クラウドかオンプレか。中小企業のITの未来とは…

中小企業や大手企業のグループ会社などに存在するひとり情シス。ひとり情シスは、様々な対応をしなければならず、いつも忙殺されています。また、必ずしもITの専門家ではなく、総務部門や経理部門の仕事の傍ら兼務することもあります。今回の主人公は、そんな「ひとり情シス」になったばかりの山田さん。今回、社長から提案を求められたのは今後のサーバー管理(IT管理)の在り方。この難しいテーマに山田さんはどんな答えを出すのでしょうか。

登場人物

将来の自社ITの道筋は?

最近「ひとり情シス」になった山田さん。日々様々な課題に直面し、勉強に追われています。少しずつステップアップをしている実感もありますが、ビジネス環境の変化が慌ただしく毎日が過ぎていくのでした。そんな中、社長にまた声をかけられました。今回のテーマは、なかなか骨が折れそうです。

社長 「前回は、BCPの提案をしてくれてありがとう(前回記事参照)。おかげで我が社も懸案だった災害対策に1つのメドが立ったと思っているよ」

山田 「ありがとうございます」

社長 「しかし、これまでの提案は、バックアップやレプリケーションなどサーバー管理(IT管理)の方法をクラウド化しているだけに過ぎないとも思う」

山田 「と申しますと…何か足りていない視点があるということでしょうか」

社長 「私は、ITの専門家ではないが、1つだけ言えるのは、ITを導入する目的はビジネスに活用すること。今後のビジネス環境に予想外の変化があることを念頭に置いた場合、IT管理の在り方についても、常に最新の計画を持ち合わせて検討しておく必要があるのではないだろうか」

山田 「・・・・まだ、そこまでは考えていませんでした。検討します…」

山田さんは、過去2件の提案で評価されたので、多少の浮かれ気分でしたが、一気に現実に引き戻されました。今度は、要求が不明確なだけに、前途多難のスタートとなりそうです。

予測できないことが現実的に

今回、舞台となった会社は、実在する新横浜にある株式会社ジェー・エス・ワイ(以降JSY)は、旭エンジニアリング株式会社の子会社で、従業員数約30名の企業です。旭エンジニアリングは、創業30年を迎えた企業で、設計製造を中心としたソフトウエアベンダーです。一方のJSYは、インターネット関連事業を展開しており、不動産物件情報検索サイトや、月極駐車場情報検索サイト、様々な企業のホームページ制作などをしている会社で1997年に創業されているので、こちらも20年以上の歴史を持っています。両社の社長を矢島社長が兼務しています。

30年の間には、海外展開もしたり、大手企業を顧客に抱えるなどしたりと順調に成長してきました。更に、近年の日本国内における度重なる災害や、今回の感染症などにより、外部の変化への対応力は極限まで上げなければと感じ、前回、前々回と、クラウドをちょい足しした新しい対応策を講じてきました。しかし、矢島社長は内なる課題にも目を向けています。それはIT人材の不足です。

「IT人材の獲得が年々難しくなっています。今まで繁忙期は、人手で対応することも可能でしたが、これからはそうもいかなくなるはずです。ITも管理を楽にすることや、自動化するレベルも追求すべきでしょう。今後、ITインフラは更に企業で重要なものになってくる。同時に、従業員には新しいチャレンジをしてスキルも高めてもらいながら面白い会社にしていきたい。今、外的要因ばかり気にしていますが、私は本来の内なる敵を見逃してはいけないと感じています。それは人材不足やそれに伴う、新しいことに挑戦しない気持ちを持つことです」(矢島氏)

矢島社長の懸念は、実際の数値にも表れています。経済産業省は2016年6月に「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」を発表しました。そのなかでIT人材はすでに2015年現在で約17万人(必要とされるIT人材全体の約16%)が不足し、2030年には最大で79万人(同48%)の不足が推測されています。最大の場合においては、約半分ものIT人材が不足する大きな問題が予測されています。

