カスタマーエクスペリエンスフォーラム2019 レビュー
@ホテル雅叙園東京

Fjord Trends 2019 - デジタルの大掃除・価値の探求へ

アクセンチュア株式会社

Fjord Trends 2019にまとめられたカスタマーエクスペリエンスのトレンドによって、今後のデジタル戦略やCX戦略のあり方が見えてくる。

毎年7つのトレンドをまとめるFjord Trends

アクセンチュアアクセンチュア インタラクティブ
ビジュアルデザイン・ディレクター
苅谷 森嗣 氏

 アクセンチュア インタラクティブ傘下フィヨルドは、ヒューマンセンタードデザインのアプローチで、デジタルソリューションやエクスペリエンスソリューションを提供するデザイン会社で、世界28カ所にスタジオを展開している。公共機関から民間企業までの幅広い業種でブランドの一歩先の未来をデザインし、すばらしい体験を創造しており、「複雑な構造の中でシンプルなエコシステムを形成する」ことを目標としている。

 フィヨルドでは、世の中のビジネスやテクノロジー、デザインに関するカスタマーエクスペリエンスのトレンドについてまとめた「Fjord Trends」を2008年から毎年発表している。Fjord Trendsでは、1000人を超えるデザイナーや開発者が議論を重ね、生活者視点で製品やサービス、新規事業をデザインするうえで押さえるべきトレンドが定義されている。

 今年発表された「Fjord Trends 2019」のテーマは、「Value(価値の探求)」で、テクノロジー、政治、環境の変曲点に立っている今、デジタルは大掃除の時期を迎えており、長期的な視点から、あらゆる物が私たちの暮らしに価値を提供してくれるか否かを判断すべきタイミングにきていると苅谷氏は説明し、7つのトレンドから特に日本に関わりが深い4つのトレンドについて解説していく。

「Fjord Trends 2019」で定義された7つのトレンド

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「沈黙は金なり」と「データ・ミニマリズム」

 「沈黙は金なり」というトレンドでは、テクノロジーによって健康への悪影響が現れはじめ、人々が製品やサービスに見出す価値が移り変わっているなかで、生活者とどのような関係を築くか、企業のあり方を再考する必要が出てきていると説明する。現在はデジタルコンテンツが過剰にあふれかえっており、健康に悪影響を与えている一方、生活者の健康や環境に対する意識が高まっており、個人単位や国家単位での対策の動きが世界中で見えてきている。単純に真新しさを追求するよりも本質的な生き方に寄り添ったものが求められ、必要以上に注意を引こうとすることは逆効果となってきている。

 大手テクノロジー企業やスタートアップが打ち出す新サービス・製品も、人間の本質的な生き方を邪魔しない“マインドフル・テクノロジー”の方向性にシフトしており、スマートフォン中毒を防ぐために、スマートフォンの利用状況をレポートしてくれるアプリや、LED/LCDの光をカットする眼鏡、集中できるパーソナル空間をつくるウェアラブル製品などが出てきている。また、最低限の機能を搭載した製品も改めて見直されてきている。さらに、情報を絞った分かりやすいUIのWealthNaviや計算し尽くされたタイミングに通知を行うApple Storeのように、接点や情報を絞り、1回1回のコミュニケーションを洗練させて研ぎ澄ますことによって、“ちょうどいい”距離感を保ち、ストレスのない関係を構築するサービスも登場してきている。

 今後は、生活者の期待値の変化に対応して、企業も製品・サービス開発の注力領域を見直し、マインドフルネス・テクノロジーを取り入れて、生活者にストレスを与えない製品・サービスやコミュニケーションを考える必要がある。また、自社のデザインガイドラインや、より長期的な視点に鑑みた成功指標(KPI)も再考し、エコシステムの中で自社がどのような役割を担うかという視点も忘れてはならない。

 「データ・ミニマリズム」というトレンドでは、個人データ不正利用に対する人々の不安増大や規制強化により、簡単に個人データを集められる時代は終わり、企業は価値を提供するためにどのようなデータ戦略をとるのかを再考する必要があることが説明された。EUのGDPR(一般データ保護規則)施行や、データ流出などのデータ関連スキャンダルによって、企業による個人データの不正利用に不安が出ている一方で、個人データの提供によって収益を得られるサービスも登場し、個人データを資産として捉える認識も広がりつつあり、“よりパーソナライズされたサービスのためなら喜んで個人情報を提供する”と長く信じられた前提が崩れる兆しが見えている。

 個人から信託されたパーソナルデータを適切に管理・運用する“情報銀行”や、レシートの写真を買い取るサービスなど、個人データを自身でコントロールして企業と共有することで収益を得られるサービスが登場し、個人データは企業と共有することで利益を得られる“資産”という認識を人々が持ち始めている。また、データ利用や価値を明示して透明性を確保することで、ユーザーの信頼獲得につなげているサービスも出てきている。

