは、業界に先駆けて無添加化粧品を開発・販売した企業として知られる。さらに健康食品・サプリメントをもう1つの核とし、「正直品質。」を企業メッセージとして躍進を続ける。

「化粧品による皮膚トラブル」が社会問題となっていた1970年代、ファンケルの無添加化粧品は革命的な開発となった

通信販売で創業し、2020年度時点でも売り上げの50%を通販事業が占める。78%がECによるものだ。一方で残りの多くはリアルのチャネルからで、直営店舗が23%、ドラッグストアやコンビニ、スーパーなどへの卸販売が18%。現在は、デジタルとリアルが拮抗する。

ファンケルの化粧品事業

通販チャネルから始まった設立当初から、同社は長らく情報システムの開発・運用を内製してきた。だが1999年にITアウトソーシングを行ない、以降2016年までフルアウトソーシング契約を継続した。これにより、数十人が在籍していた情報システム部門は一気に縮小され、主に外部ベンダーとの調整を担う数人だけが残る体制に変わった。

同社グループIT本部の責任者を務める植松宣行氏は、1993年に入社した生え抜きの人物。途中、5年ほど営業部門を経験したが、キャリアのほとんどをIT部門に捧げてきた。1999年の段階で情シスに残った1人でもある。

「アウトソーシングの狙いは、システム開発や運用をプロフェッショナルに任せ、社員を自社事業に専念させることにありました。情報システム部門は賛成したわけではありませんでしたが、当時のアウトソーシング隆盛の流れもあり、外部委託の方向に舵を切ることになりました」(植松氏)

ファンケル
グループIT本部
植松 宣行 氏

こうして外部委託の時代が10年以上続いたが、2014年にはフルアウトソーシングで運用してきた基幹システムが老朽化し、植松氏いわく「手に負えない状態」となってしまった。

「この時点で、いわゆる“レガシーシステムの崖”に直面したのです。新しく機能を追加しようとしてもとにかく開発に時間とコストがかかる。実現までのハードルの高さを考えて、IT部門の一番の役割は『できない理由を考える』といったものになりかけていました」(植松氏)

ただし、指をくわえて見ていたわけではない。実は2004年、2010年と2回にわたり基幹システムの再構築にトライしたが、どちらも実現に至らなかった。準備段階だけで総額数千万円を費やしたが、レガシーシステムの機能を前提とした再構築を想定したために膨大な開発費用がかかることがわかり、経営陣の判断により中断したのだ。「私は2回の失敗を経験した当事者でもあります。どこかで失敗できない、したくないとの気持ちを抱えていたのかもしれません」と植松氏は語る。

システム老朽化の課題が顕著になるのと前後して、2013年に創業者の池森賢二氏(現名誉相談役 ファウンダー)が経営に復帰する。ファンケルの再建が目的である。戻ってきた池森氏は自らが創業した企業を改めて見つめ直し「背伸びして大企業になろうとしている」と見抜いたという。

「池森が戻る前は、安心・安全の言葉に縛られて、すべてにおいて石橋を叩いて渡るような体質になっていました。同時に自らのリスクを避けるため、一部の組織では過度の外部依存も陥っていました。そこに疑問を感じない社員に、池森は危機感を感じ、『過剰な品質、外部依存など、やめてしまえ』と強烈なメッセージを発信したのです」(植松氏)

これが転機となり、2014年に3度目の正直となる基幹システム再構築プロジェクトが動き出す。「情報システムの改善によってファンケルが成長するのであれば、ぜひ取り組んでほしい」との池森氏のバックアップを受け、全社体制で始まったのが「FITプロジェクト」だった。

5000本以上のレガシープログラムを読み解き、オープン化を実現

FITには「ファンケルグループのITを1つにまとめる」との強い意志を込めている。FITプロジェクトは、FIT-1、FIT-2、FIT-3と3つの段階を踏んだ長期プロジェクトであり、FIT-1は基幹システム再構築のフェーズとなる。