更に、本年の4月以降の新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、多くの企業でテレワーク環境の構築、災害対策のサーバー強靭化、リモート環境拡大で増え続けるセキュリティ対策など、ITインフラの人材の必要性が高まっています。事実、パーソルキャリアが運営する転職サービス「doda(デューダ)」において、2020年4月の「doda 転職求人倍率レポート」の中で、その他の業種の多くが求人を絞っている中で、全業種の中で「IT・通信」業界の職種別「技術系(IT・通信)」の転職求人倍率は10.71倍と全ての業種、職種の中で圧倒的に1位であり、しかも増えつづけている状況なのです。

最初の提案

山田さんは、手ごわいテーマに対し、苦心しながら調査を実施。何とか一週間程で、提案をまとめました。方向性に今一つ自信を持てない部分もありましたが、他に選択肢が無い状況でした。

山田 「社長、提案を説明させて下さい…」

社長 「ありがとう。よし、聞かせてくれ」

山田 「はい今回は、我が社の状況を鑑みて、今後の展開の提案をまとめました」

社長 「そうか、私も我が社の現状の課題の整理がついていない部分もある。その点で今日の提案を楽しみにしていた」

山田 「はい、我が社のような中小企業の状況では、ヒト・モノ・カネが不足しています。今では、社内にIT環境があり、内部で開発している部分もありますが、外部委託の検討も増えていますし、クラウド利用も増えていきそうです。こうした中途半端な状況を解消するために、IT関連の全てをクラウドでアウトソースすることを提案します」

社長 「いっそクラウドへ全面移行したらどうかという提案だな。なるほど、クラウドの利便性も理解し始めてきたし、そういう方法もあるだろう。ただ、そのリスクは考えているかな。今後もITの分野では次から次へと新しいテーマはどんどん出てきて、システムに実装されていくだろう。そんな予見が難しい将来に、ITの技術を自社に持たないリスクは大きくはないのか。確かにITの運用は難しい時もある。しかし、みんなが集まって、大変ながらも楽しんで解決してきたからこそ、自社に知見がたまったと思っている。何より、一番聞きたいのは、君自身がこれで面白いのか?」

山田 「…はっ、はい。正直、今回は『これだ!』という答えが自分の中で出ないまま、提案していました。もう一度、検討させてください!」

今までの山田さんは、解決する課題が見えている時には立ち向かうことができましたが、今回は解決の糸口が全くつかめませんでした。

伝説のひとり情シスの夢とは?

山田さんの提案は、またゼロベースに戻ってしまいました。再度、構想を練り始めましたが暗中模索。なかなか手がかりがつかめないままです。「どうしよう…」、そんな時、天に願いが通じたのか、先日訪ねて来た方がまた会社を訪ねてきてくれたのです。

黒田 「こんにちは、黒田です」

山田 「あっ!黒田さん、こちらからご連絡しようかと思っていたところです」

黒田 「私も、そろそろ呼ばれるかなと思っていました(笑)」

山田 「ITって何ですか?サーバー管理って何ですか?」

黒田 「山田さん、何を突然に。何かあったのですか?」

山田 「はい、新しいIT管理の在り方の提案を求められているのですが、何も浮かばないのです。実のところ、私は、何もITがわかっていなかったのかもしれません」

黒田 「テーマがテーマだけに、今回は、袋小路に迷い込んでしまったようですね。ところで、山田さんには夢がありますか?」

山田 「えっ、・・・」

黒田さんとは、ペンネーム成瀬 雅光氏の名前で『ひとり情シス 虎ノ巻』(日経BP社)を書かれた黒田 光洋氏のことです。200台以上のサーバーの管理など10人で担っていたIT部門の業務を1人で行い、安定した稼働をさせた「伝説のひとり情シス」です。