 今後は、サービスの発展のために必要最小限のデータを見極める必要があり、データを取得する際には、データを何の目的で、どのように利用し、何を対価として提供するかを明言して、信頼と透明性を確保する必要があり、そのためのUIも工夫する必要が出てくる。

「縁石の先に」と「包括性に潜む矛盾」

 「縁石の先に」というトレンドでは、多数のモビリティサービスが誕生して都市に氾濫している状況において、“移動”や“配送”に対する新しい常識が生まれてきており、整備された都市づくりも急務になってきていることが説明された。都市に人口が集中して、企業の移動サービスが急速に増えてあふれかえった結果、それらを統合する制度や基盤の準備が追いつかず、都市が混乱に陥っている一方、移動の自由化が進んで地域やエリアにおける常識が生まれ変わる兆しが見えてきている。また、新しい移動手段や配送手段に着目した新たなビジネスやサービスが世界中で巻き起こっている。

 タクシー会社を統合して全国でタクシーを呼べるJapan Taxiや交通機関を組み合わせて自由に移動できるサービスが登場し、移動手段の選び方が変わってきている一方、TOYOTA e-Paletteを使った移動型ショップなどのように、モビリティの発展は移動だけでなく物流や物販にも影響を与え、従来の店舗のあり方に変革を与えることが考えられる。また、ラスト・ワンマイル配送などのより効率的な配送サービスが生まれ始めており、店舗体験においても、商品受取の瞬間を重要視するサービスも充実している。

 今後も、モビリティサービスの競争は激化するなかで、都市の規制統一も急務となり、多種多様なプレイヤーの中から、人々が“移動”する手段をシンプルに選ぶようになるにつれて、支払い体系や都市づくりの常識に変革が起きてくる。小売りや店舗体験においても、もはや個人顧客だけでなく、地域・コミュニティ・都市の規模でデザインする必要が出てくる。

 「包括性に潜む矛盾」というトレンドでは、生活者というものは常に“個“であり、枠にはまった“セグメント“ではなく、企業は製品・サービスをデザインするプロセスにおいて、考え方を進化させなければならないことが説明された。個性を持った個として接してもらいたいと考える生活者に対して、生活者の属性に応じて嗜好を決めつけて的外れな対応をしてしまう企業は依然として多い。いずれはAIによる精緻なパーソナライゼーションの実現が考えられるが、実現するまでは、これまでの枠にはめたセグメンテーションではなく、“ライフスタイル”や“マインドセット”をより重視する必要がある。

 昨今は、バルミューダのトースターのように、デモグラフィック調査からは生まれなかった製品が強く支持されている。また、すべての人に好かれようとするブランディングではなく、特定の人に強く支持されるようなブランディングを行うような事例も出てきている。

 今後、企業は、これまで培ってきたブランド資産やブランドストーリーをこれまでとは違った視点でとらえ直す必要がある。また、数字では可視化できないところを見る必要があり、顧客を徹底的に深堀りするためのデザインリサーチがより強力な役割を果たすようになり、流動化する期待や定量的/定性的インサイト、社会トレンドなどを掛け合わせた新たなフレームワークが必要となってくる。

INDEX

冷静(デジタル)と情熱(アナログ)のアイダ?

長瀬 次英 氏

デジタル時代における顧客体験のあり方
~MAを活用した最新手法のご紹介~

SATORI マーケティング営業部 部長 兼 カスタマーサクセスグループ グループ長
高橋 美絵 氏

BtoB企業における営業活動のデジタルシフト
~データを活用した顧客とのコミュニケーション実践事例~

コニカミノルタジャパン 執行役員 総合企画室 オムニチャネル戦略推進 部長
岩崎 也寸志 氏

顧客満足だけではない!成果につながる顧客体験とは?
~CVR30%増などWeb接客成功事例から秘訣を解説~

Sprocket 代表取締役
深田 浩嗣 氏

優れたカスタマーエクスペリエンスの鍵を握る、データマネージメントの重要性
~事例から学ぶ最新動向と活用例~

インフォマティカ・ジャパン セールスコンサルティング本部 第二セールスコンサルティング部 部長
宇津木 太志 氏

商品機能価値から商品体験価値へ
-スペック主義からスタイル主導へのパラダイムシフト-

Contentserv 代表取締役
渡辺 信明 氏

アプリが可能にする顧客体験向上とロイヤルカスタマー醸成

ヤプリ コミュニケーション部 マーケティングスペシャリスト
島袋 孝一 氏

STARBUCKS RESERVE ROASTERY TOKYO
~体験の中に眠るTECHNOLOGY~

スターバックスコーヒージャパン スターバックステクノロジー本部 本部長
亀山 博史 氏