NTTグループのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)でありながら社内にコワーキングスペースを設け、有望なスタートアップに“有機的な場”を提供するNTTドコモ・ベンチャーズ(NDV)。2019年4月から始まった画期的な取り組みが第3期を迎え、2020年7月から新たに4社が入居することになった。新型コロナウイルスの影響で世界が激変する中、期待の若手たちはこの場で過ごすことに何を求めるのか。スタートアップの言葉から“2020年のリアル”を解き明かす。

新型コロナによる再構築は“チャンス”の時期

 NDVでは2019年4月からスタートアップスタジオ「/HuB」を運営してきた。シード/アーリーステージのスタートアップに対し、社内に設けたコワーキングスペースを無償で半年間利用できるプログラムである。東京・赤坂のアーク森ビル31階に位置するスペースは開放感に満ち、スタートアップのモチベーションを存分に駆り立ててくれる。

 NDVが提供するのは場所だけではない。スタジオとの呼称からわかるように、人と人とが行き交う有機的な舞台空間でもある。同社にはさまざまな事業経験を持つメンターが揃っており、その都度アイデアや方向性についてディスカッションを交わす。外部メンターとの豊富なつながりもあり、この場所にいることで自然と人脈が広がり、かけがえのない経験や研鑽を積むことができるのも特徴だ。さらにNTTドコモやNTTグループ、その他大企業への事業紹介の橋渡しにも尽力してくれるため、一気にスケールする可能性も秘めている。よちよち歩きのスタートアップにとっては、これ以上はないほどの心強い環境なのだ。

 こうした背景もあり、魅力的なインキュベーションスペースとして認知度が高まってきた。2020年7月からの第3期募集には応募が殺到し、厳密な審査を経て4社が採択された。NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役社長 稲川尚之氏は第3期生について次のようにエールを贈る。

NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役社長 稲川尚之氏

 「今回選定した4社は、これからの世の中での必要性や市場のトレンドを重視した。具体的には旅行体験の変革、不妊治療の情報共有、写真を鍵にしたチームビルディング、リファラルマーケティング(口コミや紹介を中心としたマーケティング手法)であり、いずれも今後にマッチしたソリューションとなっている。

 今はリーマンショック以上に経済が乱高下する厳しい状況だ。見方を変えれば世界が再構築されつつある中で、ここで過ごす半年間は本質的な課題と解決の方法を見つめるいい期間なのではないか。だからこそピンチはチャンスと捉え、頑張ってほしい。/HuBの基本的ポリシーは、自由に取り組みたい課題を追求して、成果を出してもらうこと。その成果を受け、我々は協業につながるかどうかを含めて支援していきたい」(稲川氏)

次のステージへと進むためにこそ/HuBのネットワークがある

 改めて第3期生を紹介していこう。事業内容や期待するシナジーを中心に話を聞いた。

RelyonTrip 代表取締役 CEO 西村彰仁氏

 2019年10月に創業したRelyonTrip(リリオントリップ)は、新感覚のお出かけ・旅行計画アプリ「Sassy(サッシー)」を提供している。2020年2月にiOS版、4月にAndroid版をリリースし、ようやくビジネスが始まったばかりだ。

RelyonTrip 代表取締役 CEO 西村彰仁氏

 Sassyの特徴は美麗な写真を中心として、気軽にスマホでスワイプしながら外出先や旅行先を検索できる点にある。加えて簡単な操作性による「1分でつくるお出かけプラン」機能があり、行きたい場所をスワイプで探したら、その場所から近いおしゃれなカフェが自動で提案されるなど、これまでのプラン作成とは一線を画している。スポットや写真はInstagramから厳選しており、アプリ画面を眺めるだけでも心が浮き立つ。アプリのレビューでは「外出が難しい時期に自宅でワクワクするものを見れるのは楽しい」「質の良い写真と思いがけない情報があり、見ていて直感的に選べるのが良い」といった好評価が並ぶ。

 代表取締役 CEOの西村彰仁氏は、もともと旅行が大好きだったという。だが、検索サイトやSNSからの溢れる情報に飲み込まれてしまい、“計画疲れ”になってしまう課題を感じていた。「その課題をSassyで解決したい。Sassyには心に刺さる、地図にピンを刺す、困ったときに手を差し伸べるといった意味を込めた。直感で行きたい場所か、そうでない場所かを選べるのが強みだ」(西村氏)

 今回は、過去の入居者の記事を読んだことがきっかけで/HuBに応募。西村氏は「NTTドコモは影響力も含めて、たくさんの人たちが使っていることから得られた知見、経験が豊富。旅行やお出かけが好きな人たちもパイが膨大なので、広範に影響力のあるところと組みたかった」とその動機を振り返る。

