TOPページへ

2020年、5Gサービスがいよいよ始まる。経済産業省が公開したDXレポート「2025年の崖」では、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)を実現できない企業は、デジタル競争の敗者になるという最悪のシナリオが描かれている。DXの必要性を感じつつも、デジタル技術を使い、爆発するデータをいかに活用するか、多くの企業が模索しているというのが現状ではないだろうか。「崖」を乗り越え、データに基づく成長戦略を実践し大きく飛躍するために、「今」すべきことは何か? 日本マイクロソフトの榊原彰氏とKPMG Ignition Tokyoの茶谷公之氏が、豊富な経験と知見からデジタル競争の勝者となる成功のシナリオを描く。

日本マイクロソフト株式会社
執行役員 最高技術責任者
マイクロソフトディベロップメント株式会社
代表取締役 社長

株式会社 KPMG Ignition Tokyo
代表取締役社長兼CEO


対談の模様をダイジェスト動画にてご覧いただけます

デジタル競争を生き抜く鍵は
「サイロ化の解消」と「大量データの活用術」にあり

榊原 経済産業省が公開したDXレポート「2025年の崖」では、部門最適によりシステムが孤立し、他システムと連携できないサイロ化や、過剰なカスタマイズに伴う複雑化・ブラックボックス化といった既存システムの課題に警鐘を鳴らしています。この問題を放置した場合、爆発的に増加するデータを活かしきれず、デジタル競争の敗者になるというシナリオが提示されているわけです。「崖」を乗り越えるためには、BPR(Business Process Re-engineering、業務プロセス改革)と合わせて全体最適を目指すとともに、ブラックボックス化を解消してシステムを見直すことが必要です。

DXを支えるプラットフォームを選定する際、クラウド型ERPは有力な選択肢のひとつとなります。複数の業務システムを統合するERPは、組織全体の情報をひとつのデータベースで管理できることから、サイロ化を解消しデータの一元管理を実現できます。ただ、この点はオンプレミス型ERPのメリットと同様です。

着目すべきは、クラウドとERPが融合している点です。変化のスピードが速いデジタル時代では、増大するデータ量への対応や拠点の追加などに応える運用の柔軟性は大きなメリットとなります。

茶谷 デジタル化が進みどの企業も大量のデータを扱うことができるようになりました。しかし大量のデータをうまく活用できている企業は多くはありません。活用するためには、デジタルとビジネスの両方の専門知識の融合が必要です。どちらが欠けても経営の判断ができるところまで落とし込むことはできません。

「AI(人工知能)を活用したい」というご相談を多く承るのですが、AIを活用するための「データを処理できる環境」が整っていないケースがまだまだあります。環境の整備とともに、デジタル技術を使って何を実現したいのか、ビジネスのゴールを定めることが重要です。KPMG Ignition Tokyoでは、お客様の目標に向かってコラボレーションし、共にクリエーションすることでデータに基づく戦略的シナリオを一緒に描き、その実現を支援していきます。

榊原 データに基づく戦略的シナリオを描く際、システムのサイロ化だけでなく、異なるアプリケーション間でデータを連携できない「データのサイロ化」が大きな課題となります。マイクロソフトは、アドビ、SAPと提携し、データモデルを統一し3社横断のデータ連携や分析を可能にする「 Open Data Initiative 」の取り組みを進めています。マイクロソフトのクラウド型業務アプリケーション「 Microsoft Dynamics 365 」、SAPのCRMとERP、アドビのマーケティング支援サービスを利用している企業は、それぞれのサービスやソフトウェアに分散されていた顧客データを Microsoft Azure のビッグデータ分析サービス「 Azure Data Lake 」で統合して分析し、それを用いてサービスの構築や展開が可能となります。

DX時代におけるデータ活用のあるべき姿を追求する「 Open Data Initiative 」は、ISV(独立系ソフトウェアベンダー)、システムインテグレーター、コンサルティング会社など多くの企業にご賛同いただき、その可能性が広がっています。DXを支えるプラットフォームには、データを中心にサービスがシームレスに連携して動く環境を実現する自由度や柔軟性が求められます。

「崖」と呼ばれる2025年は
産業用AIのマイルストーンになる

榊原 AIブームの中で、「AIはなんでもできる」という間違った認識が広まっています。AIは大量のデータ処理を行って「知見を引き出すこと」が得意な技術です。大量にデータはあるけれど、どのデータを何に、どう活かせばいいのか、多くの企業においてAIの活用方法がわからないというのが現状ではないでしょうか。重要なポイントは、仮説を立ててトライ&エラーを繰り返すことです。

例えば、売上がある月にピークを迎えているけれど、そのピークが良いという見方が正しいのか、疑ってみることが第一歩となります。逆にピークがない方が全体の売上がもっと伸びるかもしれません。現象の奥に何があるのか、真実を探求することが大切です。また、固定観念を取り払うことも必要です。従来、農作業では主に気象データに基づき、収穫サイクルを決めていました。農作物の輸出拡大に伴い、気象データだけでなく、鮮度を維持するための輸送データや、輸出先の国民の嗜好データなどさまざまなデータを収集・分析し、その結果をもとに試行錯誤を繰り返しニーズに応えていくことが必要です。仮説を立てるためには、業界動向やバリューチェーンはもとより社会、政治、経済など幅広くアンテナを張ることが大切です。

茶谷 データから「特徴」を抽出し「情報」にし、「情報」を蓄積し「知識」に変え、最終的にそのエッセンスを「智慧」にする。こうしたデータのストーリーが描けていないことが、データ活用で失敗するひとつの要因となります。仮説を立て、ストーリーを描く上で、これまでの常識が本当に正しいのか、まず疑ってみることが重要だと思います。常識に対し、「なぜ」の視点から眺めて考察することで、「このデータとあのデータを組み合わせればよいのでは」という仮説が生まれます。もちろん仮説が間違っていることも多いでしょう。トライ&エラーでチャレンジしなければ仮説が間違っていることもわからないのです。

