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製造ラインやインフラ検査の現場では、検査業務における目視確認など人手がかかる作業のコストや、判断基準が平準化されていないことが大きな課題になっている。 そこでAI適用への期待が高まっているが、いざ導入となると不安を感じる企業も多い。 製造業やインフラ検査でのAI適用のポイントについて、MathWorks Japanの宅島章夫氏に聞いた。成功事例とともに紹介する。

AI適用には、ドメインエキスパートの
力を引き出す環境が不可欠

宅島 章夫 氏
MathWorks Japan
アプリケーションエンジニアリング部(テクニカルコンピューティング)
部長
宅島 章夫

現在、製造ラインやインフラの検査現場では、目視確認など人手がかかる検査が多いうえ、熟練者への依存など業務が平準化されていないことや、検査の抜け漏れやミスの発生などに由来する精度のばらつきなど、様々な要因のリスクが大きな問題になっている。

そこで、AIの活用によって、人手による検査の省力化、作業者依存の抜け漏れやミスのリスク低減、検査の精度やスピードの向上、新たな不具合要因の発見などを実現したいという期待が高まっている。

しかし、AIで何ができるのか分からない、AIにどこまで任せればよいのかわからないという現場からの不安の声は多い。

加えて、AIのエキスパートやデータサイエンティストの不在、外注する際の費用の問題、上層部やステークホルダーに理解が得られるか不安だという声も聞こえてくる。

こうした不安材料を克服し、現場導入をいかに実現していくか。宅島氏は「AI導入で成功しているケースを見ると、その要因は次の4つにまとめることができます」と語る。

1つ目は、いきなり大きな目標を設定するのではなく、スモールスタートでPoC(概念検証)を何度も繰り返していくことだ。

2つ目は、プロトタイプを作って、その都度改善しながら現場適用していくアジャイルな開発。

3つ目は、現場を一番よく知っている製造ラインやインフラ検査の専門家であるドメインエキスパートが主体的に動ける開発環境の構築。

4つ目は、AIと信号処理や画像処理など既存技術との融合である。

「MATLABはドメインエキスパートやデータサイエンティストとのコミュニケーションを促進する役割を果たします。開発環境や特定の分野に特化しているわけではないので、AIを適用させるためにドメインエキスパートとの間を取り持ち、その力を引き出すことができるのです」(宅島氏)。

ここから、AIの適用に成功した事例を5件紹介する。

ディスプレイ用フィルムの不具合検出にAIを適用 デクセリアルズ

まずは、ソニーケミカルを前身として、中小型ディスプレイ市場向けフィルム型接合材料や反射防止フィルムなどで高いシェアを持つデクセリアルズだ。

ディスプレイに使われる機能性材料の生産工程では、外観品質を確保することが最重要課題である。本工程で採用されているRoll to Roll方式による連続生産は、高い生産性を誇る一方で、連続不良発生のリスクを増加させ、その品質管理を難しくしていた。

そこでデクセリアルズでは、検査装置によって検出された欠陥画像にディープラーニングを適用した。欠陥画像を高精度に分類するとともに、GPUで高速化を図りリアルタイムで不良の集計を行い、品質の異常検知を対策に繋げることで歩留向上を実現した。

これら研究開発から現場実装までの一連のフローをカバーするMATLABを活用することで、設計から導入までの期間を半年に短縮できた。

「スモールスタートでプロジェクトを開始し、現在では24時間365日稼働するシステムへの統合を実現されています。お客様は『ディープラーニングがAIにブレークスルーをもたらしたように、MathWorksとの出会いが私どもにブレークスルーをもたらしました』とおっしゃってくださっています」(宅島氏)。

図1
図1 デクセリアルズのフィルム生産ラインでの検査の仕組み

ディープラーニングによるインフラ損傷検出の自動化 八千代エンジニアリング

次に、ダム・橋梁損傷検出でディープラーニングを適用した八千代エンジニアリングを紹介する。

ダムの外壁表面の剥離はダムが破損していく要因になるが、損傷の形状や大きさ、観測環境が様々のため、画一的な画像処理がむずかしい。そこで従来は検査員が双眼鏡で観測し、スケッチで記録していた。しかし、定量的に判定する手法としてAIを適用するために、MATLABで提供される学習済みモデルとセマンテックセグメンテーション(SegNet)を合わせて用いることで、過去の画像処理よりも高い精度が出ることを確認。