 現在は東京のスポットのみを公開しているが、今後は順次全国に展開していく予定だ。「いずれは地方創生につなげていく。写真を見て魅力的な街を偶然知り、実際に足を運ぶ。そんな流れを生み出していきたい」(西村氏)

●vivola 代表取締役 CEO 角田夕香里氏

 vivola 代表取締役 CEO 角田夕香里氏はソニーの出身。R&Dに所属しながら同社の新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program(SAP)」に応募し、スティック型アロマディフューザー「AROMASTIC」を開発した。2016年に独立後はフリーランスとして新規事業プロジェクトのコンサルティングを手掛けてきたが、2020年にvivolaを設立。新たなステージへと舵を切った。

 vivolaではこの6月に不妊治療のAIサポートサービス「cocoromi(こころみ)」の提供を開始した。スマホで利用できるWebサービスで、パートナー同士のデータを入力すると治療方法や期間などの統計データ、AIで抽出された同質データが表示される。早くも「今の自分の治療が合っているのかどうかの判断材料になった」「グラフ表示でわかりやすいので、夫も興味を持って見てくれるようになった」「心構えと資金の目安になった」との声が続々と届いている。

vivola 代表取締役 CEO 角田夕香里氏

 「私自身が不妊治療の経験者。不妊治療は保険が適用されないため、医療機関によって治療方針が異なるケースが多く、治療費も高額になる。患者が遠回りせずに体質に合った治療方法に出会い、適切な医療費を支払って治療するのが非常に困難な領域だ。医療機関が各自でデータを非公開にしてしまい、患者が客観的データを参照できない。そこに大きな課題がある。

 そこで第三者機関のようなサービスを提供したいとの思いから起業した。データを収集し、自分に似た人を検索できる同質性のアルゴリズムを作成。自分の疾患や年齢、ホルモン値など適切な治療方法が検索できるサービスを展開する」(角田氏)

 センシティブな話題だけに、患者が孤独になりがちな点も壁の1つだ。そこでオンライン上で同じ悩みを抱えた患者同士が情報を交換できるトークルーム機能も付加している。「私もSNSで自分と同じような経験をしている人を探したが、高度な治療になると治療の意味を理解するのも一苦労。他の検査をやるべきなのか、転院するべきなのか、そもそも続けるべきかどうか。その線引きも難しい。コミュニティの醸成により、患者の知識が向上するのではないか」(角田氏)

 cocoromiは無料サービスだが、今後は中堅のクリニックに向けたBtoBのSaaSでマネタイズを考えている。大手と異なり、中堅クリニックは集客に苦しんでおり、クリニックの特徴と自分に合った治療方法を探している患者をマッチングさせるビジネスモデルを検討する。一方、2020年7月からはBtoE(Employee)のサービスをNPOとともにスタート。企業内でも仕事と不妊治療の両立が課題となっており、社員向けの不妊治療情報検索や、企業に理解してもらうための研修メニューを用意する。

 /HuBに所属することで、NTTドコモの月経・排卵日予測の体調管理アプリ「カラダのキモチ」とコラボレーションしたいとの希望を持っている。「将来的に、妊娠前の体調管理までサービスを広げたい。なぜなら不妊治療にかからない人を増やしていくこともビジョンに掲げているからだ。さらにその先の話になるが、もともとデバイス開発の人間なので、デバイスを通じて汗や尿などからホルモンをログ化できれば」(角田氏)。女性の体調・健康をフォローするフェムテックのスタートアップは数多く登場してきたが、デバイスによる管理はまだ少数派。/HuB史上最強のリケジョの活躍が今から楽しみだ。

●ナムフォト 代表取締役 楢侑子氏

 ナムフォトが提供するのはこれまでにない斬新なサービス。代表取締役 楢侑子氏が“写真心理学”と呼ぶ手法を用いて、個人の創造性育成とチームビルディングに役立てるものだ。「写真心理学とは撮影した写真から、その人がどんなことに興味・関心があるのか、潜在的な心理を探るもの」と楢氏は解説する。多摩美術大学時代から写真家として活動してきた楢氏は、過去に生徒を募ってオフラインでの写真ワークショップを開催してきた。ワークショップでは撮影した写真を全員で評価する時間があるが、そこで「写真を使って自分らしさを知る」ことの有用性に気づいたと話す。

