デジタルビジネスの勝敗を決めるのは超高速なソフトウエア開発力

基調講演 アクサ生命保険 部門からトライブへ 組織再編で挑むアジャイル開発

アクサ生命保険株式会社 執行役員 ITデリバリー本部長 玉置 肇氏
アクサ生命保険株式会社 執行役員 ITデリバリー本部長 玉置 肇氏

「デジタル化の波はあらゆる産業に変革を迫っています。保険会社もより良い商品・サービスをスピーディーに提供できなければ、生き残れない」。アクサ生命保険の玉置 肇氏はそう語る。

しかし、1997年に稼働を開始した同社の国内基幹システムはプログラム数8000、総ステップ数510万、ETLバッチ数7300にも及ぶ重厚長大なレガシーシステム。新規開発や変更に時間がかかり、俊敏にサービスをリリースすることが難しかった。

そこで基幹システムの大変革に舵を切った。「メインフレームを近代化するとともに、上位システムをオープン化し、メインフレームと上位システムはAPIで連携することで柔軟性を高めました」と玉置氏は説明する。

同時に組織変革も進めた。従来型のIT部門を解体し、5つの「トライブ(部族)」と呼ぶ組織を各ビジネス部門に配置した。2015年から立ち上げたDevOpsチームをはじめ、様々な機能を各トライブに集約し、大きな権限を持たせた。「各事業部に必要なシステムやサービスの開発・運用の全権を担い、配下のプロダクトオーナーやエンジニアを統括します。また、トライブ間の横の連携も強化し、事業部をまたぐシステムやサービスの開発・運用にも対応しやすくしました」(玉置氏)。

さらに、各トライブとビジネス部門の協業を促すため、チェンジ・マネジメントも実施。IT活用を大きく内製にシフトし、現場のニーズにスピーディーに応えられるようにした。

こうした取り組みにより、業務の可視化と組織間の連携・協力が加速。メインフレーム環境でもアジャイル開発が可能になった。「システムの開発期間は2/3に短縮され、開発コストも15%削減できています。これにより、従来は12週間かかっていたシステムのリリースサイクルも約2週間へと劇的に短縮されました」と玉置氏は語る。

今後はこの組織体制を最適化しながら、顧客ニーズを捉えた新商品や新サービスを素早く市場に投入する。デジタル活用による、一層の競争力強化につなげていく考えだ。


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基調講演 アサヒプロマネジメント レガシーシステムの最適化が革新のカギ

アサヒプロマネジメント株式会社 業務システム部 業務推進グループ 主任 塙 圭介 氏
アサヒプロマネジメント株式会社 業務システム部 業務推進グループ 主任 塙 圭介 氏

酒類、飲料、食品の各事業で知られるアサヒグループ。同グループはデジタルトランスフォーメーションを推進する上で、SoE領域の拡大に加え、SoR領域のシステムの最適化を重要なテーマに据えている。

その一環として、飲食店が対象の「業務用営業」業務の改革、および既存システムのリニューアルに取り組んだ。

「業務用営業に関しては、顧客管理や契約管理、営業日誌など、10種類以上のシステムが個別最適化されている状況。営業担当者は、複数のシステムに同様の情報を重複入力しなければならないなど、非効率かつ作業負荷が高い状況でした」とアサヒプロマネジメントの塙 圭介氏は語る。

そこで、同社はMicrosoft AzureのPaaS基盤上へシステム移行。同時にリニューアルを図った。

現在のシステムは、顧客の基本情報や商談情報などは、営業担当者がスマホから一度入力すれば各システムに一斉に反映されるようになり、入力に要する時間は1時間から数十分に短縮された。また、外出先で、すぐその場で確認が必要な、各システムに分散して格納されている情報も速やかに収集できるようになっている。

Microsoft Azureを選んだのは、レガシーシステムを最大限に活用しながら、業務ニーズに対応する機能を開発しやすいこと、普段使い慣れたOffice製品との親和性も高かったからだという。

「開発は、工程の全体像や所要コストが見えやすいウォーターフォール型と、ユーザーに確認しながら柔軟に開発を進めていけるアジャイル型、双方のいいとこ取りをしたハイブリッドなアプローチを実践。フレームワークとしてAngularを採用するとともに、Google Maps APIを介して地図情報にアクセスできる機能を実装するなど、システムのモダナイゼーションを行う一方、REST APIを活用した社内のオンプレミス環境とのリアルタイムな連携なども実現しています」と塙氏は語る。

デジタルトランスフォーメーションを推進する際、ともすればSoE領域にばかり目が向きがちだが、業務を変えるにはSoR領域のシステムが重要な役割を果たす。アサヒグループの取り組みは、レガシーシステムの最適化をビジネス変革に結び付けた好例だといえる。