その上でさらに精度を向上させ、今後アプリ化して、複数の検査員が使えるようにしていく予定だ。

「機械学習からディープラーニング、実装までひとつのフレームワークで実行、組織内で共有できることで、飛躍的に業務が加速しました。アプリ化することで、損傷検出業務の大幅な効率化が期待できます」(宅島氏)。

ディープラーニングを使い、画像による損傷評価を実現 関西電力

関西電力は、火力発電所ボイラ配管の画像による損傷評価をディープラーニングで実現した。

火力発電所でボイラからタービンへ高温・高圧の蒸気を送るボイラ配管の溶接部は高温で、力がかかり続けると破断するクリープで損傷する。

そのため従来は非破壊検査により蒸気漏えい前に配管を取り替えていた。

一方、最新鋭ボイラでは高い蒸気温度に耐えられる高クロム鋼が使われるが、溶接部が肉厚内部から損傷するため、従来の方法は使えない。

そこで、ディープラーニングを適用するためにMATLABを導入した。クリープ損傷評価を行うAIモデルを開発して、余寿命診断が実施できる可能性を明らかにしたのだ。

「当社の無料セミナーとヘルプドキュメント、例題だけでディープラーニングを開発できたそうです。学習済みデータを容易にインポートでき、活用いただけるのも、MATLABの強みです」(宅島氏)。

機械学習を1週間でビジネスに活用させる 大阪ガス

大阪ガスでは、データサイエンティストがMATLABを使ってAI適用を支援している。

現場でのAI適用ではテーマをドメインエキスパートとコミュニケーションしながら開発するが、従来は実運用まで時間がかかっていた。短期間で適用可能にしたいと考えた同社では、モデル開発に時間がかかっていたことから、MATLABを利用することにした。アジャイルなプロトタイプ開発で時間を短縮、1週間でビジネスに活用できるようになったケースもある。

「AIの実装を現場にどうやって根付かせていくかは、プロセスを含めた検討が重要ですね」(宅島氏)。

道路や橋梁などインフラの損傷を高速で自動検知 東京大学生産技術研究所

東京大学生産技術研究所では、路面の損傷状態を画像計測などのデジタル信号処理とAIを組み合わせて評価する実証実験を行った。今までもレーダー装置で路面を検査する技術はあったが、目視で判断するため検査に時間がかかっていた。そこでMATLABを使って計算モデルで判定を高速化、路面内部の埋設物も検査できるようになった。

「AIと非AI(デジタル信号処理)を組み合わせることで、圧倒的な処理速度と検出精度を実現しています。MATLABは基本的なアルゴリズムが実装されており、アルゴリズムの妥当性やプログラムの信頼性が高いから安心して使えるし、研究の本質的な課題に注力できるとのことです」(宅島氏)。

図2
図2 地中レーダーによる橋梁・道路内部の損傷状態の評価

研究開発から実装まで、思考を止めない統合開発環境を提供

MathWorksはMATLABで研究開発から実装までのワークフローを支える、ドメインエキスパートの思考を止めない統合開発環境を提供する。様々なファイルやソフトウェア、フレームワークのインポートから研究開発、そこでの検討内容をFPGAやGPUに組み込む時にも再コーディングの必要なく、実装が可能だ。

「MATLABのサンプルコードや例題はユーザーが使いやすいように、汎用性が高くなっています。それをドメインエキスパートが自分の現場に合わせて活用しやすいように、MathWorksは様々なサポートやユーザーを助ける仕組みを提供します。そのサポートによって、ドメインエキスパートが実行したいことを最短ルートで現実化する道しるべになります」と宅島氏は強調する。

図3
図3 MATLABによるAI開発のための統合開発環境

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