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転造で実現した「安価で緩まないねじ」 摩擦に頼らず、作業性にも効果転造で実現した「安価で緩まないねじ」 摩擦に頼らず、作業性にも効果

ねじは技術的に成熟し尽くした“枯れた”部品と見られがちだが、根本的な課題は今も残っている。締結の機能が失われてしまう「緩み」への対策だ。さまざまな技術が緩み止めのために登場してきたが、緩み止めの効果や作業性、コストの面で一長一短がある。ねじの緩みという古くて新しい問題を解決するために産学官が連携。その成果として生まれたのが、転造技術を活用した「緩み止め二重ねじ締結体PLBv2」(PLBv2)だ。

 ねじにとって緩みは大敵だ。さまざまな緩み止めの技術が登場しているが、締結作業に特殊な治具が必要なものや、増し締めや交換が困難なものが多い。またいずれも摩擦に頼る構造という点では基本的に普通のねじと変わらないため、緩みはどうしても起こり得る。緩みを起こさせないためには、摩擦ではなく機械的な防止構造が理想だ。

 機械的に防ぐ方法の一つとして、1本のボルトにリード(ねじ山の間隔)の異なる2種類のねじ山を構成し、それぞれのリードに合った2個のナットで締結する方法がある。内側のナットは外側のナットに比べてリードが大きいため、振動で2個のナットが緩む方へ回転しようとしても、内側のナットは外側のナットに阻まれて進むことができない。外側のナットはリードが小さいために、内側のナットに比べて進む量が少ないためだ。

 2種類のねじ山という基本的なアイデア自体は以前から存在していたが、実際に普及することはなかった。複雑なねじ山は切削加工でしか作ることはできず、1本作るのにも相当な工数がかかるためだ。仮に切削で1本ずつ作ると、1本あたりの価格は数千円レベルになると言われる。ねじという一度に大量の本数を必要とする部品の特性上、それは非現実的と言わざるを得ない。

 2種類のねじ山を持つねじを切削ではなく量産できる方法を確立できれば、緩みというねじを使用する現場すべてに共通する悩みを一挙に解決できる。その技術開発に取り組んだのが、転造機メーカーのニッセー(本社:山梨県大月市)だ。

新仏利仲氏

新仏利仲
株式会社ニッセー
代表取締役

天野秀一氏

天野秀一
株式会社ニッセー
専務取締役

サポイン活用で開発が加速

 転造は円筒状の素材に外から強い力を与えて、変形させることで成形する手法である。切削のように素材を削ってムダにすることがなく、バリも出ないことに加えて、切削ならば数分から数十分かかるような加工も、転造ならば数秒から十数秒で加工できるのが特徴だ。面粗度にも優れ、加工後の研削も不要なため量産品の製造に適しており、素材を押しつぶしながら成形するので圧密の工程も兼ねられる。ニッセーはその転造技術を50年以上にわたって突きつめてきたメーカーで、ねじや歯車などの部品を製造するメーカーに向けて、部品に合わせた転造機の製造を行っている。

 ねじの長寿命化を研究する大学教授からの提案を受けて、2種類のねじ山を持つねじを転造で作ることにニッセーが取り組み始めたのは2005年のこと。しかし2種類のねじ山を精度よく再現できるダイス(金型)の開発には、転造で50年以上の実績を持つ同社でも困難を極めたという。「複雑な文様のダイスを作ることのできる工作機械がなかなか見つからず、工作機械メーカーが音を上げたこともあった」と同社代表取締役の新仏利仲氏は振り返る。

ニッセーの転造機

ニッセーの転造機。素材をダイスではさんで加工する

PLBv2の転造用ダイス

PLBv2の転造用ダイス。ねじメーカーにレンタルする

 放電加工なども組み合わせ、緩み止めの性能を確実に発揮できるねじを転造で作ることには基本的に成功したものの、転造加工時に剥離などが起こり得ることに加え、ダイスの寿命が短いなどの弱点が残った。それらも解消しなくては、本格的な量産化とそれによるコストダウンは実現できない。

 2018年、ニッセーをはじめとしたチームは最後の詰めを図るため、経済産業省の戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)を活用することにした。サポインで本格的な量産に耐えられるダイスの開発を進め、2018年度に円状の金型を使う丸ダイス方式、2019年度に板状の金型を使う平ダイス方式での試作に相次いで成功。2020年度中には平ダイスでの加工時間の短縮化に加えて、さらに高速加工が可能なプラネタリーダイス方式での試作も完了する見通しだ。いずれもすぐに量産が可能なレベルに到達しており、2種類のねじ山を持つ緩まないねじは、開発着手から15年を経てようやく日の目を見ることになったのである。

既存の設備を流用できる

 ニッセーが開発した転造金型で作る「PLBv2」と名付けられたボルトの性能は、国際規格のISO 16130に準拠した試験でも実証されている。指定の振動を与え続けた際の残存軸力を測るもので、2000サイクルの振動を受けた際の残存軸力は、他社の緩み止め製品はISO 16130が「可」と規定する85〜40%なのに対し、PLBv2は「良好」に相当する93%を維持している。

 PLBv2の大きな特徴は、その緩み止め性能を実現しながら作業性にも優れている点にある。締結時は外側のナットを回せば内側のナットも追随して回るため、ワンアクションで完了する。一般的なダブルナットのボルトのように、2個のナットをそれぞれ回す必要がないわけだ。交換の際は外側のナットを緩めれば容易に内側のナットを緩めることができる。ナットを回すのにも普通の工具を使うことができる点も、従来の緩み止め製品との大きな違いだ。

PLBv2
大リード 小リード

PLBv2はリードの異なる2種類のねじ山で内側の多条ナットの緩みを外側の一条ナットで受け止める

 転造で実現したことは、ねじを生産するメーカーにとっても効果が大きい。ボルトは通常、冷間鍛造後に転造加工を行い熱処理を施す。PLBv2も同一工程で加工が可能で、既存の転造設備に専用ダイスを取り付けるだけで作ることができる。「通常の量産設備をそのまま流用できることが最大の利点」(同社 専務取締役の天野秀一氏)としており、コスト的にも他の緩み止め製品と比べて競争力の高い製品を実現できるのである。

 同社はPLBv2製造用の丸ダイスや平ダイス、プラネタリーダイスを、ねじメーカーにレンタルする形で事業展開を図る。「自社でPLBv2を独占的に製造販売することももちろん可能だが、サポインの成果による緩み止めの安全技術をいち早く普及させるには、ねじメーカーを通したライセンス形式の方がいいと考えた」と新仏氏は言う。販売ではなくレンタルのため、ダイスの長寿命化に向けた改良を常に行える点も、ねじメーカーにはメリットになるとしている。

 ねじは技術的に成熟化した部品で、もはや大きな発展の余地はなさそうに見えるが、ものづくりの基盤技術として高度な技術開発が今も要求されている。サポイン事業でねじ作りに不可欠な技術開発が認定されていることはその表れであり、そこから生まれた転造用ダイスとPLBv2は、新たな基盤技術として業界に波及効果をもたらすことになりそうだ。

お問い合わせ先

株式会社ニッセー山梨県大月市富浜町鳥沢 2022
http://www.nisseiweb.co.jp/

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