黒田さんは、山田さんに語り始めました。

黒田 「私の夢は、避暑地やリゾート地で、IT環境を構築して仕事を行うことです。そのために、新しい技術の理解や、内製のプログラム開発などのスキルを高めています。スキルを向上し続ければ、開発や管理に必要なサーバー環境をクラウドに置き、季節や気分によってビーチや温泉地などに仕事場を変え、いつでも周囲の自然に触れてリフレッシュしながら、業務することも可能だと思います。期せずして、会社のテレワーク環境の整備をポジティブにリードできたのも、この妄想に近い思いなのかもしれません。

しかし、そこまで行くには、いろいろなプロセスを踏まなければいけません。ITの習熟だけではなく、社内の状況を理解し把握することも重要です。しかも、現状認識だけではなく、今後の会社の先を見通すことも重要です」

ひとり情シスの特権

黒田 「山田さんの会社にも長い時間をかけて形成された制度や仕組みもあるでしょうし、社員の方もいらっしゃる。つまり、各部門の現場や経営幹部と十分にコミュニケーションを取って、その辺りのことを十分に理解したうえで、IT投資を提案し、業務システムを構築・運用する必要があるわけです。その点、山田さんは社長や各部門の責任者とも話ができる立場にあります。それこそがひとり情シスの特権です。サーバーだけ、IT機器だけの面倒を見ているだけでは誰からも評価されず、IT部門など無用とも思われてしまうこともあります」

対症療法からの脱却、
ソロインテグレータを目指せ!

黒田 「ひとり情シスのことを、『ひとり情シスは悲惨』だという方もいます。本当にそうなのか、ずっと違和感を持っていました。そこで私は『ソロインテグレータ』という言葉を創りました。これは、現場と疎遠なコンサルタントとは違い、現場に入り込んで何でもやる「多能工エンジニア」を表す言葉です。IT人材不足により外部委託費が高騰する中、多くのエンジニアを抱えられない企業ではこの先一番必要とされる人材だと確信しています。山田さんは、まさにそのスタートラインに立っているのです。

山田さんは、クラウドをちょい足しすることで、あたらしいバックアップやBCPの仕組みを提案されました。これは時代を先取りしています。しかし、クラウドちょい足しで出来ることのほんの一部にすぎません。まだまだ勉強することはたくさんあります。まずここをしっかり学んで、会社に何を取り入れられるか考えてみましょう」

と、黒田さんは次の7つのシナリオを説明しました。

7つのちょい足しクラウドソリューション・シナリオ

シナリオ1:バックアップ・復元

Azure Backup を用いて、手間を楽にするバックアップ機能。この奮闘記のシリーズの第一回で紹介しています。Windows Server バックアップを拡張することができ、ファイルやフォルダ―の復元も可能です。ExpressRoute 経由で仮想プライベートクラウド接続も可能です。常に高まるセキュリティリスクであるランサムウエア対策にも利用可能です。データ復旧テストはクラウドで完結します。

シナリオ2:災害対策

Azure Site Recovery を用いて災害対策に備えます。この奮闘記のシリーズの第二回で紹介しています。VMware、Hyper-V、で物理に対応します。災害時を想定したテストが可能で、フェールバックで切り換えられたサーバーを障害発生前の元の状態に戻せます。

シナリオ3:ネットワーク延長とちょい足し IaaS

Azure Virtual Machines , Azure Virtual Network , ExpressRoute もしくは VPNで実施します。ビジネスの緊急度に合わせて、必要なスペックの VM をすぐに調達することが可能です。社内ネットワーク経由でも、インターネット経由の接続も可能。ビジネスニーズに対応した仮想マシンのオートスケールも可能で、不要になればいつでも削除可能です。安心・安定が当然のオンプレミス環境を守ります。

シナリオ4:管理サーバー運用の効率化

Azure Monitor を利用します。管理用サーバーの監視は不要になります。現在のオンプレ環境の利用統計情報を収集、分析が可能で、管理工数を下げることが出来ます。Azure ダッシュボードもしくは Power BI、Grafana などでデータセンターの状態をレポート化も可能です。社内システムの安心・安全を考えた監視システムを構築できます。

