DX(デジタルトランスフォーメーション)を進める上で、クラウドへのリフト&シフトは有効な手段となる。しかし、技術的、時間的、コスト的など様々な観点で克服すべき課題が多いのが現状だろう。2020年12月1日から東日本リージョンでの展開が始まった Azure VMware Solution を待ち望んでいた日本企業は多い。すでに具体的なプロジェクトも多数動き出しているという。クラウドへのリフト&シフトの新しい“かたち”を提案する Azure VMware Solution がもたらす「5つの価値」とは?日本展開を担う Microsoft とVMwareのキーマンが、大きな反響を呼ぶ背景と合わせ、日本企業のDX推進を阻む課題をいかに解決していくか、大いに語り合った。
日本で待望の正式サービス開始!
すでに多数のプロジェクトが動き出す

Global Black Belt
Advanced Migration Technical Specialist
前島 鷹賢 氏
前島 2020年9月に Azure VMware Solution の正式サービスを開始した米国西・東リージョンをはじめとする海外4拠点に続き、2020年12月1日から東日本リージョンでの展開が始まりました。グローバルで非常に早い段階での日本向けサービスの展開は、マイクロソフトが Azure VMware Solution 事業において日本市場を重視していることの表れです。
Azure VMware Solution は、オンプレミスで稼働している仮想化ソフトアウェアVMware vSphereによるプライベートクラウド環境をそのまま Azure 上に移行し運用できるクラウドサービスです。日本企業のお客様からは、「日本でのサービス開始が待ち遠しかった」といった声をたくさんいただいています。先行するお客様向けには2020年11月からサービスを提供しており、年内に移行を完了するケースもあります。また検討ではなく、検証しすぐにアクションに移したいというお客様が多いのも本サービスの特徴です。「検証計画を立て2020年3月までに評価を完了」など、具体的なプロジェクトがすでに多数動き出しています。Bhaskarさん、VMware社における本サービスの反響はいかがですか?

Cloud Solutions Architect
Bhaskar Singh 氏
Bhaskar Azure VMware Solution に関して、業種や規模を問わず多くのお客様からお問い合わせをいただいていることに、私自身も本サービスのポテンシャルの高さを強く感じています。日本市場において、VMware vSphereを利用し構築されている環境の多さと、Azure の浸透率の高さをバックボーンに持っていることが、本サービスの強みです。
近年、VMware社とマイクロソフト社は、VDI(デスクトップ仮想化)で定評のあるVMware Horizonをサービスとして提供するVMware Horizon Cloud on Microsoft Azure や、WAN(広域ネットワーク)を仮想的に統合するVMware SD-WAN by VeloCloudと Microsoft 365 を組み合わせたソリューション、Springベースのアプリを迅速にデプロイするためのAzure Spring Cloud など、様々な領域で協業を積極的に進めています。Azure VMware Solution は、VMwareと Azure を融合しお客様に付加価値の高いソリューションを提供する取り組みの一環です。今後も協業領域が拡大する中で、本サービスはお客様とともに成長を続けていきます。
オンプレミス環境をそのままクラウドに持って行く発想の転換が大切
前島 日本企業でDXがなかなか進まない理由の1つが、技術的、時間的、コスト的などの観点からクラウドへのリフト&シフトが上手くいかない要因を抱えているということです。多くの日本企業において、管理者が分からなくなった古いシステムの存在、システム更新時期といったライフサイクルの問題、資金や人材を含むリソース不足など、理想と現実にはまだまだ大きなギャップがあります。
すべてのシステムをいきなりモダナイゼーションするのではなく、オンプレミス環境をそのままクラウドに持って行くといった発想の転換が大切です。マイクロソフトでは Azure Dedicated と呼ばれるチームをつくり、VMware、SAP、NetAppなどお客様の間で広く利用が進んでいる製品やサービスを、Azure でオンプレミスと同じ互換性を実現し展開することに注力しています。
Azure VMware Solution では、VMware vSphereをはじめVMware製品に関して同じ互換性のあるソリューションを提供することで、既存オンプレミス環境との高い親和性とクラウド活用の両方を実現し、ステップバイステップのDX推進を実現します。
Bhaskar クラウドへのシフトでは互換性とともに運用の一貫性も重要です。クラウド移行の大きなメリットの1つに、煩雑なシステムの運用管理からの解放があります。しかしクラウド移行により運用が変わると、新たにクラウド管理に必要なスキルを身に付けなければなりません。Azure VMware Solution では、オンプレミス環境で使い慣れたVMwareの様々な管理ツールを Azure で利用できます。また、両社で連携し新機能の開発や、サポート体制の整備に取り組んでいます。
Azure VMware Solution ならではの「5つの価値」がDX推進の様々な課題を解決
前島 Azure VMware Solution は、クラウドへのリフト&シフトに向けて技術的、時間的、コスト的などのギャップを埋めるとともに、さらにその先へとDXを進めるために「5つの価値」を提供します。「5つの価値」には、これまでの協業により培った信頼関係のもとマイクロソフトとVMwareのシナジー効果が活きています。