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特別講演 デンソー “社内シリコンバレー”でサービス開発を加速する

株式会社デンソー MaaS開発部 部長 兼 デジタルイノベーション室 室長 成迫 剛志氏
株式会社デンソー MaaS開発部 部長 兼 デジタルイノベーション室 室長 成迫 剛志氏

「100年に1度」ともいわれる大変革期にある自動車業界。デジタル・ディスラプターの台頭により、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス:自動車のサービス化)が加速しており、業界の壁を越えた協業や競合が起こり始めている。

自動車部品メーカー大手のデンソーもこの荒波に直面している。「モノを提供するだけでなく、サイバー空間で価値を提供するデジタルビジネスを強化しなければ生き残りは難しい」とデンソーの成迫 剛志氏は語る。

目指したのは、社内に“シリコンバレー流”をつくることだ。デザイン思考を取り入れ、ゼロからイチを生み出す。クラウドやオープンソースを活用して速さと安さを追求。内製化やアジャイル開発で、顧客とともに創りながら考える。同社では、新たに立ち上げた「デジタルイノベーション室」がこの役割を担い、事業部をまたいだ横断的なプロジェクトを推進しているという。

当初は2名でスタートしたこの部署だが、キャリア採用や社内公募を進めて陣容を拡大。2017年5月には、拠点となるデジタルイノベーション室も開設した。

開発はプロジェクトごとにメンバーをアサインしてスクラム開発で進める。開発に集中できるIT環境を整備し、メンバー間の対話を密にする。半ばスタートアップ企業のような風土が、同社のデジタルイノベーション室にはある。「失敗したときは、次回への糧とするためにどうすべきかをチームで考えます。チーム内に余計なストレスや不安を生じさせない環境づくりが、アジャイル/スクラム開発のポイントだと考えています」と成迫氏は紹介する。

現在までに9つのプロジェクトを進めた。デジタルビジネスを体現した有償サービスも間もなく提供を開始するという。

「消費者の無意識の声に耳を傾け、ニーズを捉えたデジタルサービスを開発するには、エンジニアのポテンシャルを引き出す仕組みが必要です」(成迫氏)。そのために何をなすべきか。デンソーの取り組みが、効果的なアプローチの参考になるだろう。

 


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特別講演 DeSCヘルスケア 効率的に失敗できるかがスピードを左右

DeSCヘルスケア株式会社 開発部ヘルスケアサービス開発グループ モバイルテックリード 四方 裕 氏
DeSCヘルスケア株式会社 開発部ヘルスケアサービス開発グループ モバイルテックリード 四方 裕 氏

DeSCヘルスケアは、「健康寿命の延伸」「SickケアからHealthケア」をミッションにディー・エヌ・エーと住友商事によって設立された企業だ。健康保険組合向けの「KenCoM」を中心にヘルスケアにかかわる各種サービスを提供している。

特別講演に登壇したDeSCヘルスケアの四方 裕氏は、同社のシステム開発プロジェクトを技術面で牽引する傍ら、iOSアプリのエンジニアとしても活動している。

「日本でiPhoneが発売されて10年。iOSアプリも成熟期を迎え、開発プロジェクトは、ますます規模が拡大し、複数の企業の開発者が連携したりする方法が一般的になってきています」と四方氏は語る。

その結果、アプリベンダーは、アウトプットのイメージを明確化しづらい、プロジェクトの途上で仮説や実現方法の誤りに気づきにくい、さらには品質やセキュリティなど、アプリのスペックにかかわる意思決定のバランスを取るのが難しいといった課題に直面している。

「こうした課題を対処し、高速開発を実現する上で大きなヒントとなるのが、かつてGoogleでCEOを務めたエリック・シュミット氏の“Fail fast, fail cheap, and fail smart”という言葉です」と四方氏は紹介する。要するに「効率的に失敗すること」が重要であり、それを支え得る開発体制、開発環境、プロセスなどを整備していくべきだというのだ。

具体的に、まず開発前には、可視化、言語化、オープン化を徹底し、アプリのターゲットとなるユーザーのペルソナ、あるいは提供すべきコアバリューやビジネスモデルをしっかりと検討してメンバー間で共有。仮説の誤りなどを正していく。

開発に入ってからは、リーンスタートアップのアプローチであるMVP(Minimum Viable Product)によって、顧客に提供すべき価値を分解。既に世の中にある資産も有効利用しつつ、優先度順に検証を進め、最終的な成果物を目指していく。

「避けなければならないのが“車輪の再発明”をしてしまうこと」と四方氏は改めて強調する。開発の第一線で活躍するエンジニアのリアルな言葉に聴講者は大きくうなずいていた。


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