次世代の自動車産業を象徴するキーワードとして、クローズアップされているキーワード「ソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV:Software Defined Vehicle)」。「CASE」と呼ばれる自動車業界の4つの大きなトレンドの先にある新しい時代のクルマの概念を表す言葉である。SDVを中心に自動車産業が発展する新しい時代へのパラダイムシフトは、実は1980年代から始まっている。「つながるクルマ」、すなわち「コネクテッドカー」を巡る動きである。この取り組みは、新時代の自動車産業の基礎を構築するうえで重要な役割を担っている。システムソフトウエアの導入などクルマの新しいアーキテクチャへの流れを作ったからだ。

日本マイクロソフト株式会社
エンタープライズ事業本部
オートモーティブ インダストリー ダイレクター
内田 直之 氏

1980年代初めに地図表示機能しか持っていなかったカーナビゲーションシステムに車載通信システムが組み込まれ、「テレマティクス(Telematics)サービス」が利用できるようになった。これが「コネクテッド」の始まりである。テレマティクスとは、「Telecommunication(通信)」と「Informatics(情報科学)」を組み合わせた造語である。テレマティクスの実現によってクルマが外の世界とつながり、ユーザーがリアルタイムで情報を得られるようになった。

「同時にテレマティクスの登場によって、自動車OEMとユーザーがつながることが可能になりました。これは自動車OEMにとって画期的なことでした」。長年にわたりコネクテッドカーの世界にかかわってきた日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 オートモーティブ インダストリー ダイレクターの内田直之氏は、当時のテレマティクスを巡る動きの重要性について語る。つまり、自動車OEMから見るとテレマティクスによって個々のユーザーがクルマをどんな風に使っているのか、直接把握することが可能になった。従来は、販売店からしか得られなかった情報である。しかも、直接把握できることから情報の精度は格段に上がる。

クルマが自動車OEMなど外の世界とつながることを可能した「コネクテッド」は、すでに新たな段階を迎えている。すなわちクルマとクルマがつながる段階である。これによって相互にクルマの機能を補完する仕組みの開発が進んでいる。例えば、積雪した路面で先行車がスリップしたとする。その情報を後続車に伝え、警告を与えたり、あらかじめ車速を落とす制御を介入させたりするといった仕組みが実現できるようになる。

「コネクテッドカーの進化は、クルマと外の世界がつながることから出発し、最終的にはクルマとクルマがつながり、新たな機能を提供するようになります。例えば、トラック同士が自動で連なって隊列走行をする技術開発が進んでいます。乗用車にも同じ技術が適用することが可能です。このような、つながる技術から新しいビジネスが生まれるでしょう。これこそがコネクテッドカーの最終進化形です」(内田氏)

クルマにもWindows

コネクテッドカーを巡る進化の中で、SDVの基礎となる重要な動きが1990年代末に始まっている。システムソフトウエアの導入である。組み込み機器向けOS「Window CE」をベースに開発された車載機器向けOS「Windows CE for Automotive」が1990年代終わりに登場。カーナビゲーションシステムに実装された。これがSDVの原点だと内田氏は語る。

「初期のコンピュータはスタンドアローンで使うものでした。それから、通信ネットワークでコンピュータ同士がつながるようになりクライアントサーバーシステムが生まれました。さらに汎用OSがコンピュータに組み込まれたことで、コンピュータは多彩な機能を提供するマルチメディア機器になりました。つまり、1つのシステムでゲームもできれば事務計算もできるといったように、ソフトウェアによってフレキシビリティがもたらされ、新しい付加価値が生まれたわけです。クルマの世界でも同じことが起きつつあります。その先にあるのがSDVの世界です」(内田氏)。

コネクテッドカーの現状は、まだクライアントサーバーが登場したころの状況だと内田氏は認識している。「ソフトウェアのフレキシビリティは、かつてのコンピュータと同じように、これからクルマに、もっと大きな可能性をもたらすでしょう」(内田氏)。例えば、「クルマのパーソナライズ」である。燃費を重視する人は燃費重視のファームウェア、走りの性能を重視する人は走りを重視したファームウェアといったようにユーザーがファームウェアを選択して自分の好みに合わせてクルマの特性を設定できるようになる。さらにその先には、自動車OEMの枠を超えてソフトウェアをやり取りする時代が来るのかもしれません。自動車OEMのA社が優れたファームウェアを開発したとき、B社のクルマを所有しているユーザーが、A社のファームウェアの方が魅力的だからと、ファームウェアだけを入れ替えることができるような世界である。それがSDVのひとつのゴールだと内田氏は考える。

