国内最大規模の電力販売量を誇る東京電力グループ。電力事業を取り巻く環境が厳しさを増す中、同グループは「福島への責任」と「競争の中での企業価値の向上」を両立すべく、デジタルトランスフォーメーション(DX)に本格的に取り組んでいる。電力事業で生み出される膨大なデータを活用して従来の業務の延長に留まらない業務プロセスの変革による生産性倍増を図り、グループ内をはじめグループ外の企業も巻き込んだ共創を加速し新ビジネスの創造を目指す。日本を代表する企業のDX戦略は多方面から高い注目を集めている。

電力業界に押し寄せる「5D」という荒波

あらゆる産業や私たちの暮らしに欠かせない電力の安定供給という重大なミッションを担う東京電力グループ。発電事業などを展開する東京電力リニューアブルパワー、送配電事業の東京電力パワーグリッド、電力小売り事業の東京電力エナジーパートナーなどのグループシナジーを発揮し、電気やエネルギーの最適サービスを通じて、お客さま・地域・社会の発展に貢献する。信頼性の高い設備と高度な技術力は、世界が認める大きな強みだ。年間の停電回数、時間ともに世界トップクラスの安定性を誇る。

その一方、電力事業を取り巻く環境は年々厳しさを増している。それを象徴するキーワードが「5D」である。これは「Deregulation(規制緩和)」「De-Centralization(分散電源、地産地消)」「De-Carbonization(脱炭素化)」「De-Population(人口減少)」「Digitalization(デジタル化)」を指す。

2016年の電力の全面自由化、2017年のガス自由化に加え、2020年には送配電事業が法的に分離された。人口減少、LED照明や省エネ家電などの普及により、電力需要は減少する一方、脱炭素社会の実現に向けて再生可能エネルギーに対する注目が集まっている。

「こうした中で複雑化した社会課題の解決に貢献し、価値観が多様化するお客さまの期待を超えるサービスを提供し続けなければなりません。電力業界は、今、大きな変革期を迎えています」。こう話すのは、東京電力ホールディングス 常務執行役の関 知道氏だ。

IT変革を推進し、DXによるビジネス変革を目指す

こうした動きに先鞭をつけるべく、東京電力グループが積極的に推進しているのがDXだ。「東京電力グループにとってのDXとは『福島への“責任”』と『“競争”の中での企業価値の向上』の両立に向けて“稼ぐ力”を創造すること。レガシーなIT環境の刷新によりインフラコストを半減し、グループ全体のIT/OT(制御技術)システムの保守・運用コストを大幅に削減します。その削減したリソースでお客さま視点の顧客体験価値(CX)の向上やバリューチェーン変革による新しい価値の創造を目指しています」と関氏は述べる。

その具体的なアクションとして掲げるのが「生産性倍増」と「新ビジネスの創造」である(図1)。従来から取り組んでいる「トヨタ式カイゼン」で培った業務プロセスの見直しによる業務改善活動をベースに、デジタルテクノロジーを融合させた「カイゼン×デジタルテクノロジー」によるDXを推進する。「これにより、従来の延長線上にとどまらない業務プロセス変革を図り、生産性倍増と新ビジネスの創造につなげていきます」とDXプロジェクト推進室の伊藤 仁氏は語る。

図1 東京電力のDXを支える2つの柱
責任と競争の両立には“稼ぐ力”が必要との考えだ。その取り組みは業務の見直しや効率化による生産性倍増とお客さま視点を重視した新ビジネス創造の両輪で進めていく

レガシーシステムを刷新してDXを推進し、それを軸にビジネストランスフォーメーションを実現する――。これが東京電力グループの描く経営革新の青写真である。

そのためにDX思考をもって、経営環境の変化に柔軟に対応できるスキルセットを定義、変革人財研修・データサイエンティスト研修などの育成プログラムを構築、継続的に実施している。加えて、デザイン思考を取り入れたアジャイル開発を担うインキュベーションセンター「tepsys labs」の活動も2018年6月から開始している。

DXプロジェクト推進室が
東京電力グループのDXを牽引

DXを加速させるためにホールディングスに新組織も立ち上げた。2020年4月に発足し、伊藤氏も所属する「DXプロジェクト推進室」がそれだ。業務の目的からプロセス、提供価値までを体系化し、グループ全体による持続的なDX戦略を推進する。東京電力ホールディングスの社長自らがプロジェクトオーナーとなり、関氏が実働を統括するのだという。

