データ活用が次世代の進化の鍵となる 楽天が見据えるデータ中心の業務構築

楽天株式会社 副社長執行役員 CIO兼CISO 平井 康文氏 × インテル株式会社 代表取締役社長 鈴木 国正氏

デジタルネイティブであり、創業当初からITを活用することで成長を続けてきた楽天。副社長執行役員 CIO兼CISOの平井康文氏は「世の中でいわれるDX(デジタルトランスフォーメーション)=楽天のあり様」とまで述べる。その取り組みを紐解けば、日本企業がDXへと舵を切るヒントが見つかるはずだ。本稿では、楽天の平井康文氏とインテル 代表取締役社長 鈴木国正氏が対談。サービスとメーカー、それぞれの視点から、DXへの取り組みや課題、見据える未来について語ってもらった。

今回のコロナ禍で「2025年の崖」が早まる

楽天株式会社 副社長執行役員 CIO兼CISO 平井 康文氏

インテル 鈴木社長(以下、鈴木):コロナ禍は、現在の日本に足りないものを浮き彫りにする気づきになりました。平井副社長は、今回のコロナ禍で社会がどのように変わるとお考えでしょうか。

楽天 平井副社長(以下、平井):コロナ禍は、予想だにしなかった事態。これをきっかけに、日本が直面する課題が前倒しになるのではないでしょうか。「2025年の崖」もその一つです。

鈴木:2018年に経済産業省が発表したDXレポートですね。老朽化・複雑化・ブラックボックス化したレガシーシステムが刷新されないと、2025年までに最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性があると指摘されています。

平井:コロナ禍では、テレワークを始めとしてデジタルシフトの重要性が注目されました。「2025年の崖」は、より早く訪れるかもしれません。

鈴木:楽天様は、DXによって成長を重ねてきました。コロナ禍においては、どのような施策を打たれましたか。

平井:いかに、安全・安心で働きやすい環境を社員に提供できるか。それが大きな課題となりました。ビデオ会議、ファイル共有ツール、メッセージングアプリはもちろん、VPN(仮想プライベートネットワーク)、VDI(仮想デスクトップ基盤)、エンドポイントセキュリティ対策など多数活用していました。ツールとインフラが整っていたことで、金融事業を除き約97%の在宅勤務を実現しています。

鈴木:多くの企業では、在宅勤務で生産性が落ちたという話も耳にします。楽天様ではいかがでしたか。

平井:オペレーショナルな生産性は格段に飛躍しました。ただ、イノベーションの生産性には、まだ課題があります。在宅勤務のように、各社員が分散された場所で働く環境の中でも、俊敏に動ける仕組みを作ることも視野に入れなくてはいけません。また、分散された環境でどれだけ社員のエンゲージメントを高められるのかも課題の一つです。

鈴木:特に新規案件の場合、顔を見合わせてお互いの信頼を高めながら進めるケースも多い。コロナ禍以前は、エレベーターを待っている時などに、社員と立ち話をして進捗を確認したり、方向性のヒントを与えたりしていました。

平井:僕も以前は、よく社員と飲みに行きましたね。何気ない会話からビジネスのアイデアやイノベーションの種が生まれていました。現状の在宅勤務ではそこが難しい。この解決が次のテーマです。インターネット上の仮想オフィスにアバターで出社して、どの会議室に誰がいるのかが分かるといったツールなども出てきているので、活用すれば面白いことができるはずです。

DXが目指すべきはユーザー体験の最適化

インテル株式会社 代表取締役社長 鈴木 国正氏

鈴木:デジタルネイティブな楽天様は、在宅勤務においても自然にDXの推進に成功しました。一方で、DXが上手く進んでいない企業も多い。この現状をどのように考えますか。

平井:DXの本質を理解していない会社が多い。そんなに難しく考えることはありません。分数の分母(経営の効率化)と分子(事業による利益創出)に例えると分かりやすい。これまで行ってきた、ERP(統合基幹業務システム)やCRM (顧客管理)の導入、経営管理、業務システムの向上などは、分母を小さくして経営の効率化や最適化を目指し、解の数字を大きくするアプローチ。一方、DXはITの活⽤で新しい事業モデルを生み出し、分⼦を最⼤化することで、解の数字を⼤きくするアプローチであるべきです。その際、DXの目的をしっかりと見極めることが大切です。

目指すのは、自社や取引先の効率化ではなく、DXとはビジネスアーキテクチャーとテクノロジーアーキテクチャーの新しい融合点から、新しいビジネスモデルを創造することだと思っています。

鈴木:DXは経費削減やプロセスの改革がお題目になってしまうことが多い。これは、昔からある課題を単にデジタルで解決するだけです。もちろんそれも重要ですが、楽天様はエンドユーザーへのメッセージまで考えていることが素晴らしい。エンドユーザーのニーズを理解して寄り添うDXには、データの活用が必須になります。

インテルではその考えを、データ活用を中心に据えたデジタル変革「DcX(データ・セントリック・トランスフォーメーション)」として提唱しています。多くの企業は、DXとDcXの区別が付かないまま社内のデジタル変革を進めようとしているのではないでしょうか。

平井:確かに、DXという新しいようで使い古された言葉より、個人的にはDcXに共感します。私が統括しているテクノロジーディビジョンが目指しているのは「Data Centric Membership」。これからは、DcXに習ってDcM戦略と呼ばせてもらおうかな。

鈴木:是非(笑)。その「Data Centric Membership」について、詳しく教えていただけますか。

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