最近、何かと目にすることが増え、注目度も高まっている「MaaS(Mobility as a Service)」。人々の移動手段を便利にする新規サービスが世界中で登場するなか、日本でもさまざまなステークスホルダーが試行錯誤を重ねている。NTTドコモ・ベンチャーズが開催したイベントから、日本のMaaSにおける現状や課題、そして未来を読み解く。
 最近、何かと目にすることが増え、注目度も高まっている「MaaS(Mobility as a Service)」。人々の移動手段を便利にする新規サービスが世界中で登場するなか、日本でもさまざまなステークスホルダーが試行錯誤を重ねている。NTTドコモ・ベンチャーズが開催したイベントから、日本のMaaSにおける現状や課題、そして未来を読み解く。

サステナブルな仕組みでなければ事業は続かない

 2019年9月17日、NTTドコモ・ベンチャーズは、「地方MaaS ビジネスの現在と未来から見るビジネスチャンス」と題した勉強会を開催。MaaSにかかわりのあるステークスホルダーを招き、地方MaaSの状況やこれからの展望を見つめ直すとともに、さまざまな角度からビジネスチャンスの糸口を探った。

 冒頭の挨拶でNTTドコモ・ベンチャーズの井上氏は、まず「さまざまなプレーヤーの協力がなくては、日本版のMaaSサービスは生まれてこない」と訴えた。さらに、そのためには「他のプレーヤーとどのような協力関係を結んでいくことが理想なのか」や「ミッシングピースは何処にあり、スタートアップはどの領域でビジネスを行えるのか」という2点を発信する必要があると考え、MaaSのイベントを企画したそうだ。そのような背景にあって、今回は異なる武器で地方のMaaSビジネスに挑んでいる4社に登壇してもらい、「地方MaaSの理想的な協力関係と、スタートアップが生まれる余地のある領域を参加者に届けたい」と語った。

 今回登壇したのは、MaaS Tech Japan 代表取締役の日高洋祐氏、静岡県交通基盤部建設支援局 建設技術企画課 建設ICT推進班 班長の杉本直也氏、電脳交通 取締役/COOの北島昇氏、NTTドコモ コネクテッドカービジネス推進室 室長の深井秀一氏の4人。前半はまず、それぞれの立場からMaaSについて語ってもらった。

 日高氏によれば、MaaSはフィンランドから出てきた概念で「利用者が多様なモビリティサービスに対して『1つのサービス』として自由に選択できる」と定義され、「自家用車がなくても、公共交通とICTを活用して同等の移動サービスを提供するもの」と説明する。ただし、MaaSには自動車メーカーがイメージするもう1つのモデルもあり、「従来は売りきりだった自動車を、カーシェアやレンタルなどで“as a Service化”する考え方もある」と補足した。

 また、MaaSは一般的に5段階でサービスレベルが定義されるのだが、日高氏は「社会課題を解決できる最上位のレベルでなければ意味がない」と強調。ただし、地方では「需要の低下」や「高齢化」などが社会課題として挙げられるが、具体的な解決策は「まだ提示されていない」と語る。

 

 そういったなか、日高氏は日本マイクロソフトとともにMaaSのリファレンスアーキテクチャ(業界共通的なシステム方式やデータ構造)を策定して公開した。これは、モデルや知見を囲い込みのではなく、誰もが参照できるようにすることで、業界全体に貢献しようという考えに基づいている。また、地方版MaaSは「KPI設定とそのフィードバックループ」と「周辺領域との連携によるビジネス戦略の策定」が重要で、「ノウハウやデータ、関係性の囲い込みを如何になくせるかがポイントになる」とまとめた。

MaaS Tech Japan 代表取締役 日高洋祐氏

 杉本氏からは、静岡県の取り組みが紹介された。静岡県では現在、位置情報などを有する点群データをクラウド上に蓄積している。この点群データを膨大に集めると、地形や建造物などの3Dで詳細に描画できることから、災害に備えて点群データを蓄積する「VIRTUAL SHIZUOKA構想」を進めている。この点群データを、MaaSにも活用しようというわけだ。

