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経済産業省が公開したDXレポート「2025年の崖」では、2025年にはIT人材不足が約43万人まで拡大すると指摘している。だが、問題の本質は数ではない。膨大なデータを活かし付加価値を生み出すデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)の時代に、オンプレミスでサイロ化されたレガシーシステムを保守・運用する知識や技術、経験だけでは企業もエンジニアも生き残ることができないからだ。デジタル時代の生き残りを賭けて企業がDXを推進する上で、企業の核となる役割を担うのは、デジタル技術と業務への深い理解を兼ね備えた新しいスキルをもったエンジニアだ。「2025年の崖」は、チャレンジするエンジニアにとって千載一遇の好機となる。DX時代に活躍するために今エンジニアが持つべき戦略とは?企業が取り組むべき人材育成のポイントとは?DX分野を牽引するPwCコンサルティングの豊國成康氏と日本マイクロソフトの手島主税氏が大いに語りあった。

PwCコンサルティング合同会社
パートナー


日本マイクロソフト株式会社
執行役員 常務
クラウド&ソリューション事業本部長
兼 最高ワークスタイル変革責任者

ITエンジニア不足の本質を見誤るな

豊國 経済産業省が公開したDXレポート「2025年の崖」で指摘したITエンジニア不足には、大きく2つの課題があります。1つめは、古い開発言語を知る人材が急速に減っており、レガシーシステムを維持・管理できるITエンジニアの供給が不可能になっていくということです。2つめは、爆発的に増加するデータを活用し競争力を高めることができる人材の育成です。前者は業務基盤そのものの維持・継承が困難になることを示しており、後者はデジタル時代の企業存続に関わってきます。このまま放置しておくと、2025年には21年以上が経過した基幹系システムが全体の6割を占めるとされています。技術的負債を解消しデジタル時代のITエンジニアの育成に着手するために、メインフレームや旧型ERPによるレガシーシステムからデジタル時代の次世代型のERPへのマイグレーションが急務です。

レガシーシステムのマイグレーションでは、各部門で個別最適化されたシステムにおけるブラックボックス状態の解消も必要となることから、時間と人の計画的な配分が重要です。経営戦略の策定から業務改革、ITによる実行まで総合的に支援するPwCコンサルティングでは、半年後、1年後を見据えたトータルリソースマネジメントを行っています。今後、日本においてもクラウド型ERPへの移行をはじめERP市場拡大が見込まれることから、当社ではグローバルと日本の人的リソースのベストミックスや社内ERPコンサルタントの育成に注力するとともに、社外パートナーとの連携を強化し企業のDXに向けた取り組みを支えていきます。

手島 生産年齢人口の減少が進む中、「2025年の崖」を乗り越えてその先に進むためには、社内エンジニアの活用が重要なポイントとなります。DXを推進するために社内エンジニアに求められるのが新しい技術の習得と意識改革です。デジタル時代ではシステム開発のあり方も大きく変わります。これまでのようにテクノロジーのスペックという枠の中で業務のニーズに応じて要件定義をつくって構築していくというスタイルではなく、新規事業やサービスをスピーディに展開するためにテクノロジーを柔軟に組み合わせるといった「ビジネスありき」のシステム開発が求められます。しかし、社内エンジニアがDXのニーズに応える新しい開発スタイルを身につけたくても、レガシーシステムの維持・管理に追われており、時間も心も余裕がないというのが現状ではないでしょうか。また新しい技術の習得ではトライ&エラーにより身をもって学ぶことが欠かせないにもかかわらず、既存環境では新しい技術に触れる機会もありません。社内エンジニアのチャレンジを阻むさまざまな要因の解消こそが、ITエンジニア不足の本質的な解決に結びつくのです。

DX時代に求められるITエンジニアの資質

手島 これからのITエンジニアを考える上で、「IT人材」という言い方に違和感を覚えています。従来、企業戦略を作成し、それを支えるシステムを構築し実行に移していくまでに1年近くを要していました。このスピード感では、デジタル時代を生き抜くことは難しい。企業戦略を具現化するサイクルがどんどん速くなる中で、IT人材とはどの部分を担う人材なのか。今や業種・業務を問わずITにふれない人はいません。

