「日本一起業しやすいまち」を目指して
仙台市から独創的なピッチイベントがスタート 雪がちらついた2018年末の仙台市で、NTTドコモ・ベンチャーズやNTTドコモらが仙台市と共同で「仙台アライアンスピッチイベント」を開催した。選り抜きの5社が登壇したイベントの様子とあわせ、関係者の言葉を通じて“地方都市の可能性”をあぶり出していく。
 雪がちらついた2018年末の仙台市で、NTTドコモ・ベンチャーズやNTTドコモらが仙台市と共同で「仙台アライアンスピッチイベント」を開催した。選り抜きの5社が登壇したイベントの様子とあわせ、関係者の言葉を通じて“地方都市の可能性”をあぶり出していく。

仙台市のランドマークとなる企業を育てたい

 仙台市では「日本一起業しやすいまち」を目指してさまざまな支援を行っている。平成26年(2014年)には、玄関口となる仙台駅すぐそばの仙台市産業振興事業団内に起業支援センター「アシ☆スタ」を開設。開設後の開業件数が急増し、平成27年度末には政令指定都市中で第2位の新規開業率となった。

 2018年12月14日、そんな“起業精神に溢れるまち”を舞台に「仙台アライアンスピッチイベント」が開催された。本イベントは仙台市が主催、グローバルラボ仙台が共催したもので、仙台市を中心とした東北の起業家がさらに発展していくための“場”を提供するのが狙いだ。

 グローバルラボ仙台(以下GLS)は、仙台市とフィンランド・オウル市との産業振興協定に基づき、仙台東北にゲームとITを主軸とした新産業をつくる目的で2013年12月に設立された。これまで、仙台の企業とオウルの企業との協業や、仙台市内の学生がアプリ開発で収益をあげるなど一定の成果を上げている。

 2018年3月までGLSのゼネラルマネージャーを務めた篠原敏也氏(現在はNTTドコモ・ベンチャーズ所属)は、今回のイベントのキーパーソンであり、ここ数年間は、親身になって仙台の産業振興に携わってきた。

元GLSのゼネラルマネージャー、現NTTドコモ・ベンチャーズの篠原氏

 「仙台アライアンスピッチイベントは、仙台にいる時からずっと温めていた企画。仙台市内のIT事業者は、関東の企業からの受託を中心とする事業者が多く、自社サービスを開発して、グローバルに展開しようと考える事業者が少ない。支援する我々としては、他社に収益依存する受託ではなく、自社サービスをベースに、国内のみならず、マーケット規模の大きい海外でビジネスを行う“仙台生産・海外消費型のビジネスを行う企業に出てきてほしい。つまり“仙台といえばこの会社”というランドマークとなる企業を発掘し、育てていきたい――それがこの企画の発端だ」(篠原氏)

 前述のように仙台市内には、数多くの起業家はいるが、篠原氏によれば「ビジネスや技術を学べる勉強会やITコミュニティはあるものの、ベンチャーキャピタル(VC)やエンジェル投資家の前でピッチを行い、資金調達や協業相談、事業メンタリングなど、事業スケールを目的とした実践的なイベントがほとんどなかった」という。「本気で起業家を育てるならば、学んだ後に、より具体的なアクションまでコミットさせるべき。東京と地域の差は、そもそもの起業家の母数とこうした実践的な場があるかどうかだけ。こうした起業家向けのイベントが仙台市でも定期開催されることを期待しつつ、仙台の活動を東京や他の地域にも積極的に示していきたい」(篠原氏)と抱負を話してくれた。

ITによる産業振興、仙台市とNTTドコモが期待すること

 NTTドコモでも2016年8月、仙台市とICTを活用したまちづくりに関する連携協定を締結。この連載でも2度にわたって協創の成果を報告してきた(「被災地だからこそ見えたドローン活用」「ドローンレースの先にある未来地図とは?」)。

 今回のイベントの意義を関係者はどう捉えているのか。イベント前、仙台市 経済局 産業政策部 産業振興課長の白岩靖史氏、NTTドコモ 東北支社 法人営業部長 東北復興新生支援室 兼務の山田広之氏、NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役社長の稲川尚之氏に話を聞いた。

左からNTTドコモ・ベンチャーズの稲川氏、NTTドコモ 東北支社の山田氏、仙台市の白岩氏

――ついに仙台アライアンスピッチイベントがスタート。まずは皆さんの思いを教えてほしい。

白岩氏 NTTドコモやNTTドコモ・ベンチャーズの協力をいただき、非常に高い意欲を持った企業がエントリーしてくれた。ピッチに参加するのは5社のみだが、今回をきっかけにNTTドコモとの協業なども含めて次につながるような形に発展してほしい。

 最も大事なのは、自分の事業で仙台・東北のボトルネックになっている部分を変えたいという気持ち。会場に足を運んだ皆さんもそういう熱い気持ちを聞きにきている。それが一番期待したいところだ。