 すでに、自動運転のためのベース地図(ダイナミックマップ )としての活用が始まっている。ただし、最終的な目的は「自動運転の実現」ではなく、その技術を「地域課題の解決に活かす」こと。最大の地域課題には「少子高齢化による人口減少」があるが、例えば高齢者が運転免許を返納した際にタクシー券を配っても、そもそもタクシーの運転手が減っているため、根本的な解決にはならない。つまり、「免許を返納した先まで考えなければ、未来はない」と杉本氏は訴える。

 このような背景を踏まえ、「もう一度、道路や街づくりを考え直す必要がある」というのが静岡県のスタンス。そこで、MaaSを推進するためにVIRTUAL SHIZUOKAを「仮想空間のテストフィールドとして活用してもらいたい」と考え、静岡県東部・伊豆地域の約1,000km2をモデルエリアとする高密度な点群データを取得するとともに、それをオープンデータ化する取り組みを2019年10月からスタートする予定だ。さらに、このような取り組みを進めていくことで、法規制の緩和や多様な企業の参画による実装フィールドの構築も目指していく。

静岡県交通基盤部建設支援局 建設技術企画課 建設ICT推進班 班長 杉本直也氏

 では、地方のタクシー業界の現状はどうなっているのか。電脳交通の北島氏いわく、現状の課題としては「市場縮小」「高齢化」「進まないIT化」が挙げられ、「自動運転を待っていられる状況ではない」とのことだ。また、利用者としては“ドアtoドア”が求められていることから、改めて「タクシーが大事」という雰囲気は出てきているものの、現実問題として「タクシー会社は1年間に50社なくなり、車両数は4000台減っている」(北島氏)。

 さらに、近年は配車アプリが注目を集めているが、「既存の無線システムとの互換性」や「歩合制のマネージメント」などが障壁となって、なかなか導入が進んでいない。そのほか、地方のタクシー事業者の実態は「約70%が1~10台の小規模事業」「約75%が電話配車」となることから、電脳交通ではクラウド型の配車センターや配車システムを安価に提供する事業を担い、地方の交通インフラを支えている。

 地域交通を活性化させる取り組みとしては、JR西日本や日本交通との観光客向けタクシー乗り放題サービスの試行や、NTTドコモとの公共タクシーモデルの実証実験を実施している。そういったなかから見えてきたのは、これまでの対策には「サービスデザインのラストワンマイルが足りていない」ということ。配車システムに限らず、「事業主体の模索も含めてコミットしていく」と今後の意気込みを示した。

電脳交通 取締役/COO 北島昇氏

 一方で、NTTドコモはオンデマンド交通システム「AI運行バス」の提供などをスタートしているが、苦しい現状でも成り立っているのは「補助金があるから」と深井氏は説明する。その一方で、「補助金頼みにならない新しい収益を生み出し、サステナブルな仕組みを作らなければ事業自体が続かない」と力説。そのために、さまざまなチャレンジを続けている。

 NTTドコモでは、MaaSを「移動に関するさまざまな課題を解決するもの」と捉えており、高度化型MaaSの一環として「移動データの見える化」を推進。例えば、バス路線の潜在需要を分析できるモバイル空間統計を用いた手法を確立したほか、AIタクシーやAI運行バスの商用サービスなども進めている。また、サービス連携型MaaSとしては、AI運行バスの配車予約と施設・クーポン情報の配信を組み合わせるなど、移動とともにその先にある目的もセットで提案をする実証実験を、2018年に横浜市で実施。これにより、AI運行バスによる「移動利便性向上」と「地域経済活性化」の実現を目指している。

 そのほか、地方に限らず都市部でもさまざまな取り組みをスタートし、「地域のオンデマンドバスとしての在り方を模索している」(深井氏)ところだ。

NTTドコモ コネクテッドカービジネス推進室 室長 深井秀一氏


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