新たに生まれたテクノロジーの架け橋
沖縄県が挑むアジアへの飛翔

 日本におけるアジア諸国への玄関口として、さらなる存在感を増す沖縄県。地の利を活かし、IT産業の活性化に力を入れているのは周知のとおりだ。2018年夏、そんな沖縄県に“情報通信関連産業のスマートハブ”として沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)が誕生。ISCOが目指すビジョンを聞くとともに、テストベッド事業に参加した沖縄発の3社に取材し、沖縄が持つ場の魅力とIT事業のポテンシャルを探った。

新たに生まれたテクノロジーの架け橋
沖縄県が挑むアジアへの飛翔

 日本におけるアジア諸国への玄関口として、さらなる存在感を増す沖縄県。地の利を活かし、IT産業の活性化に力を入れているのは周知のとおりだ。2018年夏、そんな沖縄県に“情報通信関連産業のスマートハブ”として沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)が誕生。ISCOが目指すビジョンを聞くとともに、テストベッド事業に参加した沖縄発の3社に取材し、沖縄が持つ場の魅力とIT事業のポテンシャルを探った。

okicom×NTTドコモ
ドローンで果樹園改革を

 沖縄県宜野湾市に本社を置くokicomは、1980年に創業した老舗の県内IT企業だ。okicomはNTTドコモと共同で「スマート農業推進コンソーシアム」を組み、ドローンやITを活用した果樹栽培の効率化・高度化支援に挑んでいる。

 okicom 取締役 新規事業企画部 部長(海外担当)の小渡晋治氏は「当社の社是は“おもしろいことへのチャレンジ”。今後の新しいビジネスの柱として2016年からドローンビジネスを始めた」と話す。テストベッドのテーマに農業を選んだのは、農家の高齢化と後継者不足、栽培ノウハウの属人性、果樹の状況把握が困難といった課題が山積していたからだ。「ドローンやIT機器によって、この課題を少しでも緩和できるのではないかとの思いからスタートした」(小渡氏)。

大宜味村のタンカン畑で行われているドローンの実証実験

 実証は県北部・大宜味村にあるタンカン畑を中心に行われている。タンカンの色や大きさ、糖度などの生育状態を記録し、ドローン画像との相関を分析することで、ベテラン農家の経験と勘を数値化。あわせて栽培状況や病害虫、鳥害発生状況などを監視する。ドローンや農園に設置したセンサーから集めたデータはクラウド上で解析し、スマートフォンやパソコンで結果を閲覧できる。これにより生産性と収益性向上のほか、農家の体力的な負担軽減を図る。

 NTTドコモは沖縄の事業振興を進める観点から協力した。実証ではこの先、ドローンの運行自動化を見据えており、実現に向けてNTTドコモのアセットや技術を提供する。もともと沖縄県内における5Gのパートナー企業を探す中で両者は出会った。同社 法人ビジネス本部 沖縄振興推進室 担当部長の田場洋哉氏は「沖縄県が抱える課題は現地で解決したほうがいい。そこから沖縄の新たなマーケットが生まれるはず。そのお手伝いをしたい」と語る。

 じつは小渡氏、田場氏ともに東京から沖縄に戻ってきた共通点がある。2人に沖縄で働くメリットを尋ねると、「アジアに近い立地、しっかりとした行政のサポート、人件費の安さといった利点がある」(小渡氏)、「人と人とのつながりが非常に強い。一度信頼関係を築くことができれば、一生の仕事ができる場所」との答えが返ってきた。

 小渡氏はISCOについて「ITの切り口で各関係者に横串を刺し、沖縄県を牽引してくれる機関。いち民間企業だけではできない出会いや動きをサポートしてくれるのでやりやすい」と期待を込める。東南アジア諸国は沖縄と気候が近く、実証が成功すればアジア各国の農林水産業への横展開も見えてくる。今回のテストベッドは将来的にアジア圏の企業との協業を進めたいokicomにとって、またとない機会になったようだ。

実証実験の狙いについて話すokicomの小渡氏(中央)、NTTドコモの田場氏(右)

東京から沖縄に戻ってきた2人。外を経験したからこそ、沖縄の魅力を再発見した

プラズマ×琉球飼料
豚の出荷を見極めるIoT

 沖縄県糸満市のプラズマは2018年6月に登記したばかりの生まれたての企業。同社の取り組みはIoTとクラウドAIを用いた豚肥育管理システムの構築で、沖縄県浦添市の琉球飼料がパートナーとなり「プラズマ琉球飼料コンソーシアム」として実証事業を行っている。

 プラズマ代表取締役社長の飯塚 悟氏は元公務員で、畜産業が抱える構造的な課題を何とか解決したいとの気持ちから起業に至った。「日本は第一次産業従事者に対するリスペクトが不足しており、高齢化や先行きの不安から廃業が増えている。経験や勘に頼るばかりで、ノウハウ継承が難しい面も大きい。とにかく現場で困っている人たちが少しでも楽になるサポートや技術を提供していく。それが我々のミッションだ」(飯塚氏)。

豚舎に備え付けたカメラ

 そこで豚の肥育に特化したITシステムを考えた。ブランド豚として知られる「アグー」に代表されるように沖縄県民にとって豚肉はソウルフードであり、需要は膨大だ。しかし2000頭を超える大規模な豚舎も多い中、出荷時期に適した豚の体重を見極める作業はこれまで人力で行われており、「出荷時期が現場任せで、いつどのぐらいの量を出荷できるかが何となくしか分からなかった」(飯塚氏)。

