NTTドコモ・ベンチャーズが、AIを用いた投資情報サービスを手がけるaiQに出資した。ビッグデータの元となるのは、ドコモ・インサイトマーケティングによる「モバイル空間統計®︎」である。次世代マーケティングの先に、3社が見つめる未来を聞いた。
 NTTドコモ・ベンチャーズが、AIを用いた投資情報サービスを手がけるaiQに出資した。ビッグデータの元となるのは、ドコモ・インサイトマーケティングによる「モバイル空間統計® 」である。次世代マーケティングの先に、3社が見つめる未来を聞いた。

金融×AIのスペシャリストが立ち上げたスタートアップ

 2019年3月27日、NTTドコモ・ベンチャーズが新たな有望株へ出資を行った。対象はaiQ。大手金融機関でAIを活用した投資の最前線にいたメンバーが中心となり、2018年に設立したばかりの若いスタートアップだ。

 aiQは伝統的な決算開示データに依らない、位置情報やPOSデータ、SNSなどのオルタナティブデータをビッグデータ解析し、これまでにない側面から投資情報を提供する。aiQでCEOを務める山本裕樹氏は “日本のディープラーニング聖地”である東京大学の松尾研究室(松尾 豊教授)で学び、前職の野村證券時代にはSNSをディープラーニングで解析した新しい経済指標「SNS×AI景況感指数」を経済産業省と共同で開発・公表した実績を持つ。

 2019年2月にスタートしたaiQの投資情報サービス「aiQ Geolocation」では、ドコモ・インサイトマーケティング(以下DIM)が提供する「モバイル空間統計® 」をビッグデータとして活用する。モバイル空間統計はNTTドコモの登録商標であり、高精度な人流分析や予測サービス向けデータとして広く利用されている。その内容は位置データ・属性データなどの運用データを統計処理して作成した人口の推計値となっており、匿名化することでプライバシーには十分に配慮している。

 3社の担当者に集まってもらい、今回の協業の狙い、そしてそれぞれが見つめる未来像を聞いた。参加したのはaiQ CEO 山本裕樹氏、aiQ COO 秋野豪士氏、ドコモ・インサイトマーケティング エリアマーケティング部 副部長・技術統括 鈴木俊博氏、ドコモ・インサイトマーケティング エリアマーケティング部 田村隆太郎氏、NTTドコモ・ベンチャーズ シニアディレクター 西田克利氏の5名。

(左から)NTTドコモ・ベンチャーズの西田氏、aiQの秋野氏、aiQの山本氏、ドコモ・インサイトマーケティングの鈴木氏、ドコモ・インサイトマーケティングの田村氏

AI経由でいかにして正しく高精度な情報を届けるか

――aiQが始めた「aiQ Geolocation」はどんなサービスなのか。

山本氏 いま金融の世界では、オルタナティブデータを投資情報として活用するトレンドがある。我々もそれをサービスとして手がけている。コンセプトは、誰も使ってこなかったデータを活用すること。初期にはいろんなデータを検討したが、結果的にモバイル空間統計を使うことに決めた。日本で初めて、モバイル空間統計を投資情報に活かしたサービスだ。

aiQの山本氏

――具体的な活用方法は?

山本氏 投資家は通常、伝統的な財務データ、つまり企業の決算情報を見て業績を判断している。しかしモバイル空間統計ならば、まさにいま使われているサービスや店舗がわかる。よりビジネス的な視点で言えば、どの工場にみんなが集まって忙しく残業しているかも把握可能だ。結局のところ、人の動きは経済活動に密接に関わっている。そこで人の動きから経済活動を明らかにして、投資家に提供しようと考えた。

秋野氏 なかでも注視しているのが製造業。これまで製造業では、四半期の決算が出るまで情報がないのが普通だった。我々のサービスを使うことでいち早く推測できるようになったので、徐々に注目が集まっている。現在のデータ提供先は主に日本株に投資している海外のヘッジファンド。BtoBで展開している。

aiQの秋野氏

――なるほど。では、改めてモバイル空間統計について教えてほしい。

鈴木氏 モバイル空間統計は2008年から研究開発を進めている。プライバシー保護に関しては総務省、個人情報関係の有識者、消費者団体などと話し合いながら配慮してきた。その上で、2013年から実際の事業を開始した。

 現状ではNTTドコモの国内居住者約7800万台、訪日外国人約900万台という膨大なサンプルから24時間365日の人口を時間帯別・エリア別に推計している。もとになっているのはNTTドコモの携帯電話ネットワークの運用データだ。

DIMの鈴木氏

――そもそもaiQがモバイル空間統計に着目した理由は。

山本氏 オルタナティブデータの1つである衛星画像のデータからヒントを得た。海外では衛星から駐車場の混み具合を見て売上を判断するサービスなどもあるが、正直なところ、もう少し精度が高いものはないのかとの思いがあった。

