不確実性への対応力を左右するDX 先進企業は緊急事態をどう乗り越えたのか

Case Study

「コロナ禍に短期間で事業継続を実現できた要因とは?」
〜DXによる働き方改革がパンデミック対策につながる〜

アステラス製薬株式会社
情報システム部長
須田 真也氏

「コロナ禍に対応するために新たなITの取り組みをしたのではない。その前から取り組んでいた施策が生きた」とアステラス製薬 情報システム部長の須田 真也氏は率直に語る。日本発の研究開発型グローバル製薬企業であるアステラス製薬(以下「アステラス」)では、社会的責任を果たすべくクラウドなどのテクノロジーを駆使し、事業継続性を徹底追求してきた。その一環としてアステラスはDXによる働き方改革にも積極的だ。コロナ禍では、BCP(事業継続計画)に取り組む企業姿勢が問われてくる。アステラスの須田氏を中心に、日本マイクロソフト 業務執行役員 医療・製薬営業統括本部長 大山 訓弘氏、アクセンチュア テクノロジーコンサルティング本部 マネジング・ディレクターの永田 満氏の3者で、DXによる働き方改革とBCP、ITの可能性について語り合った。
※本取材は日本マイクロソフトが提供するチームコラボレーションツールである「Microsoft Teams」で実施いたしました。

“起きてからどう対応する”ではなく
“起きることを想定して考える”

--アステラスでは、刻々と変化するコロナ禍にどのように対応していったのでしょうか?

須田 アステラスは、経営理念「先端・信頼の医薬で、世界の人々の健康に貢献する」のもと研究開発型のグローバル製薬企業として事業を展開しています。マネージメントに関しては、グローバル、国、地域の各レベルでの判断を組み合わせて行っています。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う対策としては、中国を含むグローバル全体の状況をモニターし、当社が取るべき対応の検討・指示を実施する組織として、2020年2月に「グローバル クライシス チーム」を立ち上げました。同組織は、経営管理・コンプライアンス担当役員を長とし、各部門の代表者で構成されており、刻々と変化するコロナ禍において速やかな意志決定を行っています。

2020年2月の段階では、日本国内のオフィス系の社員は可能な限り在宅勤務を行い、出勤する場合も時差出勤としました。MR(医薬情報担当者)は、医療機関への訪問に際し十分な体調管理の実施に加え、訪問先の意向を確認した上で訪問していました。2020年4月の緊急事態宣言発出に伴い、オフィス系社員は出社の禁止と在宅勤務の徹底を図り、MRは訪問自粛を行い、随時リモートによる情報提供や営業活動にシフトしました。また、製薬会社としての社会的使命である医療用医薬品の安定供給や品質管理を続けるために、BCP対応業務として会社から指示を受けた社員が、厳重な感染防止対策のもとで出社を含む必要な活動を継続しました。

経営トップからは「根拠もないのに数ヵ月で落ち着くという楽観的な考え方をしてはいけない。“起きてからどう対応する”ではなく、“起きることを想定して考える”ように」との指示がありました。

コロナ禍ではBCPに取り組む企業の姿勢が問われる

--在宅勤務への移行を短期間かつスムーズに実現できた要因はどこにありますか?

須田 当社は、人々の健康に関わる医療用医薬品事業を展開しており、社会的責任を果たすために事業継続性を徹底追求してきました。その一環として「いつでもどこでも仕事ができる環境」の構築にもいち早く着手し、インターネットが普及する以前の1990年代にはすでにMRにノートパソコンを支給していました。

近年では、PCリモートアクセス(VPN、VDI)に加えスマートフォンの内線化と固定電話の撤廃、受信FAXのPDF化、クラウドサービス「Microsoft 365」の導入など、社外からIT環境を利用することを考慮し設計・導入・運営を行っています。さらに、被災時にも医療従事者からの問い合わせに対応できるよう、コールセンター機能の在宅対応も実現しています。コロナ禍以前から人事制度が在宅勤務に対応していたことも、スムーズな移行を可能にしました。

