ファンケルでは新型コロナを契機に、ライブショッピングやオンラインカウンセリングなど、時代を見据えた新しい取り組みを開始した。社内スタジオを開設し、ほぼすべてを自社制作する足腰の強さの根底には、2014年から始まった全社を挙げたIT変革がある。本記事は2回連載の後編。IT部門が中心となった変革の全貌を担当者の言葉から紐とく。

手作りのライブショッピングを開始

無添加化粧品、そして健康食品・サプリメントを事業の核とするファンケル。1980年の創業以来、研究・企画・製造・販売と製販一貫体制を貫き、顧客の声を反映することで事業を伸ばしてきた。

ファンケルが2021年〜2023年度に掲げる中期経営計画が「前進2023〜逆境を超えて未来へ〜」というものだ。7つのチャレンジを大方針とするが、その中に「ファンケルらしいOMOの推進」がある。OMOとは「Online Merges with Offline」、すなわちオンラインとオフラインとの融合を指す。ここではデジタルとリアルの垣根を極力なくし、蓄積した行動データを有効活用しながら場所にとらわれない体験価値を提供することが求められる。

この方針に則り、2020年7月からライブショッピングを開始した。スタジオを自社に構え、ほとんどを社員自らが制作・発信する。2021年7月までの1年間で70回実施し、リアルタイムの延べ視聴者数は31万人を超えた。1周年記念配信ではリアルタイム視聴者数が2万人を突破し、紹介した4商品のうち3商品が配信時間内に完売したという。

さらに、社員インフルエンサーによるInstagramでの美容動画、メイク講座などのオンラインイベント、オンラインによる対面カウンセリング、テレビ局やショッピングモールとのコラボなどの企画をスタートさせている。通販事業と店舗事業を二本柱としてきたファンケルは電話や対面でのコミュニケーションが強みだったが、デジタルが加わったことで厚みを増した。

継続的なライブ配信・オンラインイベント等により人を通じてのコミュニケーション強化を図る

自社制作での情報発信を、IT部門が支える。ファンケル グループIT本部 責任者の植松宣行氏は、ライブショッピングを開始した経緯を次のように説明する。

「コロナ発生によって、お客様と今までのようにコミュニケーションができなくなったと感じることが増えてきました。そこで、社外向けにオンラインで情報が発信できるようにスタジオを設置し、ライブショッピングを始めとするデジタル施策をスタートさせました。また、毎週火曜日に社長が全社メッセージを送る朝礼があるのですが、出社時に社内放送で聞くスタイルから、2週間ほどでリアルタイム配信システムを構築し、グループ2000人の社員が同時視聴できるようにしました。コロナを契機に社内外どちらともに積極的に情報を発信する企業体質に変わったのだと実感しています」(植松氏)

全社を挙げてのプロジェクトで意識が変わる

2014年に基幹システムの老朽化に直面したのに伴い、ファンケルでは「FITプロジェクト」と呼ぶ全社を挙げてのIT変革を推し進めてきた。その内容はFIT-1、FIT-2、FIT-3の3段階に分かれる。FIT-1では基幹システムの再構築、FIT-2では通販・EC・店舗チャネルの統合、現在進行中のFIT-3では情報系システム再構築によるデータ活用の基盤づくりを進める。

前編:「FITプロジェクト」に関する記事はこちら

ファンケル
グループIT本部
植松 宣行 氏

FIT-1が完成した2016年以降、「社内に変革の波が訪れた」と植松氏は話す。「FIT-1が完成するまでは、要望があっても『できない理由を考える』のが当然だったものが、まるで堰を切ったようにどんなリクエストにもすぐに開発して応えようというマインドに変わり、どんどん新しい仕組みを実現してきました。この変化が、現在まで続いています」(植松氏)。

並行して業務部門にも効率化を図るツールを導入した。システムが進化したことで現場ユーザーが意欲的になり、ITを活用しようという機運が高まってきたからだ。その1つがRPA(Robotic Process Automation)であり、各部門で定型業務の自動化が加速している。「IT部門は社員のやる気をサポートして、生産性を高めることが重要と考えています」(植松氏)。

2019年にはオンラインコミュニケーションツールのMicrosoft Teamsを導入。当初はあまり使われなかったと植松氏は振り返るが、コロナ禍がきっかけで一気に普及。仕事に不可欠なツールとなった。

「RPAにせよMicrosoft Teamsにせよ、先をにらんで整備したことが奏功しました。リモートワークへの移行で苦労した話をよく耳にしますが、ファンケルはかなり円滑にスイッチできたと思います」(植松氏)。

IT変革にはトップと社内協力が必須

長年の通販・店舗事業で膨大な個人情報を蓄積してきた同社にとって、セキュリティはITだけでなく経営に直結する重要なテーマだ。しかも「デジタルに穴が開けば影響は計り知れず、1つのミスが命取りになります」(植松氏)。対策にも余念がない。

「どこまで行ってもセキュリティにゴールはありませんから、最新の脅威を共有しつつ、ツールを有効活用したり、ときには人力で対応したりと打てる手は打つようにしています。現場ユーザーが使用するパソコンに関してもログを収集して確認しています。主要システムやデータセンターは二重化していますが、ランサムウエア対策の側面があります。FIT-1も運用から5年が経過したのでシステムを更改し、リアルタイムで別サイトでのデータ二重化を実施しました」(植松氏)

ファンケルの情シスは、前回も触れたようにFITプロジェクトが始まるまでの10年以上、順風満帆とは言えない状況にあった。1999年に始まったITシステムのフルアウトソーシングにより、数十人もいた情報システム部門は劇的に縮小し、植松氏を含む数人だけがベンダーとの窓口として残っていた。

「FITプロジェクトが成功した理由は、トップが強い力で牽引したことが1つ。もう1つはIT部門以外の社員を巻き込めたことです。振り返れば、プロジェクトの最中は修羅場でした。あるIT部門の女性は家庭の事情で早めに帰宅しなければならないことが多かったのですが、『自分がここで折れたらすべてが止まってしまう』との思いから踏ん張ってくれたのです。かなり無理をしていたのだと思います。真摯に取り組む姿勢が周囲に伝播して、他部門がどんどん協力してくれるようになりました。あの協力体制がなかったらプロジェクトの成功はありませんでした。どの企業にも言えると思うのですが、情報システム部門だけでIT変革を成し遂げるのはまず不可能です。経営層の確固たる信念と社内のチームワーク、この2つと結びついてこそ成功が見えてくる――こう考えています」(植松氏)

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