ビジネスの生産性とアジリティを高めるITインフラとは?

ITインフラのモダナイゼーションで
「PoC地獄」から脱却せよ

デジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組み本格化する中で、本番稼働を前にしたPoC(概念実証)の段階で挫折する企業が急増している。「デジタル化」が失敗に終わる理由は何か? これまでの「IT化」とは何が違うのか? DXを成功に導くための鍵とは何か? 日本マイクロソフトでITインフラの構築・運用に精通したプロフェッショナル2人に話を聞いた。

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進化する「デジタル化」。変わらない本質。

日本マイクロソフト株式会社
マーケティング&オペレーションズ部門
Azure ビジネス本部 製品マーケティング&テクノロジ部 プロダクトマネージャー
佐藤 壮一 氏

これまで企業のIT組織が取り組んできた「伝統的なIT化」と「DXにおけるデジタル化」には、どのような違いがあるのだろうか。この問いに対して、日本マイクロソフトの佐藤 壮一 氏は「IT化もデジタル化も、本質は同じです」と強調する。同氏は、IT化とデジタル化のいずれも目的は「テクノロジーを活用してビジネスの生産性とアジリティ(俊敏性)を上げること」だと語る。マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツ氏は、20年近く前の2000年に「今日成功するためには、アジリティと、絶えず考え、行動し、創造し、活性化しつづける推進力が必要である」と言及している。昔も今も、アジリティが競争優位性の源泉であることに変わりはない。

高添 修 氏は「目的は同じはずなのですが、それを実現する手段、すなわちテクノロジーが数年の間に飛躍的に進化し、選択肢が増え、担当分野がサイロ化されたために、最新技術の導入さえすればDXだと勘違いされることが増えました」と指摘する。

丸投げのDXが失敗する理由

近年は、クラウドや AI 、IoT(Internet of Things)などの最新テクノロジーを駆使することで顧客や社会とつながるシステム、すなわち「SoE(Systems of Engagement)」あるいは「バイモーダルIT」における「モード2」に分類されるシステムを短期間で、しかも一昔前よりもはるかに安価に構築することが可能になった。DXの先進事例として紹介されるシステムのほとんどが「最新テクノロジーを活用したSoE」である。

一方で、これまで企業のIT組織が開発・運用してきたシステムは主に、ERP(統合基幹業務システム)に代表されるような、情報の記録を目的とした「SoR(Systems of Record)」または「モード1」と分類されるものだ。SoRはシステムの要件を定義しやすい。誰が、どんな情報をどのように利用するのかが明確だからだ。これに対して、SoEは要件を細かく定義することが難しい。顧客や社会とのつながりをどのように価値に変えるかは、企業やビジネスごとに大きく異なるだけでなく、本質的に流動的なものだからだ。従来型のIT組織にDXの取り組みを丸投げすると失敗に終わるケースが多い理由が、ここにある。

手段が目的化していないか

このシステム特性の違いが、DXに向けた取り組みがPoC(概念実証)で終わってしまう最大の要因になっている。システムを構築する前に要件を確定できないのだから、本来は試行錯誤で機能を改修し続けることが求められる。しかし、一般的なPoCでは期間や予算が限定されているため、これを実践することが難しい。高添氏は、この状況を次のように説明する。

日本マイクロソフト株式会社
パートナー技術統括本部
クラウドアーキテクト本部
クラウド ソリューション アーキテクト (Hybrid Cloud)
高添 修 氏

「企業が何らかの設備投資を行う際には明確な目的があって、それを実現する手段として最新機器などを導入します。ところがDXの導入に向けたPoCの失敗例では、目的があいまいなために手段、つまり最新のテクノロジーを活用すること自体が目的化しているのです」

佐藤氏は「要件を明確に定義できるような小さな領域に閉じてPoCを実施してしまいがちなことも業務での実用化につながらない一因です」と指摘する。例えば、AIでカメラの画像を認識して商品を選別するような取り組みでは、人手の作業を自動化できることがメリットになるが、1処理当たりのコスト削減効果は限定的だ。このような投資を意味あるものにするためには、大規模に適用しなければならず、そうすると要件を狭い領域に閉じた PoC の結果から得られるものは限られてくる。少なくとも、DXの本来の目的である「企業のアジリティを向上させること」には結びつかない。

