NTTドコモ・ベンチャーズ(NDV)が、Akerunブランドのクラウド型IoTサービスを提供するフォトシンスへの出資を発表した。今後、NTTグループとの協業により新たな価値創造を図っていく。はたして強固なパートナーシップの先にあるものとは? 関係者たちが、誰もがワクワクするような“少し先の未来”を語った。

ポストコロナのオフィスに柔軟対応できるAkerunの魅力

 2014年、東京・五反田のマンションの1室から始まったフォトシンス。わずか6名でスタートしたが、今では東京・田町の一等地に本社を構えるまでに急成長を遂げた。提供するのはクラウド型の「Akerun(あけるん)入退室管理システム」(以下、Akerun)に代表されるIoTを活用したクラウドサービス。 法人向けに特化しているのが特徴である。

 主なプロダクトは後付式でサムターン錠(アナログ錠)に対応するスマートロックシステム「Akerun Pro」、既存の電気錠や自動ドアを直接制御できる「Akerunコントローラー」の2つ。メインとなるAkerun Proはスマートフォンアプリ、または交通系ICカードを始めとするNFC対応ICカードをかざすことで入退室が可能。サービス開始以来、中小規模オフィスを中心として4500社以上に導入済みだ。何より工事不要・初期費用無料で設置できる手軽さが受けている。

後付式のスマートロックシステム「Akerun Pro」

本社に展示された「Akerunコントローラー」

 その機能は単なるスマートロックではない。入退室の履歴はすべてクラウド上で管理され、「いつ、誰が、どこに」出入りしたかをダッシュボードで確認できる。これにより、オフィスセキュリティ向上と勤務状況の把握が可能となる。また、リアルタイムで時間帯や曜日を指定した解錠権限を発行できるため、パートやアルバイトの一時利用、不特定多数が利用するコワーキングスペースなどに有効だとする。事実、導入企業からは人の流れが可視化され、柔軟なオフィス管理や労務管理を実現したとの声が届いている。すなわち、オフィスでの働き方を変える可能性を秘めたサービスと言える。

 NDVが出資を含むサポートを決めたのも、単なる優れたスマートロック商品という「利便性」ではなく、Akerunがもたらすフレキシビリティによって実現する、新しい社会の形に着目したからだ。新型コロナの影響により、大企業がテレワーク継続を打ち出したり、都心のオフィスを引き払ったりするケースが相次ぐ中、従来の“オフィスのあり方”が問われ始めている。だが、Akerunのようにクラウドで管理して人が出入りできるツールを活用すれば、場所を問わないポストコロナの働き方が一段と進化する。

 NDVでは今回、NTT東日本、NTT都市開発の2社とフォトシンスをマッチング。出資を契機に、NTTグループとの協業によるシナジー創出を後押しした。以下、関係者へのインタビューをお届けする。出席者はフォトシンス 代表取締役社長 河瀬航大氏、NTTドコモ・ベンチャーズ Manager 田口知宏氏、NTT東日本 ビジネスイノベーション本部 担当課長 渡辺文隆氏、NTT都市開発 商業事業本部 担当課長 金子昌徳氏の4名。

地方開拓と愛のあるフィードバックで成長を促進

――まずは今回の協業の目的を教えてください。

河瀬氏 弊社はスモールビジネスを中心とした都市型のユーザーが多いのが特徴です。ただ、これからAkerunを日本全国に広めていくためには大企業も含めて展開する必要があります。それは我々だけでは実現できないスケール。そこでNDVから、シナジーの見込めるNTT東日本、NTT都市開発を紹介してもらい、連携を図りながら実現に近づけたいとの思いがあります。まずはそれが最初のステップですね。

フォトシンス 代表取締役社長 河瀬航大氏

――NDVの出資の決め手は?

