ヤンマーは、1933年に世界で初めてディーゼルエンジンの小形実用化に成功し、現在は産業用エンジンを軸に多様なソリューションを展開している。その産業用エンジンの開発・生産を担うヤンマーパワーテクノロジー株式会社は開発に欠かせない解析業務の環境を、物理ワークステーションからVDIへと移行した。これと並行して計算専用サーバーも導入し、負荷の大きい計算処理をサーバー側で実行させている。これにより解析業務(CAE)の効率を大幅に高めることに成功。さらに場所を選ばない体制を構築したことが、設計者の働き方改革にもつながっていくという。

多様化するニーズに対応するため
複数プロジェクトを同時進行

ヤンマーは1912年に大阪で創業し、1933年に世界で初めてディーゼルエンジンの小形実用化に成功した産業機械メーカー。現在は産業エンジンを軸に、農業機械、建設機械、マリン、エネルギーシステムなどの事業をグローバルに展開し、顧客の課題を解決するソリューションを提供している。

なかでも産業エンジンに関しては、主要部品の鋳造から最終組み立てまで一貫した生産体制を有し多品種混合生産を実現する「ヤンマー生産方式」を実現。多岐にわたる顧客からの受注に柔軟に対応できる体制を確立している。なおヤンマーは2020年4月に組織再編を行い、これに伴いエンジン事業を管轄する主要部門が「ヤンマーパワーテクノロジー」と社名変更し、その事業を継承している。

「産業エンジンの分野では、以前はディーゼルエンジンが圧倒的に多かったのですが、最近ではLPG(液化石油ガス)を燃料とするガスエンジンや、ハイブリッドシステムへのニーズが高くなっており、ディーゼルエンジンでもより高出力なものが求められるようになっています」。このように市場の状況を説明するのは、ヤンマーパワーテクノロジー株式会社 小形事業部 開発部 開発マネジメント部 主幹の上里 晃一氏。

こうした変化に対応するため、2018年4月に高出力の産業用ディーゼルエンジン「4TN101および4TN107」を開発、2019年1月には産業用ガスエンジン「4TN88Gおよび4TN98G」の開発を発表した。

「開発スタイルも、この4機種の開発着手を境に大きく変化しました。以前は1つの開発プロジェクトが終了したら次の開発プロジェクトに移行する、というシーケンシャルなスタイルだったのですが、この4機種は同時並行で開発が進められていきました」(上里氏)

さらに2020年2月には、トヨタ自動車と覚書を締結。トヨタ自動車の「MIRAI」用燃料電池ユニットと高圧水素タンクをベースに、船舶用燃料電池システムを開発するプロジェクトが進んでいる。これも2020年度内を目標に実証実験を開始し、近い将来には実用化する計画だという。

物理ワークステーションでは
解析の効率化に限界があると考え
早くからVDI化を検討

動力源としての性能は当然のことながら、耐久性や整備性なども向上させ、さらに環境性能も高めていきたい。このような新しい挑戦を次々に行うには、設計の効率化が欠かせない。その中でも特に重要なのが、設計内容の検証を行う解析業務の効率化だったという。

「新しい領域の機器開発を行うには、これまでの経験・ノウハウを基盤とした技術の応用と、解析による挙動把握が欠かせません。特にエンジンの開発では、構造や機構、振動、音、熱、流体、燃焼など、ほぼすべての物理現象を対象としたCAEによる解析が必要になります。そのため使用するソフトウエアは商用ソフトだけで20種類以上にのぼり、自社開発のユーティリティも必要になります」(上里氏)

しかしこれまでの解析ソフトウエアを動かすコンピューター環境には、大きな課題があった。「以前は同時進行するプロジェクトの数が限られていたこともあり、解析環境も物理ワークステーション4台だけで行っていました。しかし変化する市場ニーズにスピーディーに対応するには、これでは不十分だと考えていました」と語るのは、ヤンマーの設計担当者であり、解析業務も行っているヤンマーパワーテクノロジー株式会社 小形事業部 開発部 陸用第三技術部 杉本 正人氏だ。