ナムフォト 代表取締役 楢侑子氏

 サービス対象は、大企業における新規事業開発チームを想定する。これらのチームは同じ企業グループ内とはいえ、会ったことがない人たちが集まるのが一般的だ。しかし、イノベーティブな事業創出には通常業務以上の濃密なコミュニケーションとクリエイティビティが必要となる。コロナ禍でオンラインミーティングが普通になってきた今では、さらにハードルが高くなっている。そこで個々が撮影した写真をトリガーにして、何に興味があり、どんな思考パターンを持っているかを知るきっかけを作り、チームの円滑な交流と知の融合をサポートする。

 現在、大手鉄道会社の新規事業チームに対して実証実験を行っている。テーマに沿って1日1枚の写真を撮影し、コメントとともにLINEグループで共有する。

「例えば“今日の新発見”というテーマでメンバーからさまざまな写真がアップされる。それをまとめ、7日間のセッション後に写真心理学診断書を弊社から提出する。それを参考に振り返りシートを記入してもらい、チームで対話の時間を持ってもらう。

 7日間、1つのテーマに向き合って写真を撮り続けると、自分の中でもいろんな気づきが出てくる。同じテーマなのに、他のメンバーからはまったく異なる視点の写真が出てくる。メンバーの写真へフィードバックを送り合うことで、評価も立体的になる。普段の業務ではなかなか話せない内面的な心情や、潜在的に持っている価値観などを並べ、より議論や企画力が高まるチームビルディングに活用してもらう」(楢氏)

 ヒアリングした結果、お互いの人となりがわかり、コミュニケーションの壁が低くなったとの意見が寄せられた。横展開としては社員研修にも活用できる。「社員研修、新規事業ならプロジェクト費用がついているケースが多い。チーム発足のフェーズで導入することで、お互いの背景がわかりコミュニケーションコストが圧縮できる」(楢氏)。言わば写真を軸にしたHRテックである。

 /HuBに対しては「安心、安定感、つながり」を期待している。「これまで個人レベルで活動してきたが、サービス化して加速するフェーズを考えたときに、現在のビジネスの状況やマーケティングといった情報のインプットが必要になる。今もNDVのイベントに参加したり、メンター陣にメンタリングしてもらいながら、アドバイスをもらっている」(楢氏)

 現在はLINEをプラットフォームとしているが、/HuBに所属する間に独自ソリューションを開発することが目標。ただし、LINEを使う形式でも社員研修やイベント企画の企業からサービスを販売したいとのオファーがある。斬新ではあるが方法論はシンプルなだけに、/HuBのネットワークを活かすことで数々のシナジーが生まれる予感がする。

●demmpa 代表取締役 三井滉平氏

 demmpaはこれまでスモールビジネスを中心にしてきた三井滉平氏が創業。DtoCブランド向けのリファラルマーケティングサービスを提供する。2020年3月に同名のサービスとしてクローズドβ版をリリースし、ECサイトのブランドオーナー向けに事業を開始。続く5月にはオンライン手紙作成サービス「tegami」の事前登録もスタートさせた。

demmpa 代表取締役 三井滉平氏

 リファラルマーケティングは日本ではまだ馴染みがないが、一言で言えばオンライン上の口コミで人づてに広がっていくマーケティングを指す。第2期生のランデブーが飲食店向けに同様のサービスを展開しており、じわじわと広がりを見せている。demmpaでは商品を購入した顧客に一押しのポイントを記入してもらい、それをSNSでシェアする機能を備えた。三井氏は「友だちづてで商品が広がっていくルートを構築したい」と語る。

 難しいのは、インセンティブありきのステルスマーケティングやアフィリエイトとの差別化だ。リファラルマーケティング先進国の米国で広がっているのは報酬を前提とした設計だからだが、三井氏はブランドイメージを毀損しない健全な口コミをイメージしており、「口コミの醸成は模索中。なるべく日本に最適化した形で回していく」と言う。

 背景には、「クオリティで判断される社会を作りたい」とのビジョンがある。「個人事業主としてさまざまな活動を続けてくる中で、めちゃくちゃいい商品なのに広告費がないだけで広がらない現実を目の当たりにしてきた。もっとフェアに評価される世界観があってもいいのではないか。商品そのものの良さを軸にどんどん広がっていく流れを作るのが理想だ」(三井氏)

 /HuBには「スタートアップと呼ばれるものの中心に自分の身を置いてみたかった」との思いから応募。同世代の起業家たちや信頼できるメンターがいる環境に所属することで、「いろんな人たちから刺激を受けて前進したい」とフレッシュな心境を話してくれた。β版を発展させ、半年後にはPMF(プロダクトマーケットフィット)の段階を目指す。

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