全社体制で始まった「FITプロジェクト」の活動内容

2014年〜2016年に実施したFIT-1では、硬直化したレガシーシステムのオープン化を目標にした。ハードは専用OSで動く大型機からPCサーバーに変更。この過程で、それまでフルアウトソーシングを委託していた大手ベンダーとの契約を解除。単にほかの大手ベンダーに乗り換えるのではなく、自らが手を動かして開発するベンダーを協業パートナーとして迎えた。その上で、ファンケルは要件定義やプロジェクト企画など上流工程を担当する体制を組んだ。

「開発工程でトラブルやリスクが発生した場合でも、ベンダー側に責任を負わせることはないと明言しました。これによりお互いの信頼関係を築き、FITプロジェクトチームを結成。5000本以上あったレガシーシステムのプログラムを解読し、オープン化に向けて1から作り直しました」(植松氏)

すべてをやり終えたから今だからこそ淡々と話せるが、植松氏は「多大なプレッシャーで髪の毛が抜けるような思いをした」と当時を振り返る。パートナーベンダーには、得意スキルを持つメンバーを適切に配置してもらい、植松氏らがメンバーの能力を把握。逆にスキルがない場合はともに学ぶことでFITプロジェクトへの最適化を図った。この結果、2016年にFIT-1は基幹システムの再構築を終え、“レガシーシステムの崖”からの脱却を果たした。

「システム開発を早く・安く実現する環境」を構築したFIT-1

その後、2017年〜2018年にかけて取り組んだFIT-2では、基幹システムを管理基盤とし、通販システム、ECサイト、店舗システムのチャネルをリアルタイム連携。それまで点在していた商品、顧客、施策データを統合することで、シームレスなオムニチャネル基盤が完成した。

「マルチチャネル化、統合管理基盤化」を実現したFIT-2

「完全にリアルタイムで連携することで、お客様がいつ、どこのチャネルで購入しても同じサービスを提供できるシステムを実現しました。FIT-2が完成していたおかげで、コロナ禍でも店舗のお客様をECへ円滑に誘導でき、国内のお客様の売り上げも大きく落ち込むことはありませんでした。アプリを活用した情報共有や的確なニーズ把握が可能になったからです」(植松氏)

見事なDX、だが社内ではDXと呼ばない理由

現在、2019年〜2022年のスコープで取り組んでいるのがFIT-3だ。FITプロジェクトでは最終章となるが、植松氏はこのフェーズこそが「最も実現したいこと」と意欲を見せる。

「FIT-3では情報系システムを再構築し、お客様の情報を集約してつなげることで、データの価値を高めることを目指します。既存のデータベースには氏名・年齢・性別・住所・生年月日・累計購入回数などの基本データを入力していますが、そこに購入のきっかけ、購入方法、お客様にとってのベネフィット、購入後の反応といった行動データを加え、データからお客様を理解することに役立てます」(植松氏)

もともとファンケルには顧客とのつながりを重視する文化があり、通販での電話を介したやり取りも機械的な内容に終始しない。ときには購入者に対して手書きの手紙を送付することもある。しかし、これまでは担当者レベルを超えてそれらのコミュニケーションで培ったノウハウを共有する術を持たなかった。FIT-3ではそこに楔を打ち、パーソナルな情報や仮説をデータベースに蓄積して活用する。

「これらのデータベース化によって、お客様満足度の向上や弊社のファン醸成などデジタルやリアル店舗マーケティングへの活用が見えてきます。開発チームも業務部門の現場に入り込み、お客様とどのようなやり取りをしているか、日常的な業務内容はどんなものなのかを把握するようにして進めています」(植松氏)

これはまさに、データドリブン、デジタルトランスフォーメーション(DX)を地で行く取り組みだ。だがファンケル社内では、FITプロジェクトをデータドリブンともDXとも呼ばないのだという。

「言葉が先行すると、活動自体が流行りものと捉えられかねないからです。現社長の島田(和幸氏)は、既存のKPIなど捨ててしまえ、今まで見てきたことを参考にするなと発破をかけています。トップが強いメッセージを掲げ、思いに並走してITに何ができるのかを考えるのが肝だと思います。それを我々はFITプロジェクトで証明しようとしてきました」(植松氏)

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