CAE用の解析に使える高性能ワークステーションはサイズが大きく、ファン騒音や発熱なども問題があったため、どうしても事務所の隅に設置せざるを得ず、解析のたびに席を移動しなければならなかった。「自席のマシンで作成したモデルを解析するためには、そのデータを解析用ワークステーションに転送する必要がありますが、これも長いときには1時間程度かかっていました。また誰かがログインしたまま離席した場合には、まだ計算中なのかもう終了しているのかの判断ができず、そのユーザーが戻ってくるまで待たなければならないという問題もありました」(杉本氏)

このままの状況では、解析業務の効率化は明らかに困難だ。また複数のプロジェクトが同時並行で進むようになれば、ワークステーションの台数も不足することになる。これらの課題に対応するため、vGPUが発表された2013年からワークステーションの仮想化に関する調査を開始。2014年にはいち早くvGPUに対応したCitrixを導入し、VDIの運用を開始する。

「実はサーバー環境は既にVMwareで仮想化しており、十分な利用・運用実績がありました。そのため当初からVDIもVMwareで実現したいと考えていたのです。しかしこの頃はまだVMwareによるvGPUサポートが発表されていなかったため、まずはCitrixでVDIの検証を行おうと考えていました。つまりVMwareのサポートを待つ期間を、VDIが本当に業務で利用できるかどうかの実証期間と位置付けていたのです」とヤンマーグループのICT環境をサポートしている、ヤンマー情報システムサービス株式会社 システムエンジニアリング部 ものづくりITグループの松田 亮氏は語る。

「解析環境を一から見直す」という
デル・テクノロジーズの提案を評価

その後、2015年にVMwareによるvGPUサポートが発表されると、VDIをVMwareへと移行する取り組みがスタートする。ここで4社からの提案を受けた上で、2016年にはデル・テクノロジーズをパートナーに選定、Dell EMC PowerEdgeサーバーとVMware Horizonをベースにした、VDI環境の整備を本格的にスタートさせた。

それではなぜデル・テクノロジーズが選ばれたのか。その理由を上里氏は次のように説明する。

「それまでにも様々なベンダーとお付き合いしてきましたが、多くのベンダーは専門分野ごとに担当者が異なっており、複数の分野をまたがった質問に対して適切な回答が得られないことも少なくありませんでした。これに対してデル・テクノロジーズは、VDI導入に関連するすべての領域に関して、迅速に答えてくれました。また単に技術的な情報を提供するだけではなく、当社の状況をきちんと聞いた上で、適切な選択肢を提示してくれたのです。そのためVMware Horizonの経験がない私たちにとって、最適なパートナーになると判断しました」

また、デル・テクノロジーズの提案が、ほかのベンダーとは異なる視点からの内容だったことも大きく評価された。それは、単に解析用ワークステーションをVDI化するだけではなく、「将来を見据えて解析環境のあるべき姿を一から見直す」というものだった。その結果、解析に必要な業務をすべてVDI化されたワークステーションで処理するのではなく、計算量の大きな部分を計算専用サーバーで処理する、というシステム構成が立案された。

「解析業務には、実際に解析計算を行うソルバの実行に加え、その前処理を行うプリプロセス、解析結果を可視化するポストプロセスが必要です。このうちプリプロセスとポストプロセスをVDIで行い、計算量の大きいソルバを計算専用サーバーで実行することで、より効率よく業務が進められると判断しました」(上里氏)

この計算専用サーバーでは、当初は解析用ワークステーションと同様にWindowsを動かす予定だった。しかし、あるCAEソフトの実モデルによる計算が途中で止まるという問題が発生。そのソフトウエアベンダーから「動作要件を満たしているが原因不明のため、サポート不可」という返事が来たため、急遽Linuxへ変更することになった。ヤンマー社内では、20年前にUNIXを使ったことはあったものの、Linuxの経験はほぼゼロの状態だった。しかしここでもデル・テクノロジーズから、支援を受けることでリスクを回避できたという。

「Linuxに関するツールの予算は全く取っていなかったので、運用に必要な環境はすべてオープンソースソフトウエア(OSS)で整備する必要がありました。もちろん商用ソフトウエアではないため、その利用はすべて自己責任です。しかしデル・テクノロジーズ側はLinuxやOSSにも詳しい担当者がおり、そのノウハウを活用させてもらうことで、問題なく環境を整備できました」