田口氏 まずNDVでは、「少し先の未来」を想像して、次に来る社会の状況やトレンドを予測しながら、そうした未来を創るスタートアップに投資をしています。そしてトレンドの一つとして、また解決すべき社会課題の一つとして、働き方改革や生産性の向上などの点には以前より着目していました。近年、ソフトウェアの世界ではそれらをサポートするHR、チャット、オンライン会議システムなどさまざまなツールが生まれていますが、オフィスという空間を含む「ハードウェア」が関係する領域ではそうした進化がなかなか進んでいない状態でした。フォトシンスはこの領域に変化をもたらす可能性があり、働き方の変化というトレンドを牽引していく会社であると感じ、それが決め手になりました。

 一般的なオフィスの受付は、未だに入館証を手書きしてわざわざ電話で取り次ぐスタイルで、人の稼働も多い上にデータも残らない仕組みです。人の流れも、リアルな在圏情報も取れない形でした。だからこそ、こうした部分のデジタル化には大きな可能性があります。そして、この領域にデジタルトランスフォーメーション(DX)が浸透しないのは、使いやすいデジタルツールがなかったという側面があります。過去の様々なトレンドを見ても、誰もが使いやすいツールが出てきた時が、変化や普及の起点になるという傾向があります。

 Akerunは、オフィスやビルの入退室というフィジカルな領域で非常に使いやすいクラウド型のシステムを提供し、すでに数千社のユーザーが導入済みです。システム全体の設計思想も、当たり前のように遠隔操作や勤怠管理ができるなど、いかにユーザーが使いやすくなるかに注力しています。これぞオフィスのデジタル化につながる製品であり、圧倒的な強みがあると感じました。

――NTT東日本とNTT都市開発を紹介した経緯は。

田口氏 NDVはCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)として、優れたスタートアップとNTTグループをつなぎ、どのように支援できるか、また新しい価値を生み出せるかを日々探っています。河瀬さんと話し合う中で、営業連携が障壁であることが浮かび上がりました。都心部は強いのですが、人的リソースの問題もあって地方はまだまだ開拓できていません。この先、どうやって日本中に普及させるのか、または運用・保守をどうやってカバーするかの課題があったのです。

 まずAkerunがもともと中小規模オフィス向けに展開していること、地方も含めた営業体制を敷いていきたいこと、ネットを使ったIoT製品であることなどを踏まえて、NTT東日本、中でもアライアンスを推進している渡辺さんのチームが最適と考えました。NTT東日本はオフィス向けの「ギガらくWi-Fi」を販売しているなど、IoT製品との相性が良いという背景もあります。

NTTドコモ・ベンチャーズ Manager 田口知宏氏

 一方のNTT都市開発は、すでにユーザーとしてAkerunを導入していました。彼らは2018年から「LIFORK」ブランドでコワーキングスペース/シェアオフィスを提供していますが、入退室管理システムとしてAkerunを高く評価していました。将来的な機能追加によって音声や映像によるコミュニケーションが取れるようになれば、コンシェルジュ的な利用法で受付を代替するような役割もあるのではないかと考えているそうです。そこまで行けばオフィスだけではなく、ワークスタイルそのものを変えるDXにもつながります。

――紹介を受けてNTT東日本ではどう思いましたか?

渡辺氏 私の部署はNTT東日本の中で主に他の企業とのアライアンスを通じて地域課題を解決するミッションを担っています。パートナー企業を探す際にまず大事なのは、生業である通信ビジネスと親和性があること。AkerunはIoT製品なので、その点は問題ありませんでした。

 加えて魅力的だったのは、法人市場に特化している点です。世の中にスマートロックはたくさん存在しますが、それら競合とはまったく違う世界を見ています。例えば耐久性。自宅の場合、1日に扉を開け締めする回数は多くても5〜6回ですが、数百人のオフィスならば、少なくとも数百回は開閉することになります。でもAkerunはしっかりとした耐久性を備え、オンリーワンの立場を築いていました。

