NTTドコモ・ベンチャーズ(NDV)が半年間、無償でスタートアップにコワーキングスペースを提供する「/HuB」。約1年前に入居した第1期生からは大企業との協業を実現したり、資金調達に成功したりするスタートアップが生まれた。/HuBと他のコワーキングスペースとの決定的な違いは何か。当事者に聞くと、非常にポジティブな答えが返ってきた。

目に見える成果と実績が生まれた濃密な1年間

 スタートアップスタジオ「/HuB」の取り組みが始まったのは2019年4月。シード/アーリーステージのスタートアップに対し、半年間限定でコワーキングスペースを無償提供するものだ。最も特徴的なのは、これがNTTグループのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)であるNDV内に設置されている点。場所を貸すだけでなく、メンターや講師などの人的リソース、NTTグループや他の大企業との接点づくりなどたくさんのオプションがあり、入居者はこれらを含めて利用できる。

 第1期には5社が入居したが、今回はその中からAILLとSportipの成長ぶりを紹介する。まずAILLは、/HuBがスタートする前からNDVにスペースを借りていた古参組。AIを活用した恋愛ナビゲーションアプリ「Aill」を提供する。ただしBtoCではなく、信頼できる企業の独身コミュニティ向け、すなわちBtoBtoCモデルであることがポイントだ。

AILL 代表取締役 豊嶋千奈氏

 AILL 代表取締役の豊嶋千奈氏は「当初はBtoCを目指していたが、競争も激しい。NDVのメンターらとディスカッションする中で大企業向けの福利厚生サービスへとピボットした」と語る。AIの恋愛サポートを媒介とした企業間でのお見合いサービスを想像してもらえればよい。2019年10月から半年間にわたって、大手航空会社や大手化学会社など13社でAillのトライアルを実施した。

AillによるAIサポートのイメージ

 「最初に大手航空会社との接点になったのはNDVが主催する『NTT DOCOMO VENTURES DAY 2019』。その後、大企業の福利厚生としてサービスを提供するにあたり、何度もトライ&エラーをさせてもらった。普通のスタートアップでは、大企業を相手にそんな試行錯誤はできない。この場にいることで、学習して実装するPDCAサイクルを“生の現場”で回せたのが最も大きい。

 大企業に福利厚生の新規サービスを導入するのは非常にハードルが高い。ましてや恋愛に関するものではなおさらだ。これまでいろんなピッチコンテストに出場したが、そのたびに審査員から『大企業が加入するわけがない』と言われた。だが、NDVは唯一信じてくれた。しかも方向性を考えて、伴走してくれた」(豊嶋氏)

 新型コロナウイルスの影響で身動きが取れない状況が続いたが、その最中にNTTグループをはじめ、日本を代表する企業から導入のオファーが舞い込んだ。

 「NDVにいたおかげでNTTグループとの話も進んだ。また、その実績を見て九州経済連合会とのタイアップが決まった。九州の企業とプラットフォームを作り、従業員の幸福度を上げ、共働きの家庭も充実した生活にする仕組みを作る。地方創生の観点からも大きい。恋愛が経済や地方活性化にどんなインパクトをもたらすか。そのエビデンスを蓄積していきたい」(豊嶋氏)

 もう1つのSportipは、筑波大学発のスタートアップだ。筑波大が保持するデータとSportip独自のアルゴリズムを駆使し、これまで難しいとされてきた“体の動き”をAIによって解析。その結果を用いて、アスリート個人の特性に合わせた適切な指導をオンラインで提供する。“一人にひとつのコーチを”がコンセプトである。

 プロダクトとしては、整体師やトレーナー向けの「Sportip Pro」をリリース済み。2020年6月にはマネックスベンチャーズ、DEEPCORE、元五輪選手の為末大氏が代表を務めるDeportare Partnersを引受先とした第三者割当増資を実施し、数千万円の資金調達を果たした。それに合わせ、オンラインフィットネスサービス「Sportip Meet」のユーザー先行登録を開始。ウィズコロナ、ポストコロナで不可欠となる3密回避を実現しながら、いつでもどこでもライブレッスンを受けられるオンライン上の総合型フィットネスクラブを提供する。

