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デジタルをフルに活用するニューノーマル時代に向けて、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する企業と、立ち止まっている企業との間で競争力の差は広がるばかりだ。しかし、焦るあまりにDXを目的化してはいけない。大事なのは、業務プロセス改革やイノベーション創出の実現だ。金融業界において、先進技術をいち早く活用しIT基盤の変革に挑戦してきた第一生命。同社は「お客さまの情報資産を守る」ことを第一に、安定したITサービスを提供しつつ、DXを加速するプラットフォームの構築に取り組んでいる。ハイブリッドクラウドによるバイモーダル戦略を短期間で実現する革新的HCIソリーション「Azure Stack HCI」の真価とは?第一生命のITインフラ変革をリードするキーマンにその全貌を聞き、DX時代におけるITインフラのあるべき姿を考察する。

「守りと攻め」を両立しDXを加速するプラットフォーム

第一生命ホールディングス株式会社
第一生命保険株式会社
ITビジネスプロセス企画部
フェロー
太田 俊規 氏

1902年の創業以来、「お客さま本位(お客さま第一)」を経営理念に据え、生命保険の提供を中心に、地域社会への貢献に努めてきた第一生命。近年、少子高齢化の加速など保険業界を取り巻く環境が変化する中、保障に加え、健康増進、資産形成、つながり・絆という新たな価値の提供を通じ、「一生涯のパートナー」としてQOL(Quality of Life)向上への貢献に力を注ぐ。同社の歩みは、2010年の株式会社化、その後の持株会社体制への移行など、時代に合わせてお客さまや社会のために自ら変革に挑戦してきた歴史でもある。

チャレンジ精神はDXへの積極的な取り組みにも表れている。金融庁は、金融機関における基幹系システムのデジタル化を支援する「基幹系システム・フロントランナー・サポートハブ」において、第一生命の案件支援を決定した。同案件は、「基幹系システムについて、コアとなるお客さま・契約データの管理・保存等をオンプレミス環境に残しつつ、外部連携・データ分析等に関する機能をクラウド基盤に構築することで、新たなサービス実現と運用の効率化の両立を図る」ものだ。同社 ITビジネスプロセス企画部 フェロー 太田俊規氏は、プラットフォームのアーキテクチャーについてこう語る。

「当社のプラットフォーム戦略を策定する上で大切にしていることは、お客さまの情報資産を守ることです。プラットフォームのアーキテクチャーでは、システム要件に関して変えてはいけないもの、変えていいものについて社内で徹底的に議論を重ねました。最適解として導き出したのが、江戸時代の“出島”の発想です。大切なデータは安全な場所でしっかりと守りながら、“出島”を通じて外部サービスを活用することにより、新たな価値創造を行います」。

具体的には、ホストコンピュータ・オープン系サーバー・ホームクラウド(Microsoft Azure (以下、Azure)上で構築された同社の次世代システム基盤)で構成される基幹系システムにてセキュアな情報管理を行い、さらに Azure 上に“出島”の発想で外部のサービスと安全・簡単に接続するための機能と他クラウドとの中継機能を配置した。またハイブリッドクラウドを実現し、オンプレミスとクラウドの間でシームレスな連携を図る。同社はオンプレミスとクラウドを適材適所で利用可能にするプラットフォームの構築に2019年より着手し、2020年末に完了する予定だ。オンプレミス側のサーバー基盤構築において、クラウドのスピードや柔軟性に追随する革新的なHCI(ハイパーコンバージド・インフラストラクチャ)ソリューション「Azure Stack HCI」が、短期間構築を可能にしたのだ。

バイモーダル戦略で投資コストの創出とデータ活用を拡大

同社のオープン系サーバー基盤変革の歴史は、全国拠点からデータセンターへサーバー機能を集約した第1世代のサーバー基盤(Windows Server 2003、2005年稼働)が出発点となった。Windows Server を標準アーキテクチャーとすることで、メンテナンスの効率化やノウハウの共有化を実現した。

