神戸市とNTTドコモによる新たな試みとして、このほど高齢者に対する見守りの実証実験が始まった。核となる小型ワイヤレスセンサーを提供するのは米サンフランシスコ発の気鋭のスタートアップ。高齢大国・日本の社会課題をテクノロジーがどのように解決するのか。関係者の言葉を交え、その狙いをひもとく。
 神戸市とNTTドコモによる新たな試みとして、このほど高齢者に対する見守りの実証実験が始まった。核となる小型ワイヤレスセンサーを提供するのは米サンフランシスコ発の気鋭のスタートアップ。高齢大国・日本の社会課題をテクノロジーがどのように解決するのか。関係者の言葉を交え、その狙いをひもとく。

非接触のワイヤレスセンサーで心拍や呼吸まで計測

 2019年7月29日、神戸市の中心地に位置する特別養護老人ホーム「山手さくら苑」にて、ある実証実験がスタートした。主体は神戸市とNTTドコモ。両者は平成31年3月から3年間、「ICTを活用した安全安心なまちづくり」に関する事業連携協定を締結しており、実証実験は協定の取り組みの1つとして計画されたものだ。

実証実験の場を提供した山手さくら苑

 その内容は、入居者に対する見守りサービス。見守りと言えばカメラによる監視や体へのデバイス装着を想像するかもしれないが、今回採用したのは非接触タイプの小型ワイヤレスセンサーで、全5台を入居者の個室に配置する。介護施設の職員が入居者の状況をリアルタイムで把握することが目的だ。実験は2019年8月31日まで、およそ一カ月かけて行った。

個室のベッド脇に設置された小型ワイヤレスセンサー(中央の白いボックス)

 同日、山手さくら苑にて説明会が開催された。神戸市 企画調整局 ICT連携担当部長 松崎太亮氏は政令市の中でも神戸市の高齢化率、高齢単独世帯率が高いことを指摘。「人口が減少していく中で、どのような見守りをするべきかが大きな課題。そこでIoT機器や利便性の高いテクノロジーを使うことが鍵を握る」と語った。

神戸市 企画調整局 ICT連携担当部長 松崎太亮氏

 NTTドコモ イノベーション統括部 企業連携担当 山浦隼人氏は技術的な側面を解説。特徴として「非接触型でストレスなく健康状態が把握できること、カメラレスのためプライバシーに配慮してモニタリングできること」の2点を挙げた。

NTTドコモ イノベーション統括部 企業連携担当 山浦隼人氏

 体の微小な動きをワイヤレスセンサーが発する電波によって検知し、睡眠、歩行の状態はもちろんのこと、非接触ながら心拍、呼吸などの生体データもキャッチする。センサー技術を提供したのは米サンフランシスコに拠点を置くスタートアップ「Tellus You Care(以下テラス)」である。データはクラウドにアップされてAIにより分析処理され、遠隔から専用サイトで確認できる流れだ。

センサーによる状態把握のデモ。デモではカメラを置いて人の動きを見せたが、実際はカメラレスなので管理画面のみとなる

 リアルタイムでモニタリングするこれらのデータによって入居者の健康行動の継続的な把握が可能。さらに、深夜に起床する、いつもより歩行が多いなどの行動情報の変化は介護士へと通知され、とくに人手の少ない夜間・早朝における効率的な巡回や介助に役立てることができる。松崎氏は「少ないスタッフで最大の効果を上げるための検証も行う。介護現場における深刻な人材不足は全国共通。実証結果を広く展開していく可能性は十分にある」と展望を語った。

一緒の方向だからこそ生まれた前向きなコラボレーション

 もともと神戸市は、医療・ヘルスケア領域に注力してきた。阪神・淡路大震災の復興事業の柱として1998年に「神戸医療産業都市構想」がスタート。現在、神戸ポートアイランドには約350もの医療関連企業・研究施設が集積する。

 また、2016年からは米シリコンバレーのベンチャー・キャピタルである「500 Startups」と共同でスタートアップ育成プログラムを開始。4年めを迎えた今年はヘルステックに特化した新ビジネスを対象に、神戸医療産業都市と連携したプログラムを実施する。

