2020年1月に開催された「DOCOMO Open House 2020」には、NTTドコモ・ベンチャーズが出資やバックアップなどで関わるスタートアップが多数参加した。その中から、クリエイティブ系ソリューションを開発する2社、AIを軸とした次世代ビジネスツールを提供する海外の2社をピックアップ。自社のビジョンとともに、NTTグループとの協創関係について話を聞いた。

5G時代のクリエイティブを支える若い2社

●AMATELUS

 テレビでのスポーツや音楽ライブ中継は、当然ながらこちらから視点を変えることができない。「いま、あの角度から見たかったのに」と感じることは少なくないが、もしも手の中のスマホ画面上で自由に視点が切り替えられたらどうだろうか? AMATELUS(アマテラス)による「SwipeVideo(スワイプビデオ)」は、簡単に自由視点映像を視聴者に提供するサービスだ。

 SwipeVideoは2019年末のフジテレビ「FNS歌謡祭」でも採用され、撮影した各アーティストのマルチアングル映像をTwitter上に投稿。多くのユーザーが自由視点映像を楽しんだという。5G環境下でさえ難しいとされるマルチアングル映像の配信を4G回線でも可能にし、特別なアプリを必要とせずにブラウザー上で視点の切り替えが楽しめる。この配信に関して、日本で2件、米国で1件の特許を取得済み。これがAMATELUSの技術的な強みである。同社 代表取締役CEOの下城伸也氏は次のように語る。

取材に同行してくれたのはモデルの海凪よちさん(左)。右はAMATELUS代表取締役CEO 下城伸也氏

 「ブラウザーでクラウド配信できる点が特徴。配信側にとっても視聴側にとってもストレスのない環境を整えている。5Gが普及するとコンテンツはより一層動画が多くなる。我々の技術には視点切り替えの権利をユーザーが保持して、任意の視点で切り替えて見れる楽しさがある。

 切り替えられる映像は5G時代に加速するだろう。切り替えたときの高速性、ライブ配信でも低遅延を実現できる。多接続も魅力。アングル数を1万台、5万台と増やしても、そのアングルをユーザーが自由に視点を切り替えて見られる未来がやってくる。個人的には箱根駅伝でスマホユーザーが撮っている映像をライブで視聴できたら面白い。

 弊社では『VOD 2.0』を掲げている。これはVideo On DemandではなくView On Demandの略称。いままでは動画を受動的に見ているだけだったが、これからは主体的に視点を切り替えられる時代。その意味でViewがポイントになってくるからだ」(下城氏)

SwipeVideoの視点切り替えイメージ

 NTTドコモ・ベンチャーズのピッチイベント参加を機に関係が深まり、今回「DOCOMO Open House 2020」に参加。NTTドコモ・ベンチャーズがNTTドコモの法人営業部を紹介するなど、新たなつながりもでき始めた。NTTドコモの5G実証実験として、グアムで撮影した結婚式披露宴の多視点映像を日本にリアルタイム配信することも決定している。「それを皮切りに、スポーツ、エンターテインメント、技術協力など、あらゆる分野で5Gを使ってリッチな映像を配信する取り組みをしていきたい」(下城氏)。

 同社を支援するNTTドコモ・ベンチャーズ マネージャー 篠原敏也氏は「昔も今もサービス提供の基本はパーソナライズだが、今後、ますます、属性、趣味嗜好のみならず、日々のユーザーの1分1秒の行動(能動/受動)に最適化された、超パーソナライズ時代に突入する。現状、テレビや動画などの制作サイドは、自分たちの視点で多数の視点から撮影された映像を編集して視聴者に届けているが、SwipeVideoは今まで表に出ていない、いわゆる編集後に捨てられる映像さえもあるユーザーにとっては宝だという新しい概念を生み出している」と話す。

●RADIUS5

 RADIUS5(ラディウス・ファイブ)はクリエイティブ現場での単純作業を自動化するAIを提供するスタートアップ。主力となるのはディープラーニングを活用したAIツールのプラットフォーム「cre8tiveAI」だ。

 cre8tiveAIはさまざまなツールから構成されているが、現在サービスインしているのは高解像度化AI「Photo Refiner」、顔イラスト作成AI「彩(さい)ちゃん」の2つ。Photo Refinerは画像を縦、横4倍ずつ、合計16倍に高画質化できる技術で、ぼんやりした写真やイラストが驚くほど明瞭になる。この変換をわずか10秒で行う。低解像度の画像から推測される高解像度画像をAIが学習して生成するため、従来の関数を利用した方法とは根本的にアプローチが異なる。

RADIUS5 代表取締役 漆原大介氏(左)

 動画向けの高解像度化AIも開発中だ。同社 代表取締役 漆原大介氏は「5Gが始まることで4K、8Kといったリッチな映像が現実のものになる。我々のAI技術をテレビ局に使ってもらえれば低コストかつ短時間で過去の映像を4K、8K対応にすることが可能」と語る。