 プラズマが提供するソリューションは、豚舎内に定点カメラを設置して画像解析とAI(機械学習)によって豚の体重を推量し、スマートフォンやパソコンなどのWebアプリで出荷に適した生育状況を閲覧するものだ。ベテラン畜産農家は豚の厚みによって大まかな出荷時期の見当をつけている。その話をヒントに画像解析による推量を思いついたという。初期段階である現在はAI解析精度向上のため、豚をIoT体重計で実測して体重データを蓄積。その実データと画像解析結果を学習させ、推量精度を高めている。

 このソリューションが実現すれば、経営者、管理者がリアルタイムに豚舎の状況を把握して、デイリーの棚卸しや細かい出荷計画が立てられるようになる。さらに飯塚氏は、「このシステムによって現場の人たちに一切煩わしさを与えない」ことを肝に銘じている。そのためスタッフには東京から移住してきたエンジニアの小川智史氏を迎え、現場の高齢者でも簡単に理解できるユーザーインタフェースを心がける。

 小川氏は沖縄の魅力を「IT系のつながりが予想以上に多く、どんどん案件に関わっていくこともできるため、東京とのギャップはさほど感じない。何より、現場の課題に近い人と接することで新しいビジネスのきっかけを得やすい」と語る。また、ISCOについて飯塚氏は「民間企業の予算とビジネスパーソンがいて、この島に新たな価値をもたらすことをビジョンとして掲げている。画期的な組織だと思う」と評価する。

 この事業は実ビジネスでの展開を視野に入れたもので、実証では数値的なエビデンスを積み重ねて、営業や販促の説得材料にしていきたい構えだ。飯塚氏は「このソリューションで助かる人がいるなら、それを成功させて各地に拡散させたい」と将来の展望を話してくれた。沖縄県から生まれた課題解決法が世界に広がる――これもまた、時空を超えたITならではの効果と言えるだろう。

豚肥育の課題解決をテーマに選んだ飯塚氏(左)、東京から移住して開発に携わる小川氏(中央)

「スピード感を持って開発できるのはスタッフのおかげ」と話す飯塚氏。揺るぎない意思と技術力で理想の実現に向かって突き進む

マギー
IoT端末で消費者マーケティング

 沖縄県那覇市のマギーは、ビッグデータを活用した消費者向けマーティングを手がけている。今回のテストベッドでは、これまで小規模の店舗では難しかった効率的なパーソナルプロモーションの確立を目指す。

 従来のマスプロモーションでは、訴求したい消費者層にどれだけ正確に情報が伝達されているか不明な部分が多く、何より莫大なコストが必要となる。一方、スマートフォンがあまねく普及した現在、顧客の行動履歴や消費傾向を把握していれば、特定の消費者に向けて“価値のある情報”をダイレクトに配信できる。

 実証実験ではマギーが新たに開発したIoT端末を沖縄県の中小販売店舗に設置し、顧客・購買データを収集することで消費行動把握を支援。データを解析した結果を元にクーポン付き広告を消費者に配信して購買活動を促し、店舗の利用客に対して共通ポイントを付与するなどして好循環を生み出すのが狙いだ。

パーソナルプロモーションの確立を目指すマギーの山川氏

 このIoT端末は、今後マギーが本格展開するパーソナルプロモーションプラットフォーム「My Shop」の入口となる。同社がこうした大掛かりなソリューションを実現できるのは、早くから“宝の山”としてビッグデータ事業に取り組んできたからだ。グループ会社のアイディーズとともに国内食品スーパーマーケット市場の約60%のID-POS(POSデータに購入者属性が加わったもの)を保有し、そのデータ量は700億件にも及ぶ。このID-POS活用がMy Shopの鍵を握る。

 マギー代表取締役社長の山川朝賢氏は「プラットフォームで消費者側が利用したい店やサービスを選んでMy Shopとして登録すれば、本当に自分が必要とする情報をほしいときに受け取れるようになる。対する企業側はムダな広告と販促コストを削減できるメリットがある」と説明する。沖縄県に限らず、疲弊する地域経済にとってもMy Shopは「パーソナルプロモーション市場のイノベーション」(山川氏)になる可能性を持つという。

 My Shopは山川氏が描く大きな構想の一環だ。山川氏はビッグデータを軸に、沖縄県におけるIT人材育成、労働生産性向上、新規雇用創出を目標に掲げており、実際に自社でデータサイエンティスト養成にも着手。2019年にはそれを発展させ、産官学を巻き込んだビッグデータコンソーシアムを発足させたいとも語る。

 「沖縄から日本初のビッグデータ産業を起こしたい。データ解析市場は急速に需要が伸びているが、まだまだ人が不足している。そこでISCOに中心となってもらい、沖縄県を挙げてデータサイエンティストやAIエンジニアといった次世代人材の育成に取り組んでほしいと考えている」(山川氏)

 参考として話してくれたのは、インドのビッグデータ企業「ミューシグマ」だ。ミューシグマは地元の優秀な学生を率先して雇用し、いまでは約3500人ものデータサイエンティストを抱える。その顧客はウォルマート、マイクロソフト、ファイザーなど一流企業がずらりと並ぶ。「沖縄にとってビッグデータ、AIは欠かせない産業になる」。そう力強く語る山川氏は、テクノロジーによる産業振興が早々に現実のものとなることを肌で感じている。

山川氏の夢はビッグデータを活用した沖縄の産業振興

迫るAI時代、データサイエンティストの養成は急務だと話す

問い合わせ先

一般財団法人 沖縄ITイノベーション戦略センター  https://isc-okinawa.org/
098-953-8154  pr@isc-okinawa.org 
担当:久松(ヒサマツ)
 
一般財団法人
沖縄ITイノベーション戦略センター

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098-953-8154  pr@isc-okinawa.org 
担当:久松(ヒサマツ)