「全社を挙げてやり抜くという強い決意と覚悟を組織内に浸透させるためには、経営層のコミットメントが不可欠です。目先の小さな成功に終始せず、もっと大きなチャレンジに挑む。経営層が組織のトップに入ることで、そういう舵取りも可能になります。予算の獲得や部門の壁など、様々なハードルもトップダウンで決めれば乗り越えやすい」と関氏は説明する。

これまで各事業部や事業会社では、現場を中心とした「カイゼン+デジタル化」の取り組みを行ってきた。それらをつなぎ合わせ、新たなバリューチェーン構築による価値を創造していくことがこの推進室の役割というわけだ。

すでに、様々な取り組みも加速しつつある。電力設備のスマート化はその1つだ。「最新式のウェアラブルデバイスとSmartBIM(ビルインフラストラクチャ・マネジメント)技術を活用し、短時間・低コストで電力設備をスキャンし、3D映像として可視化するもの(図2)。1回の計測で大量の写真と半径50メートルの3次元データを取得できます」と技術戦略ユニット土木・建築統括室企画グループの矢羽野 隆次氏は述べる。

図2 現場を3Dスキャンするウェアラブルデバイス
作業員の上体に装着し両手を使えるようにした。頭上の位置にあるカメラで現場を撮影すると、その映像がリアルタイムに3D映像として取り込まれる

この仕組みは福島第一原子力発電所の廃炉作業現場で活用が始まっている。「短時間で現場の情報を漏れなく取得できるようになった。業務効率化に加え、リアルな現場状況の共有により作業員の被ばく線量の低減と作業安全の向上にも期待している」と福島第一廃炉推進カンパニーの弥富 飛鳥氏は話す。

フィールド作業のデジタル化も着々と進んでいる。東京電力パワーグリッドでは災害時において、現地からスマートフォンにて設備被害状況や復旧工程情報、発電車の稼働状況などを入力し、それらのリアルタイム情報を地図上に可視化できるツールを開発し導入した。

この情報により「災害時においても、配電線網の詳細な状態を視覚的に把握することができ、設備被害状況に応じてどの様な復旧が必要か。発電車の位置や稼働状況はどうなっているのか。また、設備状態や被害写真の情報から被害レベルや道路啓開の要否など、詳細な情報を基に、設備復旧までのプロセスや時間の想定を図りながら、本社と第一線現場で対応する支社がリアルタイムで連携し、意思決定できるようになった」と伊藤氏は話す。

自然災害などで大規模の停電が発生した場合、これまでは現地にて紙などで処理した後に帰社して報告していた詳しい現場状況や、本社では把握しづらかった被害状況、復旧工程情報などが、ツールの導入により配電線網の詳細な状態や電柱単位の被害状況をリアルタイムに把握することができる。これにより情報のタイムラグがなくなり正確な情報を地図上で管理することで、災害時においても最適な判断ができ、意思決定が早くなるため迅速な復旧や正確な情報発信につながる。

新コンセプトのクラウドサービスを実現

この仕組みを本格運用するためには、デジタル化されたデータを収集・分析・活用する「デジタル・プラットフォーム」の実現が欠かせない(図3)。東京電力グループが保有する膨大なデータを活用する上でも重要なインフラになる。

図3 「デジタル・プラットフォーム」のコンセプト
電力事業から生み出されるIT/OTシステムのデータをセキュアなクラウド基盤に格納。政府・自治体や東京電力グループ以外の企業とのオープンイノベーションで、このデータの有効活用を図り、新しいサービスの創造を目指す

東京電力グループは2700万口の顧客データ、3000万台のスマートメーター、600万本の電柱など国内の3分の1にあたる電力関連データを保持する巨大データソースカンパニーである。しかし、これまではそのデータを十分に活用しきれていなかった。そこで、データとオープンイノベーションによるビジネス変革を推進し稼ぐ力を創造するため、東京電力ホールディングスは2020年4月に新たなデジタル基盤を構築した。それがコミュニティ型クラウドサービス「TEPcube」である(図4)。

図4 TEPcubeのインフラ構成とサービス概要
物理サーバー(ベアメタル)や仮想サーバーを活用し、独自のクラウド環境を構築した。今後は高速大容量ストレージの導入に加え、パブリッククラウドとも連携し、ケイパビリティを高めていく