第一生命は先進技術をいち早く活用しIT基盤の変革に挑戦し続ける。

ターニングポイントとなったのは、社会や産業構造を大きく変えるDXの波が金融機関にも押し寄せてきたことだ。2015年12月、同社は生命保険業界においていち早く保険とITの融合に取り組む「InsTech※ イノベーション チーム」を設置。その一環として第一弾としてリリースしたスマートフォン専用の健康増進アプリ「健康第一」は好評を博している。
※第一生命では、保険ビジネス(Insurance)とテクノロジー(Technology)の両面から生命保険事業独自のイノベーションを創出する取り組みをInsTechと呼んでいる。

DXの推進を支えるべく、同社が打ち出したのが「バイモーダル戦略」だ。新たな環境変化を活用した競争力向上策を実現するモード2(攻めのIT)と、既存インフラであるモード1(守りのIT)とを共存させ、ITコストを戦略的に活用することが求められたからだ。

経営戦略の実現に必要な2つの異なる姿勢。
第一生命ホールディングス株式会社
第一生命保険株式会社
ITビジネスプロセス企画部 IT運用管理課
ラインマネジャー
吉留 栄太 氏

モード1はモード2の俊敏な機能・データ活用要件を下支えする役割を担う。ポイントは2つあったと太田氏は振り返る。「1つ目は、モード2を行うためにモード1でコストの削減や運用負荷の軽減を図り、DXを推進するための財源を生み出すこと。2つ目は、セキュアな環境のもとモード1とモード2の間で付加価値の高いデータのやりとりを実現すること」(太田氏)、この2つのポイントをクリアーするためのサーバー基盤を構築した。

第4世代前期のサーバー基盤(Windows Server 2016、2018年稼働)は、Windows Server 2016 に新たに追加されたSDS(Software-Defined Storage、ソフトウエア定義ストレージ)技術のS2D(Storage Space Direct、記憶域スペースダイレクト)を利用し、ストレージ運用の内製化を目的としてストレージ機器からの脱却を図った。サーバーの内蔵ストレージを束ねて仮想的な共有ストレージを実現するS2Dにより、ストレージの専門知識が不要となるため、サーバー基盤の運用担当者でも設計・構築や運用管理などが可能となる。同社内で試行錯誤し設計・構築を行ったが、パフォーマンス面で課題が浮上したという。「業務システムでは膨大なデータのバックアップを行う必要がありましたが、思い通りのスピードが出なかったのです」(吉留氏)。

第4世代前期のサーバー基盤のパフォーマンス面の課題を解決し、DX推進に向けてバイモーダルを実現する第4世代後期のサーバー基盤(Windows Server 2019、2020年稼働)は、Azure Stack HCI の登場によって加速した。

テスト、設計、チューニングが不要。
HCIの概念を覆す Azure Stack HCI

Azure Stack HCI は、Windows Server 2019 をベースに、仮想化基盤Hyper-VとS2Dを利用し、各ベンダーが検証済みのHCIソリューションとして提供する。短期間構築、シンプルな運用などHCIのメリットに加え、パフォーマンスやコスト面でアドバンテージがある点が、Azure Stack HCI の強みだ。

Azure Stack HCI はマイクロソフト認定のハードウエアでベンダーにより事前検証済みのため、確実な動作と高いパフォーマンスが保証されている。

Azure Stack HCI は、低レイヤーでの最適化によりハードウエアのスペックを最大限発揮することによってパフォーマンスの大幅な向上を図っている。初期のS2Dは十分なパフォーマンスを得るために、個別のチューニングが必要な側面があったが、Azure Stack HCI ではハードウエアメーカーとの継続的な協力の結果、容易にポテンシャルスペックをフル活用できる。「今回、性能検証で4万8000 IOPS/サーバーを達成し、また、Dell Technologiesよりバックアップのための最適なソリューションを提案いただけたので、バックアップ時のパフォーマンス面の不安も払拭できました。今後はディスクの抜き差しだけで最新の不揮発性ストレージなどのハードウエアテクノロジーを追加利用できるため、過剰に投資することなく、必要なタイミングに必要な投資だけで最適なパフォーマンスの維持も可能です」(太田氏)。

