建築の安全を考える 第3回 防災設計の研究者が見た防火ガラス「ファイアライトプラス®」

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東京理科大学 理工学部建築学科 教授の大宮喜文氏は長年、建築物の火災安全性に関わる防災設計を研究テーマにすえている。専門領域である延焼拡大や群集避難の観点から重要視するのは、防火区画をどう構成するかという点だ。そうした専門家の目には防火ガラス「ファイアライト®」シリーズの製品はどう映るのか――。建築防災計画を検討する中で防災設計に対する基本の考え方とともに大宮氏にお聞きした。

防火関係規定は新たな性能規定の導入で防災設備を設計に活かす時代に

東京理科大学理工学部建築学科教授 副学部長(研究担当) 大宮 喜文 氏

――火災安全工学の中で建築物の防災設計が研究テーマとお聞きしています。具体的にはどのようなことを研究されているのですか。

大宮 延焼拡大性状や群集避難性状です。延焼拡大性状とは、建物内で火災が起きた時の炎や煙の拡がり方の特性のことで、一方の群集避難性状とは、建物内で火災などが起きたときに建物内の人がどのように避難するのかという特性のことです。これまで群集避難性状を研究していますが、例えば火災時には避難階段で人はどう流動するのか、解明されているようでまだ解明されていないことが多くあります。その様な研究を進める中で延焼拡大性状の研究にも取り組み、建築設計実務で配慮すべき防災計画上の課題に着目しています。

 そこで大事だと考えているのは、防火区画の構成方法です。防火シャッターや防火戸で閉鎖するにしても、その信頼性が問われるからです。例えば火災時に防火シャッターが作動しないなど、火災時には確実に閉鎖するという設備機器の動作への信頼性が揺らぐようでは困ります。

 防火区画と同様に延焼拡大防止対策として、スプリンクラーやドレンチャーなどの散水設備にも目を向け、水を用いる防災設備が延焼拡大防止にどの程度寄与できるかを研究しています。

――専門領域の中で最新動向として関心を持たれているのはどのようなことですか。

大宮 今年、施行される予定の防火関係規定の性能規定化です。2000年6月に施行された改正建築基準法で初めて性能規定が採り入れられましたが、その後、「防耐火偽装」などが発覚し、その流れは後退した感がありました。設計者や発注者が性能規定をこれまで以上に活用できるように、今年の性能規定化がうまく社会になじんでいくことを願っています。

 今回の性能規定化では、木造建築物をどのように防災設計すれば安全かというヒントが含まれるものと考えていますが、ここで注意しなければいけないのは、なぜ木造建築物に対する規制が厳しかったのか、という点をあらためて考える機会でもあると思います。それは、大規模木造建築物が大きな災害に見舞われた過去があるからです。木造建築物を広めていくにしても、安全策を講じることを怠ってはいけません。ただ、いまの技術や英知を結集すれば、火災安全性を確保しながら建てることができるはずです。

――研究テーマである延焼拡大防止に関して、期待できる動きは何かありそうですか。

大宮 スプリンクラーなどの防災設備の性能がこれまで以上に防災設計面で評価されれば、と期待しています。

 スプリンクラーを設置しておけば、火災時に火源を小さくすることができます。ところがこれまでは、排煙設備とともに設置されていれば内装制限の適用が除外されたり、防火区画の面積算定で設備設置部分の床面積の半分を除外できたりする程度しか、設計面では評価されていませんでした。防災設備が防災設計の選択肢の拡大につながる可能性があると思います。

――延焼拡大防止に利用できそうな火に強い素材としてはガラスが思い浮かびます。この3月には、日本電気硝子の大津事業場と滋賀高月事業場を見学されたと伺いました。感想をお聞かせください。

大宮 印象に残った製品は、超薄板ガラスの「G-Leaf®」です。フィルムのように透明で薄く柔らかいのに、ガラス同様、熱に強く、劣化しにくいうえに、キズが付きにくい。いろいろな用途展開が図れそうで面白いと感じました。

