激しさを増す競争社会のなかで、AI、IoTといった新潮流が次々と生まれている。一方で、企業の根幹を支えるITの多くは、過去の経緯を受け止めつつ進化をしていかなければならない難しい課題に直面している。今回取材したのは、2001年7月の創業以来、2002年に世界初となる「着うた®」、2013年には聴き放題の音楽ストリーミングサービスを展開するなど、多彩な音楽配信サービスを継続的に創造しているレコチョク。最先端のデジタルテクノロジーを駆使することで、音楽に顧客体験やプラスαの付加価値をつけた新たな音楽ビジネスを追求している企業だ。

B2C(企業対消費者)のサービスではクラウドを駆使している同社だが、従業員の仕事を支える社内システムは、オンプレミスのWindows Serverで稼働させている。同社がWindows Serverを使い続ける理由は何か?どんなメリットがあるのか?Windows Serverのスペシャリスト高添修氏(愛称:プロフェッサー高添)が、社内システムの構築・運用を担っている藤川大氏に、Windows Serverをどう使いこなしているのか、本音に迫った。

クラウドに固執せず、
最適な選択を考え抜く

高添 レコチョクは、お客様向けのサービスではクラウドを活用なさっていますが、社内システムでは古くからWindows Serverをお使いになっています。この理由を教えていただけますか。

藤川 お客様へのサービスではクラウドサービスを使っているので、クラウド自体の特性や利点は十分に理解しています。ピーク時に大量のアクセスがあるお客様向けのサービスでは、スケールアウトが可能なクラウド以外に選択肢はないと考えています。新しいサービスを立ち上げる際にも、システムリソースの調達が不要な分、オンプレミスよりも早期にスタートできるというメリットがあります。

これに対して、利用者数の変化があまりなく、新規のアプリケーションを立ち上げる頻度も低い社内システムでは、クラウドのメリットが生かせません。現在、社内システムは3台の物理サーバー上で約20台の仮想マシンを稼働させています。OSはWindows Server 2012 R2です。このシステムの上で、パッケージソフトを中心として勤怠管理や申請・承認のワークフローなどの業務アプリケーションを利用しています。

実は、社内システムの基盤をクラウドへ移行することも検討し、試算もしましたが、システムの規模や主にパッケージソフトを稼働させている現在の利用状況では運用コストの面でもWindows Serverを利用した方が優位だという結果になりました。あえてクラウドへ移行する理由がないのです。

高添 どのような体制でシステムを運用しているのでしょう。

藤川 社内ITグループには8人が在籍していますが、社内システムの運用を担うインフラ担当は3人です。最小限の人的リソースで効率的に運用を賄いたいと考えているので、そう考えると、オンプレミスのWindows Serverが最適の選択肢となるのです。クラウドに移行すると、OSやパッケージソフトに関する知識だけでなく、クラウドサービスやインターネットに関するスキルやノウハウも必要になります。これらを教育したとしても、インフラ担当は数年後に異動してしまうかもしれません。

オンプレミスのWindows Serverであれば、ビジネスパーソンなら誰もがデスクトップ環境として使い慣れているユーザー・インターフェースから日常的な運用を行うことが可能です。将来、人材を確保できないというリスクもありません。ほかのサーバーOS、例えばLinuxでは、こうはいきません。Linuxの経験者はWindowsよりも少ないですし、新たな教育が必要になるかもしれません。人材確保のためのコストも跳ね上がります。

オンプレミスという選択が正しいこともある

現在、世の中にはオンプレミスからクラウドへの移行を奨励するメッセージがあふれています。確かに、クラウドには従量課金やスケールアウトといった、オンプレミスにはないメリットがあります。しかし、レコチョクの事例からも分かる通り、これらのメリットに合致しないシステム環境もあります。急激なアクセス増がなく、また、頻繁に変更する必要のない社内システムの運用と、頻繁に進化する最新のIT、そしてそれらを受け止め続けられる人材確保の話を同じテーブル上で議論することに無理があるのかもしれません。必要なワークロード、必要な人材とその教育費、そしてITを動かすためのコストなど、投資を多面的に考えると、現時点でクラウドよりオンプレミスが優位なケースがあるのも事実です。

