次世代の高性能IoT用
60GHz超小型レーダー ~人やモノの位置と動きを正確に把握~

あらゆる電子機器に新たな価値を生み出す眼を付与

指先に乗る
次世代60GHzレーダーチップ

 レーダーと同様に、周囲の情報を検知するセンサーとしてカメラがある。カメラは、人やモノの形を詳細に知ることができるが、他方でレーダーでなければ収集できない情報も多い。

 例えば、暗い場所や明るすぎる場所、さらには熱源のある場所で人やモノの位置や動きを検知する性能は、レーダーの方が圧倒的に優れている。また、電波を利用するレーダーならば、毛布にくるまった子どもの動き、プラスチックの箱の中にある商品の位置など、遮蔽物を通したセンシングも可能だ。この透過性を活用すれば、筐体の中に組み込んでも支障なく機能するため、デザイン性においても優れた電子機器を作ることができる。

 人やモノの位置、動きを把握するセンサーとして極めて有用なレーダーだが、これまでは、あまり多くの電子機器に応用されてこなかった。電子機器の機能として搭載しにくい、様々な課題を抱えていたからだ。「そこでインフィニオンでは、高精度かつ小型で使い勝手に優れた60GHzレーダーチップを開発することで、応用を阻害していたあらゆる課題を解決しました」と同社パワー&センサーシステムズ事業本部 RF&センサー シニアエキスパートの高木稔氏は言う。

 60GHz帯の周波数のレーダーは、日本では自動車や産業、コンシューマー向けなど、様々な用途での利用が認められている。77GHz帯や79GHz帯のレーダーの場合、欧米では自動車向け、しかもADASなどでの車外センシングに用途が限定される。24GHz帯のレーダーは産業やコンシューマー向けでの利用が可能だが、帯域が200MHzと狭く、最高分解能が75cmと決して高くないことが応用展開を妨げていた。60GHz帯のレーダーの場合、最大7GHzの帯域を活用することで分解能を2.14cmにまで向上できる。これならば、人の手の動きを正確に検知して、機器をジェスチャー操作するHMI(Human Machine Interface)としても利用が可能だ。

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図2:高性能で応用が広い60GHzレーダー

60GHzレーダーは、7GHzという広帯域を活用することで距離分解能が2.14cmと高精度を実現できる。さらに電波によって人やモノを検知するため、様々な環境での利用が可能である。法制度による利用制限も課せられていない。

 従来のレーダーチップの応用機器が限定されていたのは、サイズ面での課題もあった。例えば、自動車向けのレーダーは、高精度ではあるものの10cm角ほどの大きさが一般的で、これほど大きなデバイスを組み込める機器は多くない。今回インフィニオンが開発した60GHzレーダーチップは、電波の送受信に必要な要素を一通り組み込みながら、指先に乗るサイズに小型化。情報機器や家電製品、スマートフォンのような携帯機器などにも搭載可能な大きさだ。

 さらに、レーダーの応用を阻む要因として、アンテナ設計など高周波の電波を扱うRF回路の開発に専門性の高い知見とスキルが求められる点も挙がっていた。インフィニオンのレーダーチップは、難易度の高いRF設計が求められる部分をすべてパッケージに集約。高感度のレーダー機能を、一般的なプリント基板上に簡単に搭載できるようにした。さらに、評価キットや人感センシングなど基本的なソフトウエアも用意し、レーダーの応用開発のハードルを下げている。

 当然、レーダーは国・地域ごとの電波法を遵守して利用する必要がある。2020年5月時点で、既に米国、欧州、中国(利用可能な帯域は最大5GHz)、韓国では、60GHzレーダーを7GHzの広帯域で活用できる。米国に関しては、出力の上限が最大10dBmと低かったが、グーグル社が帯域を絞り、Duty比制限を付けることを条件に高出力化の許諾を得て、応用に先鞭をつけた。従来、日本では60GHz帯の利用はできなかったが、2020年1月に法律が改正されて利用可能になった。電波産業会(ARIB)の作業班にインフィニオンも参加して、60GHz、7GHz帯域のレーダーに向けた標準規格の策定作業を進めている。

60GHzレーダーが生み出す
身近な場所のイノベーション

 60GHzレーダーチップの応用は極めて広い。効果的に活用すれば、新しい価値を持つ機器やサービスが続々と生まれる可能性がある。

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図3:インフィニオンの60GHzレーダーチップのユースケース

インフィニオンの60GHzレーダーチップならば、様々な電子機器の中に組み込み、人やモノの位置や動きを正確に検知できる。この特性を生かすことで、人の存在の確実な検知、周囲にいる位置や人数の把握、生体情報である呼吸の検知など様々な用途に利用できる。

 例えば、人とモノを見分ける、新たな人感センサーを作ることが可能だ。これまでの人感センサーでは、じっと動かない人を存在しないと見なす場合があった。トイレの便座に座っていたら突然勝手に照明が消えてしまった経験がある人も多いだろう。60GHzレーダーチップを使えば、呼吸による人の微妙な動きを検知することで、人の存在を確実に検知できる。省エネルギー化はもちろん、生体情報である呼吸をセンシングするなど、高精度が求められるヘルスケア分野でも大いに貢献することだろう。

 また、人がいる方向、距離、人数は正確に把握できるようになる。この特徴に合わせて、提供する情報やサービスの内容を変えるような情報機器も実現することだろう。人の流動性を追って、マーケティング情報として活用することも可能だ。さらに、モノに反射して返ってきた電波を機械学習することで、モノの素材を判別する技術の研究も行われている。

 さらにインフィニオンは、レーダーチップ以外にも、「XENSIV™(センシブ)」というブランド名で様々なセンサーを提供している。その中には、±2cmの高低差を検知できる気圧センサーや73dBと高SNRのMEMSマイクなどもある。高性能MEMSマイクと融合させた物体検知用の超音波センサーやCO2センサーなども開発中だという。「インフィニオンでは、尖った機能・特性を持つ製品にフォーカスしてセンサーを用意しています。ユニークなセンサーを複合的に組み合わせた、新たな価値を持つセンサー・フュージョン・ソリューションを提供していきます」と同社パワー&センサーシステムズ事業本部 RF&センサー 部長代理の荒井康之氏は言う。

 近年、ヘルスケアや見守り、小売店でのマーケティングなどをより効果的に変えるため、デジタル空間で生まれたデータだけでなく、IoTを利用して収集したリアルな世界からのデータをフル活用する機運が高まっている。60GHzレーダーチップをはじめとする同社のセンサーを組み合わせれば、リアルな世界から得た情報をデジタル空間へとつなぐ、価値あるソリューションが生まれることだろう。今後のさらなる飛躍に期待は高まる。

インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社
URL:https://www.infineon.com/jp