日本時間の2020年12月4日、Microsoft が2つの新たなクラウドサービス「 Azure Synapse Analytics 」の一般提供開始と「 Azure Purview 」のプレビュー開始を世界に向けて発表した。発表は「Shape Your Future with Azure Data and Analytics」というオンラインイベントの形式で行われ、同社のCEOであるSatya Nadella氏ほか、様々な登壇者が最先端のデータアナリティクスの現状や動向について解説した。米スターバックスコーヒーCEOのKevin Johnson氏ほか、財界から複数の豪華ゲストを迎え、データ活用の先進事例も披露した。同セミナーの概要を報告する。

Satya Nadella
Chief Executive Officer, Microsoft

「今年はあらゆる企業にとって大変な1年になりました。世界経済の回復にはDXの早期実現が必要です」(米Microsoft CEOのSatya Nadella氏)。イベントの冒頭、Nadella氏がデータアナリティクスの未来について語った。

Satya Nadella
Chief Executive Officer, Microsoft

今後、テクノロジーの強化があらゆる企業にとっての重要課題になる。これには「最新技術を取り込む」「ユニークなデジタル・キャパシティを作り出す」「ビジネスモデルとの連携で信頼を築く」の3点が必要だと述べた。

ITの根幹には「分析能力」と「予測能力」があり、これを利用することで企業は受け身的な対応から能動的な対応へ進化することができる。この2つを構築できたかどうかが、デジタルトランスフォーメーション(DX)の成功指標になるという。

世界のトップ企業の約半数が、まだデータをビジネス資産として扱うプロセスと能力を所有していない。無限に近いデータ分析能力を持つ Microsoft Azure は、これを実現できる唯一のクラウドだと語った。

インドにあるファストファッション大手のミントラは、数千万件のセッションを同時に管理し、一人ひとりの顧客にカスタマイズされたお勧め商品情報を提供している。米ウォルグリーン・ブーツ・アライアンスは従来の3倍の速さでデータを処理しているが、コストは3分の1だ。2億種類の商品の販売予測をデイリーに行っている。

オランダのフィリップスは400カ所以上の病院の集中治療室からデータを収集するとともに、数百万人の入院患者のデータ、数十億人のバイタルサイン、数億種類の医薬品の注文、致死率や治療期間、コストの予測までを行っている。米P&Gは5億件以上の問い合わせからインサイトを得ている。そのデータ量はペタバイト級だ。

そこでNadella氏は「重大な発表がある」と述べ、「 Azure Synapse Analytics 」の一般提供開始と「 Azure Purview 」のプレビュー開始を宣言した。

Azure Synapse Analytics は分析のサービスであり、ビッグデータ、データウェアハウジング、データインテグレーションのすべてを1つのソリューションにまとめたものだと説明した。

これにより、Azure の機械学習が高度な人工知能(AI)モデルを構築し、様々なトレンド予測や結果の計測を可能にする。Azure Synapse Analytics と Power BI により、誰もが容易にインサイトにアクセスできるようになる。

一方、Azure Purview は、一元化されたデータガバナンス・サービスだ。オンプレミス、マルチクラウド、SaaSのデータやカタログを含め、あらゆる場所に散在するデータをマッピングできる唯一のクラウドサービスだと説明した。

Nadella氏は、「将来に対して備え、いま何が起きているかを理解し、予測し、リアルタイムに行動できる企業こそが、2020年のダメージから最も早く回復するだろう」と述べ、スピーチを締めくくった。

Microsoft 自身が経験してきたDXへのジャーニーを明らかにするため、同社でMicrosoft Azure のCorporate Vice Presidentを務めるJulia White氏が聞き手となり、Executive Vice President兼CFOのAmy Hood氏と対談した。

Julia White
Corporate Vice President, Microsoft Azure

Amy Hood
Executive Vice President and
Chief Financial Officer, Microsoft

フィナンシャル部門のDXを推進してきたHood氏によれば、このジャーニーには3つのフェーズがある。まず、すべてのプロセスと部門を理解し、過去を振り返るフェーズ。次に、未来を予測するフェーズ。そして、ベストアクションを定めるフェーズだ。こうしたプロセスは、組織横断的に進めていく必要がある。

