トラスコ中山は、経済産業省と東京証券取引所が選定する第1回目の「DX銘柄2020」で、コマツと並んで「デジタル時代を先導する企業」に与えられる「DXグランプリ2020」を受賞した。20年以上にわたるIT化の取り組み、トップの強いコミット、全社での理念の共有に加え、情報システム部門の体質転換などが奏功している。

こころざしやトップメッセージの共有が大切なポイント

トラスコ中山
取締役 経営管理本部長 兼 デジタル戦略本部長
数見 篤 氏

トラスコ中山では現在、情報システム部とデジタル推進部で構成される「デジタル戦略本部」が実働部隊として、DX推進に関わる。デジタル戦略本部のトップを務めるのが、取締役 経営管理本部長 兼 デジタル戦略本部長の数見篤氏だ。

1993年の入社から、長く営業を経験し、その後eビジネスに関わっていた数見氏が、門外漢ともいうべき情報システム部長に就任したのは2017年7月。2019年1月に情報システム本部への格上げに伴って本部長を、2020年10月から現職のデジタル戦略本部長を務める。

「DXはITだけでできるものではありません。経営やビジネスなどを理解している方がDXを進めやすい面があるのではないでしょうか。私には、そういった部分でのシナジーを期待されているのでしょう」(数見氏)

デジタル化のツールは進化し続けている。これらを生かしてどうDXを実現するのか。トラスコ中山は、9項目からなる「DXステートメント」を指針として掲げており、その1つに「企業のこころざし」がある。最近注目されている「パーパス(存在意義)」に近いものと言えるかもしれない。

こころざしとは具体的に、「人や社会のお役に立ててこそ事業であり、企業である」と「がんばれ!!日本のモノづくり」であり、ここから「日本のモノづくりに欠かせないプラットフォーマーになりたい」「過去の商習慣、定説、常識にとらわれない、最も合理的、先進的なプロツール流通を構築したい」というビジョンにつながる。

数見氏は、「こころざしやトップのメッセージを他の役員や社員がきちんと受け止め、さらにはパートナー企業とも共有・共感することが“DXを進めるポイント”になります」と指摘する。同社の中山哲也代表取締役社長は「勘と思い込みは、時として致命的な失敗を犯す」や「MRO市場でユーザーに最大の利便性を提供する事が我々の使命。そのためには最強のITが必要」といったメッセージを発信し続けてきた。

代表取締役社長 中山哲也氏 トップメッセージ

20年前からの継続した取り組みが素地

ITによる改善、変革の取り組みも長い。トラスコ中山は工具の卸売を手掛けてきたが、2000年ごろまでは電話やファクシミリによってほとんどの受注あるいは見積りを処理していた。売上規模に比較して処理件数が多く、手作業だったためミスも発生した。人はミスを犯す。従来のまま業務が拡大していけば人海戦術では回らなくなることは明白だった。

そこで同社では、アナログ的なやり方を廃止するための取り組みをスタート。まずはOCR(文字認識)での受注を推進し、2002年ごろからはWeb受注を開始し、EDI(電子データ交換)を導入した。Web経由で顧客が数値を入力すれば、トラスコ側が間違いを犯すことはなくなる。「20年前からの地道な取り組みが、近年のDXやデジタル化の素地になっています」と数見氏は強調する。

こうした素地と企業風土の上で、DXが加速し始めたのは2017年ころからだ。この年の終わりには基幹系システムの再構築と情報分析基盤の刷新を決定した。

2020年1月に新基幹システム「パラダイス3」が稼働した。DXを進めるに当たっては、「自動化できる仕事は、システムですべて自動化!」をコンセプトとし、パラダイス 3などに集約される販売実績などのデータを起点に、工具版の置き薬サービスともいえる「MROストッカー」、AI見積「即答名人」、在庫管理システム「ザイコン3」、コミュニケーション用スマホアプリ「T-Rate」などを相次いで導入した。

