製造業においても、DXを加速する動きが目立っていたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を受けて、その取り組みの重要性はますます高まっている。
DXは、ITを活用して業務を高付加価値、高効率なものへと変えていく取り組みであり、これまで多くの企業が、業務情報の一元管理に取り組んできた。ERP(Enterprise Resource Planning)を活用した会計情報の可視化や、モノの流れをリアルタイムで把握することによるJIT(Just in Time)対応のサプライチェーン管理などが、その代表例だ。こうした情報の一元管理を、製造業の業務全般、設計・製造・販売・保守などへと、いかに拡大していくかが製造業DXを進める上でのポイントとなる。
久次氏は、「これまで部署ごとにサイロ化されていた情報を、部署間での関連性を明確にして手戻りがないように一元管理できるようにしておくことが何より重要です。こうすることで、マネジメント層が品質やコストの状況を正確に把握できるようにもなり、タイムリーで精度の高い経営ができるようになります」と強調する。
製造業DXに向けたITソリューションには、様々な機能をオープン化することによって、多様なシステムやプロセス同士をつなげて、サイロ化していた情報を一元管理できることは欠かせない。そして、業務に関わる人ならば誰でも、求めている情報にアクセスできる状態にしておく必要がある。アラスでは、こうした情報管理のコンセプトを「Single Source of Truth(唯一の信頼できる情報源)」と呼ぶ。
製造業を取り巻く事業環境は日々変化している。製品市況や消費者ニーズなどの変化はもとより、自然災害やCOVID-19といった突発的な出来事への対応も重要視されるようになった。こうした変化に対して適切に対処していくため、「Single Source of Truth」の状態にあるPLM(製品ライフサイクル管理)上で、製品のデジタルツインを管理し、事業環境の変化と設計情報を関連付けながら管理できる情報プラットフォームの構築・運用が求められている(図1)。
例えば自動車産業では、無線通信を介した機能アップデートの手法である「OTA(Over the Air)」を活用して、市場のニーズの変化に適応した新たな機能を出荷後のクルマに盛り込めるようになった。出荷後のクルマ一台一台の状況をデジタルツインで管理することで、それぞれのオーナーの利用状況に応じて個別に最適化した機能を更新できるようになる。
デジタルツインは、工場に設置した装置や設備を、効果的かつ効率的に活用する手段としても有効だ。例えば、装置などに管理側で様々なシミュレーションをすることで、実際に不具合が発生する前に、より長く運用できる条件の模索や先回りした修理などが可能となる。
こうしたデジタルツインの活用は、自動車産業だけでなく、産業機械、航空宇宙、バイオエレクトロニクス、医療機器、防衛など様々な産業で効果が期待できる。
ただし、いきなりPLM上にデジタルツインを構築するのはハードルが高いと考える企業も多いだろう。こうした企業は、前段階として、製造業の企業内部で保有している多様な業務情報同士の関連を結びつけて一元管理し、製品の履歴を遡及できる「デジタルスレッド」を作ることから始めてはいかがだろうか。業務全体を対象にしたデジタルスレッドを一度に作る必要はなく、クラウドなどを活用しながら、ハードルの低いところからスタートし、短いサイクルで継続的にシステムを改善していくことができる。
本セミナーでは、より効果的なデジタルツインやデジタルスレッドを円滑に構築していくための方法、さらには導入すべきITソリューションを選定する際の視点などについて、さらに具体的に紹介している。詳しくは、下記の動画をご覧いただきたい。