当社情報システム部門のスタッフが早期に在宅勤務にシフトするだけでなく、アクセンチュアさんをはじめ当社のシステム運用をご支援いただいている協力会社の方も早期に在宅勤務にシフトできました。リモート運用でも全く問題がないことから、アクセンチュアさんには現在もリモート運用を継続していただいています。

アクセンチュア株式会社
テクノロジーコンサルティング本部
インテリジェントプラットフォームサービス日本統括
マネジング・ディレクター
永田 満 氏

永田 アクセンチュアでは、日本、米国、欧州、インド、中国などの拠点からアステラス様の世界中のシステム運用をグローバルでサポートしており、不測の事態が起きても安定的にシステム運用サポートを継続できるような体制を整えています。今回のコロナ禍で、日本はもとより海外事業所においても同時に在宅勤務にシフトしていくアステラス様の動きに合わせて、アクセンチュアもリモートでのシステム運用体制を整え、両社がほぼ100%に近い在宅勤務の中でビジネス上の支障をきたすことなく運用を続けています。

また、システム運用だけでなく、アステラス様とご一緒している大規模システム開発プロジェクトのご支援においても、大きな問題が発生することなく、両社のメンバーがリモート下でプロジェクトを推進しています。今回、すばやくリモートでの運用・開発体制を整えることができたのも、アステラス様にてコロナ禍以前から在宅勤務を支えるITインフラをグローバルで整備されていたためであると実感しています。

日本マイクロソフト株式会社
業務執行役員
医療・製薬営業統括本部長
大山 訓弘 氏

大山 アステラス様は、「Microsoft 365」のいち早いご導入、クラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」へのオンプレミス型システムの移行など、事業継続性を担保するIT施策を実施されてきました。クラウドの活用が在宅勤務へのスムーズな移行において、重要なポイントになったのではないかと思います。

数年先に想定していた変化を、数カ月で実現しなければならなかった

--コロナ禍で新たにチャレンジしたITの取り組みは何かありましたか?

須田 コロナ禍を契機とする新たなITの取り組みは特にありません。ただ、数年先に想定していた変化を、数ヵ月で実現しなければなりませんでした。例えば、チームコラボレーションのハブである「Microsoft Teams」は、2021年度にグローバル展開を計画していましたが、ビジネス側の強い要望もあって2020年度中に前倒しすることにしました。

ITを活用し、医療機関に訪問することなく情報提供を行うリモート型MR活動も開始しました。コロナ禍によりMRが訪問を自粛することで、情報を提供できないという事態は回避しなければなりません。医師が患者さんに対し安心して医薬品を処方できるよう、適切な情報をタイムリーに必要な形で届けることが不可欠です。デジタルという新たなチャネルにより医療従事者とのエンゲージメントを高めていくことは、重要なテーマとなっています。

大山 Teamsは、非対面・非接触でありながらWeb会議やコンテンツ共有により、まさに「チーム」で仕事をすることができます。アステラス様におけるビジネス側の強いご要望は、社内だけでなく、社外で接点のある方々とのコラボレーションへの活用も期待されてのことだと推察します。

また、須田様からリモート型MRのお話がありましたが、リモートから情報提供を行うことで、医師はMRに依頼しなくても欲しい情報が欲しいタイミングで入手できます。一方で、MRが対面して行っていた営業スタイルの変革も必要です。日本マイクロソフトでは、アステラス様と一緒に医薬品ビジネスの再定義にチャレンジしていきたいと思っています。

永田 全社員が日常業務で当たり前のようにリモートワークのツールを活用している現在の状況をみると、改めて効果的なコラボレーションを可能にするツールの重要性に気づきました。コロナ禍においてツールやインフラの整備状況によっては、プロジェクトやサービスが止まってしまう、社員の安全確保が難しかった会社も多くありました。今回の新型コロナウイルスのような感染症や災害に限らず大きな変化が起きた時、クラウドを先行導入した企業と、そうではない企業との間で大きな差が生まれるということを実感しました。

またアステラス様の役員の方とのお話の中で、今回の件でこれまで構想にとどまっていたデジタル化の施策を実行に移すことができ、今後よりその動きを加速させることが可能になったという話が非常に印象的でした。アクセンチュアとしても、アステラス様のデジタル化推進のお手伝いをできればと思っております。

2009年のSARS流行時と今回のコロナ禍では
ITが寄与できるシーンが大きく変わった

--コロナ禍においてITインフラに課題は生じましたか?