置き薬の工具版サービス「MROストッカー」

MROストッカーによる「納期ゼロ」の実現、自動回答による見積り時間の短縮、リアルタイムでの在庫管理、チャットによる取引先とのコミュニケーション活性化などを通じて、同社が最重要視する「在庫ヒット率」の向上を進める。ここまでの歩みはいわば「DX1.0」(数見氏)。今後はシステムに蓄積された様々なデータを活用する「DX2.0」を進める。2024年には、その象徴ともいえるAIや最適化技術などを採用した「トラスコプラットフォーム」のリリースを目指す。同プラットフォームでは、AIによる需要予測による高度な在庫管理などを実現した次世代型物流センター、1000万点以上の商品データの収集や自動解析、顧客が簡単に欲しいものが選べる環境を構築し、「ベストなものが、もうそこにある」を実現させる。

情シスのミッション、期待される役割、目指す姿を規定

トラスコ中山は、DXの推進に向け、実働部隊でもあるIT部門の強化を推し進めている。「システムの保守が切れたらリプレイスやバージョンアップに対応する」という従来からの受け身な姿勢を変革し、情シスのメンバーが「何を目的とし、何を改革するのか」をゼロベースで考え、プロジェクトをリードする役割を担えるようにするのが目的だ。

2019年には「IT中期計画」を作成。情報システム部の「ミッション」「期待される役割」「目指す姿」を明確に規定した。例えば目指す姿では、従来のIT部門が“受け身”になりがちだったのに対し、テクノロジーのプロとしての視点で事業部門や業務部門をリードしていくとともに、外部の企業に対しても同じ立場のパートナーとして共創していくとしている。

指針を実現するために具体的な投資計画、組織計画、人材計画を策定。投資計画では「先着的IT投資への注力」を掲げ、維持費用・単純リプレイス費用の効率化による経年圧縮を目指した。ビジネスのカテゴリーを4つに分け、優先度に応じた打ち手を決めていくといった内容を盛り込んだ。

組織計画では「自社における担当範囲の明確化」を打ち出し、業務部門とのあるべき役割分担の姿を示すとともに、詳細に果たすべき業務を定義して見える化。人材計画では「IT人材育成・再配置」を進め、今後の情シスに求められるデジタル技術の目利き力、デジタル技術の提案力、システム運用設計力、プロジェクトマネジメント力を強化する。

IT中期計画の3つの柱

システム刷新ではなくリーダーたちによる未来構想

同社のDXについて数見氏は「システムプロジェクトではなく、業務改善プロジェクトとして進めることが重要でした」と説明する。基幹系システムの再構築に当たっては、情シスだけでなく商品部門や物流部門など次世代の経営を担う各部署のリーダーを中心にした「未来構想メンバー」を発足させ、外部のパートナー企業や経営層も交えた新ビジネス検討会などを開催した。

あえて「未来構想」と名付けたのは、単なるシステム刷新ではなく、未来の会社をどうしたいのか、というゴール、あるいは業務をどう改革したいのかについて考える場だと認識させるためだ。一人ひとりに自分事として参加してもらい、現場の思いや要望を引き出した。

狙いは当たったが、その要望は600件に及んだ。個別最適のものも多くすべてに応えるのは不可能だ。トップダウンで絞り込むこともできるが、それではDXに向けて情熱を高めはじめた現場に水を差す。時間はかかったが、未来構想のメンバーと膝を突き合わせて状況を知ってもらい、最終的に要望を10件にまで絞り込んだ。「100点でなく70点、80点でも大きな前進だと理解してもらうことで合意にこぎつけられました」(数見氏)。

「未来構想メンバー」を中心とした、新ビジネス検討会の様子

数見氏は、ここまでのDXを振り返りながら「“D”よりも“X”の方が重要です」と話す。自社の組織戦略を変革するという意味で「目線はDXよりもCX(コーポレート・トランスフォーメーション)に移っています」という。

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