ニューノーマル時代の協創のために 日立製作所が目指すDXの展望

株式会社日立製作所 ITプロダクツ統括本部 統括本部長 中野 俊夫氏 × インテル株式会社 代表取締役社長 鈴木 国正氏

日本を代表するモノづくり企業“だった”『日立製作所』。あえて過去形にしたのは、この10年に及ぶ事業構造改革で、製造業に加えITを活用したソリューションビジネスへの事業拡大と変革が進んでいるからだ。今や、日本を代表する製造業であり、DX(デジタルトランスフォーメーション)のリーディング企業といえるだろう。本稿では、日立製作所 ITプロダクツ統括本部 統括本部長の中野俊夫氏とインテル 代表取締役社長 鈴木国正氏の対談を通して、日本のDX、データ活用の課題や可能性を紐解いてゆく。

コロナ禍で実現したデータ活用による需要予測

株式会社日立製作所 ITプロダクツ統括本部 統括本部長 中野 俊夫氏

インテル 鈴木社長(以下、鈴木):コロナ禍は、多くの企業にとってこれまでの働き方や事業への取り組みを見直すきっかけともなりました。日立製作所様では、どのような対応を取られましたか。

日立製作所 中野統括本部長(以下、中野):4~6月に、出社率を3割に抑えて、在宅勤務率を7割まで高めました。これは、政府のガイドラインに沿った行動です。しかし、この判断が、自分たちの業務や開発に、どの程度の影響があるかは、正直、読み切れていなかった。自信を持てたのは、3カ月乗り切ってからです。ニューノーマルにおける新たな働き方を目指し、社内SNSやVDI(仮想デスクトップ基盤)などを活用しながら、開発プロセスの見直し、リモート会議の標準化、承認方法の変更など、それらのルールを作ることで、7月以降も在宅勤務を標準としながら、業務を効率化することができました。

鈴木:VDIに関しては、自社の知見を生かしたソリューション、「かんたんPrivate DaaS⽀援パック」の提供も始めたそうですね。

中野:はい。「かんたんPrivate DaaS⽀援パック」は、安定したテレワーク環境を支援するサービスです。お客様指定のデータセンターに弊社のサーバーを設置し、ユーザーごとに専⽤の仮想デスクトップ環境を提供、VDIシステムの構築や運⽤⽀援は⽇⽴側が行い、セキュアで安定したプライベート型のDaaS(Desktop as a Service/VDIの導入方式の1つ)環境を月額料金でご利用いただけます。元々、日立製作所では2004年からVDIを社内運用しており、グループ全体では10万台以上の実績を持っています。その運用実績を使って、2020年4月には、コロナ禍で課題を抱えているお客様に向けて、導入を容易とする支援パックを立ち上げました。

鈴木:日立製作所様は、日本を代表する製造業でもあります。ITインフラ事業の面では、どのような対策を取られたのでしょうか。

中野:普段は市場変動リスクと効率化のバランスを取って3カ月単位で製造〜納品のサイクルを回しているのですが、コロナ禍においては、サプライチェーンの寸断でお客様に納品ができなくなったり、逆にお客様の需要が減って在庫が過剰になるリスクがあります。より緻密で短いサイクルで、製造〜納品を行う必要性を感じました。そこで、最初の1カ月目に需要予測を行い、予想される3カ月の納品分を一気に発注・製造して出荷。お客様への品切れを未然に防ぐことができました。

鈴木:どのような方法で需要予測を行ったのですか。

中野:サプライチェーン全体に網をかけて得られたビッグデータから価値あるデータを抽出、セールスのパイプラインから過去の実績などを分析し、生産計画、出荷計画を立てました。その後、市場では需給や輸送の混乱もありましたが、弊社は在庫の過不足もなく、データ活用の良い事例になったと思います。

DcXなデータ活用で社会価値・環境価値・経済価値を高める

鈴木:日本企業のDXはコロナ禍で加速した部分もありますが、まだまだ課題を抱えていると思います。グローバル企業である日立製作所様でITプロダクツを統括する中野様の目から見て、どのような課題を感じますか。

中野:日立製作所が考えるDXには、お客様との「協創」が大事なのですが、その必要性が必ずしも経営層に届いていないといった課題を感じています。結果として、なかなか一気にDXを導入する大規模開発に進まない。日本企業はもう少し、世の中の流れに即して、スピーディーかつ多角的に転換できるといいのではないでしょうか。

鈴木:私も、コロナ禍が起きてなお、DXやデジタルデータの活用について経営者の意識があまり変わっていないと感じていました。

中野:DXを推進させるには、経営者の意識も変えていかなくてはいけない。そのためにどういった取り組みが必要なのか、私たちも常にトライし続けています。

鈴木:意識が変わらない中で特に気にかかるのが、「データデバイド」の問題です。デジタルが普及し膨大なデータが発生したことにより、DXの中でもいかにデータを使いこなせるかどうかで、企業間にデータ格差(デバイド)が生まれています。

データを利活用するには、その前提として質の高いデータを集め、均質に整える必要があります。これまでのやり方を変えるためリスクテイクする勇気も持たなくてはいけません。資本市場への説明も欠かせない。もちろん、セキュリティ問題も避けて通れない。そこを乗り越えられる企業と乗り越えられない企業とで、データデバイドが生まれる。

その格差を埋めるためにインテルでは、「DcX(データ・セントリック・トランスフォーメーション)」を提唱しています。ウェブやモバイル、IoTなどから急増する非構造化データを見据えて、DXの中でもよりデータのやりとりや分析・利活用を核にして攻めのビジネスを構築する必要性を啓発しているところです。

中野:私も多様なデータの利活用の必要性に着目するDcXの考え方には同意します。先程、サプライチェーン全体に網をかけて得られたビッグデータを分析して需要予測をした例を出しました。1次、2次、3次サプライヤーとつないでいくと、国境を跨いで、膨大な業種の企業が絡まり合っていることがよく分かります。ここから発生するデータを統合して精査すれば、需要予測だけに留まらない、人間活動を豊かにする様々なことができるはずです。しかし、実際にはデータは個々で管理されており、統合まで踏み込めているケースは少ない。そこに、データデバイドが起きていると感じています。

ただ、DXやデータ活用の最終目的は、ある特定の業務の効率化だけではありません。データを活用することで、弊社が掲げる3つの価値、社会価値、環境価値、経済価値を創造し、高めることだと考えております。それはつまり、人間の社会活動全般に対するイノベーション、より良い社会を作り出すことへの貢献に他なりません。

鈴木:おっしゃるようにDcXには単純ではない様々な作業や壁がありますが、データ活用のメリットが大きければ世の中が動く。先ほど触れさせて頂いたいくつかの課題を業界全体で乗り切ることができると信じています。よって、データの利活用を基本、前提にしていかないと、本当の意味でのDX、デジタルの変革というのは起きないと思います。

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