強調するまでもなく、データはデジタルトランスフォーメーションの要である。製造業はデータ活用を積極的に進めてきた業界の1つではあるが、主に生産の効率化などが目的だった。しかし、これからは製品あるいはサービスの付加価値向上に、どのようにデータを役立てるかという視点が必要。そのためには生産工程のみならず、開発・設計から出荷後のメンテナンスサービスに至るまでのデータを統合し、自在に活用できる環境が不可欠となる。
桔梗原 多くの企業がDXに取り組んでいます。アラスの顧客である製造業の取り組みをどのように見ていますか。
久次 ERPやPLMといった既存システム、IoTやAIといった新しいテクノロジーを問わず、やはりデジタル活用をうまく進められているかどうかが成長を左右しています。特に経営者自身がデジタルの重要性を認識している企業は、迅速な投資判断のもと、積極的にチャレンジを行い、成果に結び付けています。
一方、後れを取っている企業では、デジタル活用を誤解されているケースも多いようです。例えば、インダストリー4.0に向けた取り組みについて問うと、「データ活用なら10年以上前からやっている」と答えます。しかしその実態は、生産工程において手作業でデータを収集し、それを集計して改善を検討しているだけにすぎなかったりします。データ活用とはいっても、リアルタイムでもなければ、その工場やラインに閉じたものでしかないのです。
DXにおいては、よりビジネス的な視点が不可欠。生産の効率化という発想を脱却し、自分たちの製品、あるいは製品出荷後のサービスの品質の向上、新たな付加価値創出のための「真のデータ活用」を目指すべきです。
桔梗原 真のデータ活用は、どのように進めるべきでしょうか。
久次 設計、開発、製造といったエンジニアリングから製品出荷後のサービスまで、あらゆる工程で生まれるデータを統合的に管理し、誰もが、必要なときに、必要な「正しい(Single source of truth)」データを扱える環境を実現しなければなりません。
それを実現するのがアラスの「Aras Innovator」というエンタープライズPLMソフトウエアです。
Aras Innovatorは、製造業とサプライヤー、顧客をつなぎ、製品のライフサイクルにまつわるあらゆるデータを統合管理するプラットフォームを構築します。製品ごとに世代管理された要求仕様や設計情報、部品表、テスト情報、製造工程情報、品質情報、メンテナンス情報などを統合データベースに格納。あらゆる人たちが、それらのデータにシームレスにアクセスできるのです。
この環境を実現するために、Aras Innovatorでは「デジタルスレッド」と呼ぶデータモデルをローコードで柔軟に開発できるようにしています。先ほど「正しい」データと表現しましたが、「最新の」と表現しなかったことには意味があります。分かりやすい例を挙げましょう。北米で、ある製品の不具合を解消するためにソフトウエアをアップデートしたところ、特定の世代の製品は、そのアップデートによって別のトラブルを起こし、ライフインフラが停止してしまったという事例があります。
つまり必要なデータは、常に最新のものとは限りません。先の例でいえば、仕様変更を行うには、影響を受ける世代の製品の関連データを正確に抽出しなければならなかったのです。
デジタルスレッドは、適切な権限管理、検索性、トレーサビリティによって、それを可能にし、製品の改善や改修、新製品やサービスの開発、マーケティング施策など、あらゆる付加価値向上に向けた取り組みをサポートします。
桔梗原 多様なデータを扱うAras Innovatorは、2025年の崖と指摘されるレガシーシステムの問題をどのように克服するのでしょうか。
久次 我々は問題の本質はレガシーシステムそのものではなく、データがサイロ化されていることだと捉えており、単にシステムのインフラをリプレースするだけでは崖の問題は解決しないと考えています。
Aras Innovatorは、サイロ化し埋もれてしまっているデータをつなぎ、有効活用できるようにする仕組みです。具体的にAras Innovatorには、設計変更管理、構成管理、BOM管理など、製造業が扱うデータに対応した幅広いソリューションが用意されており、既存のレガシーシステムと連携して、あらゆるデータを統合管理することが可能。無理にレガシーシステムをリプレースせずともデータ活用環境を構築できます。
製品ポートフォリオごとに、各世代の要求仕様や設計データ、部品表などのデータを統合。さらに各データのトレーサビリティを確保し、あらゆる人が、必要な、正しいデータにアクセスできるようになる
桔梗原 早くからライセンス販売ではなく、サブスクリプションモデルを採用していることもAras Innovatorの特徴です。理由をお聞かせください。
久次 お金の流れを司るERPやモノの流れを担うサプライチェーンは、どの製造業もプロセスに大きな差はありません。しかし、PLMは違います。エンジニアリングの領域では、各社が各様の工夫を施し、独自のノウハウや強みを蓄積しています。
ですから、アラスは柔軟なカスタマイズ性がPLMの必須要件だと考えています。多くのPLMベンダーは製造業のベストプラクティスが埋め込まれており、顧客のニーズに汎用的にフィットすると強調していますが、スタンスが全く異なるのです。初期導入時のサポートだけでなく、運用後に発生するパフォーマンス対策やカスタマイズされた環境であってもすべてのデータがバージョンアップできるサービスなど、お客様のビジネスを支援するには、ライセンス販売ではなく、費用を固定化しつつ様々なサービスを継続して提供できるサブスクリプションモデルのほうが最適だったのです。
桔梗原 カスタマイズ性の高さは、どのように実現しているのでしょうか。
久次 お客様がベンダーに頼らずとも自ら容易にカスタマイズできるよう、ほぼGUI上で設定するだけという、ローコードカスタマイズを可能にしています。しかも、導入時だけでなく、運用開始後、データベースにデータが格納されている状態でも、データ項目や属性の追加変更などを柔軟に行うことも可能です。
また、ユーザー・パートナーを含めたコミュニティが活発に活動しており、ACEなどのイベントを通じて、積極的にノウハウや経験を共有している点も、お客様の効果的な活用を支えています。
桔梗原 IT部門と生産技術部門など、組織の壁も製造業のデジタル活用の課題だと聞きます。
久次 そういう状況は、確かにあるようです。ただ、システムは個別に管理しても、データを集約することは可能です。最近では、IT部門が中心になるなどしながら、そうした取り組みを進めている製造業も多いようです。もちろん、アラスはAras Innovatorで、それを支援していきます。