AI時代の働き方改革

労働力不足という環境の中で、企業が成長していくには、生産性を大きく向上させる必要がある。従業員エンゲージメントを高めれば生産性向上は加速する。本セッションで、これらを実現するソリューションが示された。

日本企業にとって労働生産性の飛躍的な向上が喫緊の課題に

セールスフォース・ドットコム マーケティング本部 プロダクトマーケティング&trailhead シニアマネージャー 伊藤 哲志 氏

セールスフォース・ドットコム
マーケティング本部
プロダクトマーケティング&trailhead
シニアマネージャー

伊藤 哲志

 世界的に見ても極端な少子高齢化が進む日本では、労働力不足が深刻な問題となっている。既に従業員不足によって、業績が悪化している業種・業態も少なくない。さらに近い将来には、時間外労働の上限規制や有給休暇消化の義務化など就業時間の減少につながる法改正も待ち受けている。

 こうした環境の中で、企業のサステナビリティー(持続可能性)を高めるためには、労働生産性の飛躍的な向上が必要になる。これが、日本企業に共通した課題として急浮上しているのだ。こうした課題を解決する処方箋としてAI(人工知能)に大きな期待が寄せられているが、セールスフォース・ドットコムの伊藤氏は次のように警鐘を鳴らす。

「企業がAIから恩恵を受けられるようになるまでには、様々な障壁を乗り越えなければなりません。これには苦労を要するので、実用化がむしろ後退するといったリスクさえあります」

 こうした状況を改善するために、セールスフォース・ドットコムが投入したソリューションが「Salesforce Einstein」である。

Salesforce Einsteinでできることの具体例。SalesforceはAIを活用し、営業活動のサポートに取り組んでいる

Salesforce Einsteinでできることの具体例。SalesforceはAIを活用し、営業活動のサポートに取り組んでいる

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同社のクラウドサービスに機械学習をビルトイン

 Einsteinは、セールスフォース・ドットコムが提供する各種クラウドサービスの基盤にビルトインされるAI技術。ユーザー個々のビジネスの進め方や顧客のデータを機械学習することによって、予測や提案などを提示することが可能になる技術である。AIに関する専門知識がなくても利用できることが大きな特長だ。伊藤氏はEinsteinを「パーソナルなデータサイエンティスト」と評する。

 例えば、同社のクラウド型営業支援システム「Sales Cloud」にビルトインされる「Sales Cloud Einstein」を利用することで、営業活動の生産性を大きく向上することが可能になる。リード(見込み客)の優先順位付けや個々の商談のスコアリング、精度の高い売り上げ予測などをEinsteinが提示してくれるのだ。

 Sales Cloudが蓄積しているデータを取り込んだダッシュボードを表示する機能も備えている。これを利用すれば、商談のパイプラインの状況や過去の商談の傾向などを把握した上で迅速に意思決定を下せるようになる。

 セールスフォース・ドットコムの社内でも現在、Sales Cloud Einsteinを利用中だ。伊藤氏によると、新規顧客の獲得数は20%向上、既存顧客では商談数が6%向上するとともに商談単価が24%向上するという成果が表れているという。この結果、ビジネスの成長率が約30%向上している。

 こうした機能の開発には、ITやAIの専門知識は必要ない。今回の講演でも、伊藤氏が実際の開発作業のデモンストレーションを実施。「Einstein 予測ビルダー」という開発環境を利用することによって、ウイザードの指示に従って画面上でマウスをポイント&クリックするだけ、わずか数分で新しい予測モデルを構築している。

従業員のエンゲージメントが労働生産性の向上を加速

 労働生産性を高めるためには、AIの活用といった機能面での支援も重要だが、伊藤氏は「会社に対する従業員のエンゲージメント(思い入れ)を高めることによって、生産性の向上を加速することが可能になります」と指摘する。エンゲージメントの高い従業員は、仕事に対してより深い関心を持ち、自らの意志で積極的に関与し、付加価値を向上すべく主体的に行動するという。

 同社では「V2MOM」と名付けた方法論で、従業員エンゲージメントを高めている。V2MOMは、CEO(最高経営責任者)をはじめとする経営層から職位レイヤーの下部にいる従業員にまで経営ビジョンを浸透させ、それに基づいて全員が行動を取るようにするための経営管理フレームワークである。具体的にはV2MOMという名称の由来になっている「VISION(ビジョン)」「VALUES(価値)」「METHODS(方法)」「OBSTACLES(障害)」「MEASURES(評 価)」──という5つの要素で構成する。職位が上位の従業員のV2MOMを分解したものが、その下位の従業員のV2MOMというカスケード構造になる。これによって、全ての従業員が、企業が目指すゴール・目的を共有した上で、その実現に向けてどのような行動が必要なのかを把握できるようになる。

 同社では全ての部門、マネージャー、チーム、個人がそれぞれのV2MOMを持ち、全社員が各自のV2MOMを見ることが可能になっているという。これによって、誰もが会社に対して、どのような貢献をしているかを把握できる。

V2MOMを構成する5つの要素により、トップ(CEO)から社内すべてのレイヤーがそれぞれのV2MOMを持つことで、経営ビジョンが浸透し、従業員エンゲージメントが向上する

V2MOMを構成する5つの要素により、トップ(CEO)から社内すべてのレイヤーがそれぞれのV2MOMを持つことで、経営ビジョンが浸透し、従業員エンゲージメントが向上する

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従業員のモチベーションをV2MOMで引き上げる

 伊藤氏は「セールスフォースでは、従業員のモチベーションを大きく高めるのにV2MOMが大きな役割を果たしています」と語る。実際、同社は就職・転職のための企業リサーチサイト「Vorkers」が発表した「働きがいのある企業ランキング2018」の首位の座に就いている。

 同社では、他社にもV2MOMの恩恵を受けてもらうために、Salesforce環境に無料で追加できるアドオンアプリを公開中だ。オンライン・トレーニング・ツール「Trailhead」でもV2MOMの活用方法を提供している。

 「企業が生み出す付加価値は『従業員数×就業時間×労働生産性×従業員エンゲージメント』という方程式で表すことができます。このうち前者の2つは減少していくので、後者の2つを引き上げることに努めることが企業経営者の使命となります」。このように語って、伊藤氏は講演を締めくくった。

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