例えば、 Microsoft Office 365 では社員の行動やリレーションシップ(関係性)などの活動履歴を可視化、分析することができます。社員一人ひとりの生産性を高める行動改革の推進を目的に Office 365 上の行動履歴を活かす場合、データから“気づき”を得てビジネスに展開するためにはIT部門、人事部門、業務部門の3者で取り組まなければなりません。「ITは情報システム部門に任せておけばいい」といった考え方ではなく、全社員がITを活用する人材であるといった視点が大切です。

豊國 これまではIT人材と、そうではない人材とが明確に分かれていました。PCネイティブの1960年代世代が経営トップになる時代に、IT人材という言い方そのものが陳腐化してきていると私も思います。DXを進める上で全社員がIT人材であるという視点はとても重要です。従来、ITを使えるか、使えないかが競争力の差となっていましたが、これからはITをいかに使うか、その発想能力や展開スピードが成果の差となってあらわれてきます。

手島 すべての社員がITを使ってデータに基づく業務を行い、生産性や競争力を高めるためには、業務に適用できるシステムの適時かつ柔軟な提供が求められます。業務部門と一体となって業務改革を推進するために、ITエンジニアは今まで以上に業務知識や業務プロセスへの理解を深めることが大事になってきます。先進的なお客様では、IT部門のスタッフが業務部門に3年間出向し、その後、業務に精通したITエンジニアとしてIT部門に戻ってくるといった人材交流の取り組みを実施されているケースもあります。企業がDXで新しいことにチャレンジする際、エンジニアの知見なしには何も実行できません。人材交流も含め自社の強みを活かしたDXをどう実践していくか、その体制や組織づくりは非常に重要です。

「ITをいかに使うか、その発想力がより重要になる」という豊國さんのご指摘は、私も同感です。Microsoft PowerApps をはじめほぼノンコーディングでアプリケーションを開発できるツールや、アジャイル開発などにより圧倒的な開発スピードを実現できる中、そのスピードをビジネスに活かすために業務への理解が深いITエンジニアの需要は、ますます高まっていくと考えています。

豊國 社員全員がIT人材の時代にあって、どのようなITエンジニアが求められるのか。まず変わらない部分は、お客様やユーザー部門に対しての貢献を第一に考えることができるエンジニアです。テクノロジーやツールは手段に過ぎません。新しい技術を使わなくても、また運用の工夫でお客様の課題を解決しても目的は達成できます。お客様第一の姿勢の上で、これからのエンジニアには膨大なデータをいかに活用するかという観点が重要になります。AIやIoT、ビッグデータなどの最新技術もキャッチアップしておかないとお客様に提案できません。新しい技術に対する感度は、昔も今も、そしてこれからもエンジニアには必須の要素です。

手島 IaaS、SaaS、PaaSなどさまざまなレイヤでサービスを提供できるクラウドは、ITエンジニアの多様化を進めます。AIを活用しデータを価値に変えるエンジニア、業務の高度化を図るべくアプリケーションをスピード開発するエンジニアなど、どのようなITエンジニアをいつまでに何人育成していくかは、DX時代における経営戦略の重要な要素となります。マイクロソフトでは、新しい技術を自社でどう活かしていくか、方法論も含めてお客様を支援するマイクロソフトテクノロジーセンターをグローバルで展開しています。

業務のニーズに応えてシステムを構築するといったITエンジニアの定義は今や的を射ているとはいえません。経営や業務と一体となって課題を解決していく観点から、新しいITエンジニアの定義をつくる時期にきていると感じています。

ITエンジニアを「再定義」せよ

手島 DXにより社会や産業構造が急激に変化していく中、ITエンジニアの活躍するシーンは大きく広がっています。自分が有する技術力を駆使することで、人の創造力を最大限に引き出し、新しい事業やサービスの創造に貢献していく。少子高齢化の進展や環境問題など社会課題を解決するイノベーションを起こす原動力となる。デジタル時代の社会や企業が寄せる大きな期待に応えていくことが、ITエンジニアの市場価値や社内における人材価値向上につながっていきます。

デジタル時代を生き残るために、企業はオープン化によるコラボレーションを進めています。ITエンジニアもまたこれまでのように社内に閉じた世界ではなく、オープンな世界で情報共有やコラボレーションを行うことで自身の可能性を広げ、会社への貢献度を高めていくことが必要です。例えば、オープンソースコミュニティGitHubでは、さまざまなエンジニアがソースコードを共有し活発に意見交換することで互いの知見を高めています。コミュニティの中で生まれてくる世界観や価値観により新しいITエンジニアの定義がなされていくことが大切だと思います。

