提供:アクセンチュア

ポスト・コロナ時代の「製造業革命」とは?

アクセンチュア株式会社
ビジネス コンサルティング本部
インダストリーX.0グループ日本統括
アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京共同統括
マネジング・ディレクター
河野 真一郎
(こうの しんいちろう)

新型コロナウイルス感染症がものづくり企業(製造業界)へ与えたインパクトを1つ強調するならば、サプライチェーン戦略の見直しの必要性を経営者に迫っていることだろう。アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 インダストリーX.0グループ日本統括を務める河野真一郎氏は「バリューチェーン全体の再設計こそが喫緊の課題」という。ニュー・ノーマル時代に、ものづくり企業が新時代を切り開くために転換すべき「マスカスタマイゼーション」とは何か。

疫病との戦い、それは人類における
「パラダイムシフト」の歴史

写真:河野 真一郎 氏

河野 真一郎(こうの しんいちろう)
アクセンチュア株式会社
ビジネス コンサルティング本部
インダストリーX.0グループ日本統括
アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京共同統括
マネジング・ディレクター

書籍:『ものづくり「超」革命』

『ものづくり「超」革命』
「プロダクト再発明」で製造業ビッグ シフトを勝ち残る

監訳:河野 真一郎
著者:エリック・シェイファー、デビッド・ソビー
翻訳:山田美明
発行:日経BP

書籍:『インダストリーX.0』

『インダストリーX.0』
製造業の「デジタル価値」実現戦略

監訳:河野真一郎、丹羽雅彦、花岡直毅
著者:エリック・シェイファー
翻訳:井上大剛
発行:日経BP

 世界中の市民生活や企業活動はいま、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナウイルス)と付き合いながら経済や社会を維持する「ポスト・コロナ」や「Withコロナ」と呼ばれる時代に突入した。

 「人類史、あるいは文明の歴史はパンデミックとの戦いの歴史でもありました。疫病は周期的に人類を襲い、その猛威をもって社会のあり方を強引に変えたパラダイムシフトの要因であり続けてきたからです」とアクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 インダストリーX.0グループ日本統括の河野 真一郎氏は語り始めた。

 100年前に世界中で蔓延した「スペイン風邪」では症例を統計的に分析する手法が確立されたことから統計学が急速に発展したほか、20年前に中国で発生したSARSはEコマースの急速な普及を後押しした。同様の規模でコロナウイルスが「ソーシャル・ディスタンス」や「三密の回避」といった社会の変化を起こしていることは誰の目にも明らかだろう。

 「対面業務が必須となる業界は、負の影響が長期的に残り続ける傾向にある一方で、生活必需品メーカーなどの業績はむしろ伸びています。このような状況においても『落ち込む産業』と『伸びる産業』の明暗が分かれることは、私たちにとって重要な教訓だといえます」

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パンデミックがものづくり企業に迫った
「バリューチェーン全体の再設計」

 河野氏は「ものづくり」業界に対して高い専門性を持つコンサルタントである。製造・物流・小売など、「もの」と「サプライチェーン」に関わる業界におけるコロナウイルスの影響範囲を分析してきた河野氏らのチームは、次のように現状を捉えている。

 「まずリスク評価を見直す動きが拡大しています。災害や事故などを想定した対策を済ませている企業は多くありますが、コロナウイルスのような全世界規模でのパンデミックに対して、グローバル企業は自社のバリューチェーン全体の構造を見直す必要性に直面しています。とくに計画系と実行系の見直しは急務です」

 読者も実感をお持ちだろうが、多くの顧客が外出を控えた影響で消費需要が大きく低下している。したがって「需要予測の手法」自体を現状に合わせて変更しなければならない。需要予測に基づいて算出される「生産計画」「販売計画」も見直しを余儀なくされ、リードタイムやキャパシティも予測が困難になる。アフターサービスは物理的制約が厳しくなり、サービス提供方法自体の改定が必要だ。

 したがって、ものづくり企業にいま求められているのはフレキシビリティ(柔軟性)のある計画への変更といえる。サプライチェーン全体の計画をいかに見直すか。小手先の変更ではなく、より大きなバリューチェーン変革の視点で変更しなければならない。経営者はまず、この点を強く認識すべきであると河野氏は強調する。

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ニュー・ノーマル時代のものづくり
「マスカスタマイゼーション」

写真:河野 真一郎 氏

 20世紀以来、ものづくりの世界は「生産効率(生産性)が高いことは良いことだ」という価値観に支配されてきた。その発想自体は正論であるが、大量生産を行うには製品のモデル数を抑えた「少品種」であるほど理想的となる。その1つの頂点と言えるのが、1955年頃の「大量生産・大量消費」がピークを迎えた時代だ。

 「この時代、経営者は『モデル数と生産量をどのように組み合わせて効率化するか』ということに知恵を絞っていました」

 しかし20世紀末期から21世紀へ、そして現在へと至る過程で、「大量生産時代」は終わり、「マスカスタマイゼーション時代」へと突入した。マスカスタマイゼーションとは「製品/サービスのカスタマイズを大量生産と同等水準のコストで行う」というものである。具体的には、ユーザーが手動で自分用の調整を行う「カスタマイゼーション」と、顧客ニーズに自動的に対応する「パーソナライゼーション」がセットになっている概念だ。

