日経 xTECH元年 特別トップインタビュー

センスタイムジャパン

車載分野ではHondaとの共同研究開発で話題

AIベンチャーが高度な
ディープラーニング技術で
世界をリードする

センスタイムジャパン
代表取締役

勞 世竑

ディープラーニングによる高精度な顔認証技術で一躍脚光を浴びている香港発のAIベンチャーSenseTime Group。自撮りカメラアプリ「SNOW」、最近では「ZEPETO」などでの採用で存在感を増してきた。同社が注力する分野の中でも車載やFAで中核を担うのが、2016年に設立された日本法人のセンスタイムジャパン。日本においても、Hondaとの共同研究開発契約などで実績を出し始めている。代表取締役であり、SenseTime Groupの副社長、車載事業統括でもある勞世竑氏に戦略を聞いた。

SenseTime Groupの事業概要をお聞かせください。

 当社は香港生まれのAIベンチャーで、2014年の設立以来、ディープラーニングを活用したAIによる画像や顔の認識技術に強みを持っています。セキュリティやスマートフォン、インターネット分野をはじめとする幅広い分野での活用ができる製品やソリューションを提供してきました。2016年には自動車・製造業・インフラ等、日本が強みを持つ産業分野に向けて技術提供をするために、日本法人としてセンスタイムジャパンを設立。日本法人で現在最も注力しているのが車載の分野です。

各分野の事業の中身を、簡単に説明していただけますか。

 当社が創業時より携わってきたのがインターネット上における個人認証の分野です。中国では近年、消費者金融サービスが解禁され、インターネット経由の契約が広く行われています。当社の顔認証技術は、身分証明書と撮影した本人の顔写真の照合というミッションクリティカルな分野で広く採用いただいています。また、スマートフォンでは、顔認証機能が普及しつつありますが、当社はAndroid端末向けにこの技術を提供しています。

 インターネット関連では、顔認証アプリなどに技術を提供しています。一例は、日本でも若い世代を中心に人気の自撮りカメラアプリ「SNOW」。SNOWにはメイク機能が付いており、自分の顔写真をデジタル加工して楽しむことができますが、そのバックグラウンドで活用されるのが当社の技術です。

 車載分野では、自動運転のほか、ドライバーモニターシステム(DMS)というドライバーの状態をモニタリングするシステムの研究開発などに取り組んでいます。

ビッグデータで磨く高精度

SenseTime Groupに参加した経緯をお聞かせください。

 私が来日したのは1985年のこと。京都大学の大学院で電気工学を学び、修了後にはオムロンに入社しました。その頃から顔認証技術に携わり始め、技術開発リーダーも務めています。当時、オムロンの顔認証技術と言えば世界をリードするものであり、その技術は今もデジタルカメラなどで生かされています。ただし、ディープラーニングの登場によって、画像認識の世界は大きく変わりました。

ゲームのルールが変わったということですね。

 そうです。後にSenseTime Groupの母体となる、香港中文大学のマルチメディア研究室が、ディープラーニングを応用したCV(コンピュータービジョン)による顔認証技術で認識率99.15%の高精度を実現し、「人間の目を超えた」と話題になりました。それもわずか一年の研究期間で、です。衝撃を受けた私が、ディープラーニングをやりたいと考えはじめたちょうどその頃に、当社の創業者兼CEOの徐立より声がかかりました。オムロンには20年ほど在籍し愛着もあったのですが、日本で顔認証のディープラーニングを進化させるには難しい点も多いと思い、2016年のセンスタイムジャパン立ち上げに参加しました。

ディープラーニングの進化に難しい点とは。

 ディープラーニングの性能を高めるためのカギは、データ量です。顔のデータを大量に集めて処理することで、より精度を高めることができます。日本では研究者や企業が扱えるデータ量が世界に比較して少なく、結果が出しづらい現実があります。