 また日本電気硝子と言えば、ガラスブロックが印象深いです。野田キャンパスにある火災科学研究センター実験棟の耐火炉を使用して実験し、防耐火性を評価したこともありました。野田キャンパスの講義棟の中央階段部分にも使われています。

工場で製造工程を見学する大宮教授

四周開放型の竪穴区画に強い不安感。シャッターには障害起きる可能性も

――防災設計のお役に立てる製品としては、防火ガラス「ファイアライト®」や、「ファイアライト®」を特殊樹脂で貼り合わせた「ファイアライトプラス®」があります。熱膨張係数がほぼゼロの耐熱結晶化ガラスでできた製品で、加熱後に急速に冷やされても割れないという特性を持っています。これらの製品のことはご存じでしたか。

大宮 もちろん、以前から知っていました。ただ、工場見学の際に、米国の認証機関であるUnderwriters Laboratories Inc.が製品の安全性を保証する規格として定める「UL規格」の試験をクリアしていることをお聞きし、あらためてその特性を再認識しました。この試験をクリアするのは難しいという印象だったものですから、感心しました。

 このガラスを特定防火設備や防火設備として使用した場合、火災時は消火用に放たれた水がかかることになります。ただでさえ消防が放水する水圧は高い。そのうえ、火災の炎で加熱された後です。普通なら温度差で亀裂が生じて割れてしまいます。ところが「ファイアライト®」は割れない。どのように製造されるのか、工場見学では興味深く拝見しました。

【UL規格試験】
「UL規格」では、防火戸の試験として消火作業時の安全面を考慮し、加熱試験に加え、加熱直後に放水試験を行い、消火作業中においても防火戸として著しい欠陥が起こらないことを確認することが義務づけられています。ファイアライト®はこれらの厳格な安全規格をクリアし、認定を受けた防火ガラスです。
ファイアライト®
その他の防火ガラス
試験方法    
加熱時間:30分 注水距離:約6m 注水水圧:(ホース先端で)30ポンド/平方インチ(約2.1kg/cm2
加熱温度:843度 注水時間:最大10秒 注水箇所:試験体の加熱面で枠も含めた全面に注水
UL規格について
「UL規格」は、アメリカの認証機関(Underwriters Laboratories Inc.:UL)が策定する製品の安全性を保証する規格です。ULは1894年に設立された非営利団体で、火災、盗難、その他の事故から人命や財産を保護するための安全規格開発・研究・試験・検査を行っています。

 とはいえ、衝撃に強いわけではない。強い衝撃を受ければ、ガラスは割れてしまい、事故につながります。大地震の時には、割れたガラスが脱落し、被害を与える例もみられます。そうした事故や被害を防ぐには、合わせガラスを使うことが考えられます。防火ガラスの中では「ファイアライトプラス®」が対応できると思います。

――「ファイアライト®」を延焼拡大防止に利用することはできそうですか。

大宮 使う場所によっては、うまく利用できそうですね。

 商業施設のエスカレーター付近を思い出してください。最近は四周が開放されている例が目に付き、不安を感じることがあります。大阪の千日デパートや熊本の大洋デパートで発生した火災のような多数の人が亡くなった過去の大災害を振り返ると、エレベーターや階段などの竪穴を煙が上昇し、被害を拡大した事実が多くみられるからです。

 以前は、エスカレーター周りなどは、ガラスと防火シャッターを組み合わせていました。これは、シャッターの閉鎖障害の可能性などを考えると、合理的な選択と言えます。ところが最近は、四周を開放し防火シャッターのみで対応する造りがあります。シャッターという設備に障害が起きる可能性があることを考えると、不安を禁じ得ません。

 エスカレーター周りは開放するのではなく、きちんと区切るべきです。その場合、意匠性を考えると、防火ガラスの設置が選択肢の一つかもしれません。煙は通さないが、視線は通す。それは重要なことです。