榊原 日本でも2019年秋にローカル5G(第5世代移動通信システム)、2020年に5Gサービスがいよいよ始まり、IoT(Internet of Things)の活用シーンが拡大していきます。「崖」と呼ばれる2025年は産業用AIのマイルストーンになる年だと思っています。自動運転や産業用コボット(協働ロボット)など、自動化ではなく自ら考えて動く自律システムがどんどん登場してくると考えています。マイクロソフトでは、現場のエキスパートの知識をいかにAIに学習させていくか、といった研究を進めています。

今後、産業分野だけでなく、日常業務の中でAIはさらに浸透していきます。Microsoft Dynamics 365 では、さまざまなAI機能の強化を進めています。AIが営業アシスタントとして日常業務を支援する。またAIが営業チームの行動を学習し、チーム全体の効率性を底上げする。さらにAIが事務作業を自動化する。営業は間接業務から解放され、より創造的な仕事に集中することが可能となります。これから求められる人材像は、なんでも知っている人よりも、なんでもトライしてみる人、失敗しても次の発想でトライできる人だと思います。

DX時代のデータ活用はスピードが必須となるため、「内製化」も重要なポイントとなります。 Dynamics 365 の業務アプリケーション開発ツール Microsoft PowerApps を使うことにより、ほぼノンコーディングで現場の人自らが業務を改善するアプリケーションの開発が可能です。ITと現場の両面を理解できる人材の需要は、今後ますます高まっていきます。

茶谷 IoTが進展する中で、センサーでは収集できない人の感覚がより重要になってくると考えています。例えばモータースポーツでは、レーシングカーの中にあるセンサーから大量のデータが本国のスーパーコンピュータに送られ、それらのデータをデータサイエンティストが解析しパドックにフィードバックされます。そしてドライバーが感じている車の状態を解析の対象に加えることで、解析の精度が飛躍的に向上します。ビジネスに置き換えると、お客様と相対している前線部隊、その後方支援部隊にIT技術者やコンピューティングリソースがあり、必要な情報を必要なときに前線部隊にフィードバックします。前線部隊の肌感覚をデータ解析に活かすことで、プロフェッショナルの知見とデータ分析を融合し新たな価値が創造できます。

人は、AIと違って遊ぶことができます。自分が携わっている業務で、ルールや見方を変えてみたら面白いかもしれないと発想できるのは、人の得意技です。ただ遊ぶのではなく、そこに新しい技術や価値観を組み合わせることで“気づき”が生まれてきます。これまでは人がコンピュータにわかる言語を使って操作していましたが、自然言語処理により人の言葉をコンピュータが理解し動いてくれる。人とAIのコンビネーションが新しい営業スタイルを創っていく時代がすぐそこまで来ています。

クラウドのメリットを享受するために
IT投資はどうあるべきか

茶谷 先進のデジタル技術をビジネスに活用するためには柔軟性に優れたクラウドのIT予算の組み方を考え直す必要があります。これまでのように1年間サイクルで決めてしまうのではなく、ユーザーの利用状況に応じて、ある枠の中で自在に変えることができるような工夫が必要です。読めないニーズに対し、必要なときに必要なだけ利用する。リソースの配分に柔軟性があり、最適化できることがクラウドのメリットです。このメリットを享受できるようなIT投資の組み方が今、問われています。

PoC(Proof of Concept、概念実証)から商用化へ進むべきか、投資の判断が難しいことから、PoCで終わってしまうプロジェクトも多くあります。商用化に向けた投資判断において、重要となるのが、小さく始めて効果を確認し改善しながら大きくしていくというクラウド型の考え方です。

クラウドを利用する場合、事業展開に要するコストを抑えることができるため、損益分岐点を低く設定することができます。同じ投資額で複数のプロジェクトの商用化を試すことができるため、成功率の向上が図れます。

榊原 ハードウェアもソフトウェアも、クラウドサービスを利用する時代において、これまでのIT予算計画のように何年に一度、更新や改修のために予算をつけるといったやり方は適しているとはいえません。茶谷さんがおっしゃるように、変化に応じて柔軟に対応しリソースやコストを最適化していくクラウドの利用スタイルに合った予算の組み方が必要だと、私も思います。

小規模でリリースして市場の反応を見ながら成長させていくというビジネススタイルはクラウドに合っていますが、「気軽に始めたものの何も進まない」ということがないように、技術的なロードマップとともにROI(Return On Investment、投資利益率)などを定め、いつまでに何をし、次の段階に進むといった「指標の明確化」も大切です。

冒頭に述べた、クラウドERPについても同様のことが言えます。クラウドはデジタル技術を活用する基盤となるため、AIやIoTと基幹システムを連携させ、そこから得られるデータを活用することを見据えてDX推進していくことは重要です。

AIには「知覚」と「認知」の両方の世界があります。知覚は人の目や耳の変わりとなるものです。知覚で得た情報をどう解釈するかが認知です。今後、視覚や聴覚など複数の感覚情報を組み合わせるマルチモーダルでAIを開発していくことが重要になると考えています。感覚情報をどう組み合わせるか、あくなき探求心で取り組んでいますが、仮説を立てても上手くいかないことは山ほどあります。しかし上手くいったときの達成感はとても大きく、ビジネスインパクトも計り知れません。

「崖」の向こう側へ、データに基づく成長戦略を描くことが大切です。2025年の崖を超え、新たな地平を切り拓いていくことは、技術者として、経営者として、チャレンジする大きな意義があると思いますよ。