須田 グローバル標準のオンライン会議ツールとして利用している「Skype for Business」における月単位接続数が、1年前と比べて10倍になっていました。急激に増加した在宅勤務者に対してサービスとして継続できたのは、クラウドを利用していたからだと思います。オンプレミスで社内サーバーからサービスを提供していたら、このような短期間での利用増加にタイムリーに対応できなかったのは間違いありません。

今回のコロナ禍で、BCP対応業務を担う一部社員を除き、全社員が社外から社内へアクセスしたことで、回線の帯域やVPN同時接続数が不足する事態となりました。適切な投資により構築したITインフラでは、緊急事態時にスペック不足の問題が必ず生じます。大事なポイントは、異常を速やかに察知し、いかに迅速に問題を解決していくか。当社でも早期にネットワーク環境の改善を図りました。見方を変えると、VPN同時接続数が不足したのは、投資のレベルをニーズに合わせていたからだと言えます。もしこれが不足しなかったとしたら、それは、必要のない投資を行っていたということになるのではないでしょうか。事前に備えることには限界があります。重要なのは、問題が起きた時にすぐに対応することです。

永田 アクセンチュアでは、グローバルレベルで起きている環境変化、先進事例などをもとに、5年、10年先を見据えて様々なサービスを準備、提供しており、須田様とも常にそのような会話を行っておりました。今回の件で思うのは、コロナ禍のような事態が起きてからそれに対応するために慌てて何かをするのではなく、企業としての社会的責任を果たす、環境変化に対応するためには何が必要か?ということを問い続けてそのために必要な準備を積み重ねていくことが、結果として今回のような不測の事態への対策に繋がっていくということです。日々の積み重ねと緊急時の迅速な対応の両輪が、パンデミックを乗り切るために必要なのです。

大山 須田様との会話で印象深かったのが、2009年のSARS(重症急性呼吸器症候群)流行時と今回のコロナ禍では、ITが寄与できるシーンが大きく変わってきているとのご指摘でした。2020年4月の緊急事態宣言発出から多くの企業が在宅勤務を行っていますが、大きな支障もなく業務を継続できており、クラウドサービスを提供している日本マイクロソフトとしては感慨深いとともに、社会的責任の大きさを痛感しています。

技術革新により今はできないことも、明日は可能となる

--ポストコロナを見据え、これから企業は何を重視すべきでしょうか?

須田 アステラスの、くすりづくりを象徴する言葉に「明日は変えられる。」があります。いまだ満たされていない医療ニーズであるアンメットメディカルニーズに応える革新的な医療ソリューションを創出し、世界中の患者さんやそのご家族に笑顔と希望を届けていく決意が込められています。

大山さんからお話がありましたが、2009年のSARS流行時にはこの規模の在宅勤務をIT基盤が支えることは不可能でした。世界中の膨大な量の論文を短時間に解析し、ウイルス変異の追跡や治療薬やワクチン開発に向けた知見を出すことも不可能でした。重要なポイントは、クラウド、AI、IoTなどのテクノロジーが創る世界は急に生まれたわけではなく、これまで創り続けてきた土台の上で成り立っているということです。DXを牽引するマイクロソフトさんやアクセンチュアさんには、必要な時に必要なものがすでにあるという環境を、常に提供し続けていただきたい。デジタル技術を活用し、明日を変えるために挑戦していくことは、ポストコロナ時代の企業にとってより重要になると考えています。

CONTENTS

アクセンチュア×日本マイクロソフト「ポストコロナ:ニューノーマル時代を勝ち抜くために 「ニューノーマルの時代における“企業のあるべき姿”とは?」〜DXによる変革を加速させ、ニューノーマルに挑む〜アフラックCase Study