 スプリンクラーやドレンチャーを組み合わせる方法もあると思います。特定防火設備にしても防火設備にしても、求められる性能は遮炎性だけです。遮熱性は要求されません。しかし、「火」と「水」という対極に耐えられる「ファイアライト®」にスプリンクラーのような散水設備と組み合わせれば、火災時にはそれが作動することによってガラス面を水で冷やすことができるので、遮熱性も確保できます。法規上要求されてはいませんが、遮熱性も確保できれば安全性をより向上させることが可能です。

特定防火設備などに日常性を持たせ採用できる製品の選択肢に広がりを

――今後、延焼拡大防止には、どのようなことが求められていくとお考えですか。

大宮 特定防火設備や防火設備には、もっと日常性を持たせることができれば良いと考えています。例えば防火シャッターは、火災時だけ閉めるのではなく、管理用のシャッターとして日常的にも開閉するようにできればいい。実際、地下にある店舗などではそうした運用もみられます。排煙設備もそうです。設備スペースを日常使用する空調設備のものと兼用できれば、天井裏の空間を有効に活用できます。意匠設計者と設備設計者の間で設備スペースの大きさの調整を行う際に、排煙設備と空調設備のダクトを兼用できれば、それも楽になるかもしれません。

 このように特定防火設備や防火設備に日常性を持たせられるようになれば、採用できる製品の選択肢がもっと広がっていくのではないでしょうか。

――そうした中で、「ファイアライト®」や「ファイアライトプラス®」に今後どのようなことを期待するか、お聞かせください。

大宮 避難階段周りに用いた場合、それこそ日常性を持たせるためにガラス面にデジタルサイネージの機能を持たせ、日頃から階段位置を認識する手助けとしたり、火災時でも避難階段の場所が分かるように、例えばガラス面を発光させたりすることができれば、もっと価値が上がると思います。

 この避難階段は火災時の安全を確保するうえで非常に重要です。つまり、避難階段は「ここまでたどり着ければ、安心」という気持ちを抱かせる役割を担うような構造であるべきという考えが、建築防災計画の中で防災設計の基本となっているからです。

 だからこそ、何よりまず、場所が分かりやすくないといけません。そしてそこにガラスを用いるなら、簡単に割れてはいけないし、割れて脱落してもいけないのです。

――最後に、今後、取り組んでいきたい研究テーマをお聞かせください。

大宮 今回の性能規定化を社会になじませていくことです。ただ火災安全性は、定量的な検討で問題なければ確保できるというものではありません。建築物の安全性確保のための対策には、ソフト面、ハード面があり、残念ながら、現在の技術レベルでは簡単に数字だけで表すことができるものではないからです。

 建築基準法に性能規定が採り入れられる前、国の通達により高層建築物や大規模建築物などを対象に防災計画書の作成を求めていました。そこで、例えば階段室の場所は分かりやすいかという点など、プランを実際に見て定性的に判断しないと分からない点もチェックしてきました。

 建築設計者はこの防災計画書の作成やそれに基づく行政などとのやり取りを通して、例えば階段室は安全性の観点からこう設計しないといけない、という点を学んできました。そうした過程を踏んでいるからこそ、防災計画書の作成を求められない中・小規模のビルの設計でも、それまで培った視点で安全性を意識することができたのです。

 ところが性能規定が採り入れられ、その防災計画書の作成を求められる機会が減り、本来学ばないといけないことを学ぶ機会が失われてしまっています。性能規定が採り入れられた2000年以降に建築設計に携わる40歳前後より下の世代に、そうした機会をどう持たせるか。性能規定化を社会になじませていくのと同時に考えていく必要のある大きな課題ではないかと認識しています。

大宮 喜文
1967年東京都生まれ。1996年東京理科大学大学院博士課程修了。1996年東京理科大学理工学部建築学科助手。1998年建設省(現・国立研究開発法人)建築研究所研究員・主任研究員。2007年英国キングストン大学ロンドン火災爆発研究センター客員教授。2008年英国アルスター大学火災安全工学技術研究所客員教授。現在、東京理科大学理工学部建築学科教授、副学部長(研究担当)。博士(工学)、一級建築士、防火技術者。
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