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高い専門性はもう不要!AI導入の敷居を劇的に下げる特効薬とは

既存事業や新規ビジネスを成功に導くために、今多くの企業がAIを活用したいと考えている。その一方AI開発は非常に専門性の高い領域で“スキルを持つエンジニアやGPU搭載マシンが無ければ、自社に取り入れることは難しい”と考えている企業も少なくない。しかし画期的なソリューションが登場し、AI導入の敷居は一気に下がりそうだ。経営層から“わが社もAI導入を”とプレッシャーをかけられているIT部門の担当者にとっては朗報だ。本稿では、インテル株式会社 執行役員常務 技術本部 本部長 土岐英秋氏とビジネスAIの分野で数々のソリューションを提供する株式会社シナモン 代表取締役の平野未来氏との対談を通して、AI開発に向き合う姿勢や留意ポイント、新たなテクノロジーの取り込み方などについて紹介する。

20年後には、より生産的な
働き方ができる世界を実現したい

土岐氏:始めにシナモン様は、非定型帳票対応のAI-OCR「Flax Scanner」や高精度の自然言語処理を実現した音声認識ソリューション「Rossa Voice」などを提供されていますが、これらはいわゆる“ビジネスAI”と呼ばれる領域のソリューションですね。

株式会社シナモン
代表取締役
平野 未来氏

平野氏:おっしゃる通りで、実はAIは大きく4つの領域に分かれています。

まずホワイトカラーの生産性向上を支援するビジネスAI、次にUberなどクローズドなインターネットサービスの中で使われるインターネットAI、また監視カメラや医療分野のレントゲン写真などで利用される認識系AI、そして自動車の自動運転やスマートスピーカーなどで利用される自律系AIです。

この中で私たちはビジネスAIの領域に特化して活動しています。

土岐氏:ビジネスAIの領域に御社が特化されているのは、どのような理由からでしょうか。

平野氏:まず私自身、非生産的な作業をするのが本当に嫌いで、以前の会社では、自分一人だけの作業を効率化する専用ソリューションをプログラミングして作っていたぐらいです。

元々そうした考え方がバックグラウンドとしてあり、さらに約3年前の出産を契機に、日本の長時間労働を何とか解決しなければならないと思うようになりました。自分の子供の世代が働き始めるようになる20年後には、より生産的な働き方ができる世界を実現しておかなければならない。今まで“自分が生産的に働きたい”という内向きだった思考が、社会的なミッションとして昇華されたと感じています。

インテル株式会社
執行役員常務 技術本部
本部長
⼟岐 英秋 氏

土岐氏:そうした平野様の思いが今の御社の活動の根本にあるということですね。

平野氏:その通りで、私たちの実際の企業活動を端的に言えば“非構造化データを理解できるAIソリューションを開発している”という表現になります。

現在の情報化社会の中で各社様は大量のデータを保有されていますが、そのうちの約8割が画像や音声、メール、PDFファイルなどの非構造化データだと言われています。今喫緊の課題となっているDXも、非構造化データのままでは実現することができません。そこでAIを活用して非構造化データから意味ある情報を自動抽出しようというのが私たちの取り組みです。

例えば、取引先から送られてくる請求書は、取引先ごとにフォーマットが違うので、これまでは人が1枚ずつ、記載されている項目や金額を確認してシステムに入力する必要がありました。

Flax Scannerは、こうした月次あるいは日次で発生する入力作業を大幅に効率化するソリューションで、フリーフォーマットの書類でも、その書類をスキャンするだけで記載されている情報をAIが自動判別してシステムに入力します。過去の文書の検索も非常に容易になり、事前に何かしらの設定作業をする必要もありません。

注力する研究開発分野は大きく3つで、順番にデジタル化、構造化、意味理解です。デジタル化はその名の通り、紙や音声などのアナログデータをデジタル化する領域、構造化は大量の自然言語から情報を収集する領域、意味理解は、入力として構造化データが与えられた時に何かしらの知見やレコメンデーションをアウトプットする領域です。各領域にはいくつかの要素技術があり、それらを掛け合わせてFlax ScannerやRossa Voiceも作られています。

土岐氏:そうしたAIソリューションの開発現場では一般的にGPUの利用に焦点が当たっているように見えますが、御社ではいかがでしょうか。

平野氏:私たちはAI開発におけるトレーニングの部分でGPUを多用しています。

土岐氏:AI開発のライフサイクルは、トレーニングデータを準備するところから始まり、次にトポロジを使用した実験やパラメータチューニングのフェーズ、そして推論のフェーズというように大きく3つの段階に分けることができますが、このうち現在、主にGPUパワーが利用されているのが2つめのフェーズ(図中オレンジ色の部分)です。御社はまさにこの領域でGPUを使われているということですね。