新サービス構築を可能にする環境の整備が着々

ソフトウェアがクルマの進化をけん引する「SDVの時代」に向けた開発環境の整備はすでに始まっている。こうした中で、いち早くSDVの時代を先取りした開発のフレームワークや数多くのツールを展開しているのがマイクロソフトである。SDVは、膨大な規模のコンピューティング・リソースを提供するクラウドとの連携が不可欠だ。同時に、IoT(Internet of Things)の概念におけるエッジに当たるクルマ本体についても新しい開発の仕組みが必要になる。マイクロソフトは両方を網羅する広範囲の取り組みを展開している。

項目説明
1.自動車用IoT Edge extensionsをオプションで提供し、車両抽象化レイヤーと統合して車内サービスを実現。接続を処理する小規模なSDKがデフォルト。
2.多地域に対応したデザイン、運用支援、高可用性とディザスタリカバリに対応した設計。自動車のデジタルツイン。
3.包括的な車両・ユーザー・サービスの管理のための要求に基づいた、AADおよびその他の認証。
4.車両内で配信される Azure 1st Party サービスとのオプション統合。迅速な開発と車両への新サービス提供をベースとした拡張モデル。

「これまで様々な業界に向けてクラウド側とエッジ側の両方のソリューションを提供してきました。そこで得られた知見は、様々な業界を巻き込んで発展する可能性があるSDVの開発を支援するうえで大きな強みになると考えています」(内田氏)。マイクロソフトでは、単純にソフトウェア開発のリソースを提供するだけではなく、基本的なクルマの設計思想も含めて、SDV全体の開発に必要なリソースを包括的に提供する考えだ。

それを可能にするソリューションの中核を担うのが「Azure DevOps」である。その大きな特徴の1つが、あらかじめ用意されたシステムの構成要素を選択して組み合わせることでシステムを構築するビルディングブロック方式を取り入れた開発環境を提供していることだ。これによって高品質を維持しつつ、開発効率を高めることができる。「SDVのシステムのうちプラットフォームの部分はコモディティ化しています。また、そのプラットフォームに載せるアプリケーションやサービスも一部コモディティ化しているはずです。どの機能をどこまで載せるかは自動車作り手側の考え方次第ですが、幅広いニーズに対応できるように多彩なビルディングブロックを用意しています」(内田氏)。

ビルディングブロックを利用した開発環境は、複雑化するSDVのシステムの開発に欠かせないという。例えば、コネクテッドの仕組みはIoTの仕組みと同じである。「IoTで重要なのはエッジ側です。データを吸い上げる能力が重要なポイントです。この際に、セキュリティのゲートキーパーを考える必要もあります。ビルディングブロックを採用したマイクロソフトのプラットフォームは、これらの条件に考慮したサーバー側の構築を簡単にするだけではなく、車載機能の構築をも簡単にします」(内田氏)。

「デジタルツイン」でリソースを確保可能に

さらに、もう一つ注目すべきは、リアルなシステムと仮想空間のシステムがリアルタイムで連動する「デジタルツイン」の仕組みを実装するためのビルディングブロックも提供していることだ。「より高度な機能やサービスを提供しようとすると、現状の車載プロセッサーでは処理能力が足りなくなります。エッジ側のクルマ本体でクラウドの強力なコンピューティング環境が必要になるはずです。そこでクラウド上で仮想的なエンジンを稼働させ、そこから抽出した情報で実際のエンジンを制御することを可能にするビルディングブロックも用意しています」(内田氏)

クルマは従来の概念を超えて進化しようとしている。その際、信頼性の高い環境を構築できるかどうかは、信頼性の高いサービスを提供できるパートナーと組むことができるかどうかにかかっている。効率的で拡張性の高い開発環境を提供しているマイクロソフトは、有力なパートナーと言えるだろう。