新たなアイデアをいち早く事業化するには

企業全体のアジリティを向上させるということは、革新的なアイデアをいち早く事業化できるような体制を構築することにほかならない。ただし、前述のように、DXでは事前にシステムの要件を定義することが難しい。この課題を解決するためには、何から着手すればよいのか。

佐藤氏は「新しいアイデアが生まれたときに、すぐに検証するための環境を用意して、何度でも試行錯誤を重ねられるようにITインフラを整備することが理想です」と語る。これを実現するためには、パブリッククラウドの利用が大前提となる。AIやIoT、ビッグデータ分析をはじめとする最新テクノロジーを即座に利用できるからだ。ハードウエアやソフトウエアを調達する必要がないので、短期間で試行錯誤を重ねることが可能になる。しかも、マイクロソフトのような大手クラウド事業者であれば、最新のテクノロジーを駆使したサービスが続々とリリースされる。

ただし、高添氏は「オンプレミスのシステムを単純にクラウドへ移行することを推奨しているわけではありません」と注意を喚起する。現在、「クラウドシフト」のかけ声の下で、全てのオンプレミスシステムをクラウドへ移行しようとしている企業も少なくない。同氏は「SoRのシステム単体でみれば、クラウドへ移行するメリットがないものもあります」と指摘する。例えば、ユーザーが社員に限定されていて急激なアクセス増がなく、頻繁に機能を変更する必要のないようなシステムだ。佐藤氏も「現時点で何も困っていないものを、わざわざクラウドへ移行することはお金と時間の無駄です」と語る。

ITインフラのモダナイゼーションで求められる3要素とは?

マイクロソフトでは、オンプレミスとクラウドが混在したハイブリッド環境において、企業のアジリティを向上させるためにITインフラに必要な要素を3つ掲げている。「自動化」「セキュリティ」「ガバナンス」の3つだ。ITインフラ全体をモダナイズすることによって、どのようなタイプのシステムでも共通でメリットを享受できるよう仕向けるのである。こうしたインフラがあれば、クラウド・オンプレミス問わず新しいシステムを立ち上げるまでの期間を劇的に短縮できる。検証を試行錯誤するスピードも大きく向上する。仮に必要な要素の抜けが発覚した場合でも、すぐに対応できる体制さえあればシステム稼働後に致命的な事態になる可能性も限りなく低くすることが可能になるはずだ。

自動化には、システムの立ち上げ時の構築・設定や、稼働後の運用管理に関わる無駄な作業をできるだけ排除するための仕組みを取り入れることだ。佐藤氏は、これについて次のように説明する。

「運用の自動化、運用負荷の低減は IT 組織の永遠の課題です。ただ、クラウドベースの管理ソリューションが充実してきたことにより、管理ツールそのものの導入や運用の負荷と手間を省くことが現実的になった、というのが過去と現在の大きな違いになります。導入のハードルが下がったからこそ、管理ツールありきで運用を標準化することを考えてもよいのではないかと思います」

セキュリティの壁をいかに乗り越えるか

昨今のセキュリティには、「ゼロトラスト型」と呼ばれる次世代型のモデルが必要だ。DXで構築するSoEのシステムでは、ユーザーやデバイスが多種多様になるため、従来のような境界防御型の対策では、巧妙化・高度化するサイバー攻撃を防げない。ゼロトラスト型は「全ての利用者を信頼しない」という、いわば性悪説の考え方の下で、全てのアクセスを制御し、監視する仕組みだ。

DXの進展に伴って、ガバナンスは極端に複雑さが増してくる。SoEのシステムは、管理対象が指数関数的に増えてくるからだ。最近は、オンプレミスとクラウドの両方に対して、高度なガバナンスを利かすクラウドサービスも登場している。佐藤氏は「これからの時代は、クラウドとして提供されるツールを使うことを前提として、ガバナンスを設計・標準化していかないと破綻を招く恐れもあります」と指摘する。ガバナンスで新たな仕組みを導入する際には、既存のシステムを棚卸しすることも欠かせない。マイクロソフトでは、既存のシステム資産に対するアセスメントを進めるためのソリューションやサービスも提供していくとしている。

本連載の次回以降では、ここで取り上げた要素の詳細をマイクロソフトのスペシャリストに伺う。

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