ディープラーニング技術における優位性についてお話しください。

 顔認識の精度では世界を牽引している自負があります。世界的な画像認識AIのコンペティション「ILSVRC(ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge)2016」において、当社は5部門中3部門で1位を獲得しています。当社の技術的な強みは、経年変化に強く、照明環境の変化にも強いことです。例えば、中国で使われている顔写真つきの身分証明書は20年間有効です。20年の間に人の顔は少しずつ変わりますが、当社の技術を用いれば、長期間にわたって個人を同定することができます。一方、照明環境に依存しない顔認識技術は、スマートフォンで磨かれました。ユーザーは自宅や屋外など、さまざまな照明環境でスマートフォンを操作します。照明のちょっとした違いで顔認証が機能しないようでは、使っていただけません。これらの強みの根底にあるのが、研究に有用に活用できるビッグデータの所有です。

日本市場では主に車載、またFAにも注力

日本法人であるセンスタイムジャパンのミッションについて伺います。

 私がセンスタイムジャパン設立に加わった主たる動機は、先鋭のAI技術で日本の産業界をもっと元気にしたいという思いです。私が来日した当時、製造業をはじめとする日本企業は、世界を席巻する勢いでした。現在でも多くのエクセレントカンパニーがありますが、グローバル競争で本来さらに輝けるはずです。日本企業には技術力をはじめ大きな底力があります。日本企業が適切にAIを使いこなせば、今以上に強くなれると考えています。そんな日本企業のダイナミックな変化を、AIの技術でサポートする。それが私たちのミッションです。

日本市場において、特に注力している分野はありますか。

 センスタイムジャパンでは、日本企業が特に強い分野にフォーカスします。中でも自動車の分野に関しては、私自身がSenseTime Group全体の統括責任者を務めており、日本拠点にも開発機関を設けることで、これらの事業の中核と位置づけています。例えば、Hondaの研究開発子会社である本田技術研究所との間で、レベル4に相当する市街地での⾃動運転技術の確⽴や、ADASへの本格市場参⼊に向けた長期共同開発計画を進めています。そして、自動運転のほか、前述のDMSの実用化に向けての開発も徐々に公開できる段階まで進んでいます。環境変化に強い当社の認識技術を応用し、危険な行動・状態の認識、セキュリティのための個人認証、車と乗員間のインターフェースのためのジェスチャー認識・乗員属性認識・視線認識などの機能を、組み込み環境で実行できるものを提供する予定です。

 また、FA分野でも日本メーカーとの協業を準備中で、近いうちに発表できる予定です。

今後、センスタイムジャパンの存在感も大きくなりそうですね。

 「AIを使ってこんなことはできないか」という問い合わせが、業界を問わず非常に増えています。創業4年でグループ全体の人員は約2000人に達しましたが、日本においても企業のさまざまなニーズに対応するために、人材採用を強化しているところです。現在、日本の拠点である京都・東京それぞれに在籍しているメンバーも、多様な業種からキャリア入社した者が活躍しております。自動車、電機、部品メーカー出身者のような自動車やFAなどの分野で高品質なものづくりに精通した技術者はもちろん、世界トップレベルのAI技術を用いたプロジェクトに携わりたいと考える人が多く集まっています。東京では先日、より広いスペースを確保するためオフィスの移転もしたところです。また、茨城県常総市に自社専用のテストコースを開設するなど、開発しやすい環境作りについても積極的に実施しております。グローバルレベルの先端技術に触れ、一緒に作り上げていく。これは魅力的なチャレンジの機会になるのではないかと思います。

最後に、日本企業に対するメッセージをいただけますか。

 海外企業はおそらく日本以上に、AIの活用に積極的です。中国では企業や研究機関などで働く研究者、技術者の熱気は凄まじく、大学でAIを専攻する学生が急増しています。日本企業はこれまで以上に、AIへの取り組みを加速させる必要があるでしょう。AIの世界では緻密な計画作りに時間をかけるのではなく、まず試してみて修正や改善を繰り返して仕上げていくというアプローチが重要です。当社にお声がけいただければ、そのプロセスに伴走しながら新しい価値作りに貢献できるはずです。

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自動運転をはじめとした車載事業に注力する環境として開設された常総市のテストコース「AI・自動運転パーク」

お問い合わせ

株式会社センスタイムジャパン
〒604-0022 京都府京都市中京区御池之町324-1 御池幸登ビル401
TEL:075-741-6291
URL:https://www.sensetime.jp/