 このような背景もあり、今回の実証実験は産学が密に結びついたプロジェクトと呼ぶべき前向きなものである。これまでも神戸市とNTTドコモは、2016年からBLE(Bluetooth Low Energy)タグを用いた子どもの見守りに取り組んできた。その成果を踏まえての経緯を、松崎氏はこう話す。

神戸市では、それぞれの役割を踏まえたコラボを見据える

 「こうした実証は補助金だけでやるものでもなく、最先端テクノロジーも確認する必要がある。社会実装の段階では民間企業と連携して、全体で見守っていかなくてはならないからだ。そこでNTTドコモが持つ技術を活用して、今までも実証実験を繰り返してきた。

 ある程度の実験成果だけで判断して自治体がフルセットのサービスを導入する――そうしたスキームでは発展が見込めない。その後も持続的に民間サービスとして磨いてこそ効果がある。神戸市は実験の場を提供でき、逆にNTTドコモは場を求めていた。思いが同じだからこそ円滑な連携へと結びついた」(松崎氏)

 これを受け山浦氏は、「我々も技術は持っているが、実際の現場で使えるかどうかはトライしてみないとわからないし、いきなり商用サービスというわけにもいかない。今回は介護施設に入らせてもらって、介護の現状も把握しつつ走りながら考えることができる。非常に良い機会と捉えている」と語った。

サービスの精度を向上するために「またとない機会」と話す山浦氏

 テラスはNTTドコモ・ベンチャーズが発掘し、2018年11月に投資を行ったスタートアップだ。NTTドコモ・ベンチャーズは投資をはじめとするスタートアップ支援を行うとともに、テラスのような社会課題解決型の事業を次世代ビジネス創造の視点から支えている。今回のプロジェクトは、海を超えてNTTドコモ・ベンチャーズの“スタートアップとの関わり方”を示した一例と言えるだろう。

 テラスCEOのターニャ・A・コーク氏は「コーポレートベンチャーキャピタルと組めたことは非常にラッキー。なぜなら、こうしてNTTドコモとつながることができ、テラスのプロダクトとサービスを広げるきっかけになったからだ。この実証を機に、神戸市やNTTドコモとの関係をより深めていきたい」と喜びを表した。

テラス CEO ターニャ・A・コーク氏

 ワイヤレス技術を用いた非接触による屋内の健康行動検知デバイスおよびソフトウエアの開発を主力とする同社は、当初から“高齢者の課題大国”である日本をターゲットにしていた。「私たちのデバイスは高齢者の長期的な健康管理、リアルタイム性が求められるアラートなどの見守り、そして介護士の業務改善を可能とするもの。介護士によるケアの精度を高めることで、入居者のQoL(生活の質)も上がると考えている」(コーク氏)。

 山手さくら苑 施設長 安東武博氏は「人材確保、人材育成などの課題をずっと抱えていた。常々、ICTの利活用であったり、介護ロボットの導入などを考えて展示会にも足を運んでいたほど。自分たちが実証に加わることで、より現場の視点で意見をフィードバックできる。そうすれば、より良いものができるはずだ」と期待を寄せる。

山手さくら苑 施設長 安東武博氏

 行政が積極的にスタートアップと組むのは米国の課題解決型プロジェクト「Start Up in Residence」がモデルだという。松崎氏は「新しいテクノロジーを持つスタートアップが行政課題を解決し、それをビジネスに育てていく。これからは行政がすべてを解決するのではなく、テクノロジーを持ったスタートアップが大企業と一緒にコラボレーションできる気運が高まってくる」と語った。

 NTTドコモが掲げる“協創”のビジョンもまさにこの考え方に則したものだ。山浦氏は「スタートアップに目を向けると、テラスのように1つの技術に特化している企業が多い。それらと提携してNTTドコモのアセットや技術を掛け合わせることで少しでも早く市場に出すことができる」とする。

「皆が課題解決のために同じ方向を向いていた。実証に参加する関係者のみならず、いずれは市民も含めたすべてのステークホルダーの役に立ちたい」と松崎氏。今はスタートしたばかりだが、3年後、5年後には非接触センサーの見守りが日本中のスタンダードになるかもしれない。そんな“いつかは当たり前”の世界を目指し、産学の壁を超えた濃密なコラボレーションは進む。

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ドコモ・イノベーションビレッジ事務局
E-mail:village-application@nttdocomo-v.com