 そんなとき、たまたま訪れたマーケティング会社のロビーでモバイル空間統計のプロモーションビデオを目にしたのが最初のきっかけ。携帯電話からの信号をキャッチするモバイル空間統計ならば明らかに衛星データよりも精度が高いと判断した。

 当時、経済産業省から委託を受けて「残業」を示唆するツイートから鉱工業生産指数を予測するという取り組み(注: 平成28年度IoT推進のための新産業モデル創出基盤整備事業<ビッグデータを活用した新指標開発事業>)を行っていたので、モバイル空間統計を使うことでより精度が向上すると考えた。

 そこで知り合いを介してDIMの鈴木さんを紹介してもらい、「モバイル空間統計のような人口統計情報は今後、投資情報として活用の幅が広がるのでぜひやらせてください」と説得して協業がスタートした。

 いくつか他社のデータも比較検討したが、やはり圧倒的なユーザー数がまずは強みだった。加えてモバイル空間統計は基地局から計測しており、携帯電話の電源が入っていれば常に信号を取得できる。金融は安定性、ヒストリカルなデータが非常に重要になるため、我々の投資情報に関してこの高精度なデータは不可欠のものだった。

――熱い思いを受けてのDIMの反応は?

鈴木氏 もちろん大きな可能性を感じた。我々もぜひ一緒に取り組みたいと同じ気持ちだった。それまでのモバイル空間統計の利用は、特定のエリアの人数変化を知りたいというクライアントのニーズに対して個別に対応するものだった。しかしaiQは最初から「日本全国の数年分の変化量のデータを見たい」と。なので通常のビジネスとは異なるアプローチから始まっている。

田村氏 特定のサービスに紐付いて定常的にデータを提供する形は初めて。さらにモバイル空間統計のデータを使って付加価値を生み出すことも魅力的だった。今回の協業を機に、いろんなスタートアップからも問い合わせがある。それこそNTTドコモ・ベンチャーズ経由でご紹介いただくことも多い。モバイル空間統計の新たな活用方法の突破口になったと言えるかもしれない。

DIMの田村氏

――先に2社の協業が始まっているなか、NTTドコモ・ベンチャーズは出資によってさらなる後押しをした。そこまで期待をかけたのはなぜか。

西田氏 もっともっと広がると思えたからだ。マクロな視点で言えば、aiQのAI・ビッグデータ解析がNTTドコモやNTTグループの将来のビジネスにつながるはずだと。

 収集するデータを何もモバイル空間統計に限定する必要はない。例えばNTTドコモのdポイント会員基盤など、グループ内には他にも価値の高いデータがたくさん存在する。そのデータをaiQに預けたら、さらに違ったサービスが展開できるのではないかと感じている。そうすれば今後、一緒に分析ノウハウを活かして他企業にサービスとして販売することができる可能性も出てくる。そこまで見据えて協業を後押しした。

NTTドコモ・ベンチャーズの西田氏

――3社の協業はこれから加速する。それぞれ、未来についてはどのように考えているか。

山本氏 もともとは個人から投資マネーと情報を集めて運用して、リターンが出たらしっかりと還元するサービスをやりたいと考えていた。その情報は位置情報だったり、購入履歴だったり、あるいはもっと個人的なデータだったりとさまざまなものを想定している。個人が自分のお金を運用するために喜んで情報を提供してくれるような会社を目指している。もちろん課題も多いが、そのために必要な知見や技術が徐々に蓄積されている。

 リスクが発生するのは投資の常だが、なるべく効率的に、良いモノやサービスを作っている企業に投資マネーが集まる仕組みを作りたい――そんな世界を実現できれば。

 今回、こうした夢にDIMとNTTドコモ・ベンチャーズは共感してくれた。これからも良質なパートナー関係を築いていきたい。

鈴木氏 インプットデータとしてモバイル空間統計をより正しく推計するのが我々のミッション。協業を進めるなかで、時間解像度、地理的解像度をより高めることができれば、予測そのものを高度化できるとの話し合いも重ねている。DIMとしても、よりリアルタイムに近い状況でデータを提供できるように準備を進めており、これらに関してはaiQにファーストユーザーとして利用してもらうつもりだ。リアルタイムだからこそわかる企業の業績予測が根付けば面白い。

西田氏 大きく成長してほしいのはもちろんだが、サービス提供開始からまだ半年でアーリーステージ。今後、NTTドコモ、NTTグループのリソースやアセットを上手くつなげていくことも鍵を握る。その橋渡し役として引き続き支援していきたい。

 先ほど山本さんが話したように、将来的に個人の価値あるデータをもとにした投資情報サービスが確立されれば、NTTドコモの個人向けサービスの1つに入ってきてもおかしくはない。理想は幅広い企業からデータを収集して新たなサービスを生み出していくこと。aiQのAIなら、投資情報に限らずさまざまなことに応用できると信じている。

朗らかな笑顔からも3社の良好な関係性が伝わってきた

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