前編

後編

接点がなかった人々と出会い、
お客さまとのタッチポイントを広げるため
複数の新規サービスを立ち上げ

新たな顧客を取り込んでいかなければ
持続的成長はない

「現在の百貨店業界は非常に苦しい状況にあり、これまで同様の経営を続けているだけでは、持続的成長を実現することはできません。過去に店舗を利用したことのない人や、まったく接点のなかった人を新たなお客様にしていかなければ、やがて頭打ちになってしまうでしょう」と三越伊勢丹の浦田 努氏は述べる。それには、既存ビジネスの抜本的な革新に取り組むことに加え、百貨店ならではのリソースを最大限に活用することで、これまで向き合えていなかった市場の潜在ニーズに応えていくことが必須だという。

この方針のもと、シームレス事業と双璧を成すDXの取り組みとして同社が位置付けているのが、「デジタル新規事業」だ。2018年中ごろの本格始動から現在までの間に、既に8つの新事業をスタートしている。後編では、そのうち3つについて詳しく紹介しよう。

※1:掲載情報は、2020年3月時点のものとなります。

AIで自動採寸する
紳士服のカスタムオーダー

1つ目は、オンライン完結型カスタムオーダー「Hi TAILOR(ハイ・テーラー)」である。これは「良質な服」を「シンプルな方法」で提供する、紳士服のカスタムオーダーサービス。忙しいビジネスパーソンをターゲットに、手間をかけることなく、高品質なカスタムオーダースーツを手に入れられるサービスとして立ち上げた。これについて、同社の横山 達也氏は次のように話す。

「最近は『待たされるのが嫌』『自分のペースでお買い物をしたい』といった、時間の価値を強く意識する方が増えています。そうしたお客様や、そもそも忙しくて買い物の時間がとれないお客様の要望に応えたいというのが、サービス立案のきっかけでした。Hi TAILORを使えば、誰に気を使うこともなく、いつでも手軽にシャツやスーツ(※2)を作ることが可能です。2019年10月の提供開始以来、多くのお客様にご利用いただいています」

利用方法は以下の通りだ。まずスマートフォンでHi TAILORのサイトにアクセスし、自分が望む商品を作成する。方法は「生地から選ぶ」「デザインから選ぶ」の2種類。どちらも、その後に自分好みのカスタマイズを加えることができる。また、どのような生地やデザインが良いのかに悩んだ場合は、同サイト上から三越伊勢丹のスタイリストに相談することも可能だ。単なるオンラインオーダーではなく、百貨店ならではの人的リソースも活用したサービスになっている点が肝といえるだろう。

次に行うサイズ決めのプロセスでは、高度なデジタル技術が活用されている。利用者がなるべく体にフィットした服を着てスマートフォンで全身を撮影すると、わずか2枚の画像を基に、各部位の採寸をAIが自動で行ってくれるのだ。自動採寸の評価は高く、サイズがぴったりでびっくりした、という声は多いそうだ。一度採寸したデータは保存されるため、次回以降の注文では採寸のステップは省略することもできる。

注文した商品は最短3週間で自宅に届けられる。オンライン完結型・工場直送のため、店舗で販売するのに比べてコストが圧縮できる。そのため、質の高いカスタムオーダースーツを、より低価格で顧客に提供できるのだという。

「これまで百貨店でシャツをオーダーしたことがない、新規のお客様との接点になることがHi TAILORのミッションです。サービスを使ったお客様からは『この金額でこのクオリティはすごい。実際に伊勢丹のお店にも行って、上のグレードのオーダーシャツを作りたくなった』と言われることもあり、非常にうれしいですね」と横山氏は語る。

今後は取扱商品の拡大や、ギフト機能の拡充などを図っていく予定だという。デジタル領域のサービスを入口として、リアル店舗を訪れる顧客が増える――。そんな新たなストーリーが、Hi TAILORによって描かれつつある。

※2:スーツのカスタムオーダーは、4月中旬からスタート

「カジュアルギフト」が
SNSでも贈れるオンラインサービス

2つ目は「MOO:D MARK by ISETAN(ムードマーク バイ イセタン)」(以下、MOO:D MARK)だ。

MOO:D MARKは、ミレニアル世代をメインターゲットとしたオンラインギフトサイト。MOO:D MARKでは、ギフトに関する悩みに応える機能を複数揃える。その1つが、ギフト選びのお悩みに応えるコンシェルジュ機能だ。サイト内で3つの質問に答えるだけで、贈る相手やシーンに最適なギフトリストを提案してくれる。また、個別にメールで、三越伊勢丹のギフトコンシェルジュに相談することも可能。さらに、ギフトリストを複数の友人とシェアして、みんなで品物を選べる「ギフトボード」機能も提供されている。

「もともと百貨店はギフト商品に強みを持っていますが、その内実はお中元やお歳暮といったフォーマルなギフトの比率が高く、日常的なギフトについては十分カバーしているとはいえない状況でした。日頃のちょっとした感謝を伝えるツールとしてのギフトを、私たちは『カジュアルギフト』と呼んでいますが、これを気軽に贈りあえるプラットフォームを作りたいと考え、このサービスを企画しました」と同社の福森 拓氏は紹介する。

