2020年9月、福岡市で開催された配信型の音楽フェスで、日本初となる5G回線による自由視点映像のリアルタイム配信が行われた。活用したソリューションは、これまで何度か報じてきた「SwipeVideo」(以下、スワイプビデオ)。NTTドコモとNTTドコモ・ベンチャーズが全面協力し、盛況のうちに終わったライブ配信からは、スワイプビデオがエンタメ業界の新たなキラーコンテンツになり得る可能性が見えてきた。

音楽の街にフィットした斬新な取り組み

 最近ではスタートアップシティとして名を馳せる福岡県福岡市は、古くから“音楽の街”としても知られる。長渕剛、シーナ&ロケッツ、甲斐バンド、ザ・ロッカーズ、THE MODS、ナンバーガール、椎名林檎など、この地から全国へと羽ばたいたミュージシャンやバンドは枚挙に暇がない。

 そうした中、福岡市の中心繁華街である天神地区を舞台に2002年から開催してきた音楽フェスティバルが「MUSIC CITY TENJIN」である。天神エリアの各地にオープンスペースを設け、街ナカでまるごと音楽を楽しめる名物フェスだが、19回目を迎えた今年は新型コロナの影響により一時は開催が危ぶまれた。しかし、音楽をはじめとするエンターテインメント業界が大打撃を受ける今だからこそ、次の時代へつながる形態を模索することにした。

 最近はオンライン形式による音楽フェスやライブが増えているため、いくら歴史のあるフェスとはいえ、単純にライブを配信するだけでは埋もれてしまう可能性が出てくる。「音楽の街ならではの矜持を示し、“新しい何か”を付け加えられないものか」――模索を続ける中で出会ったのが、AMATELUS(以下、アマテラス)が提供するスワイプビデオだった。視聴中にユーザーが任意に視点を切り替えられるのが最大の特徴で、すでにテレビのバラエティ番組や歌番組などに採用されて好評を博している。

 ミュージックシティ天神運営委員会 事務局長を務める西鉄エージェンシーの牛島静子氏は「せっかくこの苦しい状況でフェスを開催するのであれば、ほかのオンラインフェスとは違うチャレンジをしたいと考えていた。自分の意志で角度を変えながら演奏を見ることができる体験はとてもワクワクするもの。新しい体験価値にスワイプビデオはぴたりとはまった」と振り返る。

西鉄エージェンシー 第1営業局 営業2部1課 課長 牛島静子氏

 しかも今回は、日本初の5G回線を利用した生配信となる。ここで万全の協力体制を敷いたのが株式会社NTTドコモ九州支社だ。西鉄エージェンシー向けの営業を担当する九州支社の大久保賢次氏が、牛島氏から相談を受けたことがきっかけとなった。「NTTグループに当たりながらソリューションを探すうちにたどり着いたのがスワイプビデオ。5Gによる生配信は我々にとってもチャレンジングな経験なので、全力で準備を進めてきた」(大久保氏)。

 そう語る大久保氏は、副業承認を得た上でプロマジシャンとの二足のわらじを履く営業マンでもある。それだけに、コロナショックにより閉店に追い込まれたマジックバーやトッププロの苦境を間近で目にし、エンタメ業界の停滞に心を痛めていたそうだ。

 「一般視聴者への価値提供はもちろんだが、パフォーマーにとっても新しいエンタメのヒントを提供したいとの思いが強かった。そう考えると、“本当はライブが最高だけど、配信だからこれで我慢しよう”といったリアルの劣化版では面白みがない。対面のライブにはない、オンラインでしか体験できないサービスがあれば新たな開拓につながる。スワイプビデオは、その魅力を備えている」(大久保氏)

NTTドコモ九州支社 法人営業部 法人営業担当 大久保賢次氏

すでにマネタイズにも成功するスワイプビデオ

 MUSIC CITY TENJINでは、クレナズムのライブを生配信した。福岡をベースに活動する4人組のバンドで、自らも周囲のバンドとともにライブハウス応援プロジェクト「Make With Music」に取り組んでいる。

 使用したのはソニーモバイルコミュニケーションズ製の5Gスマホ「Xperia 1 II」。ドラムの周囲に8台、ベース、ボーカル&ギター、ギターの周囲に各4台ずつ、合計20台をステージ上に並べた。それゆえ、メンバーはスマホに取り囲まれている中での演奏となった。

 

ステージに並んだ20台のスマホ(左)。生き生きとライブを披露したクレナズム

 今年3月に地元福岡で予定していたミニアルバムのツアーファイナルが新型コロナによって延期となり、そのリベンジの意味合いもあったのだろう。浮遊感と瑞々しさ、そして激しさが渾然一体となった演奏はライブが良く映えるものだった。ボーカル&ギターの萌映さんは演奏後にこのような感想を話してくれた。