シナリオ5:セキュリティの強化

Azure Security Center を利用します。クラウドの強みを活かして急速に変化するワークロードに対応します。1つのビューでセキュリティアラートを確認し、アラートの詳細情報も提供されます。しかも、クラウドのみならず既存のオンプレミスも監視対象になり、ひとり情シスのセキュリティスキルの不足を補います。今どきのセキュリティ対策です。

シナリオ6:ハイブリッド ファイルサーバー

Azure File Sync を利用します。社内のファイルサーバーはホットキャッシュで利用可能で、全てのデータをクラウドで保持することが可能です。Azure Backup でのデータ履歴も保持可能な上、クラウドを使った階層化も可能になり、本来のファイルサーバーの運用を簡単に目指すことが可能です。

シナリオ7:Web サーバー

Azure Web Apps を利用します。現在のアプリにはあまり手を加えずにクラウド化をすることが可能です。必要に応じて Azure IaaS / PaaS を選択可能です。社外からのアクセスをコントロールすることもできますが、従来通りの3階層アーキテクチャーなので移行への混乱がありません。

クラウドで全部できる。
しかし自身で全部理解することが重要

黒田さんからのアドバイスを得て、山田さんは何かをつかんだようです。そして、社長に提案することになりました。

山田 「ようやく自分なりに腹落ちできる案にたどり着きました」

社長 「ほう、それは期待できそうだ。どのようなものか聞かせてくれ」

山田 「今まで、私の問題は、原因究明するあまり全てが対症療法でした」

社長 「対症療法?」

山田 「そうです、目に見える問題を徹底的に解決すべきとの認識でした。それも重要ですが、そのままではいつも後手後手になってしまいます。社内にどのようなニーズがあるのか、会社のビジネスがどこに向かっているかなども理解して、社内のITの意味を常に考え続けることが重要だと気がつきました」

社長 「そうだな、これからますますITの会社における役割は重要になる」

社長 「私もその意見に賛成だ。それで、今後の方針は?」

山田 「ITは常に会社の将来をイメージしながら変化させていく必要があるので、ぜひ経営者としての社長の将来の想いも聞かせてほしいです。それに合わせた最適な環境を、勉強して考えていきたいです」

社長 「確かにそうだ。是非、話をさせてくれ。しかし、私にも言語化できていない部分もあるが、そこから一緒に必要なIT環境を考え、皆にも説明していくことが重要だな」

山田 「今回、クラウドを勉強したところ、いろんな活用法があることを知りました。まだまだ、社内で試したことの無いものが多くあり、中には劇的に管理を楽にするものもありそうです。賢く活用できれば、ビジネスの競争優位も期待できそうです。このような機会を与えていただいた会社や社長に改めて感謝します」

社長 「なるほど。やりたいけど着手できていないことも多くあるな。それで全面的にクラウドに移行するという話はどうするんだ?」

山田 「社内で出来ていないものをアウトソースに求めるのではなく、既に出来ることをコストが見合えばアウトソースするという考えにいたりました。社長が以前おっしゃったように、社内のITの利用技術を高めていくことをあきらめては、今後の成長はありません。社内の利用技術を高めることを主眼に置き、内製か外部委託、オンプレかクラウドかは二の次で最適なものを常に追求すべきだと思います」

今回山田さんは、検討した7つのちょい足しソリューションは、「ちょい足し」の言葉のイメージを遥かに超えて、本格的なエンタープライズITインフラにもなることがわかりました。同時に、まだ社内でも使えていない機能もありました。ちょい足しソリューションは、いろいろ試してみるハードルが下げられますし、稼働レベルになればクラウドに縛られずにハイブリッド環境やオンプレミスで考えることも可能です。大切なことは、安全で安心で、管理に手間がかからず自動化レベルを追求していくことだと山田さんは理解したのでした。

JSYでは、自社の経験を活かし、今後ひとり情シス向けのAzureクラウドの活用情報や、ソリューション、サポートを提供予定です。低価格で提供し、新横浜にあるオフィスでは定期的にセミナーを実施していきます。ご関心のある方は、下記バナーをクリックしアンケートにてご意向をお聞かせください。