実は、こうしたカジュアルギフトに特化したWebサイトはこれまでほとんどなかったという。進出するメリットは大いにあると同社は判断した。

リリース以降も、サービスは随時強化されている。中でもカジュアルギフトに特化したサービスとして特徴的なのが「ソーシャルギフト」機能だ。これは住所を知らない相手にもギフトを贈ることができる機能。「SNSだけでつながっているため住所や本名が分からない」、あるいは「年賀状などのやり取りで住所は把握しているが、調べるのに一苦労だ」「そもそも住所を記入する作業自体が面倒」といったニーズに対応している。

「お客様からは『目的が特化されているので使いやすい』『ソーシャルギフトはとても楽で、リピートしたくなった』といった声をいただいています。また最近は、何かあるたびにギフトコンシェルジュに相談してくださるお客様も増えており、信頼されているのだなと感じています」(福森氏)

今後は、既に一定数の利用がある法人向けにサービスを拡充することも視野に入れている。「百貨店はスタイリストやバイヤーの経験を持つ“目利き”が多くいるため、奥深いストーリーを持った商品のご提案が可能です。ギフトで生まれる感謝の連鎖が、お客様の暮らしの豊かさに少しでもつながれば素晴らしいですね」と福森氏は述べる。

消費者の生活に寄り添う、
食材の宅配サービス

そして3つ目が、提案型の定期宅配サービス「ISETAN DOOR(イセタンドア)」である。三越伊勢丹のバイヤーがセレクトした野菜や食料品等を注文者の自宅まで届ける。野菜や豆腐、納豆といったデイリーユースの食材はもちろん、特別な日に向けた食材やスイーツなども豊富に揃える。

「最初から食料品の宅配サービスをやろうと思って立ち上げたわけではありません。最大の目的は、『お客様の生活にもっと深く入り込みたい』ということ。お客様と365日触れ合える商材は何かと考えたときに、出てきた答えがたまたま食料品だったのです」と同社の東木場 由衣氏は説明する。リアル店舗を訪れた際だけではなく、それ以外の顧客の日々の生活にとっても三越伊勢丹が欠かせない存在になっていくために、デジタル技術を使うことが有効だと考えたのである。

利用者からは「家族の会話が増えた」という声が多く届いているという。買い物に費やす時間が減り、その分家族の交流が増えるという理由のほかにも、「今日はISETAN DOORから何が届いた?」「やっぱりおいしいね!」といったワクワクや喜びの声が家の中に増えることで、コミュニケーションが活性化されているのだという。

「また、かつて東京に住んでいて、現在は当社の店舗がない地域にお住まいのお客様からは、『大好きだった伊勢丹でのお買い物がまた体験できるなんてうれしい』という声をいただきました。私もかつて店頭に立っていたことがありますが、当時よりもISETAN DOORを担当している現在のほうが、お客様との絆を強く感じます」と東木場氏。対面での接客とは異なるが、Webでも顧客との信頼関係を築いたり、関係性を深めたりすることは可能だと感じるようになったという。

サービスが使われれば使われるほど、購買履歴などのデータを基にした様々な改善や新施策を実現できるようになっていくだろう。「現在はまだ品揃えの拡充に役立てる程度ですが、将来的には新商品の開発や店舗イベントの方針策定などにも生かしたいですね。そうすることで、より一層、お客様の暮らしを豊かにするお手伝いができればと思います」と東木場氏は話す。

顧客体験を変革する
プラットフォーマーへ

こうした三越伊勢丹の一連の取り組みを、システム基盤の面で支えているのがDell Technologiesである。

「DXを成功させるには、つくったものを速いスピードで成長させていくことが重要です。そのため、新規サービスの多くはクラウドを基盤としていますが、一方で、その駆動力となる『データ』は既存の基幹系システムが保持しています。そこで、基幹系システムのITインフラについても、より新しく柔軟な仕組みへと移行することを決断し、並行して取り組みを進めてきました」と浦田氏は言う。

Dell Technologiesは、HCI(ハイパー・コンバージド・インフラストラクチャー:VMware Cloud Foundation on Dell EMC VxRail)をベースとした仕組みによって、そのために必要な環境を提供している。将来的には、これを複数のパブリッククラウドサービスとハイブリッドクラウド化することで、今回紹介したような多彩なサービスを担うシステム群と基幹系システムを、統合的に運用していく計画だ。

「当社のDXの取り組みは、まだ道半ばです。高い信頼性・可用性を保ちながら、従来とはまったく違うスピード感と柔軟性を確保する。必要な環境の実現に向け、Dell Technologiesには引き続き、ともに歩みを進めてもらいたいと考えています」と浦田氏は強調する。

DXは「仕組みをつくって終わり」ではなく、あくまでもそこがスタートラインになる。試行錯誤を繰り返しながら、進化させていく先に見えてくるのが、「最高の顧客体験」を提供するプラットフォームの確立だ。百貨店から「IT・店舗・人の力を活用した新時代のプラットフォーマー」へ――。三越伊勢丹の挑戦はこれからも続く。

前編

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株式会社三越伊勢丹ホールディングス

www.imhds.co.jp

Dell Technologies

www.delltechnologies.com/ja-jp/