1.グローバル
Azure VMware Solution は、2021年3月までに東日本リージョンを含む世界11リージョンでの展開が予定されています。システム管理者が世界中どこにいても同じ環境や操作で統合的に管理できるため、グローバル企業において海外事業を支えるIT基盤の構築・運用が容易に行えます。また、海外リージョンとの間でDR(Disaster Recovery)対策環境の構築も可能です。
2.互換性
VMware vSphereによる仮想化環境を統合管理するvCenter Server、ストレージ仮想化ソフトウェアVMware vSAN、ネットワーク仮想化ソフトウェアVMware NSX-T などオンプレミスのVMware仮想化環境で培ったノウハウやスキルが活かせます。運用を変える必要がなく、これまでの投資も無駄にしません。
3.クラウド統合
Azure VMware Solution の真価は、クラウド移行後にあります。DXを進めるために「こうしたい」といったことが頭ではわかっていても行動に移せない状態にあるのが、多くの日本企業の現状ではないでしょうか。Azure VMware Solution でオンプレミスのVMware vSphere仮想化環境を Azure に移行することで、PaaS(Platform as a Service)はもとより管理系やセキュリティ系を強化する仕組みなど Azure のネイティブサービスと統合することで、お客様の戦略や変化に合わせてDXを進めることができます。

4.コスト削減
Azure ハイブリッド特典によりオンプレミスでお使いの Windows Server、SQL Server のライセンスが Azure で使えるため、システム規模の大きなお客様ほどコスト削減効果は高くなります。また、有償の Windows Server 2008 の拡張セキュテリィ更新プログラムを、Azure IaaS VM や AVS 上のVMware 仮想マシンに対しては無償提供します。さらに Microsoft 365 Apps for enterprise (Office 365 ProPlus) や Windows 10 などのクライアント関連ライセンスも利用可能です。
5.一貫性
Azure VMware Solution は、VMware社の正式認定を受けた Microsoft ファーストパーティソリューションであるという点も大きなアドバンテージです。サポートや契約の窓口はすべてマイクロソフトとなります。システム障害時も Azure サポートにお問い合わせいただければ、問題の切り分けを含めてマイクロソフトが責任をもって対応します。また、Azure VMware Solution の利用料にはVMwareのライセンスも含まれており、請求書もマイクロソフトから一括して発行されます。
Bhaskar Azure VMware Solution には前島さんがご紹介した5つの価値に加え、もう1つ重要なポイントがあります。お客様のオンプレミス環境と Azure VMware Solution のプライベートクラウド間にネットワークの延伸を実現し、VMware vMotionなどを使って移行できるVMware HCXが標準機能として提供されます。VMware HCXを利用することで、IPアドレスを維持したまま、ダウンタイムなしで業務を継続しながら移行できるため、利用部門との調整も不要です。これら工数の削減による費用効果、オンプレミスで培った経験をそのまま活用できる事によるコストメリットも大きな魅力と考えています。

Azure VMware Solution 専任部隊が日本企業の要望をフィードバック
Bhaskar VMware社とマイクロソフト社には、それぞれ Azure VMware Solution 専任部隊があります。私も前島さんも専任部隊の一員です。前島さんたちと日々連携しながら、日本企業のお客様に最新の Azure VMware Solution の情報をお伝えするとともに、お客様と会話をする中で、日本市場のニーズの把握や機能拡張などのご要望を伺い、開発チームにフィードバックしています。営業も開発も両社で連携しながら、DX推進におけるお客様の課題解決に取り組んでいます。
お話するだけでは Azure VMware Solution のイメージが掴みにくい面があると思います。そこで、実際に触って機能や使い勝手を体験していただくために、VMwareのサイトに Azure VMware Solution のハンズオンラボをご用意しています。誰でもご登録いただくだけで、Azure VMware Solution の設定から展開まで一連の流れを体感できます。このコンテンツも両社のエンジニアが一緒になってつくりました。
今後、Kubernetes対応のポートフォリオであるVMware Tanzuも Azure VMware Solution で利用可能になる予定です。また、Azure にもコンテナ技術のネイティブサービスがあります。これらを通じて、お客様のアプリケーションのモダナイゼーションを支援していきます。
前島 日本企業のお客様とお話をする中で、海外企業とは導入目的で重視するポイントが異なることがわかってきました。海外企業はデータセンターから完全移行するケースが多いのに対し、日本企業は既存のオンプレミスも活かしつつ、ハイブリッドクラウドとして利用するニーズが高い傾向にあります。オンプレミスとクラウドの大きな違いの1つが、お客様の声を反映した新機能やサービスが随時リリースされ、必要に応じてすぐに利用できるという点です。Bhaskarさんからお話がありましたが、日本企業のお客様もぜひ私たちにご要望をお聞かせいただければと思います。
百聞は一見にしかず。まずは Azure VMware Solution のハンズオンラボを体験していただきたい。その上で具体的に検討したいというお客様に対して、マイクロソフトはPoC(概念実証)を行うためのリソースの提供を行っています。
DXは、取り組まなければいけないことを前提に「いかに効率的かつ効果的に進めていくか」にテーマは移っています。重要な視点は、ITインフラの“あるべき姿”は企業の数だけあるということです。Azure VMware Solution は、システムのライフサイクルやお客様の課題解決の優先度に合わせてDXを進めることができる“現実解”であり、お客様それぞれの“最適解”となります。