圧倒的な低コストも、従来のHCIとは一線を画す。「必要なソフトウエアのライセンスは、すべてOSライセンスに含まれおり、Windows Server 2019 の標準機能だけでHCIを実現できます」(吉留氏)。ハードウエアの性能向上によって仮想マシンの集約率が向上したことで必要なラック本数を削減できるため、必要エリアの削減などが期待できると太田氏は付け加える。

システム構築期間は Windows Server 2019 の新機能の検討も含め、わずか二カ月で終了したと吉留氏は驚きを隠さない。「当初、過去の経験から半年以上はかかるかもしれないという懸念がありました。短期間構築のみならず、当社の主な作業は性能検証のためにデータを用意し、検証に立ち合うことでした。Azure Stack HCI 上で動くアプリケーションの構成・展開、運用の標準化など本来業務に集中できた点も大きなメリットです」。

Azure Stack HCI の革新性について、「最適化された状態で納品されたこと」と太田氏は強調する。「当社からハードウエアメーカーであるDell Technologiesに性能要件などを伝えてオーダーしました。数週間後には、Windows Server 2019 のインストール、サーバーや内蔵ストレージ、ネットワークなどを統合し、事前検証を実施して最適化された状態で納品されました。当社で調査やテスト、設計、チューニングなどの作業を一切することなく、動かしてみると本当にパフォーマンスが出たので驚きました」

Azure Stack HCI を導入する第4世代後期のサーバー基盤は、2021年3月の本稼働を目指し順調に作業が進行中だ。Azure Stack HCI の導入時期には、Azure を利用したクラウド基盤「ホームクラウド」の構築も行われていた。「オンプレミスもクラウドも意識することなく、適材適所で選択し利用する」という、同社が描くプラットフォーム構想が、その実現に向けて大きく動き出していたのだ。

適材適所の実現には
オンプレミスにもクラウド並のスピード感が求められる

ホームグラウンドに由来するホームクラウドは、まさに同社のクラウド活用における本拠地となる。「ホームクラウドには大きく3つの役割があります。1つ目は、マルチクラウドや外部連携における“出島”としてハブとなります。2つ目は、データサイエンティストによる大量データ分析などクラウドのパワーを活かした処理の実行です。3つ目は、既存システムの更新時期に、各業務やデータの特性、ビジネス要件に応じてクラウドに移行し、運用管理の高度化やコストの最適化を図ります」(吉留氏)。

ホームクラウドの基盤に Azure を採用した理由について太田氏は説明する。「当社では 2016 年に国内外のクラウドサービスに関して多岐にわたる項目で徹底的な調査を行い、Azure を採用しました。金融情報システムセンター (FISC)への対応をはじめ、高いレベルでいち早く日本の基準に応えるマイクロソフトの企業姿勢は、日本の金融業界と一緒に取り組んでいくという意思表明に思えました。その思いが正しかったことを、今実感しています」。

同社のホームクラウドは2020年6月に本稼働した。ホームクラウドと Azure Stack HCI をベースとするプラットフォームの活用はこれからだ。「適材適所の実現では、オンプレミスのインフラの構築や運用が足かせにならない状態をつくることが重要です。オンプレミスでもクラウド並の俊敏性や柔軟性を備えた Azure Stack HCI により、適材適所が可能となりました」(太田氏)。

クラウドとオンプレミスの両方でシステムが稼働することで、増大する運用負荷の軽減も課題となる。「Azure Stack HCI は Azure との高い親和性により、仮想サーバーの移行やワークロードの実行がシームレスに行えることはもとより、Azure Arc によるオンプレミス、クラウドの統合管理の実現にも期待を寄せています」(吉留氏)。

今後の展望について太田氏はこう話す。「お客さま第一主義を実現するために、プラットフォームを活用しDXを加速していきます。また、適材適所とともに自動化を推進することでIT部門のパワーの最大化を図り、よりお客さまに高い付加価値を提供し、経営への貢献度を高めて参ります」。

お客さまの“一生涯のパートナー”であり続けるために、第一生命においてDXによる変革の新たな歴史が始まる。

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