クレナズムのメンバー。中央がボーカル&ギターの萌映さん、後列左からベースのまことさん、ギターのけんじろうさん、ドラムのしゅうたさん。大学のサークル仲間で結成した

 「これからも配信ライブは増えていくと思う。このような中で、こういう新しいテクノロジーを使ったアプローチも増えていくに違いない。私たちもただカメラに向かって演奏するだけではなく、それに合わせたパフォーマンスができるようにしたい。ライブハウスでの生演奏は大事にしたいが、配信だからこその良さを自分たちでも見いだせるようにテクノロジーと共存できたら」(萌映さん)

 生配信の舞台裏では、アマテラス 代表取締役CEO 下城伸也氏が演奏を見守っていた。今回のステージはメンバーを囲んだスマホのカメラを通して、自分の好きな推しメンバーを自由視点で追いかけられる「推しカメ(カメラ)企画」を配信した。

アマテラス 代表取締役CEO 下城伸也氏(左)。クレナズムの演奏中も映像のチェックに余念がなかった

 「5Gの生配信は我々にとっても初体験。当社の技術は4Gでも安定した自由視点映像を届けられるのが特徴だが、5G配信によってかなり安定性が向上した。これはシステム上の数値でも裏付けられている。今回のライブを通じて、これまでの仮説通りに5Gであれば同期台数を増やせるとの確信を得ることができたのは大きい。今後は台数の増加や、4K画質での生配信などにトライしたいとNTTドコモとも話し合っているところだ」(下城氏)

 視聴は事前応募当選者限定配信の特設ページで実施した。Twitter上では「自由視点映像も20の視点切り替えができ、ドラムの背後からの視点なんかは新鮮で楽しめた」「切り替わる際のラグが無くてすごい」「5Gの特徴である大容量、多接続、低遅延ってのが体感出来た気がします」(原文ママ)と、視聴者からの評判も上々だった。ライブ会場ではテレビ局の関係者も興味津々で、下城氏は「テレビカメラでもできるのか、フレームレートを向上できるのかといった技術的な質問を受けた」と話す。

 今回は無料での提供だったが、特筆すべきはスワイプビデオが“キラーコンテンツ”としてすでにマネタイズに成功している点だ。下城氏によれば、テレビ朝日と企画したVTuberの推しカメ企画では、半数以上がスワイプビデオの有料チケットを購入したという。「自分の好きなメンバーをいろいろな視点で切り替えられることに価値を求めている。バーチャルではなく、リアルのアイドルやバンドでも同じ効果が期待できるはずだ」(下城氏)。

 大久保氏は改めてスワイプビデオの可能性をこう語る。

 「大げさかもしれないが、スワイプビデオはiモードに匹敵するほどの破壊的イノベーションになる潜在能力がある。MUSIC CITY TENJINで初めて体感した皆さんに“これはすごく面白い”と感じていただけた。そして昨今のオンライン化の流れもあり、こうした新しい体験にお金を払う土壌は徐々に生まれつつある。そうなれば、次のステップとしてコンテンツに対価を払う仕組みづくりが重要になってくる。スワイプビデオを軸に、パフォーマー、関係者に還元できるプラットフォームが完成すれば、ニューノーマル時代のエンタメ業界にとって、1つのスタンダードになるのではないか」(大久保氏)

わずか2カ月の準備期間ながら、無事に成功に終わったスワイプビデオの生配信。「来年以降はより時間をかけて、もっと面白いことに挑戦していきたい」(牛島氏)

 福岡のアマチュアミュージシャンとも交流が深い牛島氏は、積極的に5Gやスワイプビデオのような新しいテクノロジーとの橋渡しをしていきたいと意欲を燃やす。「良い作品を作っているのに、テクノロジーと出会う場が少ないのが現状。まずは両者の出会いの場を設けて、その先のイノベーションにつなげる支援をしていきたい」(牛島氏)。

 最後に、今回の企画の火付け役で、また、たびたびアマテラスとの協業案件を支援してきた株式会社NTTドコモ・ベンチャーズの篠原敏也氏は「スワイプビデオは無料で提供するコンテンツではない。きちんとお金を払うコンテンツとして普及してほしい」と力説する。

 例えば、テレビは複数台のカメラで撮影した映像を制作側が編集して放送するが、カットされた視点の映像は日の目を見ないことになる。「スワイプビデオは、これまでは無価値と思っていた映像が視聴者にとっては宝になることを気づかせてくれた。その価値の広がりは無限大だ」と篠原氏。その考えが浸透すれば、下城氏が描く「一人ひとりのスマホユーザーが撮影体験と視聴体験をアップデートできる未来」も夢ではない。

躍動する次世代コラボ「未来協創Lab」から見える明日 TOPへ戻る

お問い合わせ

株式会社NTTドコモ・ベンチャーズ
E-mail:village-application@nttdocomo-v.com