解析業務を自席で効率よく実行可能、
運用管理の徹底も実現

2017年には計算専用サーバーを増強しクラスター化。これと並行してVMwareのVDI環境も増強されていく。現在では20VMがVDI上で稼働。VDIと計算専用サーバーはストレージを共有しており、計算ジョブを自動投入する仕組みも実装されている。

「物理ワークステーションからVDIに変わったことで、使い勝手は大幅に向上しました。モデル作成からプリプロセス、ソルバの実行、ポストプロセスによる可視化まで、すべて自席からVDI上の仮想デスクトップにアクセスするだけで行えるからです。またストレージを共有しているため、モデルデータの転送に必要だった時間もゼロになりました。処理時間が長くなりやすいソルバの実行も、自動的にジョブが投入されて終了するとメール通知が来るようになっています。そのため誰が使っているのかわからないワークステーションの空きを待つ、といった時間も不要になりました」(杉本氏)

このようなユーザーにとっての利便性に加え、今回構築した仕組みは、管理するIT部門側にもメリットがあった。「以前の物理ワークステーションの運用は、基本的にユーザー部門が主体的に行っていました。そのため、誰がどのように使っているのかをIT部門側で把握することは簡単ではありませんでした。しかし現在では、Zabbixをベースに作り込んだ監視システムが動いており、VDIと計算クラスターの両環境の状況を把握できるようにしました。これでジョブ管理やリソース管理、ライセンス管理などを行っています。つまり、いつ誰が何を使っているのか、どの程度のリソース消費量なのかも一目瞭然です。そのため今後の投資判断も容易になっています」(松田氏)

解析環境のVDI化によって、社内レビューの行い方も変化しつつある。以前は解析結果を複数の視点から見たものをPowerPointに貼り込み、それをレビュー会議で検討を行っていたが、最近ではノートPCを会議室に持ち込み、VDIに接続して解析結果をその場で動かしながら、レビューを行うことが増えているのだ。これによってより適切な判断を、短時間で行えるようになったという。

このような効率化を積み重ねることで、開発プロジェクトの進捗スピードは大幅に向上している。事実、前述の4つのプロジェクトも、ヤンマーにとってチャレンジングなものであるにもかかわらず、すべて予定通りの日程で完了している。「VDI環境に移行していなかったら、予定通り進めることは難しかったはずです」(杉本氏)

さらにニューノーマル時代に向けて、今後VDI化は更なる貢献を果たすことが期待される。直近の例として、コロナ禍で緊急にテレワーク環境が必要となった際もVDI環境は在宅でも解析業務が行えることを実証したのだ。「今後は、社内遠隔拠点との解析結果の共有や客先でのレビューにも活用するといった使い方も検討しています」と上里氏。また、構築した解析環境をベースにさらに活用範囲を広げ設計者の働き方改革につなげていくことも検討していくという。

写真左より、上里 晃一氏、杉本 正人氏、松田 亮氏

Corporate Profile

ヤンマーパワーテクノロジー株式会社

ヤンマーは、1912年に大阪で創業し、1933年に世界で初めてディーゼルエンジンの小形実用化に成功した産業機械メーカー。現在は産業エンジンを軸に、アグリ、建機、マリン、エネルギーシステムなどの事業をグローバルに展開し、顧客の課題を解決するソリューションを提供している。2020年4月に組織再編を行い、ヤンマー株式会社のエンジン事業を管轄する主要部門が「ヤンマーパワーテクノロジー」と社名変更した。

ヤンマー情報システムサービス株式会社

ヤンマーの情報システム部門が1986年に機能分社化を行い設立された、ヤンマーグループ唯一のソフトウエア会社。ヤンマーグループで培われた生産管理・販売管理・経営管理までの一貫した情報処理の経験と技術、ノウハウを基軸に、ヤンマーグループの情報システム分野の機能会社としての役割を果たす。

ヤンマーパワーテクノロジー株式会社

https://www.yanmar.com/jp/

ヤンマー情報システムサービス株式会社

https://www.yanmar.com/jp/about/company/yiss/

デル・テクノロジーズ株式会社

https://www.delltechnologies.com/ja-jp/index.htm