豊國 昔は、メインフレームにしても、そこで使われているプログラミング言語COBOLにしても、技術寿命が今と比べて格段に長くありました。当時のエンジニアは職人気質が強く、自分で使う道具を自らつくるほど、自身でモノをつくることにこだわりを持っていました。今は、技術寿命が短くなってきており、次々と登場する新しい技術を組み合わせてお客様の目的を実現していくコーディネート能力がエンジニアに求められています。

技術の学び方も大きく変わってきました。従来、メインフレームを学ぶ場合、会社の根幹を支える仕組みを使うため、非常に高いハードルを越えなければなりませんでした。今は、自宅からでもクラウドサービスを利用し新しい技術を学ぶことができます。手島さんのお話にもありましたが、これからはコミュニティがエンジニアの成長に重要な役割を果たしていきます。コミュニティでは“気づき”を得るだけでなく、自らもアイデアを提供していくことが大切になるため、自ら発想し加工してアウトプットしていくことが、これからのエンジニアにはより重要になります。従来よりも今のエンジニアは学びやすい環境がある分、能力差がつきやすいともいえます。

手島 クラウドで技術を学ぶ観点では、世界中からあがってくるさまざまなベストプラクティスを、クラウド上にあるリソースを最大限に使ってどんどんトライ&エラーができるという点が重要です。そこで得られたノウハウを自分の財産として自身の人材価値を向上させ、事業に還元していく、DX時代の新しいITエンジニアのスタイルはクラウドなくしては成しえません。

クラウドは技術者の民主的なコミュニティとして大きなメリットをもたらします。DX時代のものづくりはオープンとコラボレーションが鍵を握るからです。マイクロソフトには新しい感覚でものづくりを共創する「ガレージ」と呼ぶラボがあります。本社のガレージで年二回、マイクロソフトのエンジニアやデザイナー、プランナーなどが世界中から集まり、チームをつくって新しいアプリケーションやサービスを開発するハッカソンを行っています。さまざまなスキルを持つ人たちがコラボレーションを行い、3Dプリンティングなどの最新ツールを使って新たな価値を創造していく、DX時代のものづくりはスピードも創造性もこれまでとは全く次元が異なります。

デジタルアカデミーで可能性の扉を開け

豊國 人材不足の解消やITエンジニアの市場価値向上を考える上で、人材の流動は重要なテーマとなります。欧米では、ベンダー、プロダクト、事業会社の間で人材の流動が活発に行われています。日本でも近年、そうした傾向が出始めています。ただし日本では現場のニーズに合わせてシステムをカスタマイズし複雑化してしまっているため、他社から移籍しても即戦力として活躍するのが難しい状況にあります。DXに向けてレガシーシステムのマイグレーションを行い、業務の標準化を進めることは人材の流動性向上にもつながります。またエンジニアの活躍の場は、異業種とのコラボレーションなどにより分野の垣根も超え始めており、今後、技術やツールの標準化も含めて環境の整備が必要です。

PwCコンサルティングは拡大するDXのニーズに対し、国内SIerのベストマッチングで応えていきます。DXは企業、SIer、そしてエンジニアに進化を求めます。2025年を境にエンジニアの人材価値は大きく変わります。チャンスはすべてのエンジニアにあります。ぜひ自らの成長にチャレンジし、日本や世界の発展に貢献していただきたいと思います。

手島 レガシーシステムを維持・管理していたITエンジニアが、DXに向けて何をどう習得すべきか。マイクロソフトでは、クラウド型ERP/CRMの Dynamics 365 を中心に最新のSaaS環境にはどういう仕組みがあり、その中でどの技術を習得し自身の業務に展開していくかなどについて、eラーニングで学ぶことのできる Dynamics 365 Digital Academy を開講しています。いつでもどこでも空いた時間を有効活用し、実際にトライ&エラーを行い、テクノロジーを体感しながら新しい技術を習得することができます。大事なのは、最新技術を学ぶとともに、その技術をどう業務に活かしていくかという洞察を得ることです。技術と業務の両面を兼ね備えた新しいITエンジニアは、企業の生命線を担う人材となります。自身のキャリアを自ら形成し人材価値を高めるために、ぜひデジタルアカデミーという新たな可能性の扉を開いてください。