まず、社内のどこに何のデータがあるかを明らかにする。データは経理やセールス、マーケティング、エンジニアリングなど、部門ごとバラバラに存在し、横の連携が取れない形で管理されている場合が多い。これを「データのサイロ化」と呼ぶ。

多くの企業において、業務データはサイロ化されて連携・集約できず、一貫性も定義もない状態に置かれている。これを整理していく作業は、ひたすら単調で地味な作業になるという。

また、DXを成功させるには「インサイトへのアクセスを民主化することが重要になります」(Hood氏)。あらゆる部門の従業員が、統合されたデータのインサイトに等しくアクセスできる環境を作る必要がある。全従業員の意思決定がデータに基づいて行われるようになれば、組織としての意思決定に自信が持てるようになる。Microsoft は120以上のデータソースを所有しているが、すべて Azure に集約し、あらゆる従業員がこれにアクセスするための標準のインタフェースを整備している。

データ基盤を整備したら、次は予測のフェーズになる。Microsoft では1000人ほどが予測プロセスに関わり、Azure の機械学習システムを活用して何ができるかを考え続けている。

まずは、予測精度を2倍に高めることを目標にした。予測との差異が3%から1.5%に下がるだけで、数百万ドルのコスト削減につながるという。

White氏が「1つの真実は、このジャーニーには終わりがないということ。継続して新しい技術を取り入れ、能力を開発し、文化を変えていかなければなりません」と述べると、Hood氏もこれに同意した。

Hood氏によれば、ジャーニーを成功させるために重要なことが2つある。1つは、このジャーニーに近道はないという認識だ。正しく行うことが重要であり、途中をカットしたりスキップすることはできない。

2つ目は、小さな成功体験を重ねていくことだ。自分たちの行動がうまく行っていることを認識すれば自信が生まれ、モチベーションを維持できる。

次のセッションは、経済界から3人のゲストを迎えて進められた。Microsoft でWorldwide Commercial BusinessのExecutive Vice Presidentを務めるJudson Althoff氏が、各社のデータ活用について話を聞いた。

最初のゲストは、米スターバックス コーヒー カンパニーCEOのKevin Johnson氏だ。

Judson Althoff
Executive Vice President, Worldwide
Commercial Business, Microsoft

Kevin Johnson
President and Chief Executive Officer, Starbucks

コーヒーを提供するという人間相手のビジネスを展開する同社の最優先事項は、人間がより人間らしくあるためにテクノロジーを活用することだ。モバイルアプリでオーダーを自動化した瞬間、統合されたデジタル基盤が必要であることに気がついたとJohnson氏は述べる。

同社が開発中のAI基盤「Deep Brew 」は、在庫管理、消費予測と発注、スケジュール管理などを自動化している。全店舗にあるエスプレッソ用の機械は、モノのインターネット(IoT)で管理され、消耗したり故障したりする前にメンテナンス要員を派遣できる。

Deep Brew は消費者の好みや行動データ、新型コロナウイルスの感染者数の日時データなどを収集し、店舗運営に必要な様々な予測を行うが、最終的な決断は店長が行う。インサイトや情報は、優れた意思決定を支援するためにこそあると語った。

2人目のゲストは、ワクチンや医薬品メーカーとして知られる英グラクソ・スミスクラインCEOのEmma Walmsley氏だ。

Emma Walmsley
Chief Executive Officer, GlaxoSmithKline

今年、同社の目標はこれまでにないほど明確化した。新型コロナウイルスに対抗するため、3つのワクチンと2つの抗体治療薬を開発している。データテクノロジーの恩恵で、コロナウイルスのゲノムはたった300日で解析された。治験の分野においても、感染率や入院率、人口動態などのデータとジオマップを重ねて分析し、感染率が高い地域に正しくフォーカスできている。

コロナ禍の影響でサプライチェーンに寸断が起きているが、データを活用してサプライチェーンを回復力の高い状態に維持することで、数百万点の製品を間違いなく出荷できていると述べた。

