桔梗原 DXを「1.0」「2.0」と表現していますが、これはどういう意図でしょうか。
増谷 これまで、デジタル技術を活用する目的は、業務プロセスの効率化がほとんどでした。それに対して、今、企業が目指すべきなのは、既存のビジネスを破壊し、新たなビジネスモデルへと変革していくことです。同じDXでも、両者は異なる取り組みです。そこで、私たちは前者を「DX1.0」と捉え、後者を「DX2.0」と呼んでいます。
桔梗原 そのようなDXの質の変化は、NRIのビジネスにどのような影響を与えていますか。
増谷 DX2.0に向けた取り組みはチャレンジです。要件定義を行って、システムを開発し、納品するという、一般的なシステムインテグレーターのビジネスだけでは通用しません。構想段階からお客様と同じ船に乗り込み、システムリスクだけでなく、ビジネスリスクも共有。トライ&エラーを繰り返しながら、新しいビジネスの創出を共に目指す。NRI自身がそのような新しいビジネスモデルに大きくかじを切っています。
桔梗原 既に様々なプロジェクトが生まれているそうですね。代表的な事例をご紹介ください。
雨宮 日本航空(JAL)様と共同出資して「JALデジタルエクスペリエンス」という新会社を設立しました。
既にJAL様とNRIは、行き先がどこになるか分からない、偶然の出会いを楽しむマイル交換サービス「どこかにマイル」を共同開発するなど、緊密な関係を築いてきました。JALデジタルエクスペリエンスでは、こうした取り組みをさらに発展させていきます。例えば、JAL様が持つ顧客基盤とNRIが持つAIなどのデジタル技術を組み合わせて、お客様一人ひとりのニーズをより深く理解。その上で、飛行機に乗るときだけでなく、旅行先や日常生活の中でもパーソナライズした提案を行うようなビジネスを展開したいと考えています。
また、工作機械メーカーであるDMG森精機様とも「テクニウム」という共同事業会社を設立しました。DMG森精機様が蓄積してきた加工ノウハウなどをソフトウエアやサービスに仕立て、デジタルチャネルを介して提供。工場のデジタル化を支援します。
ほかにも資生堂ジャパン様のスキンケアシステム「Optune(β版)」の開発も支援しています。これは、スマートフォンアプリを使ってお客様の肌画像を取得し、肌の状態を測定。そこに気候や気分などのコンディション情報も加えて分析を行い、美容液と乳液の最適な組み合わせと使用量を割り出し、お客様宅に置いた専用抽出マシンを通じて肌のお手入れをサポートするサービスです。料金はカートリッジ代金に加え、サービス月額利用料を組み合わせた新しい課金モデル。ただ化粧品を売るのではなく、新しいエクスペリエンスを提供します。
これらの事例以外にも、金融や食品、情報通信など、様々な領域で多数のプロジェクトが進んでいます。
桔梗原 ご紹介いただいた数々の事例からNRIの本気度がうかがえます。
増谷 これこそ、お客様とNRIにとって必要なビジネスモデルであり、NRIの新しい姿だと確信しています。不退転の覚悟でDX2.0に取り組んでいます。覚悟を決めたら、迷いもなくなりました。
桔梗原 DX2.0を成功させるポイントのようなものはありますか。
雨宮 様々なプロジェクトを経験して「データ」「ダイレクト」という2つのキーワードがポイントだと感じています。先ほどの資生堂ジャパン様の取り組みは、その典型です。データを分析してパーソナライズを行い、お客様と直接つながるダイレクトチャネルを通じて、それをレコメンドする。この構図が通用するビジネスは多いのではないでしょうか。
増谷 新しいビジネスを構想し、それを具現化していくには、既存の体制や環境などによる障壁を取り除いておく必要があります。各部門の利害ではなく全体の利益を優先させるには、各部門の個別最適ではなく全体最適の視点での組織運営が求められる。IT環境においても、サイロ化されたシステムの中で個別に管理されているデータを統合するなど、全体最適化の視点が重要となります。
また、ITとビジネス、ビジネスとITを橋渡しできる人材を育てることも重要。NRIも、そうした人材の育成に力を入れています。
桔梗原 最後にDXに向けた取り組みを推進している企業にメッセージをお願いします。
増谷 NRIが従来型のシステムインテグレーションサービスをゼロにするわけはないように、多くの企業にとって、業務プロセスの効率化などは、これからも重要な取り組みです。しかし、それだけでは継続的に成長し、競争優位を確立するのは困難な時代になっています。ビジネスそのものを変えていくDX2.0が不可欠なのです。
NRIは、ビジネスとITに精通し、既にDX2.0における多くの実績も持っています。ITパートナーとしてだけではなく、DXパートナーとして、NRIならではの価値を武器に、これからも多くのお客様との共創にチャレンジしていきます。