東京電力グループでは重要インフラの情報に加え、膨大な顧客情報を管理する。これらの情報をパブリッククラウドに預けることにリスクを拭いきれない。「そこで『ユーザー企業協働による価値共創』をコンセプトとする新しいタイプのクラウドサービスを提供することとしたのです」(テプコシステムズ 中嶋 好文氏)。それがTEPcubeというわけだ。

ITベンダーによるクラウドサービスとは異なり、利用するユーザー企業同士が相互にナレッジやインフラ、データなどを共有して活用の幅を広げていけるのが特徴だ。「将来的にはSmartBIMの3次元データに情報タグを付与し、データを軸にしたコミュニケーションもできるようにしたい」と矢羽野氏は話す。

「シミュレーションでは、意思決定が劇的に速くなり、屋上の漏水事例では、トラブル発生から応急対策の決定までの時間を10分の1に削減できた」と技術戦略ユニット土木・建築統括室建築計画技術グループの原 孝士郎氏は振り返る。今後はグループ各社と実証を重ね、電力設備の保全業務、災害復旧対策など、適用範囲の拡大を志向している。

例えば、東京電力グループはスマートメーターを使って契約者の電気利用状況のデータを蓄積している。「これを匿名化し統計処理した上で活用すれば、災害発生時の迅速な避難指示や時間帯別の最短避難経路の提供などが可能になるでしょう。交通や小売りといった他業種のデータと掛け合わせれば、今までとは違った視点でエンドユーザーの消費行動が見えてくるかもしれない」と中嶋氏は期待を込める。

DXの推進には信頼できるパートナーが不可欠

こうした同社のDX戦略をサポートするのがデル・テクノロジーズである。

レガシーを刷新し、運用を含めたインフラコストの半減を目指す。これは同社のDX戦略における最重要テーマである。ムダをそぎ落とすことで生まれるヒト・カネのリソースをDX戦略に投入するためだ。 「その達成に向けた提案が非常に具体的だったことに加え、ユーザー企業に寄り添って業務変革や新しいビジネスの創造までサポートしてくれる提案に感銘を受けました」と関氏はパートナー選定の理由を述べる。

正式契約に向け関氏は米国に飛び、デル・テクノロジーズのグローバル経営陣とのトップ商談に臨んだ。「グローバル経営陣からデル・テクノロジーズを挙げて全面的にサポートするという心強いメッセージをいただけた。これにより、互いにWin Winの関係が築けると確信しました」と関氏は続ける。

デル・テクノロジーズの提案は主に次のような内容だ。まずITインフラ基盤は同社のハイパーコンバージドインフラ(HCI)を採用し、レガシーインフラを近代化することで導入コストを最適化する。その上でアーキテクチャの高度化と運用の自動化を進め、運用コストの低減を図る。そして組織改編をサポートし、業務も変える。

TEPcubeの構築に当たってもデル・テクノロジーズのサポートが大きな力になったという。「市場動向調査から課題管理、プロジェクト管理まで事業の企画段階から1年弱にわたってサポートしてもらい、多くの有意義なアドバイスをいただきました。大きなトラブルもなく予定通りサービスを開始できたのは、デル・テクノロジーズのサポートのおかげです」と中嶋氏は評価する。

これまでデル・テクノロジーズに対してはPCやサーバーの会社というイメージが強かったが、今回のプロジェクトを通じてイメージが180度変わったという。「製品を提供するだけでなく、顧客の立場に立ってその価値を高め、DXの推進やビジネス変革までサポートしてくれる。課題解決や新しいチャレンジを考える時、真っ先に相談したい存在になりました」と中嶋氏は続ける。

東京電力グループのDX戦略はまだ道半ばだが、関氏は成果を上げるためのポイントを次のように振り返る。

「DXだからといってデジタルありきで考えてはいけない。マインドを変え、業務を変え、組織を変えていく。その本質はチェンジマネジメントと同じです。まず目的を考えた上で“道具”をうまく使うことを考えるべき。そして経営トップが強いリーダーシップを発揮し、その目的を必ずやり遂げるという覚悟を持つことが肝要です」。

東京電力グループは今後も生産性倍増と新ビジネスの創造に向けたDX戦略を推進し、多様化・複雑化する社会課題の解決と持続可能な社会の実現に貢献していく考えだ。

東京電力ホールディングス株式会社

https://www.tepco.co.jp/index-j.html

TEPcubeに関するお問い合わせ

tepcube-info-ml@ml.tepsys.co.jp

デル・テクノロジーズ株式会社

https://www.delltechnologies.com/ja-jp/index.htm