 本来的に「受注生産」は長納期/高コストとなる一方、「大量生産」は短納期/低コストが特徴と言える。マスカスタマイゼーションはデータ活用や生産機器のフレキシビリティ向上、デジタル・AIといった先進技術の活用によって、カスタマイズとコストのトレードオフを実現するものである。

 マスカスタマイゼーションには4つのタイプがあると、河野氏は説明する。①製品の内容は共通だが、顧客ごとに異なったパッケージや販売手法を変えて販売機会を伸ばす「表面的マスカスタマイゼーション」、②完全オーダーメイドの「協調的マスカスタマイゼーション」、③製品自体は共通だが、エンドユーザーがカスタマイズして、結果的にまったく異なる製品へと変化していく「適応的マスカスタマイゼーション」(これの代表例がスマートフォンである)、④顧客ニーズを個人レベルで把握することで、世界に1つだけの製品/サービスをアレンジして提供する「透過的マスカスタマイゼーション」である。

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デジタル変革の成功企業は
他の企業の投資額の1.6倍

 昨年、世界中の有力企業2000社(うち日本からは150社)に対して、国際経営開発研究所(IMD)が実施した調査「世界デジタル競争力ランキング」で、日本は23位。アジア最上位のシンガポール(2位)や香港(8位)、韓国(10位)に大きく水をあけられた結果となっている。

 その理由は何か。アクセンチュアがグローバルで実施した調査レポートでは、調査に参加した日本企業の経営幹部の72%が「デジタル投資の準備不足」と答えているうえ、ほぼ同数(72%)が「部門間のコラボレーションよりも競争が進んでしまい、価値の創出が遅れている」と危機感を募らせている。また、86%の経営者が「機能戦略」は経営戦略に次ぐ重要さを持っていると答えるなど、機能間をまたいだ価値創出を意識していることがわかった。こうした調査結果は、多くの経営者が「バリューチェーンの見直しによる効率化が重要」と認識していることを物語っている。

 「この調査ではデジタル変革(トランスフォーメーション:DX)に成功している企業を『DXチャンピオン』と呼び、機能領域を横断するデジタル投資で成果を得ていることが明らかになっています。またDXチャンピオン企業は、売上伸長率も良いことが判明しています」

 DXチャンピオン企業の中には日本企業もあり、投資領域の上位3テーマは「スマートプラントメンテナンス」「デジタルスレッド」「クリーンモビリティ(電気自動車など)」だ。調査によると、DXチャンピオン企業のデジタル投資規模はその他の企業の1.6倍に対して、増収というポジティブインパクトは約3倍だ。デジタルの効果を狙い、攻めの戦略的投資を展開していると言えるだろう。

(※デジタルスレッド:製品設計段階から製造以後、販売やメンテナンスフェーズにまで一貫したデータ連携を行い、得られたフィードバックを次のマーケティグや企画に活用する手法)

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ものづくり企業が
ユーザーと直接つながり、
マスカスタマイゼーションの実現へ

 かつて、故ピーター・ドラッカーは「われわれは未来について2つのことしか知らない。ひとつは、未来は知りえない。もうひとつは、未来は今日存在するものとも、今日予測するものとも違う」と喝破した。よく考えるまでもなく、これは当然のことだ。しかし従来、多くの経営は「将来は予測可能」という考え方に立脚していたため、予測不能というドラッカーの言葉の真意が理解されたのは「不確定性の時代」と呼ばれる現代になってからのことである。

 「生産者と消費者の間にプラットフォーマーやソーシャルサービス企業、メディア企業といった組織が挟まることで、顧客ニーズなどの価値ある情報がものづくり企業に届きにくくなっています。データ取得にコストがかかるほか、重要データが得られないケースも多々あります。しかし顧客体験を創造するには、データが不可欠です。いかにしてメーカーと生活者がダイレクトにつながるか。それがパラダイムシフトを生き延びる重要な鍵となります」

 かつての日本企業は、安くて良い製品を生み出してリードする「先行逃げ切り型」を強みとしていた。だが、GAFAをはじめとするデジタル企業は「成功しつつある先行企業の製品/サービスを分析し、それを補完したより強い商品を打ち出して、ユーザーとシェアを一気に奪取する」といった手法を得意としている。

写真:河野 真一郎 氏

 河野氏は「ユーザーのデータを直接的に獲得し、マスカスタマイゼーションを実現する。これが日本のものづくり企業の今後とるべき重要な戦略です」と強調する。挑戦すべきは、マスカスタマイゼーションによって利益を生み出せるコスト構造への転換なのである。

 前述のドラッカーの言葉には続きがある。「今日の行動の基礎に、予測を据えてもムダである。望みうることは、すでに発生したことの未来における影響を見通すこと」。日本のものづくり企業には、デジタルを使ってユーザーと「関係」を作り、パラダイムシフトをユーザーとともに乗り越えることが必要だ。チャレンジングと言えるそれらの取り組みに、1日も早く意思決定して取りかからなければならない。それが変化とスピードの時代の新戦略なのである。

※Peter F. Drucker "Managing for Results"(1964) 邦題『創造する経営者』(ダイヤモンド社)

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