山田氏 東日本大震災以来、NTTドコモ東北支社は仙台市とともに積極的に復興支援に関わってきた。地方だからこそ、新しいビジネスを作っていかないと経済が停滞してしまう。その一環としての今回のイベントとなるが、ぜひ皆さんの解決策にドコモのアセットを加えてほしい。例えば販路拡大も1つの手段だし、新しい雇用を生み出すことも地方経済の活性化につながる。これを機に、東北にフォーカスした社会課題を一緒になって解決できる場に育てていきたい。

稲川氏 仙台市で育った起業家の皆さんがどのように課題を見つけ、どのようなビジネスでそれを解決していくか。仙台市ならではのソリューションを聞けるのがすごく楽しみだ。今回のイベントは、商工会議所や市役所などの通常の中小企業支援とは違う形で行われるもの。こうした新しい形が仙台市に定着すれば、事業を起こしやすくする環境が育ち、切磋琢磨することで自分たちのウィークポイントを見つけて修正できるようになる。ビジネスに有益なシナジー、ハッキングが起きる場なので、参加した企業にとっても刺激がある。

――仙台市におけるIT分野の現状は?

白岩氏 情報通信系の事業所数は600〜700社ほどあり、震災後にかなり増えた。勢いのあるベンチャー企業が仙台市に最初の地方開発拠点を置く動きも出てきている。東北6県からたくさんの若い有望な人材が集まってきているのは間違いない。

仙台市におけるIT産業は活況だが、首都圏への人材送出も多い

 その一方、仙台市は最も首都圏に人を送り出している都市でもある。5Gの時代になれば産業だけではなく、我々の日常生活により深くICTが入り込んできて、いままでとは違うソリューションが必要になってくる。ローカルにいるプライドは持ちつつ、そこに真正面から自分たちの提案ができる企業がもっともっと増えていかなくてはならない。

――NTTドコモが仙台・東北の経済振興にコミットするのはどうしてか。

山田氏 2020年には5Gが商用化されるが、まずはICT分野を軸に活用いただきたい。その準備も含め、早い段階から新しいことにチャレンジする企業には協業をしようと呼びかけていきたい。これまでも仙台市と共同でドローンの実験などを行ってきたが、5Gの特性を活かすことで、例えば新しい水産ビジネス創出の可能性も出てくる。ドコモのアセットを加えて新しい市場を作っていく「+d」のビジョンによって、新たな5Gの市場を一緒に作ることができると信じている。

NTTドコモでは仙台市と連携協定を結び経済振興にコミット

――NTTドコモ・ベンチャーズにとっての「地方都市」ならではの視点とは。

稲川氏 社会課題は東京などの大都市に集中しているのではなく、仙台市のような地方都市が抱える課題もたくさん存在する。地産地消よろしく、地域の課題はそこで暮らす人たちが解決したほうがより効果的だと思う。仙台市という環境に呼応する起業家同士が課題を共有して解決すれば、それによって地方都市独特の企業文化が映し出されるようになってくる。

 “仙台らしさ”が醸成されれば大都市と明確な差別化が図れるため、投資家としてはお金を入れやすくなる。先ほどの漁業のICT活用などは典型的な例。AIも発達してきたので、一番面倒なことをテクノロジーに代替させれば、事業の構造も徐々に変化してくるに違いない。

稲川氏は“仙台らしさ”の醸成が鍵を握るという

――このイベントをきっかけに、仙台市が目指すべき未来はどんなものか。

白岩氏 仙台市は東京と距離が近いことが強みでもあり、弱みでもあり、魅力でもある。しかし東京と対立関係になる必要はなく、東京に行って鍛えられることも大事。そこで学んだ人たちが新たな挑戦の場として仙台市を選んで帰ってきてほしい。

 しかし地域性もあるのか、これまでの仙台市は起業家が挑戦し、鍛えられる環境としては弱かった。今後は理想を現実に変えるために、厳しい果たし合いの場が必要になる。だから今回のイベントは、次のフェーズへと生まれ変わるためになくてはならないものなのだ。

山田氏 仙台市は東北の中心となって全体をリードしていく街。常に新しいことに挑戦する場にならないと東北全体が衰退してしまう。この街にはたくさんの大学があり若者が集まりやすい環境であるし、大学があれば企業も後押ししやすくなる。ぜひ仙台市以外の皆さんに、“仙台市に行けば、何かが起きるのではないか”との思いで来てほしい。いずれにしろ我々は、今後もICTを活用した革新的なビジネス・サービスの創出にコミットしていきたい。

稲川氏 米国でも、シリコンバレー以外にシアトルやオースティン、フェニックス、ボストンなどでベンチャーが盛んだ。日本でもこうしたイベントやコワーキングスペースが地方のあちこちに立ち上がって、わざわざ東京で起業する必然性が少なくなってきた。福岡市のように新たなビジネス機会を増やしているベンチャーが多い街は、大阪や東京ではなく、地元から世界を目指している。きっと仙台市もそんなふうに発展していくだろう。

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