 「彩ちゃん」は、ディープラーニングの生成モデルであるGANを用いて、世界に1つだけのオリジナルキャラクターをイラストで生成するツール。「0.1秒で、この世に存在しなかった新しいキャラクターが生まれる。クリックするたびに制作者の特性をAIが学習し、どんどん傾向や好みが絞られていくのもポイント」(漆原氏)。Webサービスのアイコンやゲームキャラクターなどの需要が高く、個人ユーザーも多いそうだ。

あっという間にオリジナルキャラクターのイラストを生成する「彩ちゃん」

 こうした技術的な強みにNTTドコモ・ベンチャーズが共感し、「DOCOMO Open House 2020」への参加をバックアップした。上記サービスに加え、物体除去・補完AI、画像白抜きAI、画像周辺補完AI、レイヤー分けAIなど続々と研究開発を進めている。そこには漆原氏のこんな思いがある。

 「クリエイターが手がける約50%が単純作業で、誰がやっても成果が変わらないと言われている。単純作業はAIに置き換えるべき。そこで生まれた時間で人間がよりクリエイティブな仕事を担当してほしい。そんな社会を実現していきたい」(漆原氏)

 こちらもNTTドコモ・ベンチャーズの篠原氏がサポートする若いスタートアップだ。篠原氏自身、過去にクリエイティブ関連の経歴もあり、本サービスに対する思い入れは深い。

 「クリエイティブの仕事は、たとえるなら建設業と同じように多重受け構造となっており、末端で働くクリエイターは低賃金の場合が多い。さらに納品物に対する評価者が商流の数だけ発生し、評価者もクリエイティブに関する素人が多く、自分の感性で評価することもあって人によって意見がバラバラだったりする。その結果、出口が見えない迷路状態に陥る。そうした意味で、RADIUS5のソリューションは、クリエイターにとっては神ツール。ぜひ救いの一助となってほしい」(篠原氏)


“相性”と“パフォーマンス”をAIが判断、海外の2社が示す一歩先の働き方

●Afiniti

 続いては、NTTドコモ・ベンチャーズが既に出資している海外の有望スタートアップ2社を紹介しよう。最初は米国ワシントンD.C.のAfiniti。同社はコールセンター向けのソリューションを提供するが、その内容は他社とは大きく異なる。AIによって顧客とオペレーターの“最適なペアリング”を実現するものだからだ。

 同社 カントリーマネージャー アリ・アドナン氏は「最初にかけてきた人が、最初に対応したオペレーターにつながるのが今までのコールセンター。ただ、双方には相性がある。かけてきた人が最も相性の良いオペレーターとペアリングするのが我々のサービス」と説明する。90日間にわたり顧客の属性データとオペレーターのキャラクターを分析し、AIがマッチングを図るのだという。

 設立は2005年と比較的古く、すでにグローバルで150社以上の導入実績がある。導入先はアクサ、AT&T、ベライゾン、英国のSkyなど巨大企業が多い。「米国では我々のソリューションを用いて売上が100億円向上した例もある。マニュアル通りに会話していても、相性によって話が弾んだり、物事が進んだりする。国ごとの違いはあるが、この傾向は世界共通だ」(アドナン氏)。

 これだけ評判が良いのは、500人以上の専任データサイエンティストが機械学習アルゴリズムを構築して常にアップデートを続けるなど、技術的なバックボーンがしっかりしているためだ。導入後もAI専門チームが日々の結果をモニタリングし、調整することでAIの学習スピードを速める。

左からAfiniti カントリーマネージャー アリ・アドナン氏、海凪さん、Afiniti ディレクター グローバル デプロイメント & カスタマーサクセス 岡山計太氏、NTTドコモ・ベンチャーズ マネージングディレクター 矢島英明氏

 NTTドコモ・ベンチャーズが出資したのは約1年前。同社 マネージングディレクター 矢島英明氏は「コールセンターの効率化はもちろんだが、顧客とオペレーターの相性を最適化するコンセプトが非常にイノベーティブに感じた」と話す。もう1つの特徴はそのビジネスモデルで、完全成功報酬型を採用する。「システムの導入コストは一切かからず、成果に応じた収益増加分が報酬となる。それだけソリューションに自信があることの証明であり、実際にクライアントにかなりの効果をもたらしている」(矢島氏)。

 コールセンターにもチャットツールをはじめとするデジタル化の波が押し寄せるが、「やはり顧客と企業の接点で最も強いのは音声のコミュニケーション。Afinitiはこれからも自分たちのストロングポイントを生かしていく」とアドナン氏。NTTドコモ・ベンチャーズを通じて、まずはNTTグループ企業でのソリューション導入を見込む。矢島氏も「一緒に日本市場を開拓し、将来的にはほかの業界への拡販も進めていければ」と展望を語る。確固たるグローバルでの実績があるだけに、日本での躍進もそう難しくはないだろう。