AI開発のライフサイクルは大きく3つの段階に分けることができる

平野氏:そういうことです。

土岐氏:実は今年インテルでは、これまでGPU中心にスポットライトが当たっていた AI開発の現場に、CPUやFPGA、AIアクセラレータも活用してAI開発のライフサイクルを最適化する画期的なソリューションをご提供する予定です。その概要については、このあと御社の開発現場のお話を伺いながら一緒にご紹介させていただきたいと思います。

AIの開発現場では“GPUを
有効活用できていない”現状がある

土岐氏:AI活用の有用性は既にいろいろな場面で認識されており、御社のようにAIを活用したソリューションを提供したいと考えている企業様も多いと思いますが、一方でAIは専門性の高い分野でもあります。これからAIソリューションを開発したいと考えている企業様が留意すべきポイントとしては、どのようなことが挙げられるでしょうか。

平野氏:我々もそうですが、やはりまずはユーザー企業様の中で大勢の人たちが行っている作業を自動化することを考えていくのが先決だと思います。

それというのも今、AIを魔法のように思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、実際にはまだ技術的にそこまでいっていなくて、ある程度、作り込んでいかなければ高い精度は出てきません。作り込んでいくということはつまり開発コストもかかるということです。

そのため、ある開発会社様が何かしらのAIソリューションを開発したとしても、それがユーザー企業様にとって投資に見合うものでなければ意味がない。例えば今2名でやっている作業ボリュームなら、そのまま人の手でやったほうがユーザー企業様はコストもかからないのです。

私たちのFlax Scannerも、年間何万枚といったボリュームの非定型帳票を入力するといった場面で大きな効果を発揮するものです。まず考えるべきは、大量の人がやっている作業を自動化していくという方向性ではないでしょうか。

土岐氏:まずは顧客企業の生産性の向上を目指すべき、ということですね。インテルでは、そうしたAIソリューションの開発に取り組む企業様の開発環境をより生産的なものにすることも、非常に重要だと考えています。

一般的に“AI開発用のプロセッサーはGPU”というイメージが強く、御社では機械学習やディープラーニング(DL)といったテクノロジーを利用されていますが、先にお伺いした通りトレーニングの部分でGPUを多用されています。実際の開発現場における課題としては、どのようなことを認識されていますか。

平野氏:実はGPUを有効活用できていないという現状があります。

少しテクノロジーに寄った話になりますが、GPUの内部にはメモリ部分、GPUコアの部分、CPUコアの部分があり、本来処理を担わせたいGPUコアではなく、CPUコアにタスクが流れて、GPUコアの稼働率は半分以下といった状況が発生しています。それがボトルネックになって複数メンバーで使えなくなったり、あるいはメモリ空間が限界に達して、それがボトルネックになってしまったりする状況があります。だからといって高価なGPUを次々に購入していくことはできません。

こうした問題は、エンジニアがタスクの処理をGPUやCPUに振り分けるプログラムを書くことで解決することはできますが、そのためには非常に高度なスキルが要求されます。数多くの開発プロジェクトが走っていて少しでも速くお客様にソリューションを届けなければならない中、そうしたスキルを身に着けていくことはなかなか困難です。

GPUパワーを効率的に活用するためには高い専門性が必要で、現状のままでは至難の技だというのが実情ですね。

AI開発の敷居を劇的に下げる
最新のインテルソリューション

土岐氏:今お話いただいた課題は、まさにAI開発に取り組まれている多くの企業様が感じられている問題で、AI開発の敷居を高くしている大きな要因だと言えます。

先に少しお話しましたが、インテルでは今、1つのソースコードから、GPU、CPU、FPGA、AIアクセラレーター(ASIC)というアーキテクチャが異なる4つのハードウエアごとに分散してワークロードを展開できる開発環境を作ろうとしています。私たちはこれを「One API」と名付けて、本年2020年にはリリースする予定です。また、AIでの学習・推論において大きなメモリ空間が要求されるようになってきていますが、インテルのCPU/GPU/AIアクセラレーターにおいて1つのメモリ空間として取り扱える仕様も今後出てきます。メモリのボトルネックも大幅に解消することができます。

