2025年の崖を飛び越えるIT戦略とは

vol.3
IT技術者が枯渇する「2025年の崖」
ERPの近代化を完遂する具体策とは

2025年の崖を飛び越えるIT戦略とは
「2025年の崖」を克服するためには、経営を支える基幹システムの近代化が欠かせない。しかし多くの企業で利用されているSAP ERPから次世代ERPの「SAP S/4HANA」へ移行するには、まだ国内では実績が少ないのが実情だ。この難題に対し、正面から向き合い、グローバル企業の大型案件で既に成功を収めているのが三井情報(以下、MKI)だ。同社は、20年以上にわたって培ったSAPの知見に加え、次世代ERPのSAP S/4HANAへの移行プロジェクトで培ったノウハウを融合させ、基幹システムの近代化を強力にサポートしている。

DXの実現には基幹システムのレガシー脱却が至上命題

三井情報株式会社 ソリューション技術本部 SAPソリューション部 部長 佐多 亮忠氏
三井情報株式会社
ソリューション技術本部
SAPソリューション部 部長
佐多 亮忠
 デジタル技術の進歩が、企業のビジネスを大きく変えようとしている。持続的な成長を目指すためには、この変化を受容し、デジタル技術を駆使してビジネスや組織を変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現が不可欠である。

 最新テクノロジーを取り入れたデジタル化の効果を最大限活用するためには、フロントエンドのシステムだけでなく、経営や戦略を支える基幹システムにも迅速かつ柔軟なアーキテクチャが求められる。

 実際、経済産業省が発表した「DXレポート」では、レガシー化した基幹システムのブラックボックス化が大きな懸念材料として挙げられている。いわゆる「2025年の崖」問題だ。レガシーシステムがDXの足かせになり、2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性があるという。日本で2000社以上が導入しているといわれるSAP ERPの保守サポートの終了が近づいていることも、この指摘の大きな要因といえるだろう。

   SAP ERPに代わる新基幹システムとして注目されているのが、次世代ERPスイート「SAP S/4HANA」(以下、S/4HANA)である。S/4HANAへの移行方法は大きく「リビルド方式」と「テクニカルコンバージョン方式」の2つの方法がある。

 リビルド方式は文字通り、S/4HANA上に新規に構築するため、抜本的に業務プロセスの見直しを行えるメリットがある半面、アセスメントから要件定義、実装、検証まで多大な作業およびそれに伴う社内リソースが必要になり、時間もコストも膨大になってしまう。一方のテクニカルコンバージョン方式は、独自にアドオン開発したプログラムおよびデータをS/4HANA上で再利用できるようテクニカルに移行するため、時間やコストを大幅に短縮できるのが特徴だ。

 いずれも国内事例が少なく、SAPシステムを熟知する技術要員も圧倒的に不足している。このような状況で2025年の崖を乗り越え、その先のDXまで見据えた次世代の基幹システムを実現するのは容易ではない。「レガシーを脱却したいと考えつつ、どちらの方式を選択するのがベストか迷われ、足踏みする企業が少なくありません」。こう話すのは、MKIの佐多 亮忠氏だ。

三井物産の海外拠点ERPをわずか14カ月でS/4HANAに移行

三井情報株式会社 ソリューション技術本部 SAPソリューション部 第二技術室 室長 早川 雄博氏
三井情報株式会社
ソリューション技術本部
SAPソリューション部
第二技術室 室長
早川 雄博
 課題解決に向け様々な選択肢を提示するITベンダーの1社がMKIである。同社は、国内外のSAP ERP導入・運用を数多く手掛け、SAPシステムに関するナレッジを豊富に有している企業だ。

 MKIのSAPビジネスは、1999年に総合商社大手の三井物産の海外基幹システム導入を担当したことからスタートした。そこで培った商社・卸売業の業務知見をプリセットしたSAPテンプレート「MKI-Trade Suite」とグローバルロールアウト知見をベースに、商社・卸売業の基幹システム導入も数多く手掛けてきた。「世界40カ国60拠点の導入実績があり、グローバルでの運用保守にも対応しています」とMKIの早川 雄博氏は述べる。

 化学系専門商社としてグローバルにビジネスを展開する稲畑産業の取り組みはその好例だ。SAP ERPおよびMKI-Trade Suiteを活用し、海外拠点の基幹業務システムを共通ERP基盤へ統合。システムの全体最適化により、業務プロセスの標準化と海外事業のガバナンス強化を実現したという。

 MKIではこうした強みを生かし、SAP ERPからS/4HANAへの移行をサポートし、DX戦略を支える基盤インフラの近代化を支援している。「これまでのSAP ERPの豊富な導入実績から、多様な業種の業務に深く精通していることが大きな強みです。ここに独自のSAPのナレッジを生かし、既存の業務プロセスと変革の方向性を踏まえた上で、お客様にとってベストな方法を提案します」と佐多氏は語る。

三井情報株式会社 ソリューション技術本部 SAPソリューション部 第一技術室 マネージャー 加島 大嵩氏
三井情報株式会社
ソリューション技術本部
SAPソリューション部
第一技術室 マネージャー
加島 大嵩
 移行方式の中で特に同社が注力するのが、費用や期間を圧縮可能なテクニカルコンバージョン方式だ。「事前のアセスメントでアドオン機能の影響範囲の見極めや膨大にあるSimplification Listを正確に仕分けし、すべての機能とデータをSAP ERPからS/4HANAへ移行するため、既存業務への影響がほとんどありません」とMKIの加島 大嵩氏は説明する。