オンプレをクラウドで補完し
コストを36%削減

高添 クラウドと違って、オンプレミスの場合はハードウエア障害への対応に追われる、大規模災害時にシステムを稼働できなくなるなどの恐れもあります。こうしたリスクには、どのように備えていますか。

藤川 東日本大震災の後に、ビルが倒壊するような大規模災害が発生した際を想定してDR(ディザスターリカバリー)対策を検討しました。当社では現在、本社内のサーバールームに社内システムを設置しています。データセンターを保有していませんし、限られたリソースで運用しているので、当然ながら東日本と西日本のデータセンターでシステムを冗長化するような体制を築くことはできません。そこで、障害対策にはクラウドサービスを利用しています。

DRとBCP(事業継続計画)の対策として、マイクロソフトの「Azure Site Recovery」を導入しました。このサービスを使って、Windows Serverで稼働しているHyper-V(仮想化システム)の環境をクラウド上に複製しています。障害発生時には、すぐにクラウド上に複製した環境に切り替えられるので、ビジネスの停止時間を最小限に抑えることができます。一般的に大規模災害に備えるための体制の全てを自前で賄うと膨大な投資が必要になりますが、このサービスを使えば安価にDR対策を講じることができます。ハイブリッドクラウド対応ストレージの導入効果も含め、当社では導入時に5年間で36%ものコスト削減につながると試算しました。

幸いにも実際に障害に遭遇して、このサービスを利用したことはありませんが、「障害対応訓練」として年に1回、IT部門だけで実際にシステムを切り替えるオペレーションを実施し、その都度、新しい機能やユーザー・インターフェースに合わせて手順書も更新しています。

高添 なるほど、オンプレミスのシステムで足りない機能をクラウドで補完しつつコストも大幅に削減できているのですね。現在、オンプレミスのシステムを運用している企業にとっては、こうした「ちょい足しクラウド」が現実解なのかもしれませんね。ところで、クラウドに比べてオンプレミスの環境が優れたところってどこでしょうか。

藤川 オンプレミスとクラウドとの一番の違いは、システムで実行する処理が高速な社内ネットワークで完結するか否かということです。オンプレミスであれば、インターネット回線を経由しないのでファイルを転送する時間が短くなります。この点が、当社の業務では大きなメリットですね。

コンテンツ配信を手がけるレコチョクでは、社内の業務でも音楽や動画などのファイル容量が極めて大きいデータを扱っています。こうしたコンテンツのアップロードとダウンロードを頻繁に行っているので、これに時間がかかると業務の生産性が下がりますし、社員のストレスにもつながります。

「ちょい足しクラウド」思考を持ってみましょう

クラウドサービスは高度化と低価格化が進んでいるので、現在はオンプレミスでシステムを運用している企業でも長期的にクラウドを利用しないということはあり得ないでしょう。ただし、一気にクラウドに全面移行するという考え方が、クラウドの良さを活かす妨げになっている可能性があります。こうした課題を解決するのに、レコチョクのような「ちょい足しクラウド」は賢い選択ではないでしょうか。クラウドに移行しにくい大規模な業務アプリケーションでも、運用管理系の機能をクラウドで補完して、運用の手間やコストを削減できるケースが増えています。

「オンプレミス対クラウド」に
正解はない

高添 レコチョクでは、今後も社内システムをオンプレミスの環境で運用していくのでしょうか。

藤川 長期的には社内システムでもクラウドサービスの比重が高まってくると思います。実際、Office 365も使っていますし、クラウドへの移行は増えていくと考えています。

現在、世の中では「オンプレミス対クラウド」といった二者択一の議論が目立ちますが、この二者択一に唯一絶対の正解はありません。システムで稼働させるアプリケーションの可用性や、ユーザー数やピーク時の変化、24時間365日のサービス提供が必要か、社内向けか外向けか、運用を担う人材にはどんなスキルがあるのか――といった多様な観点で最適な選択肢は変わってきます。クラウドは利用者がコントロールできない領域が多いということにも留意すべきです。何らかの障害が発生したときに、問題の切り分けにはオンプレミスよりも多様な知識とスキルが必要になります。

クラウドのメリットとして、システムの構築・運用コストが安価なことをアピールするシステム構築業者さんも多いのですが、当社のように実際に試算してみるとオンプレミスの方が優位なケースもあります。まずは自社のビジネスの将来像を描き、それに合わせてシステムを進化させていくという姿勢が大切です。そのためにも、IT部門とビジネス部門の連携も欠かせません。

