コロナ禍の影響で電子商取引(EC)の利用が急増し、物流業界に異変が起きている。物流量の上昇にマンパワーが追いつかず、現場の負担はこれまでないほど大きくなった。物流業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)は、まさに待ったなしの状況にある。今回から2回にわたり、物流業界が抱える課題と解決に向けた施策について議論する。前編では、世界最大級のクラウド基盤によって物流業界全体のDXを支援している日本マイクロソフトの事例と取り組みを紹介する。

IT活用による輸送現場の
業務効率改善が急務

日本マイクロソフト株式会社
運輸・サービス営業統括本部
インダストリーエグゼクティブ
清水 宏之 氏

「ECの拡大によって物流業界のビジネスは好調ですが、現場の仕事量が限界に近づいています」(清水氏)

どの物流会社も人を増やそうと躍起になっているが、物流量の上昇に追いつかない。現場の負担は増える一方だ。限られたリソース内でより多くのモノを運ぶため、すぐにでも業務効率の改善が必要な状況にある。

プラットフォームの見直しやデータの可視化、拠点ごとの物流量の最適化など、各社ITを駆使した施策で業務効率の改善を模索している。ロボットや人工知能(AI)による大規模な自動化の検討も始まった。

しかし清水氏によれば、日本の物流業界が抜本的な効率化を目指すには、解決しなければならない課題が少なくないという。

「企業間のやり取りをデジタル化しなければ、抜本的な効率化は不可能です。しかし、日本の物流業界では未だに電話やファクスでやり取りしている企業も多く、変革のために業界として足並みを揃えにくい状況にあります」(清水氏)

企業間のやり取りをデジタル化するには、データ交換のための共通フォーマットを開発する必要がある。海外ではすでにその動きが進んでいるが、日本ではまだこれからの段階だ。

マイクロソフトが物流業界と
親和性が高い5つの理由とは

日本マイクロソフトはなぜ物流業界との親和性が高いのか。清水氏によれば、同社が物流業界に強い理由は次の5つだ。

  • [1] 世界中の物流企業をITで支援しており、経験とノウハウが豊富
  • [2] 自身もグロ―バルサプライチェーンを持っているため、流通・物流の現実をよく理解している
  • [3] IoTやデジタルツイン、データ分析基盤など物流の改善に必要な技術を持つ
  • [4] お客様と競合する立場にないため、物流分野で協業しやすい
  • [5] パートナー企業との巨大なエコシステムがある

マイクロソフト自身は物流事業者ではないが、PCや周辺機器のメーカーとして物流を使いこなしている。グローバルな流通をコントロールしてきた経験から、物流の実態と難しさを理解したうえで課題解決を支援できる。

また、配送ルートや交通量の最適化などで期待される量子コンピューターの活用を含め、広範な技術とノウハウを保有している。「Azure Maps」のような地図ソリューションもある。

日本マイクロソフトはこの5つの強みを生かし、物流事業者の課題解決を具体的に支援している。

例えば、物流大手のヤマト運輸はクラウドサービス「Microsoft Azure」のデータ分析基盤を活用し、スピードとスケーラビリティを大幅に向上させている。今年から2024年までにITに1000億円、ネットワークに1000億円、経常投資に2000億円の合計4000億円を投資し、データドリブンな経営への脱皮を図る。Azure Synapse Analytics によるデータ分析基盤を中心に今後の最新テクノロジーの活用も視野に、日本マイクロソフトとの連携を強めていく考えだ。

また郵船ロジスティックスは、倉庫管理システム「Manhattan SCALE」を Azure 上に展開し、世界中に所有する倉庫の管理スキームの一元化を進めている。輸送時の温度変化を予測して医薬品の管理品質を高めることにより、在庫の廃棄コストを削減している。

荷主側の主な事例としては、ニトリがある。全国で提携している約150社の運送事業者のサービス品質を維持するため、Azure 上で独自のシステムを開発し、運送事業者向けのサービスとして提供している。配車計画や配達ルート、在庫管理などの最適化などに寄与する。また、ブロックチェーン技術を利用して運送事業者との電子契約も進めている。

こうした個別企業のDX支援は、今後も増えていくだろう。しかし、同社はその視野を物流業界全体に広げ、さらなる効率化のために新たなコンセプトを立ち上げている。「Smart Logistics」がそれだ。

物流業界全体のDXを支援する
「Smart Logistics」

Smart Logisticsとは、「特定の企業だけでなく、物流業界全体の課題を解決していくための取り組み」(清水氏)だ。

Smart Logisticsのソリューションマップ。主要な分野ごとの取り組みが進んでいる

データ収集や受発注管理、倉庫管理、車両管理、サプライチェーンマネジメントを含む10の基本分野にフォーカスし、クラウドを基盤とするデータ活用によって物流業界全体のDXを推進している。

Smart Logisticsを日本でも具体的に進めるため、日本マイクロソフトは今年7月に組織横断型のバーチャルチームを立ち上げた。営業、マーケティング、モノのインターネット(IoT)、複合現実(MR)、パートナー事業部などに加え、金融、物流、運輸、製造、小売、自動車ほか、物流に関わる様々な業界の担当者がメンバーとなっている。

日本マイクロソフト
運輸・サービス営業統括本部
アカウントテクノロジーストラテジスト
加藤 賢次郎 氏

メンバーが自分の顧客企業から物流に関する相談を受けた場合には、いったんこのチームとして引き受け、様々な角度から最適な施策を検討する。すでに他業界で成功した事例がないか、具体的な問題解決につながる技術を持つパートナー企業はないかなど、メンバーの知識とノウハウを横断的に組み合わせ、広い視野から解決を図る。

このチームのリーダーを務める日本マイクロソフト 運輸・サービス営業統括本部 アカウントテクノロジーストラテジスト 加藤賢次郎氏は「業種横断的な組織なので、多くのお客様から色んな話が飛び込んできます。ニーズと解決策を多角的に検討できるような体制となっています」と語る。

同社の取り組みとして「Industry Data Workbench」(IDW)がある。IDWは、自由かつ高速なデータ交換をグローバルに実現するため、業界ごとに統一されたデータ交換フォーマット(データモデル)のモデリングツールの取り組みだ。

Industry Data Workbenchによる業界間データモデル構築の取り組み

製造、小売、金融、食品、資源などの分野でデータモデルが構築されつつある。

加藤氏は、日本の企業や物流業界がこの動きに積極的に参画してもらいたいと考えている。「国際基準の検討に、日本側の意見や事情を反映させたいと考えます。また、日本独自の取り組みを進めるうえでも、グローバルな動向を視野に入れることは重要です」(加藤氏)

日本の物流業界のサービス品質は、世界的に見ても極めて高いといわれる。しかしその半面、業務効率の改善が進まない。日本マイクロソフトは個別企業と業界全体の両方を見据えながら、クラウドを基盤とする新たなデータ活用によって物流業界全体のDXを支援していきたい考えだ。

Number02へ続く

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