平野氏:それは例えば、CPUとAIアクセラレーターだけでAI開発を行うといったことも可能になるということですか。

土岐氏:おっしゃる通りで、 “コストが高くて専門性も求められるGPUはちょっと手に負えない”と考えられている企業様、あるいは経営層の方から“わが社もAI導入を”とプレッシャーをかけられているIT部門の皆様でも、そうしたGPUの制約に囚われることなく、例えばCPUを核にしたAI開発に取り組むことができるということです。

平野氏:そんな世界が実現されれば、AI開発の敷居は一気に下がりますね。今後CPUやAIアクセラレーターがより進化していけば、既存のソースコードを再利用することも非常に楽になります。

土岐氏:この「One API」はデータセンターのサーバー環境で利用していただくものですが、インテルではこの「One API」の世界をエッジ側のコンピュータ環境でも実現可能にした「OpenVINO ツールキット」(Open Visual Inference&Neural network Optimization)は既にご利用いただけます。

また現在シナモン様では、AI開発におけるトレーニングの部分でGPUを多用されているとのことですが、インテルでは近い将来、GPU製品も提供を開始する予定で、トレーニングの後には推論のフェーズがあり、ここではデータを解析した結果を獲得します。この部分の処理で非常に強力なコンピューティングパワーを提供するのが、インテルの第2世代インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーです。

つまりインテルの新たな開発環境や第2世代インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサー、今後リリース予定のGPUを活用していただくことでAI開発の敷居は劇的に下がり、GPU・CPU・FPGA・AIアクセラレーターの効率的な使い分けも可能になることで開発コストも大幅に低減することができるというわけです。

平野氏:そうした世界が実現されれば、AI開発のスピードも飛躍的に速くなり、リリースされるAIソリューションの数も大幅に増えそうですね。楽しみにしています。

今後は“ナレッジ・アンマネジメントの世界”を
作り上げていきたい

土岐氏:では最後に、これから御社が提供したいと考えられている具体的なソリューションや世界がありましたら、是非お聞かせいただけますでしょうか。

平野氏:例えば今私たちが、ある証券会社様のプロジェクトで実現しようと考えているのが、営業担当者様の通話内容をAIでリアルタイムにモニタリングして“アクショナブルなインサイト”を提供することです。

第一ステップとしては、通話内容を音声認識してテキスト化し、その内容を、雑談やマーケットの説明、自社サービスの提案、契約手続きの説明といった内容に分類します。

そして次のステップで、可視化した通話内容を成績のいい営業担当者様とそうでない人に分けてAIに学習させ、差分を抽出します。

この学習モデルを今まさに行われている通話に適用して、営業担当者様のPC画面に“そろそろ自社サービスの説明をしてください”というようなメッセージを表示するのです。

土岐氏:それは“ビジネスAIで売上の向上を実現する”という生産性向上の次のステップですね。

平野氏:その通りです。また私たちは現在2030年ビジョンというものを策定して“ナレッジ・アンマネジメントの世界”を作り出していきたいと考えています。

例えば今チャットツールを使っている企業様も多いと思いますが、それはコミュニケーションをするために使っているだけで、ナレッジをマネジメントしようと思ってやり取りしているわけではありません。

でも過去の履歴を眺めて見れば、そこに今有用となるナレッジが蓄積されていることが多々あります。こうしたチャットの履歴や営業会議の録音データ、あるいはお客様とのメールのやり取りなどのデータを有機的に結び付けてAIを適用することで、様々な知見を自動的に獲得できる世界を実現したいのです。

あるいはSFAツールなども営業担当者様がいろんなデータを入力しなければ使い物になりませんが、その作業は人にとっては非常に面倒です。いわば人間がITツールに合わせるという世界ですが、私たちはITツールのほうが人間に合わせるべきだと考えています。それが私たちの目指すナレッジ・アンマネジメントの世界です。

ただそうした世界では膨大な量のデータ処理が必要となり、今後5Gの環境が普及すれば、そのデータ増加のスピードも今とは比べ物にならないほど速くなるでしょう。

今日お話を伺った「One API」や「OpenVINO ツールキット」、そして第2世代インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーや今リリース予定のGPU製品を活用することで、AI開発の敷居や開発コストを劇的に下げられることが分かりました。インテル様には、これからも画期的なソリューションを提供し続けてくれることを強く期待しています。

土岐氏:ご期待に沿えるよう鋭意努力していきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。