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デジタルシフト突破の鍵は、
明確な「ビジョン」と「行動」にあり日本郵便のDX実現に向けたインフラ構造改革

現在人々の生活や企業活動の隅々にまで浸透しているデジタル化。こうした環境下の企業には、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進して社会に貢献することが、自社の成長と存続を担保するための必須要件となっている。本稿では、インテル株式会社 代表取締役社長 鈴木国正氏と、DXに取り組む日本郵便株式会社の専務執行役員 CIOの鈴木義伯氏との対談を通して、インテルが日本企業のDX推進にもたらす価値、そして日本郵便が推進するインフラ構造改革の事例とDXへの取り組みにおける留意ポイントについて紹介する。

レガシーな組織こそ
“DX”で拓ける未来は明るい

インテル株式会社 代表取締役社長
鈴木 国正氏

1984年にソニーに入社、VAIOやXperiaの開発に従事し、PlayStationを開発・販売するソニー・インタラクティブエンタテインメントの代表取締役副社長、モバイル事業を展開するソニーモバイルコミュニケーションズの代表取締役社長を歴任。2018年11月より現職。

インテル鈴木社長(以下鈴木(国)):2018年9月、経済産業省は『DXレポート』で“2025年の崖”という考え方を示しました。既存システムが抱える数々の課題を克服できなければ、DXが実現できないだけでなく、2025年以降、年間で現在の約3倍に相当する最大12兆円の経済損失が生じる可能性があるとするものです。

この背景にあるのが、データを活用している企業とそうでない企業の格差が大きく開いてきているという現実です。今後日本全体が成長していくためには、この顕著な“データデバイド”をいかに解消していくかを真剣に考える必要があると思います。

日本郵便鈴木専務(以下鈴木(義)):おっしゃる通りですね。私はまず、企業が変革を起こすには、先鞭をつける企業がいないと進んでいかないと思います。ITの重要性、必要性を認識していながらも、ITに関する組織の地位及びIT組織の体力・ノウハウがないため自社だけで現状を打破していくのは難しい。

我々は幸いにして、2023年に新しいシステムを動かすつもりでいますが、その際、世の中に向けて我々の情報はオープンにするようにしていきたいと考えています。企業同士のコミュニケーションが円滑になり、オープンに話せる場があるといいなと真剣に思うからです。

日本郵便株式会社 専務執行役員 CIO
鈴木 義伯氏

日本電信電話(当時)に入社、システムに携わりIT関連業務に従事。その後NTTデータで地方銀行など勘定系システムの開発も経験し、2006年2月に東京証券取引所のCIOに就任。2017年4月より現職。

鈴木(国):インテルといえば、世界的半導体プロバイダーということを思い浮かべる方がほとんどだと思いますが、さまざまな産業のユーザー企業様とともに、それぞれの課題に合わせたソフトウエア開発・ソリューション提供も行っています。そのような場に我々が持つユニークネスも新しいかたちで生かしていきたいと思っています。

今世の中のDXの活動は“データそのものの活用を中心に据えて、さまざまな付加価値を創出していくこと”に他なりません。DXの中でも特にデータを中心に据え、そこから付加価値とビジネスを生み出すことをしていかないと、“データデバイド”の問題は乗り越えることができないと思います。

その観点からインテルではDXではなく“データセントリックトランスフォーメーション(以下DcX)”という言葉を使っています。これからは膨大な量のデータを有効に活用し、ビジネスの成長につなげなければならないと考えており、実際にさまざまな産業のユーザー企業様からもDcXにまつわる悩み・相談をいただくことが増えています。今後、データをいかにして真のビジネス価値に転換していくか。今回の対談の中ではこの“DcX”という言葉をキーワードにお話を進めていければと思います。

仮説思考で将来像を描き
DcXを推進する

鈴木(国):今回日本郵便の鈴木様をお招きしたのは、日本企業が共通して持つ課題にいち早く取り組まれてきた先駆的企業としての事例を通じて、データ活用時代を乗り越えていくためのヒントを多くのユーザー企業様にお伝えしたいと考えたからにほかなりません。特に御社は非正規社員を含む事業従業員数が約40万人という巨大な組織で、DcXの実現によって得られる効果も非常に大きいと思います。本日は今後日本の産業全体が向き合わなければならないこと、あるいは御社の具体的取り組みについてお話しいただければと思います。

鈴木(義):我々のシステムの在り方も今の時代だからこそ変化が求められています。たとえば、郵便や荷物の宛先に書かれている住所の情報を全てデータ化すること。これによって配達先の郵便局では、1日前には、当日到着する郵便や荷物がどれぐらいの量になるかを把握することができ、その数に応じて事前に配達する人員を手配するといった対応を取ることが可能になります。

もちろん宛先は個人情報に相当するので厳格に管理をしますが、そういうところまでデジタル化することで、業務効率は格段にアップします。日本郵便では近い将来必ず起こる状況を見据え、まず2023年にあるべきDXの姿に向けた、新しいシステムをリリースするプロジェクトを進めています。

鈴木(国):改めて現在御社で取り組まれているプロジェクトの概要について、ご紹介いただけますか。

鈴木(義):現在日本では、毎年3~5%の割合で郵便物がどんどん減っているのに対し、取り扱う荷物の量は10年で約1.5倍になるというトレンドの中にあります。こうした激しい環境変化の中で来年のことだけを考えていても事業は成り立ちません。

そこでまず長期的な視野に立って、2030年のビジネス環境を想定したビジネスモデルを描きました。その時の業務量をビジネス側の要求を仮説として設定し、その際に求められるシステム要求を見据えた上で今、2023年時点でのIT要件をまとめてインフラ環境の刷新に取り組んでいます。我々はこの2030年までの取り組みを“PDX(=Postal Digital Transformation)”と位置付けています。