 また、ちょうど我々がシェアリングビジネス、働き方改革での協業を模索していたタイミングにも重なったことが大きい。Akerunはシェアリングビジネスにも効果的な製品です。現実問題として働き手が少なくなってきて、各所で効率化・省人化が望まれています。実際、コンビニの無人店舗や無人の時間帯でも使えるフィットネスジムが出てきました。

NTT東日本 ビジネスイノベーション本部 地方創生推進部 地域協創担当 担当課長 渡辺文隆氏

 働く場所も同じ変化をしていくのではないでしょうか。現状はコワーキングスペースにもコンシェルジュが常駐していますが、今後は無人で効率化を図る必要があります。そこに最適なプロダクトだと考えています。

――NTT都市開発の場合は、かねてよりのユーザーですから、また違った観点からの参加になると思います。

金子氏 2018年からスタートしたLIFORKで導入しています。最初の1年間、他のスマートロックとあわせて使い、どちらが良いかを検証したのですが、Akerunに軍配が上がりました。ですから弊社は、この座組みの中で「こうしてほしい」との要望を率直にぶつけています。

 当初から考えているのは、「単なる便利な鍵」ではなくデジタルの力を使うからこそできる付加価値を生むことです。例えば、Akerunに人間の受付の代替機能を持たせること。最初のトライとして、LIFORKに導入しているAkerunには「お疲れ様」としゃべる機能を付加しています。我々はAkerunの熱狂的なファンを自負しているので、進化してほしいポイントをその都度投げ返しているんです。フィードバックがなければ、プロダクトは進化しません。施設の運営側からすれば、他に良いプロダクトが出てきたらリプレースするだけ。厳しい言い方ですが、競争がなくなることはありませんから。

NTT都市開発 商業事業本部 商業事業部 LIFORK担当 担当課長 営業・MD担当 金子昌徳氏

河瀬氏 こうしたやり取りは、フォトシンスにとっても本当にありがたいものです。せっかく良質なスピーカーを搭載したものの、実務に追われて何をしゃべらせるかまで考える余裕がありませんでした。しかし金子さんのリクエストで、本来希望していたコンシェルジュ機能の一歩を踏み出すことができました。

理想は1つのIDでどこにでも入れる世界

――新型コロナの影響で働き方やオフィスに対する考え方はどう変化していくと思いますか。

河瀬氏 働き方やオフィスに対する人々の考え方に変化が起こることは、フォトシンスにとってはポジティブな状況です。これまでのコワーキングスペースは利便性の高い駅に近い場所だったり、コンシェルジュがいたりすることを売りにしていました。しかしテレワークの影響で、住宅地の近くに無人のコワーキングスペースが急激にでき始めています。これは、自宅で作業するのは辛いと感じる人が多いからです。それを考えると、郊外や地方に対するAkerunのニーズは増えていくはずです。

 既存の入退室管理システムを提供する競合他社は、高価格かつオンプレミスの管理が基本ですが、Akerunはクラウド管理で、いつでもどこにいてもすべての履歴が一括集約できます。そして、簡単に鍵の着脱が可能。我々が得意とする小規模なオフィスは、今のような緊急時にはコストや運営面の問題から、一刻でも早くオフィスを引き払ったり、移転したりしなければならないことが多々あります。でもAkerunは、そうした可変性のニーズにもともと強い。これから増えるであろうその市場を、すべて押さえられる自信があります。

金子氏 オフィスの賃貸借における契約の概念が、入居者側にとってメリットがある形に変化してくると予測しています。LIFORKのシェアオフィスは、1カ月後に退去できる契約です。しかし、通常のオフィスビルはほとんどが6カ月前に退去予告をするのが基本。このままだと、徐々に都心のオフィスは入居が減ってしまうでしょう。

 なぜなら、これからどんなことが待ち受けているか誰も読めないからです。それが新型コロナで露呈し、みんなが気づき始めた。これからは、ノートPCを1台持ち込めばそこがオフィスになるという世の中になるはず。シンプルに言えば、出やすくて入りやすい。オフィスの存在そのものが、こうした流動性の高いシェアオフィスのようになっていくのでは。

