新たに生まれたテクノロジーの架け橋
沖縄県が挑むアジアへの飛翔

 日本におけるアジア諸国への玄関口として、さらなる存在感を増す沖縄県。地の利を活かし、IT産業の活性化に力を入れているのは周知のとおりだ。2018年夏、そんな沖縄県に“情報通信関連産業のスマートハブ”として沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)が誕生。ISCOが目指すビジョンを聞くとともに、テストベッド事業に参加した沖縄発の3社に取材し、沖縄が持つ場の魅力とIT事業のポテンシャルを探った。

新たに生まれたテクノロジーの架け橋
沖縄県が挑むアジアへの飛翔

 日本におけるアジア諸国への玄関口として、さらなる存在感を増す沖縄県。地の利を活かし、IT産業の活性化に力を入れているのは周知のとおりだ。2018年夏、そんな沖縄県に“情報通信関連産業のスマートハブ”として沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)が誕生。ISCOが目指すビジョンを聞くとともに、テストベッド事業に参加した沖縄発の3社に取材し、沖縄が持つ場の魅力とIT事業のポテンシャルを探った。

ISCO
目指すは沖縄県の新規事業開発室

 沖縄県は「アジアと日本を結ぶITビジネス拠点」として、継続的にIT産業の誘致を行っている。2018年1月現在、情報通信関連企業454社が拠点を設立し、過去20年でおよそ13倍の増加を記録した。

 それを支えるITインフラも強力に整備されている。首都圏-沖縄-アジア(香港、シンガポール)を結ぶ国際海底ケーブル「沖縄国際情報通信ネットワーク」、県内主要4拠点のデータセンターを結び、トラブル発生時には素早い冗長化を行う「沖縄クラウドネットワーク」、公設民営型のクラウド拠点「沖縄情報通信センター」など、官民がシームレスに連携しているのが特徴だ。

 加えて日本唯一の経済特区である特色を活かした高率の法人税の所得控除をはじめとする税制上の優遇措置、積極的なスタートアップや人材育成支援など、企業にとって“優しい”環境であることも大きい。2009年にはうるま市に情報通信産業を集積した「沖縄IT津梁(しんりょう)パーク」が設立され、県内の新規雇用創出に向けて現在も規模を拡大している。

 こうした中、2018年7月に沖縄ITイノベーション戦略センターが本格始動した。英名の頭文字を取って通称ISCOと呼ばれる同センターは、2015年9月に策定された沖縄県アジア経済戦略構想に基づき、「沖縄県を国際情報通信産業のスマートハブにする」との目的から官民共同で設立されたもの。これまで培ってきたITのノウハウを各産業分野へ応用し、実証事業のテストベッド、ITビジネスマッチングなどを通じて、沖縄から次代を動かす新しいビジネスを生み出そうとしている。

沖縄県では豊富なITインフラが整備されている(提供:沖縄県)

ISCOが目指すビジョン

 ISCO専務理事の永井義人氏は「従来のような特定業界の支援団体ではなく、テクノロジーであらゆる産業の振興を支援する、極めて新しいコンセプト」と、その狙いを語る。テクノロジーの内容は “沖縄らしさ”の醸成に注力した。重点分野はAI・IoT、サイバーセキュリティ、ツーリズムテック、フィンテック、ロボティクス、シェアリング・エコノミー、データドリブン・エコノミーの7つ。どれもが沖縄県の特色産業である観光業、物流業、製造業、農業、金融業と紐付き、可能性を拡張させる技術・サービスばかりだ。

ISCO専務理事の永井氏(左)。右は今回の取材にインタビュアーとして同行したモデルのスズキサエさん

 ISCOの出捐(しゅつえん)者は、沖縄県、那覇市といった自治体を筆頭に、金融機関・エネルギーなどの地元中核企業、さらに全国規模の通信事業者、SIerまで多岐にわたる。さらに、各企業がISCOに人材を派遣しているのも特色の1つだ。永井氏は「地元にとどまらず、日本を代表する企業が集結している。つまり、優秀なビジネスプロデューサーがISCOに在籍しているということ。その点も大きな強みだ」と胸を張る。

 活動を始めてまだ数カ月だが、マッチングイベントやセミナーをどんどん開き、これまでになかった人的交流が生まれつつある。中でもフューチャーセッションと名付けた社会課題解決を話し合うワークショップには、業界を超えたさまざまな人たちが参加。「観光×IT」「農業×IT」「働きたい、働ける、働きやすい沖縄」といったテーマで意見交換やディスカッションなどを行ってきた。「農家、ITエンジニア、デザイナー、自治体職員など、当事者・関係者に閉じない参加メンバーが集っている。何度も議論を重ねるうちに取り組むべき主題、解決策が浮かび上がってきている」(永井氏)。

アジアが至近、グローバルで勝負したいならぜひ沖縄に来るべき

 永井氏は官民一体の支援体制や経済特区もさることながら沖縄県ならではのメリットとして、「アジアの近さ」を挙げる。

 「台湾や香港、中国には東京に行くよりも距離が近く、コストと時間の削減ができる。昔のビジネスは内需が基本だったので東京を向いていたが、これからアジアを主戦場と考えるとこの近さは圧倒的なアドバンテージになる。インフラも十分に整っている。グローバルでビジネスを展開したい人たちはぜひ沖縄に来たほうがいい」(永井氏)

 アジアとのビジネス、そしてさらなるIT産業の活性化によってISCOが目標とするのは“テクノロジーのハブ”である。地の利を活かし、沖縄県を舞台に最新技術やスタートアップを紹介できるようになれば、わざわざアジア諸国から東京に飛ばずに済む。次ページから紹介するさまざまなテストベッドをサポートしているのも、いち早い社会実装のショーケースとして沖縄を印象づけたいとの思いからだ。そして永井氏は、ISCOが目指す未来について次のように話してくれた。

 「沖縄県は中小企業が多く、投資が必要な新規事業まで手が回らないのが現状だが、どの企業も現場の課題に気づいており、解決に向けたアイデアを持っている。ISCOならそうした企業と一緒にアイデアを具現化し、資金提供先を探して新しい事業を開花させるサポートができる。我々は沖縄県全体の新規事業開発室になりたい」

 長期的なビジョンを掲げてIT立国の確立に邁進する沖縄県。その新たなフロントランナーとして走り始めたISCOは、沖縄のこれからを変える原動力となる。

永井氏自身が移住者。移り住んできたからこそ、その魅力を肌で感じている

那覇市IT創造館にあるISCOのオフィス。日本中から“優秀なビジネスプロデューサー”が集う