Sportip Proのイメージ

 その他の実績も華々しい。数々のピッチコンテストで最優秀賞や優秀賞を獲得し、テレビ、新聞などメディアへの露出も多数。また、NVIDIAによるAIスタートアップ支援プログラム「NVIDIA Inception Program」のパートナー企業に採択され、ハードメーカーからも熱視線を浴びている。これらはすべて、/HuBに入居してからの1年余りで起きた出来事だ。Sportip 代表 高久侑也氏は、濃密な1年間を次のように振り返る。

Sportip 代表 高久侑也氏

 「ここに入居できたのは非常にありがたかった。物理的な場所だけではなく、NTTドコモ、あるいはNDVの権威を借りることができたからだ。ミーティングの際もこちらに来てもらえる。それで工数やコストが下がった。我々のネームバリューも上がり、大企業と協業することができた。

 スタートアップは何もないところから始まるわけだが、とくに私は学生で起業した人間なので社会常識や大企業の考え方は何もわからなかった。それらを幅広いつながりを通して教えてもらった。メンターにも公私ともにお世話になった。毎日早朝から深夜まで、第1期生の中では最も長い時間を/HuBで過ごした自負がある。ここで過ごした時間はある意味で“青春”だと感じている」(高久氏)

 Sportipでは、将来的な目標に上場を掲げている。社員や業務委託のメンバーもぐんと増え、高久氏は「卒業したら今度は自立するフェーズ。企業としてしっかり成長していきたい」と話す。現状を鑑みれば、彼らが伸長することは想像に難くない。

2020年7月から入居する第3期のメンバーたち。NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役社長 稲川尚之氏とともに

 2020年7月からは第3期の入居が始まる。後輩たちに対しては「NTTドコモを使い倒してほしい。コネクションを活用できるのがこのコワーキングスペースの最大の魅力」(豊嶋氏)、「利用できるアセットが豊富なのでどんどん活用してほしい。メンターをはじめ、さまざまな知見を持った人たちがたくさんいる。成長に対して貪欲に頑張ってもらえれば」(高久氏)とそれぞれ励ましの言葉を贈る。くじけそうになっても気持ちを鼓舞し、前進させてくれる環境がここにはある。第3期生からもパワフルな成果が生まれることを望む。

スタートアップと過ごすことはNDVにとっても糧となる

 NDVでは新型コロナウイルス感染症の影響により、第1期、第2期の入居者たちに期間を延長してサポートを続けた経緯がある。NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役社長 稲川尚之氏は「新型コロナで弊社オフィスも在宅勤務がメインとなったが、そんな状態でサヨナラではあまりにも冷たい。サポート期間を伸ばし、もう少し仲間でいられたらと考えた」と話す。その上で「第1期生は優秀。しっかりとプロダクトもローンチしているし、大企業との協業も進んでいる」と高く評価する。

NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役社長 稲川尚之氏

 「コロナ禍の今は大企業の財布の紐が固くなり、今後、新規事業を凍結する流れも出てくるかもしれない。だが、スタートアップは動きを止めることができない。だからこそ、面白いスタートアップには水をあげ続け、サポートしたい。何より、普段の投資活動では知ることのできない、立ち上がったばかりの企業の動きを間近で体験できることは我々も大きな参考になる」(稲川氏)

 新型コロナはスタートアップがテーマに掲げてきた「ディスラプティブ(破壊的な)」を期せずして生み出した、と稲川氏は指摘する。満員電車に乗っての通勤が忌避され、あれだけ声高に叫んでも浸透しなかったテレワークがまたたく間に普及した。「新型コロナによって自動的にいろんなものが破壊された。ここからきっと新しいビジネスチャンスが生まれる。その機運を自分たちでつかみ取って、自分の進めている領域と重ね合わせながらビジネスモデルを組めば、成功が近づくかもしれない」(稲川氏)

 稲川氏は第1期生の成功の鍵について、最初から協業を意識せず、マーケットドリブンで走り続けた成果だと分析した。AILLやSportipのビジネスモデルは前例がなく、「こういうサービスがほしいから紹介してほしい」とのニーズには当てはまらないのだから当然だ。自らニーズを掘り起こし、ゴリゴリと開拓してきた結果なのである。

 「新規事業を探し求めている大企業、そして得意とする領域で活躍するスタートアップの接点になりたいとの思いは変わらない。リアルでの場作りはコロナ前に比べて変化していくだろう。だが、新型コロナはどこにいても“つながり”を維持することができることを証明した。スタートアップが面白いことを生み出すきっかけ、それをNDVは一緒になって真剣に考えていく」(稲川氏)

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