渡辺氏 私も金子さんと同じ感覚です。オフィスの作り方、考え方はすでに変わってきています。緊急事態宣言の真っ只中、4月後半にレンタルスペースを提供する株式会社スペースマーケットさんと、最短1時間、即日貸しでサテライトオフィスを作れるサービスを発表しました。NTT東日本ではネットワーク環境整備やICT機器導入を支援しています。

 今までは、長期的に人数分の席を用意するのが当たり前でした。それが人数分を用意せず、自由に好きな場所で働いてもいいんだということがわかった。新型コロナは東京一極集中が大きく変わるタイミングであり、都心にオフィスを構えることは大きな価値ではなくなりつつあります。結局、必要に応じてテンポラリーに働ける場所が用意できればいいわけです。それがこれからの働き方になると思えたからこそ、即日サテライトオフィスのサービスに協力したのです。

 次の段階では、それを定形的なサービスとして世の中に出していきます。そこにAkerunを採用する方向で考えているところです。いろんな企業のいろんな人たちがシェアするオフィスが、いろんな地域に増えていく。その共通の入退室プラットフォームがAkerunになるイメージです。

4社の前向きな雰囲気が伝わってくるインタビュー風景

田口氏 河瀬さんとは、IDが統一されれば、オフィス以外の場所にも展開できるのではないかと議論を重ねています。AkerunのIDがあれば予約したホテルの部屋までそのまま入れたり、イベントでもそのまま入場できたりするなどです。今の時代、人との接触をコントロールする必要がありますし、リスクを減らす一方でユーザーの利便性をさらに高めることができます。

河瀬氏 まさにAkerunが目指すのはプラットフォーム。究極は1つのIDであらゆる場所に入れるのが理想です。その世界感に、NDV、NTT東日本、NTT都市開発ともに共感していただいた。すごくベンチャー側の感性を尊重してくれるので、とても感謝しています。

――この先、どんなシナジーを期待しますか。

河瀬氏 まずは全国への展開が目標。普及した後は、Akerunで収集・蓄積したビッグデータを活用するフェーズになります。無人化実現に向けたコンシェルジュ機能強化も進めていきます。現在、カメラ機能について話し合っているところです。カメラの“目”がつけば、今以上に人の流れが把握できるようになりますから。ワクワクする未来を、皆さんと一緒に作っていければうれしいですね。

渡辺氏 働き方改革の一環で、AkerunをIoTデバイスの1つとして一気通貫でお客様に提供できる形を作っていきたい。Akerunを活用して地方にオフィスを拡充させ、企業を誘致できるようになれば、それが地域活性化につながっていく可能性があります。

 最終的には、地域活性化のためのスマートシティを構想しています。そこではビッグデータが鍵を握りますが、いろんな分野のデータが乱立しているため、効果的に利活用している自治体は一握りだと思っています。それを統合してビッグデータビジネスにつなげるために、Akerunはキープロダクトの1つになるはずです。

金子氏 今、他のコワーキングスペースの人に聞かれたら、Akerun一択で紹介しているほど入れ込んでいます。ですが競合も多いので、先ほども話したように「こうしてほしい」という要望は常に上げていきます。クラウド型の利点は、さまざまなニーズにスピーディに対応できることなので、今後も期待しています。

田口氏 実は出資を決めたもう1つの理由に、河瀬さんの魅力があります。出資する立場としては、これから長い付き合いになる中で、濃密で前向きなコミュニケーションを図れることは極めて大事な要素になります。その点、河瀬さんは真摯にこちらの話に耳を傾けてくれて、どのようなアクションを取るべきか、そしてどのようなビジョンを共有できるかを常に考えてくれる。また、NTT東日本、NTT都市開発に協業を持ちかけたときも、未来の方向性が一致している確信がありました。キーレス社会の“鍵”となるプラットフォームが実現するであろう新たな世界観の到来が、今から楽しみです。

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