鈴木(国):今はそのPDX実現に向けた第一段階にいるということですね。

鈴木(義):我々が目指しているのはまさに御社のいうDcXですが、これを実現するためには、何よりもまず環境変化に柔軟に対応できるシステムインフラが必要不可欠です。この土台づくりを今、一所懸命やっているという状況ですね。ちなみに2023年に完成を目指すシステムインフラの更新プロジェクトは、全体で3つのフェーズに分けて進めています。現在、第一フェーズとして共通基盤と共通マスタの開発を先行して実施中です。

鈴木(国):まずは仮説思考でPDXという将来像を描き、それを実現するためのプロセスまでを詰め、社内で合意を取った上で投資を開始されたということですね。

鈴木(義):その通りで、長期的な視野に立ったDXを実現するために、“ 今年はこんな投資をするんだ”という構想を練る必要があります。

これからPDXを推進していくためには、というよりも将来に向けて日本郵便の新たな価値を世の中に提供していくためには、まずIT部門のポジションを上げ、存在感を高めることです。業務部門と対等な関係でビジネスを支えることができる力をIT部門が持つことが重要だと考えています。

鈴木(国):最近の米国ではCIOの役割の中にCSO(Chief Strategy Officer)やCDO(Chief Digital Officer)の要素まで含まれるようになってきています。CIOには企業戦略やデジタル活用を考えることまで求められるようになっているということで、CIOの方がIT=情報インフラとしか考えていなければ、往々にしてベンダーロックインのような状態に陥りがちです。

あまり言い過ぎたくはないのですが、残念ながら今多くの日本企業様が、そういう状況にあると私は見ています。その殻を破ることができない限り、日本全体でDcXに舵を切っていくことは難しいと思います。

鈴木(義):これからシステムインフラに求められる要件は大きく様変わりしていきます。我々ももちろんのことながら、日本企業全体としてシステムの在り方に変化が求められている時代だと思うのです。急激な事業変化やデジタル化に耐え得る構造を持つシステムインフラは、その基礎となるもので、今こそ手を打たなければならないと感じています。

ユーザー企業同士が手を取り合い
新たな価値を創造していく

鈴木(国):御社は鈴木様の主導でPDXを推進されていますが、一方でまだDXに着手できていない企業様が多いという現実があります。ユーザー企業としてのお立場から、この日本全体の課題をどのように解決していけばいいとお考えでしょうか。

鈴木(義):各企業様にはいろんな事情があると思いますが、基本的にはITの重要性や必要性は認識されていると思います。しかし社内におけるIT部門のポジションが弱かったり、人員が不足していたり、あるいはITスキルが低かったりするとシステムインフラのお守りだけで手一杯になってしまい、ベンダーロックインのような状況を招いてしまうことになる。これでは到底DXを推し進めることはできません。

私はまずユーザー企業同士が手を取り合い、知恵を出し合って、DXの実現に向けて取り組んでいくことが重要だと考えています。そのためにも自分たちの悩みや解決のためのアイデアをオープンに話し合うことのできる場が必要だと真剣に思っています。

現在刷新プロジェクトの真っただ中にあるシステムインフラには、最新の第2世代インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーを搭載したサーバーを採用していますが、インテルは高品質な半導体のプロバイダーというだけでなく、DcXを推進する企業様同士をマッチングする役割としても機能されているそうですね。

鈴木(国):はい、インテルの持つユニークネスを生かして、産業間・企業間のマッチングを支援し、連携を促進する部分でも貢献していきたいと考えています。一方で鈴木様には昨年12月に開催した「INTEL ENTERPRISE LEADERSHIPSUMMIT 2019」でご登壇いただき、現在のPDXへの取り組み、また現在稼働中のシステムの維持・保守改革についてご紹介いただきました。

CIOとして先進的な取り組みをされている鈴木様に“インフルエンサー”となっていただくことで、我々はより多くの日企業様にDcXの重要性や、DcXの取り組みへの緊急性をお伝えすることができると考えています。

鈴木(義):昨年インテルのサミットではPDXについてと現在稼働中のシステムの維持・保守改革についてもお話しさせていただきました。DXを推進していくためには相当な努力が必要ですが、DXを実現しなければ自社の存続も未来も担保することはできない。なので我々は維持・保守という面でもサービスレベルの見直し、第三者保守の実施、そしてフィールドエンジニアの配置による第三者保守の強化などを進めています。

鈴木(国):御社のような先進的なユーザー企業様とインテルとの“相互補完”の関係がより強固になれば、他の日本企業様にもDcX実現のためのさまざまなヒントや解決策をご提示することができる。それが“2025年の崖”を乗り越えるきっかけとなり、日本の産業全体の成長にもつながっていくと思います。

鈴木(義):今こそ変化が必要だと思うのですが、なかなか変化することが難しい。これが今の日本企業の抱える一番根深い問題だと認識しています。実は講演させていただいた後、皆さまもよくご存じの超大手企業様と直接お話しして、改めて情報交換する場を設けることになりました。お互いにどんな取り組みをしているのか、同じユーザー企業の立場で情報を交換するための場です。

今後そうした企業様とどんな関係を築くことができるかはその場でのお話次第にはなりますが、こうした機会を設けることができたのは、何よりもインテルの存在があったからこそだといえます。

鈴木(国):恐れ入ります。我々自身も“DcXソリューションのハブ”という役割にはとても大きな意義を感じています。また今後も日本郵便様のPDXへの取り組みは引き続き、注視させていただきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。