●KPISOFT

 KPISOFTはシンガポール発のスタートアップで、2019年1月にNTTドコモ・ベンチャーズが出資。クラウド型でモバイルファーストを重視した企業向けパフォーマンス管理システムが事業の核となる。

 通常、企業のパフォーマンス管理にはEPM(ビジネスパフォーマンス管理)、BI(ビジネスインテリジェンス)など複数のシステムが用いられ、それぞれ強い領域でデータが管理されている。KPISOFTのシステムはこれらさまざまなデータを単一プラットフォームで統合し、わかりやすい形で可視化。さらにはAIを組み込んだデータ分析手法の拡張分析を採用することで、パフォーマンスの結果に基づいた行動提案までを自動化する。

左から、NTTドコモ・ベンチャーズ マネージャー 安本直史氏、KPISOFT 宍戸ユリヤ氏、KPISOFT 共同創業者 ナリン・アドバニ氏、海凪さん

 「我々はデータを一箇所に集約して可視化し、スコアカードという方式により個々の従業員のパフォーマンスを表示する。良いスコアから青、緑、黄色、赤で色分けして直感的にどんな状態にいるかを理解できる。KPIのターゲットは予算、売上といった営利活動に限らず、1日あたりの訪問件数でも、書類の処理数でも何でもいい。そのデータの可視化から差分を拡張分析すると、“一体私は何をするべきか”という示唆がシステムから与えられる。そこが大きなポイントだ」

 そう説明するのは、KPISOFT 共同創業者 ナリン・アドバニ氏。例えば「この案件をもう少し頑張れば、数字が伸びるのではないか」「ほかの担当者が似た案件を担当しているから相談してみたらどうか」といった具合にシステムが気づきを与えてくれる。これらは直属の上司がフォローすべき役割だが、「ここまで自動化できるのだから、上司にはもっと創造的なことに時間をかけてほしい」とアドバニ氏は力を込める。

パフォーマンスを色分けして見やすく表示

 NTTドコモ・ベンチャーズ マネージャー 安本直史氏は「解決しようとしている課題が社会的にも盛り上がっている分野。とくに日本では働き方改革というキーワードだけが先行してしまい、実際にどうやって従業員の働き方を変えていくべきかに迷う企業がほとんど。KPISOFTのシステムを使えば、従業員それぞれのパフォーマンス向上が見込める。結果的に働き方改革につながる仕組みだ」と評価する。

 NTTドコモ・ベンチャーズの尽力もあり、現在、NTTグループの中で複数の導入検討が進んでいる。そのうち2件は実用化のステージに向けて準備しており、早ければ2020年度にはスタートする予定だ。また、NTTグループ以外でも興味を示す企業が出てきているという。AIが進むべき方向を示してくれるとは驚きだが、普及すれば真の意味での働き方改革が実現する可能性はある。大いに期待したいところだ。

 2020年、NTTドコモの5Gサービスがいよいよ始まろうとしている。NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役社長の稲川尚之氏が注視するのは「いつ、誰がイノベーションを起こすか」ということだ。

 振り返れば、NTTドコモが2007年に予想した「201X年の未来予想図」では、「自動走行」「緊急地震速報」「指紋認証」「多言語翻訳」「情報共有」「電子パスポート」「モバイル雑誌」「どこでもムービー」など、現在では当たり前になりつつあるサービスの多くが提示されていた。これについては、「かなりの部分で当たっていた」と稲川氏は見ている。

 ただし、そのサービスを「誰が担っているか」に着目すると、その予想とは大きくかけ離れていると言う。というのも、2007年当時はそれらのサービスを「NTTドコモが担う」と考えていたわけだが、現状はそのほとんどをスタートアップが手掛けているからだ。逆に言えば「スタートアップがいたからこそ、これらは実現できた」と稲川氏は冷静に分析する。

 稲川氏は、イノベーションの予測は技術の進化などを踏まえると「8割は論理的な分析によって見えてくる」と語る。ただし残りの2割は予測が難しく、そこは「イノベーターのセンスやイノベーションを起こすタイミング次第」(稲川氏)と考える。そこでNTTドコモ・ベンチャーズは予測が難しい2割を補完するために、投資とインキュベーションの両輪で活動を展開。稲川氏は「“予測できるもの”と“予測できないもの”のマッチングによってイノベーションは起きる。5Gの新サービス創出に向けて能動的に新しいイノベーションを起こしてほしい」と、スタートアップに大きな期待を寄せる。

 これに加え、スタートアップのビジネスをNTTドコモが協業で、一緒に作り上げていく重要性も訴える。なぜなら、日本の場合は大企業を味方につけたほうがスタートアップの信用度が高まり、社会からの期待値も上がるからだ。このような背景も踏まえ、NTTドコモとNTTドコモ・ベンチャーズはこれからも積極的にスタートアップと関わっていく。

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