最後のゲストは、シンガポールにあるアジア最大のモバイルテクノロジー企業、グラブの共同創業者でCEOのTan Hooi Ling氏だ。

Tan Hooi Ling
COO and Co-founder, Grab

米ウーバーを始め、4つの配車アプリを組み合わせたオールインワンのプラットフォームを提供し、東南アジア8カ国、390以上の都市で2億5000万件以上のダウンロード数を数える。300人以上のデータサイエンティストが毎日3万テラバイト以上のデータを扱う。

2020年はアダプティビティ(順応性)とアジリティ(俊敏性)の年となった。アジャイルに順応するには、データアナリティクスが不可欠。膨大なデータ分析から何百もの仮説を立て、すべて同時に検証していると述べた。

同社は2025年までに東南アジアの300万人のユーザーに対してデジタルリテラシー・インクルージョンを約束している。Microsoft のパートナーシップは、そのために無くてはならないものだ。今後は Power BI の活用を加速させ、このプラットフォーム上でデータ活用を民主化したいと述べた。

Rohan Kumar
Corporate Vice President, Microsoft Azure

最後のセッションでは、Microsoft の Azure Data 副社長を務めるRohan Kumar氏がAzure Synapse Analytics と Azure Purview の2つの新サービスの概要について解説した。

Rohan Kumar
Corporate Vice President, Microsoft Azure

Azure Synapse Analytics は、クラウドネイティブな最先端のアナリティクス基盤だ。「エンタープライズなデータ統合」「データウェアハウジング」「ビッグデータの分析」を1つのサービスに統合して提供する。

Azure Synapse Analytics を Dynamics 365 やカスタマーインサイトと統合すれば、顧客を360度から捉えることができる。競合他社より14倍高速で、94%も安価だ。Azure Synapse Analytics とネイティブに統合された Power BI はビジネスインテリジェンスのリーダーであり、優れた可視化能力とインサイトをもたらす。構造型、半構造型、非構造型のあらゆるデータタイプに対応できるクラウドネイティブな分散型SQLエンジンを内蔵する。

続いて、Azure Synapse Analytics のデモが行われた。

小売業のユーザーを想定してリアルタイムに近い売上データを確認し、外部のデータにもアクセスしながら、新型コロナウイルス感染者の増加と売上の相関関係を導いて見せた。

Azure Synapse Analytics のデモ画面。新型コロナウイルス感染者の増加と売上の相関関係を可視化した

続いて、もう1つの新サービスである Azure Purview の解説が行われた。Azure Purview は一元化された包括的なデータガバナンス・サービスだ。データガバナンスを再構築したことでデータのビジネス価値を最大化できる。

データマップを活用し、すべての従業員が直感的に利用できるシンプルなデータカタログを提供する。ビジネスユーザーは使い慣れたビジネス用語で膨大なデータから必要なインサイトを検索できる。その一方で、エンジニアはロケーションファイル形式やデータ形式などを含む専門的な要件で詳細に検索することも可能だ。

デンマークを基盤とするポンプメーカーのグランドフォスは、国連とともに世界の貧困地域に飲料水を届けている。Azure Purview のユーザーとして1億4500万件のデータアセットを分類し、100万件のデータアセットを活用する。同社には Power BI のワークプレイスが1万6000件あるという。

セッションの最後に、Azure Purview のデモが実施された。コンプライアンスを遵守しながら、わかりやすく統合されたダッシュボードでデータを自在に検索、閲覧できる。データソースを確認したり、アセットビューやグローサリービューなどを使用してデータを可視化する様子が披露され、発表会は幕を閉じた。

上記発表を受け、日本マイクロソフトでは2021年2月26日(金)にオンライン イベント「 Azure Data and Analytics Day 」を開催します。Azure Synapse Analytics や Azure Purview を中心とした、サービスの詳細や新機能のデモ、顧客事例などを紹介するセッションが配信される予定です。Microsoft Azure が提供するデータ分析サービスやデータガバナンスソリューションの最新情報を、この機会にまとめてご確認ください。
2021年2月26日(金) 13:00-17:30(予定)
Azure Data and Analytics Day