 三井物産の海外拠点基幹システムの大規模移行はこの方式で実施した。グローバルで約40カ国/約3500ユーザーが利用するSAP ERPをS/4HANAへ刷新するとともに、その基盤もプライベートクラウドからパブリッククラウドのMicrosoft Azure(以下、Azure)環境へ移行した。DXを支える基盤は迅速かつ柔軟なアーキテクチャが求められる。クラウドならそれが可能になる上、インフラやプラットフォームの運用管理の手間も削減できるからだ。

 中でもAzureはインメモリーデータベースのSAP HANAのバックアップサービスを提供するなど、SAP関連の機能拡充を進めているので、将来性も考慮に入れ、S/4HANAの基盤として最適と判断し、Azureを選択したという。

 業務への影響がほとんどないテクニカルコンバージョン方式を採用したことで、グローバルなS/4HANAへの大規模移行を約14カ月の短期間で実現した。一般に大規模システムの移行には「アセスメント」「データ移行手法の確立」「Simplification Listの仕分け」が大きなポイントとなるが、このプロジェクトを通して、各ポイントにおいて、さらに多彩なナレッジを蓄積できたという。

 例えば、「データ移行手法の確立」の中で、ダウンタイムの極小化はその1つだ。SAP ERPをS/4HANAへ移行する場合、どうしても一定のダウンタイムが発生してしまう。「そこで、本プロジェクトではリソース割り当てやパラメータチューニングを行い、ダウンタイムを約3割削減することに成功しました」と早川氏は話す(図1)。

図1 S/4HANAへのデータ移行のアプローチ 図1S/4HANAへのデータ移行のアプローチ データ移行のダウンタイムを短縮するため、オペレーションレベルで手順を明確化。さらにハードウエアリソース割り当てなど徹底的にチューニングすることで、ダウンタイムを当初の想定より3割削減することに成功した
 続けて佐多氏も「MKIは国内でも事例の少ない大規模基幹システムのテクニカルコンバージョン導入実績に基づき、コンバージョン手法をフレームワーク化しました。これにより、短期間かつ高品質のプロジェクト推進が可能です」とその強みを述べる。そのフレームワークを活用し、三井物産の国内基幹システムのプロジェクトも開始しており、約10カ月の短期間での移行を進めている。

S/4HANAの導入ノウハウを顧客に提供していく

 こうした移行ノウハウや、以前から提供してきた運用・保守サービスの知見を生かし、新サービスの提供も開始した。それが2019年11月から提供する「MKIマネージドサービス for SAP S/4HANA」(以下、MKIマネージドサービス)だ(図2)。「S/4HANAの基盤をAzure環境上で提供し、その運用・保守もMKIがフルサポートします」と早川氏は説明する。
図2 「MKI マネージドサービス for SAP S/4HANA」のサービスイメージ 図2「MKI マネージドサービス for SAP S/4HANA」のサービスイメージ Azure上にSAP S/4HANAを構築する。ハードウエアの購入・基盤構築は不要だ。オンプレミスで構築するよりも短期間で移行環境を整えることができ、基盤構築にかかるコストも低減できる。導入後もMKIが基盤の運用・保守を担うため、運用の負荷とコストの削減につながる
 顧客企業のグローバル展開を見据え、SAP技術要員の拡充も進めている。インドの大手IT企業テックマヒンドラとの協業を強化し、現行の300人体制から約600人体制へ拡大を目指していることはその一環だ。テックマヒンドラはSAPパートナーとして多くのグローバル企業へのSAP ERP製品の導入やサポートの実績があり、SAP関連の経験が豊富な技術者が多くそろうことで知られる。「国内企業に特有の商習慣や税制・法制、基幹システムの導入に必要な知見の習得をMKIがサポートすることで、技術要員の質・量をグローバルレベルで強化していきます」と加島氏は述べる。

 基幹システムの近代化に向けたMKIの挑戦はこれだけにとどまらない。自社のIT戦略の中で先端技術を先行的に導入する「クラウド・バイ・デフォルト」方針を定め、MKIグループのすべてのシステムをクラウドへ移行することを決定。この一環として、SaaS型ERP「SAP S/4HANA Cloud」(以下、S/4HANA Cloud)、SAPの開発プラットフォーム基盤であるSAP Cloud Platform、最新アナリティクスソリューションのSAP Analytics Cloudを導入するプロジェクトが進行中だ。

 「国内では例の少ない、クラウドサービスの標準機能に業務を合わせる『Fit to Standard(標準への準拠)』にも先行的に取り組んでいます。さらにSalesforce、RPAとの連携を図るなど知見を積極的に蓄積しています」(佐多氏)。新基幹システムは2020年4月に稼働を開始する予定だ。

 さらに基幹システム以外にもSAPの最新テクノロジー「Leonard」のAIや機械学習の活用などにより、顧客企業にどのような価値を提供できるのか、その検証も進めているという。

 MKIはSAPの知見と大型案件で培ったプロジェクト管理能力を融合し、次世代ERPへのリプレースを強力に支援。企画から保守運用までライフサイクル全般をワンストップで対応するソリューションの提供を通じ、2025年の崖を乗り越え、デジタル時代のビジネスを支えるDX基盤の実現に貢献する考えだ。
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三井情報株式会社 E-mail:press-dg@mki.co.jp