高添 私もその通りだと思います。それに、クラウドだけでなくWindows Serverは今でも進化し続けていますので、利用者の方々には新機能にも注目していただきたいと考えています。2018年にリリースした新版「Windows Server 2019」では、HCI(ハイパー・コンバージド・インフラストラクチャー)やコンテナなどの新技術を搭載しています。

藤川 これまで個別に立ち上げて利用していた各種の管理ツールがWindows Admin Centerとして統合された点は、とても便利になったと感じています。

新たに搭載された新技術にも興味を持っています。管理が煩雑になるストレージとネットワークを仮想化できるHCIは、運用管理の手間を大きく削減できるという点で注目しているので、メリットが確認できれば導入を検討したいと考えています。コンテナ技術についても、個人的には大きな興味を持っています。Windows Serverだからこそのメリットの追求と最新技術導入のメリットの兼ね合いを見ながら、最新のWindows Server導入も検討してみたいと思います。

4つのテーマで進化した
Windows Server 2019

デジタルテクノロジーの進化に伴って、企業の情報システム担当者にも新しいアプローチを取捨選択できる能力が必要になっています。そういう時代に対応するために、Windows Server 2019は①ハイブリッドクラウド化支援、②安くて高速なHCI、③セキュリティーの強化、④開発者向けテクノロジー導入――という4つの主要なテーマに沿って進化しました。オンプレミス環境とハイブリッドクラウド環境のいずれにおいても、Windows Serverは“誰でも使える”という実績ベースのメリットと“スピード感を持って堅牢なアプリケーションの開発と展開を可能にする最新プラットフォーム”という新しい顔、その両方からお客様の業務を支えていきます。

廣済堂

DR体制の構築がきっかけで
オンプレミスからAzureへ社内システムを移行

レコチョクのように、社内システムをオンプレミスのWindows Serverで運用することにメリットを感じている企業もあれば、パブリッククラウドでのシステム運用にメリットを感じている企業もある。印刷とITを融合したクロスメディア戦略を中心に、人材マッチングやライフスタイルデザイン提供を展開する株式会社廣済堂では、社内システムの運用・管理をAzureによるパブリッククラウドに一部移行している。

廣済堂がAzure導入を決めたきっかけも、DR(ディザスターリカバリー)体制の構築だ。プライベートクラウドで運用していたシステムの一部に、冗長対策を講じる必要が出てきたため、低コストで時間をかけずにDR体制を構築できるパブリッククラウドに目を付けた。廣済堂がパブリッククラウドとしてAzureを選択した理由について、管理本部情報システム部情報システム課 チーフの服部麻紗子氏は「Azureの信頼性の高さや、国内にデータセンターがあることに加え、将来的にOffice 365が導入される可能性がありました。そうなった際には、認証に関する親和性の高さなどから、同じマイクロソフト製品を選択しておけばスムーズに運用できると思いました」と語る。また、服部氏と同じ情報システム課でチーフを務める吉田慎一氏は、「オンプレミスだとサーバーの運用やメンテナンスにマンパワーが必要となり、ハードウエアに不具合が生じても即時対応するのが困難です。そのため、今後はなるべくハードウエアをなくし、ネットワーク機器を設置するだけの環境にしたいと思っています」と語る。

実際にAzureを導入してみると、直感的なUIによって短期間でシステムが構築できたので、オンプレミスからAzureへの移行を積極的に進めてきた。また、廣済堂ではクラウドの活用に関して、IoTとの連携にも期待している。現在、基幹系システムにおいて業務効率化が進められているが、将来的には印刷工場での「生産の見える化」にもIoTと連携するAzureが活用できるかもしれない。これで更なる業務効率の向上やコスト削減が実現できれば、まさにシステム運用が「投資」と見られるようになるだろう。

株式会社廣済堂(東京都港区)

1949年1月創業。情報コミュニケーション事業、人材ソリューション事業、ライフスタイルデザイン事業の3つの事業ドメイン(領域)で企画からアフターサービスまで、ワンストップソリューションを提供する。連結従業員数、1,377名(2018年3月末現在)。